鍼灸資生経巻七         
目次
鍼灸資生経巻七№1 巻七1~6
鍼灸資生経巻七№2 巻七2~12
鍼灸資生経巻七№3  巻七13~18



鍼灸資生経巻七№1             2001年6月14日更新

鍼灸資生経巻七1

傷寒(熱病 陰証 陽証)
 凡熱病、刺陥谷、足先寒、寒上至膝、乃出鍼、身痺。洗淅振寒悸、脇支満痛。
 熱病には陥谷を刺す。まず足先が冷え、冷えが上がって膝に至ったら、鍼を出すと身体が痛い。寒けや振寒、動悸、脇の支満痛を取り除く。
(洗は取り去る意味)。


 熱病、先腰脛酸、喜渇数飲、身清清則項痛、而寒、且酸足熱、不欲言、頭痛、癲癲然。先取涌泉及太陽井。熱中、少気、厥寒、灸之熱去。灸涌泉三壮、煩心、不嗜食、灸涌泉熱去。四逆、喘気、偏風、身汗出、而清、皆取侠谿。
 熱病で、まず腰や脛が怠くなり、喉が渇いて水を飲みたがり、体が冷えれば後頚部が痛く、冷え、怠くて足先が熱い。しゃべりたがらず、頭痛し、癲証のようになる。まず湧泉と太陽の五輸穴を取る。熱中、少気、厥寒には、施灸して熱を去らせる。湧泉に灸を三壮。煩心や食欲不振にも湧泉へ施灸して熱を去らせる。四逆、喘気、偏風、出汗、そして冷えは侠谿を取る。
(熱中は陽気が亢進した症状。少気は呼吸が微弱。厥寒は、厥が冷え。煩心は胸焼け。四逆は四肢が冷たくなる。偏風は半身不随)


 凡温病、身熱五日以上、汗不出、刺太泉、留鍼一時、取鍼。若未満五日者、禁鍼。
 温病で身熱が五日以上続き、汗が出ない。太泉を刺して一時置鍼し、鍼を取る。もし五日未満ならば鍼をしない。


 凡好太息、不嗜食、多寒熱、汗出、病至則喜嘔嘔、已乃衰、即取公孫及井兪。実則腸中切痛、厥頭、面腫、起煩心、狂、多飲、不嗜臥。虚則鼓脹、腹中気大満、熱痛、不嗜食、霍乱。公孫主之。
 溜め息ばかりつき、食欲がなく、寒熱が多く、汗が出る。病気がひどくなればよく嘔吐し、吐けば軽くなる。それには公孫と五輸穴を取る。実では腸中切痛、頭痛、顔の腫れ、煩心、狂、多飲、眠らないなどの症状が出る。虚では腹が膨れ、腹中に気が満ち、熱痛し、食欲がなく、霍乱する。公孫が主治する。
(霍乱は吐いたり下したりする症状)


 凡熱病、煩心、足寒清、多汗。先取然谷、後取太谿、大指間動脈、皆先補之。
 熱病で煩心し、足先が冷え、汗をかく。まず然谷を取り、次に太谿を取る。親指の間の動脈を、みな先に補法する。
凡温病、可鍼刺五十九穴。又身之穴、六百五十有五。其三十六穴灸之、有害。七十九穴刺之、為災。
温病では、五十九穴に刺鍼できる。身体には六百五十五の穴がある。そのうち三十六穴に施灸すれば害がある。そのうち七十九穴を刺せば災いとなる。


