鍼灸資生経巻三 3

鍼灸資生経巻三16


 
(余見痃癖)
 陰陵泉、治、疝、小便不利、気淋(銅)。千云、主、婦人疝、按之、如以湯沃股内至腰、泄、陰痛、小腹痛堅急、下湿、不嗜食。太谿、主、胞中,有大疝,積聚与陰、相引(千)。太陰、衝門、主、疝、陰疝。四満、主、臍下疝積(甲云、胞中有血)。石門、主、腹満、疝積。四満(見積聚)、中極、治、疝。府舎、治、疝癖(見脾疼)。

 陰陵泉は、疝、小便が出にくい、排尿痛を治す(銅人)。千金方は、婦人の疝で、圧すると股の内側から腰へ熱湯をかけたような痛みがあり、下痢、陰部の痛み陰痛、下腹痛が引きつる、下焦の湿邪、食欲不振を治す。太谿は、子宮内に大きな疝の塊があり、陰部まで痛むものを主治する(千金方)。地機、衝門は、疝、陰嚢ヘルニアを主治する。四満は、臍下の痛みのある腸イレウスを主治する(甲乙経は、子宮内に血塊があるという)。石門は、腹部の脹満、腸イレウスを主治する。四満(積聚を参照)、中極は、疝を主治する。府舎は、腹が痛くて排便できないものを治す(脾疼を参照)。
 
*疝は、疝蠱とも呼び、一つは風邪が熱と化して下焦へ伝わり、湿邪と結合したもの。下腹部の熱痛、尿道口から白い粘液が出るもの。もう一つは寒が腹内の気血と結合したもの。腹の皮が隆起して、推すと移動し、腹の痛みが腰背に及ぶ。下湿は、よく判らなかったが、湿邪は下から入るといい、テーマは腹部なので下焦の湿とした。疝積も、よく判らないが、疝は腹部が痛くて排便できないもの、積は停滞したものなので、腸イレウスと思う 。癖はシ辟と同じで、積滞すること。

 
積聚、灸、気海、天枢、百壮(並見腹脹)。丘墟、主、大疝,腹堅。関元、治、聚(見赤白帯)。帯下、灸,間使,三十。又淋、小便赤、尿道痛、臍下結塊,如覆盆、或因食得、或因産得,悪露不下,遂成疝、或因月事不調,血結,成塊、皆鍼之(千金翼)。
 積聚は、気海と天枢に百壮ほど施灸する(腹脹を参照)。丘墟は、ひどい疝気で腹が堅くなるものを主治する。関元は、子宮筋腫(赤白帯を参照)を治す。帯下には間使へ灸三十壮すえる。また尿の病気で小便が赤く、尿道が痛くて臍下を盆で覆ったようなシコリがある、あるいは食により、あるいは出産で悪露が下りないために子宮筋腫となり、あるいは生理不順で血が固まってシコリとなったものには鍼をする(千金翼方)。


 
鍼灸資生経巻三17

 淋(淋瀝、余見,小便不通)
関元、主、胞閉塞,小便不通、労熱、石淋。又,主石淋、臍下三十六疾,不得小便、并灸,足太陽。懸鐘、主、五淋。大敦、気門、主、五淋、不得尿。気衝、主、腹中満熱、淋,閉不得尿。交信、主、気淋。復留、主、血淋。明下云、療、五淋、小便如散灰色。関元、涌泉、主、胞転、気淋。長強、小腸兪、主,淋、。関元、陰陵泉、主、腎病、不可俛仰、気

 関元は、膀胱が閉塞して小便が出ない、虚労発熱して尿に砂が混じるものを主治する。また尿に砂が混じるもの、臍下の三十六疾患により排尿できないものを主治するには、足太陽も一緒に施灸する。懸鐘は、尿液の疾患を主治する。大敦、気門は、尿液の疾患で排尿できないものを主治する。気衝は、腹中が熱く、尿に異常があって排尿できないものを主治する。交信は、下腹が腫れぼったく、尿が出にくかったり排尿後に痛みがあるものを主治する。復留は、血尿があって尿道が痛み、下腹部の痛むものを主治する。明堂下巻は、尿液の異常で、小便が灰を散らしたような色を治療する。関元、涌泉は、妊娠により尿が出なくなり、下腹が腫れぼったく、尿が出にくかったり排尿後に痛みがあるものを主治する。長強、小腸兪は、尿の異常と排尿しにくいものを主治する。関元、陰陵泉は、腎病で腰が前後に曲げられず、気になるものを主治する。
 
*気とは気淋のこと。

 
曲泉、主、閉。行間、主、閉、茎中痛。然谷、主、疝。曲骨、主、小腹脹、血、小便難。包肓、秩辺、主、閉、下重、不得小便。陰、主、女子淋(明云、療諸淋、見淋瀝)。石門、療、気淋、小便黄(下)。長強、療、五淋。曲骨、療、五淋、小便黄。至陰、療、小便淋、失精(下)。中極、治、五淋、小便赤渋(明下又云、尿道痛)、失精、臍下結,如覆杯、陽気虚憊(銅)。復溜、治、五淋、小便如散火。次、治、赤淋(見便不利)。然谷、曲骨、治、淋瀝(見小腹痛)。
 曲泉は、排尿障害を主治する。行間は、排尿障害で、陰茎中が痛むものを主治する。然谷は下腹から睾丸が痛み、排尿しにくいものを主治する。曲骨は、小腹が脹り、尿に血が混じって排尿しにくいものを主治する。包肓、秩辺は、排尿障害で下肢が重く、小便が出ないものを主治する。照海は、女性の尿の異常(明堂は、さまざまな尿液の異常を治療すると言う。淋瀝を参照)を主治する。石門は、下腹が腫れぼったく、尿が出にくかったり排尿後に痛みがあり、小便が黄色なものを治療する(明堂下巻)。長強は、五種類の尿液異常を治療する。曲骨は、五種類の尿液異常で、小便が黄色なものを治療する。至陰は、小便の出が悪く、精液を漏らすものを治療する(明堂下巻)。中極は、五種類の尿液異常で、尿が赤っぽくて出にくく(明堂下巻は尿道痛とも言う)、精液を漏らし、臍の下に盃を伏せたようなシコリがあって、陽気が衰弱したものを治す。復溜は、五種類の尿液異常で、火が散るような小便を治す。次は、尿道痛を伴う血尿を治す(便不利を参照)。然谷、曲骨は、尿がポタポタ出るものを治す(小腹痛を参照)。
 
*血は不明だが、は排尿しにくいもの。

 
太衝、治、淋。陰陵泉、治、気淋、寒熱不節。交信、治、気淋、疝、陰急,股引内廉骨痛。明云、療、気淋、卒疝、大小便難。箕門、治、淋、遺溺、鼠腫痛、小便不通。大鐘、治、実則,小便淋,閉洒洒、腰脊強痛、大便秘渋、嗜臥、口中熱、虚則嘔逆、多寒、欲閉戸,而処、少気不足、胸脹喘息、舌乾、咽中噎,不得下、善驚恐,不楽、喉鳴,唾血。気淋、灸関元,五十壮、或塩著,臍中,灸三壮(千)。
 太衝は、淋[頻尿、残尿感、尿が出にくく痛いなどの症状]を治す。陰陵泉は、下腹が腫れぼったく、尿が出にくかったり排尿後に痛みがあり、発熱したり寒気がしたりするものを治す。交信は、下腹が腫れぼったく、尿が出にくかったり排尿後に痛みがあり、鼠径ヘルニアで陰部が引きつり、股から脛内側の骨が痛むものを治す。明堂は、気淋や急性の腹部痛で、大小便が出ないものを治療するという。箕門は、淋、遺尿、鼠径部が腫れて痛む、小便が出ないものを治す。大鐘は、実による排尿障害、腰や背がゾクゾク冷えてこわばって痛む、便秘、傾眠、口の中が熱っぽい、虚による嘔吐、冷え、閉じこもる、微弱呼吸、胸が膨らんで喘息、舌が乾く、食道が塞がって喉を通らない、驚いたり恐がりやすく、楽しくない、喉が鳴って咳し、唾に血が混じるものを治す。下腹が腫れぼったく、尿が出にくかったり排尿後に痛みがあるものは、関元へ灸五十壮、あるいは臍へ塩を入れて灸を三壮すえる(千金方)。

 石淋、灸関元、或気門、或大敦、各三十壮。労淋、灸足太陰百壮。血淋、灸丹田、或伏留、各随年。五淋、不小便、中封二七壮、或大敦七壮(余見千金)。水泉、治、女小便淋瀝。委陽、志室(見陰痛)、中、治、小便淋瀝。陰、療、婦人淋瀝、陰挺出(銅同)、四支淫、心悶及諸淋(明)。関元(明)、治、不覚遺瀝(銅見臍痛)。小腸兪、治、淋瀝(見小便赤)。
 尿に石が混じるものは、関元、あるいは気門、あるいは大敦へ三十壮ずつ施灸する。おしっこに勢いがなく、排尿後に陰部がシクシク痛み、足腰が怠くて治りにくいものは、足太陰の原穴に灸を百壮すえる。血尿と尿道の痛みを伴い、下腹部が腫れぼったく痛むものは、石門(関元でもよい)あるいは復溜へ歳の数だけ施灸する。五種類の尿液異常で、排尿できなければ、中封へ二×七壮、あるいは大敦へ七壮ほど施灸する(ほかは千金方を参照)。水泉は、女性で小便の勢いがないものを治す。委陽、志室(陰痛を参照)、中は、小便の勢いがないものを治す。照海は、女性で小便の勢いがない、子宮脱(銅人と同じ)、手足が怠くて力がなくなる、心窩部の煩悶、各種の尿液異常を治療する(明堂)。関元(明堂)は、気付かないうちに尿が漏れているものを治す(銅人の臍痛を参照)。小腸兪は、小便の勢いがないものを治す(小便赤を参照)。

 
予壮年、寓学、忽有遺瀝之患。因閲,方書、見有用五倍子末、酒調服之、而愈。薬若相投、豈在多品。而亦無事、於灸也。故附著于此。若欲、治淋疾、則有王不留行子、神効。彭侍郎、以治、張道士、服三粒愈(見既効方)。有婦人、患淋、臥病久之。服諸薬、愈甚。其夫、入夜来告急。予令取此、花葉十余葉、令研細、煎服。翌朝再来、云病已減八分、再与数葉、煎服、即愈(一名剪金花、一名金盞銀台)。
 私は中年になって勉強するようになったが、忽然と尿が切れにくくなった。そのために医学書を見ると、五倍子を粉にして、酒で調えて飲むと治るとある。薬の調合は、なんと種類が多いことだろうか?やはり単純明快なのは灸である。それで記す。もし尿液異常を治したければ、王不留行の種である。神の如き効果がある。彭次官は、張道士を三粒ほど服用させて治した(既効方を参照)。ある婦人は尿が出にくくなり、長いこと臥せていた。いろいろ薬を飲んでも、ますますひどくなる。その夫が、夜にやって来て急を告げる。私は花葉を十数枚取らせ、粉にして煎じると服用させた。翌朝やって来て、病気は八割がたよくなったという。さらに数枚の葉をやり、煎じて服用させると治った(一名剪金花、また金盞銀台ともいう)。