 江南諸師、秘仲景要方、不傳。
 江南の医者は、張仲景の処方を秘密にして伝えない。


 穴、鍼灸、治温病。(見黄疸)
 顳穴に鍼灸すれば温病を治す(黄疸を見よ)。


鍼灸資生経巻七2

 指迷方灸陰毒傷寒法。其状、不躁不渇、唇青、腰背重、咽喉及目睛痛、心腹煩疼、舌縮、面青、吃噫気、嘔逆、冷汗、向暗不語。以生葱約十餘茎、去根粗皮、顛倒紙巻、径闊二寸、勿令緊欲通気、以快刀切毎一餅子、高半寸、安在臍心、用熨斗火熨葱、軟易之。不過十餘次。患人即甦、後服正気薬。
 指迷方灸陰毒傷寒法。その状態は、もがくことなく喉も渇かず、唇が青く、腰や背が重く、咽喉や目が痛く、みぞおちや腹が痛み、舌が縮み、顔が青く、しゃっくりやゲップが出て、吐き気し、冷や汗をかき、暗いほうに向かってしゃべらない。生ネギ十余りの茎を、根を取り皮を剥ぎ、紙に置いて巻く。直径2寸とする。空気を通らせるため堅くしてはならない。それを鋭利な刃物で切って高さ半寸の餅のようにする。それを臍に置き、熱すると葱が軟らかくなる。十以上してはいけない。患者はすぐに甦る。後は正気薬を服用する。(粗は上分、下鹿)


 灸結胸傷寒法。其状、胸満、短気、按之、即痛、或吐逆、満悶、或大便不通。諸薬、不能救者、巴豆七粒、和皮肥黄連七寸、去須、同搗爛、作一圓。安在臍心上、以手按下稍実。緊捻艾、皀子大、於薬上灸。甚者、不過三五壮、立愈。続用補薬一二日。若病半月、微有気、皆療。
 灸結胸傷寒法。その状態は、胸満、短気。それを押すと痛い。あるいは嘔吐、満悶、あるいは便秘。薬で救えなければ、巴豆七粒、そして七寸の皮付き黄連のヒゲ根を取り去り、豆と一緒にすりおろす。それをコイン状にして臍に置き、手で下に少し強く押す。モグサを皀角の種大に堅く揉み、コイン薬の上に乗せて施灸する。ひどくとも三から五壮で治る。続いて一から二日、補薬を飲む。半月の病でもわずかに気があれば治療できる。(胸は上匈、下月)


 治気虚陽脱、体冷無脈、気息欲絶、不省人事、及傷寒、陰厥。百薬不効。葱熨法、以索纒、如盞許大。切去根及葉、惟存白、長二寸許。如大餅餤、先以火、脅一面、令通熱艾、勿令灼人、及以熱処、搭病人、臍連臍下、其上、以熨斗、満貯火、熨之。令葱餅中、熱気熨入肌肉中、須預作三四餅、一餅壊、不可熨。又易一餅良。久病人、当漸醒、手足温、有汗則差。更服四逆湯、温其内、万万無憂。予伯兄病傷寒、冥冥不知人八日、四体堅冷、如石。薬不可復入。用此、遂差。集賢校理胡全。夫用此、拯人之危、不可勝数(良)。
 気虚陽脱の治療。身体が冷たく脈がない。息は絶えようとして、人事不省、そして傷寒、陰気逆行。百薬も効かない。葱熨法。紐を巻きつけてサカズキ大にする。ネギの根と葉を取り去って、白い部分だけ二寸ほど残す。例えば餅を火で暖め、一面を攻めてモグサに熱を通らせるが人を焼いてはならない。そして熱の処に病人を移動させる。臍から臍下まで、その上をアイロンに火を満たし、アイロンがけする。ネギ餅中の熱気が肌肉中に入る。あらかじめ三四個作っておき、一餅壊れたらアイロンできないので餅を替える。慢性病人は、徐々に目を覚まし、手足が暖かくなり、汗が出て治る。さらに四逆湯を飲ませて、内側から暖めれば、全ての憂いがなくなる。私の兄が傷寒になり、ぼんやりとして何も判らず八日、身体は石のように堅く冷たくなり、もう薬も飲めなかったが、この方法でついに治った。賢人を集めて理を比較してもデタラメである。この方法で人の危険を救ったことは、数え切れない。
(恐らくネギの白い部分を臍から丹田に置いて縛り、アイロンがけしたという文章。昔のアイロンは炭を入れて熱した。又易一餅良の易は、変わること。新しい葱に替える。宋代の写真製版だから、判然としない。差は、やまいだれの差と同じで、瘉えること)。