 
鍼灸資生経巻三18

 小便難(不通、不利)
 
涌泉、療、小便不通(明)。曲骨、療、婦人小便不通(下見帯下)。曲泉、主、陰跳痛,引茎中、不得尿(千)。陰交、石門、委陽、主、小腹堅痛,引陰中、不得小便。関元、主、三十六疾、不得小便。気衝、主,淋閉不得尿。大敦、主、小便難,而痛(甲云、照海主之)。横骨、大巨、期門、主、小腹満、小便難、陰下縦。陰交、大敦、箕門、委中、委陽、主、陰跳、遺、小便難。

 湧泉は、小便不通を治療する(明堂)。曲骨は、婦人の小便不通を治療する(明堂下巻の帯下を参照)。曲泉は、陰部のズキズキする痛みが陰茎に及んで排尿できないものを主治する(千金方)。陰交、石門、委陽は下腹が堅くなって痛み、それが陰部に及んで小便できないものを主治する。関元は、三十六種の疾患で、小便できないものを主治する。気衝は、淋で尿が出ないものを主治する。大敦は、小便が出にくく痛むものを主治する(甲乙経は照海が主治するという)。横骨、大巨、期門は、下腹が膨れて小便が出にくく、陰茎が緩んで長くなるものを主治する。陰交、大敦、箕門、委中、委陽は、陰部がズキズキし、遺尿や小便が出にくいものを主治する。

 
中封、行間、主、振寒、溲白、尿難痛。曲骨、主、小腹脹、血、小便難。列缺、主、小便熱痛。中極等(見失精)、承扶、屈骨端、主、小便不利(見大便不禁)。少府、三里、主、小便不利、。陰陵泉、主、心下満、寒中、小便不利。包肓等(見淋)、石門、関元、陰交、中極(並見無子)、曲骨(見帯下)、主、不得小便。京門、主、溢飲、水道不通、溺黄。
 中封、行間は、振寒して、尿が白っぽく、尿が出にくくて痛むものを主治する。曲骨は、下腹が膨れ、尿に血が混じって排尿しにくいものを主治する。列缺は、小便の熱痛を主治する。中極など(失精を参照)、承扶、曲骨の端は、小便が出にくいものを主治する(大便不禁を参照)。少府、足三里は、小便が出にくい、排尿障害を主治する。陰陵泉は、心窩部が脹る、寒が中焦にある、小便不利を主治する。包肓など(淋を参照)、石門、関元、陰交、中極(無子も参照)、曲骨(帯下を参照)は、小便できないものを主治する。京門は、浮腫、水分の代謝障害、尿が黄色なものを主治する。

 
太衝、治、腰引小便痛、小便不利,状如淋(明同)、疝、小腹腫、溏洩、遺溺、陰痛、面目蒼色、胸脇支満、足寒、大便難(銅)。水道、治、膀胱寒、三焦熱、小便不利(見小腹痛)。会陰、治、小便難、陰器縦伸痛。陰包(見腰)、至陰、陰陵泉(見疝)、地機(見水腫)、三陰交(見痃癖)、治、小便不利。箕門(見淋)、治、小便不通。陰谷、治、煩逆、溺難、小腹急,引陰痛、股内廉痛。
 太衝は、腰から下腹の痛み、小便が淋のようにポタポタと出にくいもの(明堂も同じ)、鼠径ヘルニア、下腹の膨れ、水様便が漏れる、遺尿、陰部の痛み、顔面蒼色、胸や脇のつかえ、足が冷える、便秘を治す(銅人)。水道は、頻尿となって米のとぎ汁のような白い尿が出る、三焦熱、小便不利を治す(小腹痛を参照)。会陰は、小便が出にくい、陰器が緩んで伸びて痛むものを治す。陰包(腰を参照)、至陰、陰陵泉(疝を参照)、地機(水腫を参照)、三陰交(痃癖を参照)は、小便不利を治す。箕門(淋を)は、小便不通を治す。陰谷は、たびたび気が上逆する、尿が出にくい、下腹が引きつり、陰部まで痛む、大腿内側痛を治す。
 
*腰引小便痛は、腰引の後は部位が来るべきなので小腹と解釈。尿の疾患なので、腹に問題が起きるのが普通。三焦熱は『金匱・五蔵風寒積聚』に、上焦は肺痿、中焦は腹が堅い、下焦は尿血や排尿できないとある。煩逆は不明。

 
五里、治、腸中満、熱閉不得溺。行間、治、溺難(見白濁)。有人、小便淋渋,不通、甚以為苦。予令摘、王不留行葉(詳見淋瀝)、研細、煎服即愈(黄耆、惟破水、煎数沸服、治大小便不通、立効。亦有,多煎葱湯、浸臍以下、得通)。
 五里は、腸が膨れる、発熱して尿が出ないものを治す。行間は、排尿困難を治す(白濁を参照)。ある人の小便が出にくくて、非常に苦しんでいた。私が王不留行の葉を摘ませ(詳しくは淋瀝を参照)、粉にして煎じて飲むと、すぐに治った(黄耆は破水だけである。煎じて数回ほど沸騰させて飲む。大小便が通じないものに即効がある。またネギを煎じて臍から下を浸すと通じるようになる)。
 
*腸中満は不明。


 鍼灸資生経巻三19

 小便五色
 
腎兪、主、小便難、赤濁、骨寒熱(千)。前谷、委中、主、尿赤難。上廉、下廉、主、小便難,黄。凡尿、青取井、黄取兪、赤取、白取経、黒取合。承漿、主、小便赤黄、或時不禁。完骨、小腸兪、白環兪、陽綱、膀胱兪、主、小便赤黄。中管、主、小腸有熱,尿黄。関元、主、腎病、気、尿黄。京門(又見下不通)、照海、主、尿黄、水道不通。

腎兪は小便が出にくく、赤く濁り、長期の微熱や冷えを主治する(千金方)。前谷と委中は、尿が赤くなって出にくいものを主治する。上巨虚と下巨虚は、尿が出にくくて黄色いものを主治する。尿が青ければ井穴、黄ならば輸穴、赤ければ穴、無色なら経穴、黒ければ合穴を取る。承漿は、小便がダイダイ色だったり、失禁するものを主治する。完骨、小腸兪、白環兪、陽綱、膀胱兪は小便がダイダイ色のものを主治する。中は、小腸に熱があり、尿が黄色になるものを主治する。関元は、腎病で排尿困難となり尿が黄色いものを主治する。京門(下不通を参照)と照海は、尿が黄色く、水道が通じないものを主治する。

 
陵、主、目赤、小便如血。関元、主、傷中尿血。太陵、治、小便如血。関元(明下同)、治、溺海(見臍痛)。下管、療、小便赤(明見腹堅)。陰交、治、臍下熱、小便赤、気痛如刀撹、作塊如覆杯。陰、療、尿黄水、小腹熱、咽乾。下云、療、小便難。小腸兪、治、小便赤渋、小腸緊急。太谿、関元(見賁豚)、白環兪、療、小便黄(下)。
 太陵は目が赤く、小便が血のようなものを主治する。関元は、腎臓を刺傷して血尿が出るものを主治する。太陵は血のような小便を治す。関元(明堂下巻と同じ)は頻尿を治す(臍痛を参照)。下は、小便が赤いものを治療する(明堂の腹堅を参照)。陰交は、臍下が熱く、小便が赤い、刃物でえぐられるような気痛で、盃を伏せたような塊りがあるものを治療する。照海は、尿が黄色く、下腹が熱く、喉がガサガサするものを治療する。下巻は排尿困難を治療するという。小腸兪は、小便が赤くなって出にくく、小腸が引きつるものを治す。太谿、関元(賁豚を参照)、白環兪は、小便が黄色いものを治療する(下巻)。
 
*傷中は『素問・診要経終論』に「刺鍼して横隔膜を傷付けたもの」とあるが、現実と合わないので腎臓と解釈した。もう一つの傷中の意味は「中焦を傷付ける」という意味だが、文意に沿わないので不採用。溺海の意味は不明。溺は尿で、海は血海や髄海と同じく考えれば、水の多い膀胱とも考えられるが、それでは「治す」と一致しない。海は巨大の意味があるので、水が多いから頻尿とした。また「関元を温めると腎陽を強くして頻尿を治す」という作用も考え併せた。気痛については『霊枢・五色』を参照。

 
小腸兪、治、小便赤渋、淋瀝、小腹痛(銅)。膀胱兪、治、小便赤渋、遺溺、陰生瘡、少気、脛寒,拘急,不得屈伸。上廉、治、小便難、赤黄。太谿(見傷寒無汗)、兌端(見渇)、陰谷(見腹脹)、下廉、治、溺黄。魂門、治、小便赤黄。関元(見臍痛)、秩辺(見腰痛)、気海、陽綱、治、小便赤渋(見腹脹)。下、治、小便赤(見腹痛)。大敦、主、尿血、灸三壮(千)。
 小腸兪は、小便が赤くなって出にくく、ポタポタと流れ、下腹が痛むものを治す(銅人穴図経)。膀胱兪は、小便が赤くなって出にくく、失禁し、陰部にオデキができ、呼吸が微弱で、脛が冷えて引きつけ、屈伸できないものを治す。上巨虚は、小便が出にくくて尿がダイダイ色になるものを治す。太谿(傷寒無汗を参照)、兌端(渇を参照)、陰谷(腹脹を参照)、下巨虚は、尿が黄色なものを治す。魂門は、小便がダイダイ色になるものを治す。関元(臍痛を参照)、秩辺(腰痛を参照)、気海、陽綱は、小便が赤くなって出にくいものを治す(腹脹を参照)。下は小便が赤いものを治す(腹痛を参照)。大敦は血尿を主治する。灸三壮(千金方)。

 
小便有五色、惟赤白色者多。赤色、多因酒得之。宜服本事方、清心丸(予教人、服効)。白色、乃下元冷、宜服補薬、著灸,腎兪、関元、小腸兪、膀胱兪等、皆要穴也。近有、患小便出血者、人教,酒与水、煎苦菜根、服即愈。
 小便には五色あるが、赤と無色な人が多い。赤色は飲酒で起きることが多い。これには清心丸を服用するとよい(私が人に教え、服用すると効いた)。無色は腎陽の冷えだから、人参や八味地黄(腎気丸)のような強壮剤を飲み、腎兪、関元、小腸兪、膀胱兪などへ施灸する。これらは要穴である。最近、小便に出血する人がある。人が酒と水で、苦菜根を煎じて服用すれば治ると教えた。


 
鍼灸資生経巻三20

 治夢遺失精(白濁)
 