 初得病、或先頭痛、身寒熱、或欲守火、或腰背強直、面目如飲酒状、此傷寒初 得一二日。但列火灸、心下三処。第一処、去心下一寸、名巨闕。第二処、去心下二寸、名上管。第三処、去心下三寸、名胃管。各灸五十壮。大人可五十壮、小児可三壮。亦随其年灸之。大小、以意斟量(千)。若病者、三四日以上、宜先灸胸上二十壮、以縄、度鼻正上、盡髪際中、屈縄断去半寸、便従髪際、入髪中、灸縄頭。名曰天聡。又灸、両顳。又灸両風池、又灸肝兪百壮。餘処各二十壮、又灸太衝三十壮。神験。
 発病当初は、頭痛がしたり、寒熱になったり、ゾクゾクして火に当たりたがる。あるいは腰や背が強直し、顔が飲酒したように赤くなる。これは傷寒になって一~二日目である。ただし火で灸を心窩部の下3ケ所にすえる。最初は心窩部の下1寸の巨闕。次は心窩部の下2寸の上。三番目に心窩部の下3寸の中。それぞれ五十壮ずつすえる。大人は五十壮、小児は三壮。歳の数だけ施灸してもよい。モグサの大きさは場合に合わせて考える。発病して3~4日以上なら、最初に胸へ二十壮すえる。縄を鼻から上に向け、髪の蝿際で縄を曲げて半寸で切り、それを生え際から髪に入れ、縄の端に施灸する。それが天聡である。また両顳にも施灸する。また両風池にも施灸する。また肝兪に百壮すえる。他のところは二十壮ずつ。また太衝に三十壮すえる。神のような効果がある。
(は渋渋という意味だが、火を守りたがると合わないので、サンズイがあるから寒いとした。穴名は、別名を使っているが、面倒なので調べない。あしからず。ついでに書くと、痺という文字は大漢和によるとウズラの雌らしいのですが、ヒと似た文字なので痺を使います。ちなみに中国では痺はヒの異体字です)


鍼灸資生経巻七3

 凡治傷寒、惟陰証可灸。餘皆当鍼。故千金方惟云、刺取。而素問亦云、病甚者、為五十九刺、所以瀉諸陽、胸中、胃中、四支、五蔵之熱也(見熱論篇)。若温病、身熱五日以上、汗不出、可刺太泉。未満五日、禁鍼爾(千金)。而千金、於頭痛、身寒熱病、乃灸巨闕、上中管三処、豈亦是陰証、即其状、蓋云或欲守火者也。医者、当辨之。
 傷寒の治療では、陰証だけに灸ができ、他は鍼で治療する。だから『千金方』は、ただ刺して取るという。『素問』も、病がひどければ五十九刺して、諸陽経、胸中、胃中、四肢、五臓の熱を瀉す(熱論篇を見よ)。温病で、身熱が五日以上続き、汗が出なければ太泉を刺す。五日に満たなければ刺鍼しない。『千金』は、頭痛や寒熱病では、巨闕、上、中の3ケ所に施灸する。どうして陰証と言えるのか。その症状を、それはゾクゾクして火に当たるというかもしれない。医者は鑑別しなければならない。


 通里治熱病、卒心中懊、数欠、頻伸、悲恐、目眩頭痛、面赤而熱、心悸、肘臂臑痛。実則支腫、虚則不能言、若嘔、喉痺、少気、遺溺(銅人)。
 通里は熱病、急に心中が不快になり、アクビし、伸びし、悲しんだり恐がったり、目がくらんで頭痛がし、顔が赤くて熱く、動悸が激しく、上肢が痛い。実ではツカエや腫れ。虚では喋れず、嘔吐、喉の痛み、微弱な呼吸、遺尿(銅人経)。