虚労尿精、灸第七椎、両旁各三十壮(千)、或曲泉百壮。虚労、白濁、灸脾兪百壮、或三焦兪、腎兪、章門、各百壮。夢,失精、小便濁,難、灸腎兪,百壮。夢,泄精、灸中封、五十。男子、夢,与人交、精泄、灸三陰穴、五十。失精、陰縮、灸中封、五十。陰痛、溺血、精出、灸列缺兪、五十。失精、五蔵虚竭、灸曲骨端、五十。失精、陰縮、茎痛、灸大赫、三十。

 虚労で精液が漏れるものは、第七椎の両側へ三十壮ずつ施灸する(千金方)、または曲泉へ百壮。虚労で尿が白濁すれば、脾兪へ百壮施灸する、または三焦兪、腎兪、章門へ百壮ずつ。夢精したり精液が漏れ、小便が濁ったり出にくければ、腎兪へ灸百壮。夢精や早漏は中封へ灸を五十壮。男性が、夢で人と交媾し、精液を漏らすなら三陰交へ灸五十壮。早漏でインポなら中封へ灸五十壮。陰部の痛み、血尿、精液が漏れるものは、列缺へ灸を五十壮。早漏で、五臓が虚していれば曲骨の端へ灸を五十壮。早漏、インポ、陰茎の痛みには大赫へ灸三十壮。
 
*虚労は慢性的に衰弱する病気で、慢性結核なども含まれる。失精は『素問・五過論』の失精とは違う。

 
失精、膝脛痛冷、灸曲泉、百壮。腰脊冷疼、溺濁、灸脾募、百壮(並千)。白濁、漏精、灸大椎骨、尾亀骨、並中間、共三穴。以縄、量大椎,至尾亀骨、折中、取中間穴(別附)。太衝、中封、地機、主、精不足(千)。中極、蠡溝、漏谷、承扶、至陰、主、小便不利、失精(明下同)。志室、治、失精、小便淋瀝。然谷、主、精溢(大赫同)、,不能久立、足一寒一熱。
 早漏で、膝や脛が痛くて冷えれば、曲泉へ灸百壮。腰背が冷えて疼き、尿が濁れば、脾募の章門へ灸を百壮(千金と同じ)。尿の白濁や早漏には大椎と長強、その中間穴の三穴へ施灸する。紐で大椎から尾骨まで量り、紐を半分に折った中央を中間穴とする(別に添付)。太衝、中封、地機は精液不足を主治する(千金方)。中極、蠡溝、漏谷、承扶、至陰は、小便が出にくかったり早漏(明堂下巻と同じ)を主治する。志室は、早漏と尿がスムーズに出ないものを治す。然谷は、精液が漏れるもの(大赫と同じ)、脛が怠くて久しく立てず、足が冷えたり熱かったりするものを主治する。
 
*尾亀骨は不明だが、長強を亀尾とも呼ぶので長強穴とする。

 
行間、治、溺難、白濁、寒疝、小腹腫。腎兪、治、溺血、便濁、出精(銅見労)。膏肓兪、治、夢失精(見労)。至陰、曲泉(見風労)、中極(明下同)、治、失精(見淋)。志室、治、下腫、失精、夢泄精。灸三陰交、二七壮、夢断、神良(千)。虚労、尿精、陽陵泉、或陰陵泉、随年壮、或十椎,十九椎旁、三十壮。耳聾、腰痛、失精、食少、膝以下清、云云,当灸,京門五十壮、十四椎百壮。
 行間は、排尿困難、尿の白濁、寒疝、下腹が膨満するものを治す。腎兪は、血尿や小便の混濁、精液の漏れる(銅人経の労を参照)ものを治す。膏肓は、夢精や早漏を(労を参照)を治す。至陰、曲泉(風労を参照)、中極(明堂下巻と同じ)は、早漏(淋を参照)を治す。志室は、足が腫れ、早漏や夢精のものを治す。三陰交に14壮施灸すれば、夢を見なくなって精神が良くなる(千金方)。虚労で尿に精液が混じるものは、陽陵泉か陰陵泉へ歳の数だけ施灸する、または中枢と腰奇の傍らへ三十壮施灸する。難聴、腰痛、早漏、少食、膝から下が冷えるなどは、京門へ五十壮、そして命門へ百壮ほど施灸する。
 
*寒疝は、腹内に寒邪があるための腹痛。もう一つは寒湿が肝経を侵した副睾丸結核などの疾患を意味する。ここでは文意から腹痛を意味すると思われる。下腫は不明だが、下肢の腫れと思う。

 
蔵論,曰、心有三孔、蔵精汁三合(千同)、則人之遺漏、其因於心乎。心動、則遺漏、従之。欲免此患、要養其心、使不動可也。其次、則邪念或起、必蚤抑之。至游居士云、不愁念起、只恐覚遅、是也。服薬、鍼灸、斯為下矣。然猶愈、於不為也。
 『五臓論』に「心臓には三つの孔があって、精汁が三合ほど収まっている」という(千金方と同じ)。つまり人が精液を漏らす原因は、心臓にあるのだ。心が動けば、それに伴って精液が漏れる。この病気から逃れたければ、心を養って動じないようにすればよい。次に邪念が起こったら早目に抑えることだ。遊び人が「邪念が起きるのは心配ではないが、ただ遅いのが心配だ」というのが、それである。服薬したり鍼灸したりして、これを下す。しかし治ったようだが、できない。
 
*蚤は、発音が同じなので早い意味に使われる。


 
鍼灸資生経巻三21

 大便不通
 
大鐘、中、石門、承山、太衝、中管、太谿、承筋、主、大便難(千)。崑崙、主、不得大便。肓兪、主、大便乾、腹中切痛。石関、主、大便閉塞、気結、心堅満。承山(見転筋)、太谿(見傷寒無汗)、治、大便難(銅)。大鐘(銅見淋)、石関、治、大便秘渋。肓兪、治、大便燥(見腰痛)。中注、治、小腹有熱、大便堅燥,不利。太白、治、腰痛、大便難。