 期門治婦人傷寒、過経不解、当鍼期門、使経不傳。中管、療天行傷寒(明)。
 期門は婦人の傷寒を治療する。経に伝わる日数を過ぎても治らないとき、期門に刺鍼すれば邪は経を伝わらない。中は、季節的な傷寒を治療する(明堂経)。
(夘野裕樹先生のご指摘で、誤訳を直しました。過経とは、伝経のことで、例えば太陽病なら6~7日)


 曲沢療傷寒、病温湿、身熱、口乾。鬲兪主傷寒、嗜臥、怠惰、不欲動揺、身常湿不能食(千)。
 曲沢は傷寒、温湿の病、身熱、口の乾燥を治療する。膈兪は傷寒、横になりたがる、疲れる、動きたくない、身体にいつも湿があって食べられないものを主治する。(千金方)


 少衝治熱病、煩満、上気、心痛、痰冷少気、悲恐善(明作喜)。驚、掌熱、胸痛、口熱、咽酸、乍寒乍熱、手攣不伸、引眼痛(銅)。
少衝は、熱病、煩満、上気、心痛、痰冷、呼吸困難、恐がったり恐れたりするものを治す(『明堂』には善が喜と書いてある)。ヒキツケ、手のひらの熱、胸痛、口の熱、咽の怠さ、急に寒けがしたり暑くなる、手が引きつって伸ばせない、眼の引きつった痛みを治す(銅人経)。
(咽酸は変だが、咽の文字がよく見えないのですみません)


 曲池治傷寒、餘疾皮膚乾燥。通里主熱病、先不楽数日(千)。
 曲池は傷寒、そのほかに皮膚の乾燥を治す。通里は熱病を主治するが、まず数日ほど不快になって発病する(千金方)。


 魚際、陽谷主熱病、振慄、鼓頷、腹満、陰痿、色不変。尺沢主気膈、喜嘔、鼓頷、不得汗。腎兪主頭身熱赤、振慄、腰中四支、淫 欲嘔。三間主気熱、身熱、喘(甲云、寒熱、口乾、身熱、喘息、目急痛、善驚)。魚際治熱病、寒慄、鼓頷、腹満、陰痿、色不変。中衝、少衝、関衝、労宮、太陵、陽谿、天主熱病、煩心、心悶、汗不出、掌中熱、心痛、身熱如火、舌本痛。間使主熱病、煩心、喜、胸中澹澹、喜動而熱。巨闕主煩心、喜嘔。曲沢主傷寒、温病、身熱、煩心、口乾。支正、少海主熱病、先腰脛酸、喜渇、数飲食、身熱、項強痛。天井主振寒、頚項痛。委中主熱病、夾脊痛。風門治傷寒、頚項強、目瞑(明有鼻塞字)、多嚏、鼻 鼻九、出清涕(銅)。
 魚際と陽谷は、熱病、振るえ、顎がガチガチ振るえる、腹満、インポテンス、顔色が変わらないものを主治する。尺沢は、噴門痙攣、よく嘔吐する、顎がガチガチ振るえる、汗が出ないものを主治する。腎兪は、頭身に熱があって赤い、振るえ、腰中や四肢が怠くて無力、吐き気を主治する。三間は、気分の邪熱が盛ん、身熱、喘ぎを主治する(『甲乙経』は、寒熱、口乾、身熱、喘息、目が引きつって痛む、よく驚くという)。魚際は熱病、寒けがして振るえる、顎がガチガチ振るえる、腹満、インポテンス、顔色が変わらないものを主治する。中衝、少衝、関衝、労宮、太陵、陽谿、天は、熱病、煩心、心悶、汗が出ない、手のひらが熱っぽい、心痛、体が火のように熱い、下根の痛みを主辞する。間使は、熱病、煩心、吐き気、胸中がドキドキしてもがき、熱いものを主治する。巨闕は煩心して吐き気するものを主治する。曲沢は傷寒、温病、身熱、煩心、口が乾燥するものを主治する。支正と少海は、熱病、腰と脛が怠い、喉が渇いて何度も飲食する、身熱、後頚部がこわばって痛いものを主治する。天井は、寒けがして振るえる、頚や後頚部の痛みを主治する。委中は、熱病と脊柱両側の痛みを主治する。風門は傷寒、頚や後頚部の痛み、目が暗くて見えにくい(『明堂経』には鼻塞がある)、くしゃみ、鼻詰まり、透明な鼻水が出るものを治す(銅人経)。


 陰毒沈困、薬餌難為功。但灸臍中、三百壮。艾如半棗、手足不暖、不可治也(見本事方)。或心迷、耳聾、不応。因食冷得疾者、予以理中湯。救数人矣。若復渇、則煎五苓散、与服。或煎人参湯。服皆効(千金云、傷寒、多従風寒、得之始、表中風寒、入裏則不消矣、未有温覆而不消也)。
 陰毒が固まって、薬では効果が上がらない。但し臍中に三百壮施灸する。モグサはナツメの半分ぐらい。手足が暖まらなければ治らない(『本事方』を見よ)。あるいは意識がはっきりせず、難聴、呼んでも応えがない。冷たい物を食べて発病したのならば理中湯を与える。数々の人が救える。もし再び渇くようならば、五苓散を煎じて一緒に飲むか、人参湯を煎じて飲む。いずれも効果がある(『千金』は、傷寒の多くは風寒による。最初は表が風寒に中り、裏に入れば消えない。温めなければ消えない、という)。(は叫の文字)


鍼灸資生経巻七4

黄疸
 脾兪、胃管、太谿主黄疸(千金)。然谷主黄疸、一足寒、一足熱、喜渇。太衝主黄疸、熱中、喜渇。中封、五里主身黄、時有微熱(甲乙云、不嗜食、少気、身体重)。脊中主黄疸、腹満、不能食。脾兪主黄疸、喜欠、不下食、脇下満、欲吐、身重不欲動。労宮主黄疸、目黄。中管、太陵主目黄、振寒。脾兪治黄疸(銅見腹脹)。脾兪療腰身黄、脹満、腹吐、洩痢、身重、四支不収、黄疸邪気、積聚、腹痛、寒熱(明)。

 脾兪、中、太谿は黄疸を主治する。然谷は、一足が冷え、一足が熱く、喉が渇く黄疸を主治する。太衝は黄疸、陽気亢進、喉が渇くものを主治する。中封と五里は、身体が黄色く、時折微熱がある黄疸を主治する(『甲乙』は食欲不振、呼吸が微弱、体が重いという)。脊中は黄疸、腹満、食べられないものを主治する。脾兪は黄疸、よくアクビする、食べられない、脇の下がつかえる、吐き気、体が重くて動きたがらないものを主治する。労宮は黄疸と目黄を主治する。中と太陵は目が黄色、振寒するものを主治する。脾兪は黄疸を主治する(『銅人』の腹脹を見よ)。脾兪は腰や身体が黄色、脹満、嘔吐、下痢、体が重い、四肢がダランとしている、黄疸の邪気、積聚、腹痛、寒熱を治療する(明堂経)。