 大鐘、中、石門、承山、太衝、中、太谿、承筋は、大便しにくいもの(千金方)を主治する。崑崙は、排便できないものを主治する。肓兪は、大便が乾燥して、腹中が切られるように痛むものを主治する。石関は、大便が出ず、腑気が固まって、心窩部が堅く膨らんだような症状を主治する。承山(転筋を参照)、太谿(傷寒無汗を参照)は、排便しにくいもの(銅人図経)を治す。大鐘(銅人の淋を参照)、石関は、便秘を治す。肓兪は、大便の水分がないもの(腰痛を参照)を治す。中注は、下腹に熱があって大便が堅く乾き、出にくいものを治す。太白は、腰痛で、排便しにくいものを治す。

 
太衝、治、足寒、大便難。石関、膀胱兪、療、腹痛、大便難(明下)。大便難、灸七椎旁,各一寸、七壮(千)、又承筋三壮。大便不通、大敦四壮。大便閉塞、気結、心堅満、石門百壮(余見千金)。腹中有積、大便秘、巴豆肉,為餅、置臍中、灸三壮、即通、神効。耆域密兌、治、大便秘(詳見既効)。
 太衝は、足が冷えて排便しにくいものを治す。石関、膀胱兪は、腹痛して排便しにくいもの(明堂下巻)を治療する。排便しにくければ至陽の傍ら1寸へ灸七壮(千金方)、または承筋に三壮。大便が出なければ、大敦へ灸四壮。大便が詰まって腑気が固まり、心窩部が堅く膨らんだときは、石門へ灸百壮(ほかは千金方を参照)。腹中に塊りがあり、大便が出なければ、巴豆肉を砕いて餅のようにし、臍中へ置いて灸を三壮すえると、すぐに排便できる。神のような効果がある。耆域密兌は便秘(詳しくは既効を参照)を治す。


 
鍼灸資生経巻三22

 大小便不通
 
豊隆、主、大小便、渋難(明同)。長強(明下同)、小腸兪、主、大小便難、淋。包肓、主、閉、下重、大小便難。水道、主、三焦、約大小便,不通(又云、主婦人)。営衝四穴、主、大小便不利。太谿、主、大便難、尿黄。中注、浮、主、小腹熱、大便堅。白環兪(見腰脊)、扶承(見痔)、大腸兪、治、大小便不利(銅見腹脹)。会陰、治、不得大小便(見陰痛、千同)。浮、治、小腸熱、大腸結(見筋急)。膀胱兪、療、大小便難、尿赤(明)。交信、療、大小便難。

 豊隆は、大小便が出にくいもの(明堂と同じ)を主治する。長強(明堂下巻と同じ)、小腸兪は、大小便が出にくく、少しずつしか出ない排尿困難を主治する。胞肓は、排尿困難や排尿障害、下肢が重い、大小便が出にくいものを主治する。水道は、三焦が拘束されて大小便が出ないものを主治する(また婦人を主治するという)。営衛四穴は、大小便が出にくいものを主治する。太谿は、大便が出にくく尿が黄色いものを主治する。中注と浮は、下腹部に熱があり、大便が堅くなるものを主治する。白環兪(腰脊を参照)、扶承(痔を参照)、大腸兪は、大小便が出にくいものを治す(銅人の腹脹を参照)。会陰は、大小便ができないものを治す(陰痛を参照。千金方と同じ)。浮は、小腸に熱があり、大腸の腑気が流れずに便秘するものを治す(筋急を参照)。膀胱兪は、大小便が出にくく、尿が赤いものを治療する(明堂)。交信は、大小便が出にくいものを治療する。
 
*下重は『素問・六元正紀大論』に下肢が重い症状とある。営衝四穴は営衛四穴の間違い。これは第1〜第4後仙骨孔の外側で、正中仙骨稜から2寸。左右で8穴。

 
一卒傷寒、大小便不通、予与五苓散、而皆通。五苓、固利小便矣。而大便、亦通者、津液生故也。或小便通、而大便,尚不通、宜用蜜丸道之(必用方、婦人、老人、大便秘。用麻子、蘇子、煮粥食、最佳)。
 一兵卒が傷寒となり、大小便が出なくなった。私が五苓散を与えると通じるようになった。五苓散は、もともと小便を出す。そして大便も通じるようになったのは津液が生成したからだ。小便は出たが、大便が通じなければ、蜜丸を使って通じさせるとよい(婦人や老人の便秘に使う。麻子と蘇子を煮て、粥にして食べると最善)。


 
鍼灸資生経巻三23

 小便不禁(遺尿附)
 
承漿、主、小便不禁(見便黄)。関元(又、主、婦人,小便数泄,不止)、涌泉、主、小便数。少府、主、陰暴痛、遺尿(千)。関門、中府(甲作委中)、神門、主、遺尿。陰陵泉、陽陵泉、主、失禁、遺尿、不自知。太衝、主、女遺尿(見疝)。関門、治、遺溺、善満(銅)。箕門(見淋)、通里(見傷寒、千同)、大敦(見疝)、膀胱兪(見便赤)、太衝(見小便不利)、委中(見腰脊)、神門、治、遺溺(見心煩)。