 章門療身黄、羸痩(明下見鼓脹)。寅門穴、治馬黄、黄疸。上裏穴、鍼三 治馬黄、黄疸。上穴、鍼三治馬黄、黄疸、四時等病。舌下穴、侠舌両辺、鍼治黄疸。唇裏穴、鍼三治馬黄、黄疸、寒暑温疫。顳穴、鍼灸治四時寒暑所苦疸気、温病。侠人中穴、火鍼治馬黄、黄疸、疫通身並黄、語音已不転者。侠承漿穴治馬黄、急疫。巨闕七壮治馬黄、黄疸、急疫等病。上管灸七壮、治馬黄、黄疸。男陰縫穴、抜陰、反向上灸、治馬黄、黄疸。風府鍼之、治頭中百病、馬黄、黄疸。熱府鍼灸、治馬黄、黄疸。肺兪灸、主黄疸、通治百毒。心兪、肝兪、脾兪、腎兪、脚後跟鍼灸、治馬黄、黄疸、寒暑諸毒。耳中穴灸、治馬黄、黄疸、寒暑疫毒。頬裏穴鍼、主治馬黄、黄疸、寒暑温疫、頬両辺同法。手太陽、灸随年壮、治黄疸 。石子頭穴、灸七壮、治馬黄、黄疸。銭孔穴、灸百壮、治黄疸。太衝穴、鍼灸治、馬黄、温疫。
 章門は、身体が黄色や羸痩を治療する(『明堂経』下巻の鼓脹を見よ)。寅門穴は、馬黄や黄疸を治す。上裏穴に鍼を三で、馬黄や黄疸を治す。上穴に鍼三で馬黄、黄疸、季節病を治す。舌下穴は、舌を挟んだ両辺に鍼し、黄疸を治す。唇裏穴に鍼三で、馬黄、黄疸、気候変化による伝染病を治す。顳穴に鍼灸し、気候変化による苦疸気や温病を治す。人中穴を挟んで火鍼すれば、馬黄や黄疸、疫で身体が黄くなる、言葉が伝わらない者を治す。夾承漿穴は、馬黄と引きつる疫病を治す。巨闕に七壮すえて、馬黄、黄疸、引きつる疫病を治す。上に灸七壮すえて、馬黄と黄疸を治す。男の陰縫穴、まず陰嚢を持って裏返し、縫い目の上に施灸して、馬黄と黄疸を治す。風府に鍼し、頭中の百病、馬黄と黄疸を治す。風門の鍼灸は、馬黄と黄疸、気候変化の諸毒を治す。肺兪の灸は、黄疸を主治し、百毒に通じて治す。心兪、肝兪、脾兪、腎兪、足跟への鍼灸は、馬黄、黄疸、気候変化の諸毒を治す。耳中穴の灸は、馬黄と黄疸、気候変化の疫毒を治す。頬裏穴の鍼は、馬黄、黄疸、気候変化の温疫を治す。頬の両辺とも同じ方法。手太陽に、歳の数だけ灸をすえ、黄疸と下痢を治す。石子頭穴に灸七壮すえ、馬黄と黄疸を治す。銭孔穴に灸百壮すえ、黄疸を治す。太衝穴に鍼灸し、馬黄、温疫を治す。
(馬黄は調べたけれど不明でした。どなたか解説して下さい。は本という量詞かなと思いますが、はっきりしません)
 
*針灸資生経』巻7「寅門穴、治馬黄」の馬黄について調べてみました。 ここの一連の馬黄・黄疸の鍼灸治療は『備急千金要方』巻10の第5にある針灸黄疸法が出典のようです。(また『千金翼方』巻26の第9) これに関して、 『針灸奇穴辞典』風林書房22~23頁は「馬黄黄疸[ウイルス性肝炎]」として、ふたつに分けていません。 『備急千金要方』日本語版下巻・千金要方刊行会/毎日新聞開発 329頁は「馬黄(寄生虫による黄疸)」と割り注を入れています。 詳しい説明がないので、根拠不明ですが、いまのところ説明があるもので見つけられたのは、以上の二書のみです。 と、東洋鍼灸の荒川先生が解説してくださいました。有り難うございます。
 このメールを戴いて、すぐに馬黄をネットで検索してみましたが、それが何かについては書かれてませんでした。ウイルスには感染しましたが。ただ馬黄と黄疸は別物で、馬黄だけ単独で書かれていることもあり、黄疸馬黄と書かれていることもあり、馬黄、黄疸等と二つ並べて書かれていることもあります。馬が「すぐに」の意味で、「黄」が黄疸を指しているのならば、急性黄疸となります。
 もしかすると何かの省略形かも知れない。馬刀挟癭が馬刀のように、省略されることは多いのです。そこで頭に浮かんだのは、走馬黄。それを調べると、『太平聖恵方』巻十一に「走馬黄者、眼目黄赤、煩乱狂言、走臥不安、気力強壮、唯愛嗔怒、怒目高声、打罵他人、猶如癲酔。若厥逆者、難治」とあります。馬黄が、走馬黄だとしたら、以上のような症状を持つ急性黄疸だということになります。走馬黄は、目がダイダイ色になるとあるので黄疸です。目に症状があり、怒りっぽくなることを考えて、肝気横逆により脾が剋された黄疸のようです。走馬は、スピードが速いので、急性黄疸ではないかと思います。

『証類本草』巻22。水蛭。
の引く図經曰「水蛭……水中者名水蛭,亦名馬〓〔馬偏の黄〕」
の引く衍義曰「陳藏器、日華子所説備矣。大者京師又謂之馬鼈,腹黄者謂之馬黄。……」
『本草綱目』巻40・水蛭  修治「……時珍曰:……誤呑水蛭入腹、生子為害、……腸痛黄痩者、……蓋蛭在人腹、忽得土気而下爾」
謝観『中国医学大辞典』「水蛭毒:水蛭入腹、久則生子、食人肝血、腹痛難忍、面目黄痩、失治即死」
これらによりますと、水蛭=馬黄で、それが人間の体に入ると寄生虫になり、黄疸の症状となるのでしょう。 これが、日本語訳『備急千金要方』の根拠かも知れません。
なお、『普済方』巻196に「走馬黄證候 走馬黄者,眼目黄赤、煩亂、并狂言、起臥不安、氣力強壯、唯愛嗔怒、努力髙聲、打罵他人、猶如? 醉、若厥逆者難治、烙肺兪二穴、百會風腑穴、關元穴、腎兪二穴、下廉二穴、上管穴、中管穴、次烙 手足心」というのがありました。関連は不明ですが。
  〒169-0073 東京都新宿区百人町1-4-4 学校法人素霊学園 東洋鍼灸専門学校
 
ということで、馬蜞を呑み込んだことにより、肝臓にすると作って起きた黄疸ということで、結論にします。

 五苓散治疸病、発渇、立効。熱在裏、身黄腫、煎茵陳下。(服此不効、方可鍼灸)
 五苓散で黄疸を治す。喉が渇いたら、直ちに効果がある。熱が裏にあり、身体が黄色く腫れていれば、茵陳を煎じる。(飲んでも効果がなければ、そのときに鍼灸する)


鍼灸資生経巻七5

傷寒頭痛(其餘見頭痛)
 温溜主傷寒、寒熱頭痛、、衂、肩不挙(千)。懸顱主熱病、頭痛、身熱。懸釐、鳩尾主熱病、偏頭痛、引目外眥。少沢主振寒、小指不用、頭痛。神道、関元主身熱、頭痛、進退往来。三焦兪主頭痛、食不下。太白主熱病、先頭重、顔痛、煩悶、心身熱、熱争則腰痛、不可俛仰、又熱病、満悶、不得臥、身重、骨痛、不相知。温溜治傷寒、身熱、頭痛、逆、肩不得挙(銅)。

傷寒頭痛(その他は頭痛を見よ) 
 温溜は傷寒、寒熱頭痛、シャックリ、出血、肩が挙がらないものを主治する(千金方)。懸顱は熱病、頭痛、身熱を主治する。懸釐と鳩尾は、熱病、片頭痛、目尻が引きつるものを主治する。少沢は寒けがして振るえる、小指が動かない、頭痛を主治する。神道と関元は、身熱、頭痛が進退往来するものを主治する。三焦兪は、頭痛、食べられないものを主治する。太白は熱病で、まず頭が重くなり、眉の間が痛み、煩悶し、心身に熱があり、熱が出ると腰痛して、前や後ろに曲げられなかったり、また熱病で満悶し、横になれず、体が重く、骨が痛み、意識がはっきりしないものを主治する。温溜は傷寒、身熱、頭痛、シャックリ、肩が挙がらないものを治す(銅人経)。