 承漿は、小便を失禁するものを主治する(便黄を参照)。関元(婦人の小便回数が多くて、頻尿が止まらないものも主治)、涌泉は、頻尿を主治する。少府は、陰部が急に痛くなったり、遺尿を主治する(千金方)。関門、中府(甲乙経では委中としている)、神門は、遺尿を主治する。陰陵泉、陽陵泉は、失禁や遺尿しても気付かないものを主治する。太衝は、女の遺尿を主治する(疝を参照)。関門は、遺尿して、すぐに尿意があるものを治す(銅人経)。箕門(淋を参照)、通里(傷寒を参照、千金方と同じ)、大敦(疝を参照)、膀胱兪(便赤を参照)、太衝(小便不利を参照)、委中(腰脊を参照)、神門は、遺溺を治す(心煩を参照)。

 
陰包、治、遺溺,不禁(見腰痛)。遺溺、灸陽陵泉、或足陽明、各随年(千)。遺溺,失禁出、不自知、灸陰陵泉、随年。小便失禁、灸大敦、或行間七壮。尿床、灸臍下横文七壮。婦人遺尿、灸横骨七壮。小児遺尿、灸臍下寸半、随年、又灸大敦三壮(余見千金)。曲泉、陰谷、陰陵泉、復溜(此諸穴、断小便利、大佳、不損陽気、亦云,止遺尿)。
 陰包は、遺尿で失禁するものを治す(腰痛を参照)。遺尿には陽陵泉、または足陽明の原穴へ歳の数だけ施灸する(千金方)。遺尿で、失禁しても判らないものは、陰陵泉へ歳の数だけ施灸する。小便の失禁には大敦あるいは行間へ七壮施灸する。おねしょには、臍下の横紋へ七壮すえる。婦人の遺尿には横骨へ七壮施灸する。子供の遺尿は、臍下1寸半に歳の数だけ施灸するか、大敦へ三壮すえる(ほかは千金方を参照)。曲泉、陰谷、陰陵泉、復溜(この諸穴は、小便が出なくするのに非常によい。陽気を傷付けない。また遺尿止めとも呼ぶ)。


 
鍼灸資生経巻三24

 大便不禁(余見泄瀉)
 
大腸兪、次、主、大小便利。陽綱、主、大便不節(明同)、腸鳴、泄注、小便赤黄。承扶、主、尻中腫、大便直出、陰胞有寒、小便不利。屈骨端、主、大便泄数、小便不利、并灸天枢。丹田、主、泄利不禁、小便絞痛。関元、療、洩痢、虚脹、小便難(明)。魂門、治、大便不節(銅)。老小大便、失禁、灸両足、大指,去甲一寸、三壮。又灸大指、岐間、各三壮(千)。三里、主、霍乱、遺失。

 大腸兪と次は、大小便が出るものを主治する。陽綱は、大便の節度がない(明堂と同じ)、腸鳴、下痢、小便がダイダイ色になるものを主治する。承扶は、尻が腫れぼったく、しょっちゅう大便が出て、陰胞が冷えて小便が出にくいものを主治する。曲骨の上は、下痢で排便回数が多く、小便が出ないものを主治するが、天枢の施灸を併用する。石門は、下痢で便が漏れ、下腹が絞られるように痛むものを主治する。関元は、下痢して腹が脹れ、小便がでにくいものを治療する(明堂)。魂門は、大便の節度がないものを治す(銅人図経)。老人や小児の大便失禁には、両足の親指で、爪から1寸離れたところへ灸を三壮すえる。また足の親指と人差指の間へ、三壮ずつすえる(千金方)。足三里は、下痢を伴う激しい腹痛、大便大便失禁を主治する。
 
*陰胞の意味は不明。胞は子宮、あるいは膀胱の意味だが、女子と言ってないのだから膀胱と思われる。屈骨は、千金要方に曲骨とある。丹田の小便絞痛は、どう考えても小腹絞痛。虚脹は『医宗必読』を参照。症状の一つに腹部の膨満感がある。

 
大便不禁病、又矣。神闕、石門、丹田、屈骨端等、皆是穴処、宜速灸之。予頃、患脾泄、医謂有積、以冷薬、利之。大便、不禁。服陳霊丹、十余丸。午夜、各数丸、而愈。今人、服此丹、三五丸、不効、則不服。是以一勺水、救輿薪火也。可乎哉。
 大便を失禁する病は、不安でもある。神闕、石門、丹田、曲骨など、すべて治療穴だから、すぐに施灸するとよい。私は近頃、脾泄を患った。医者は腹に塊りがあるので、冷薬で流そうと言う。すると大便が止まらなくなった。それで陳霊丹を十数丸ほど服用し、昼と夜で数丸ずつ飲むと治った。今の人は、この丹を三〜五丸ほど飲んで効き目がないと、もう飲まない。それは柄杓一杯の水で、燃え盛る焚き木の火を消すようなものだ。できるだろうか?
 
*脾泄とは、脾虚による下痢。


 
鍼灸資生経巻三25
 泄瀉(余見吐瀉)
 
曲泉、治、泄利、四支不挙(銅見疝)。腹結、治、腹寒泄利(見臍痛)。神闕、治、泄利不止、小児,利不絶、腹大、繞臍痛。気穴、治、婦人,泄利不止(見月事)。陽綱、治、大便泄利。意舎、治、大便滑泄(並見腹脹)。梁門、治、大便滑泄、穀不化(見積気)。関門、治、泄利、不欲食(見積気)。天枢、治、泄利、食不化。三焦兪、治、水穀不化、欲泄注(見腹脹)。懸枢、治、水穀不化、下利(見積聚)。脊中、治、温病、積聚、下利。