 風池治頭痛。魚際、掖門、中渚、通理主頭痛(千)。天池療頭痛(此見寒熱)。支正等主頭眩痛(見傷寒、寒熱)。頭痛、顛顛然、先取涌泉云云(見傷寒)。魚際療頭痛、汗不出(見寒熱)。
 風池は頭痛を治療する。魚際、液門、中渚、通里は頭痛を主治する(千金方)。天池は頭痛を治療する(これは寒熱を見よ)。支正などは頭眩痛を主治する(傷寒寒熱を見よ)。頭痛で、癲証のようならば、まず湧泉を取るという(傷寒を見よ)。魚際は頭痛して、汗の出ないものを治療する(寒熱を見よ)。


 治傷寒頭痛、薬多矣。惟濃煎五苓散、服必効。不必鍼灸。予施与人、皆効故也。
 傷寒頭痛の治療は、薬が多い。ただ五苓散を濃く煎じ、服すれば必ず効果がある。鍼灸はいらない。私は次々と人に施し、皆に効果があった故である。


鍼灸資生経巻七6

傷寒寒熱(餘見自汗 傷寒無汗)
 支正、少海主熱病、先腰脛酸、喜渇、身熱、項強、振寒、寒熱。甲云、主振寒、寒熱、頚項腫。実則肘攣、頭眩痛。虚則生疣痂(千)。

傷寒寒熱(他は自汗、傷寒無汗を見る)
 支正と少海は熱病を主治する。まず腰や脛が怠くなり、喉が渇いて、身体が熱く、後頚部がこわばり、振寒し、寒熱する。『甲乙経』は、振寒、寒熱、頚項の腫れを主治すると云う。実ならば痙攣、頭眩痛。虚ではイボができる。


 曲沢主傷寒、温病、身熱、煩心、口乾。甲云、主心澹、善驚、身熱、煩心、口乾、手清、逆気、嘔唾、肘、善揺頭顔、清汗出、不過眉。三間主気熱、身熱、喘。甲云、寒熱、口乾、身熱、喘息、口急痛、善驚。肩貞主寒熱、項適歴。甲云、耳鳴、無聞、引缺盆、肩中熱痛、麻木不挙。温溜主傷寒、寒熱、頭痛。商丘主寒熱、好嘔。大椎主傷寒、熱盛、煩嘔。膈兪、中府主寒熱、皮肉骨痛、少気、不得臥、支満。肩井、関衝主寒熱、悽索、気上、不得臥。列缺主寒熱、掌中熱。曲池主傷寒、餘熱不盡。天井主傷寒、振寒、頚項痛。衝陽主振寒、而欠。後谿主身熱、悪寒。
 曲沢は傷寒、温病、身熱、煩心、口の乾燥するものを主治する。『甲乙経』は、心臓がドキドキする、ヒキツケ、身熱、煩心、口の乾燥、手が冷たい、逆気、唾を吐く、肘が痙攣する、よく頭や顔を揺らす、冷や汗が出るが眉より下には垂れないものを主治すると云う。三間は、気分の邪熱が盛んなもの、身熱、喘ぎを主治する。『甲乙経』は、寒熱、口の乾燥、身熱、喘息、口の引きつり痛、よくヒキツケるものという。肩貞は寒熱、項適歴を主治する。『甲乙経』は、耳鳴り、聞こえない、缺盆が引きつる、肩中の熱痛で、感覚がなくなって挙がらないという。温溜は傷寒、寒熱、頭痛を主治する。商丘は寒熱、よく吐き気するものを主治する。大椎は傷寒、熱が盛ん、煩心して吐き気するものを主治する。膈兪と中府は寒熱、皮肉骨の痛み、呼吸が微弱、横になれない、支満を主治する。肩井と関衝は、寒熱、悽索、気の上逆、横になれないものを主治する。列缺は寒熱、手掌の熱を主治する。曲池は傷寒で、まだ熱が残ったものを主治する。天井は傷寒、振寒、頚項痛を主治する。衝陽は振寒してアクビするものを主治する。後谿は身熱があり悪寒するものを主治する。
(項適歴が何かは不明。悽索は悽が凄で冷たい意味。索は紐だから冷えたシコリができたことと思うが確証はない。)


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