 曲泉は下痢し、手足が怠くて挙がらないものを治す(銅人の疝を参照)。腹結は、腹が冷えて起きた下痢を治す(臍痛を参照)。神闕は、泄利が止まらず、乳児が乳を飲むと下痢が止まらず、腹が膨れて臍の周囲が痛むものを治す。気穴は、婦人で下痢の止まらないものを治す(月事を参照)。陽綱は、大便が漏れるものを治す。意舎は、大便が滑り出るものを治す(併せて腹脹を参照)。梁門は、大便が滑り出て、未消化なものを治す(積気を参照)。関門は下痢し、食欲のないものを治す(積気を参照)。天枢は下痢し、食物が消化されないものを治す。三焦兪は、消化されずに下痢を排便するものを治す(腹脹を参照)。懸枢は、消化されずに下痢するものを治す(積聚を参照)。脊中は、熱病で、腹に塊ができ、下痢するものを治す。
 
*ここのは、女のことではなく乳汁の意味。

 
、治、腹脹、下利、食泄。脾兪、治、泄利(見腹脹)。膀胱兪、治、泄利、腹痛。大腸兪、腎兪、治、洞洩、食不化(見労)。会陽、治、腹中冷気、洩利不止。京門、治、小腹急腫、腸鳴、洞洩、枢引痛。三間、治、腹満、腸鳴、洞洩。然谷、治、児,洞洩(見口噤)。関元、療、腹洩不止(明下見賁豚)。京門、然谷、陰陵泉、主、洞泄不化(千)。腎兪、章門、主、寒中、洞泄不化。京門、崑崙、主、洞泄体痛。
 中は、腹が脹って下痢し、食べると排便するものを治す。脾兪は、下痢を治す(腹脹を参照)。膀胱兪は、下痢して腹痛するものを治す。大腸兪と腎兪は、未消化便を下痢するものを治す(労を参照)。会陽は、腹中に冷気があって、下痢が止まらないものを治す。京門は、下腹が引きつって膨れ、腸鳴して下痢し、尻が引きつるように痛むものを治す。三間は、腹が膨れ、腸鳴し、下痢するものを治す。然谷は、小児の下痢を治す(口噤を参照)。関元は、下痢の止まらないものを治療する(明堂下巻の賁豚を参照)。京門、然谷、陰陵泉は、未消化な下痢を主治する(千金方)。腎兪、章門は、中焦が冷えて消化できず、下痢となったものを主治する。京門、崑崙は、下痢して身体の痛むものを主治する。

 
長強、主、頭重洞泄;明下云、洞洩不禁。陰陵泉、隠白、主、胸中熱、暴泄。大腸兪、主、腸鳴、腹腫、暴洩。三焦兪、小腸兪、下、意舎、章門、主、腸鳴、腹脹、欲泄注。会陽、主、腹中有寒、泄注、腸、便血。束骨、主、腸泄。天枢、主、冬月,重感於寒、則泄。当臍痛、腸胃間、遊気、切痛;若心腹痛、而後泄;此寒気、客於腸間,云云、灸関元百壮、服,当帰縮砂湯(指)。泄瀉、宜先灸臍中、次灸関元等穴。
 長強は、頭が重くて下痢するものを主治する;明堂下巻は、下痢の止まらないものという。陰陵泉と隠白は、胸中が熱くなって粘液や水っぽい便を下痢するものを主治する。大腸兪は、腸が鳴り、腹が膨れ、急に下痢となったものを主治する。三焦兪、小腸兪、下、意舎、章門は、腸が鳴り、腹が膨れ、下痢しそうなものを主治する。会陽は、腹が冷えて下痢し、腸が出血して、便に血が混じるものを主治する。束骨は、出血性の下痢を主治する。天枢は、冬季になって冷えが重なると下痢するものを主治する。臍が痛く、胃腸の間を気が動き、切るように痛む。そして心窩部と腹が痛み、そのあとで下痢する。これは寒気が腸間に宿ったものという。関元へ灸を百壮すえ、当帰縮砂湯を飲む(指南に記載)。下痢は、まず臍中へ施灸し、次に関元などへ施灸する。
 
*暴泄とは熱による下痢で、熱泄、熱瀉、火泄、火瀉の別名がある。泄注は虚証に邪が加わったことによる下痢。


 
鍼灸資生経巻三26

 
 中、主、腹脹、泄。下廉、治、小腹痛、洩、次指間痛、脣乾、涎出,不覚、不得汗出、毛髪焦、脱肉、少気、胃中熱、不嗜食。上廉(見脇痛)、治、洩。陰陵泉、主、婦人泄(見疝)。素問言,春傷於風、夏必泄。苟知,傷於風、而得之、則薬、自可治;雖不著艾、未為害也。

 中は、腹が脹って消化不良するものを主治する。下巨虚は下腹が痛く、消化不良で、人差指と親指の間が痛み、唇が乾いて涎が出ても判らず、汗が出ず、毛髪が焦げたようになり肉が落ち、呼吸が微弱で、胃中に熱があり、食欲のないものを治す。上巨虚(脇痛を参照)は、消化不良を治す。陰陵泉は、婦人の消化不良(疝を参照)を主治する。『素問』は、春に風で傷付くと、夏には必ず消化不良になるという。もし風に傷つけられて消化不良になったと判ったら薬を飲めば治る。灸をすえなくとも大丈夫。
 
泄は『素問・四気調神大論』にあるが、脾陽虚や肝鬱脾虚による消化不良。

 
本事方云、泄者、食穀不化也。春時,木旺、肝生風邪、淫於脾経、至夏,引冷。当,風故、多泄。宜丸。、神曲、白朮、附子、等分細末、糊円,梧子大、毎服三五十丸、米飲下。治、脾湿、而泄者、万無不中。其用、除湿,有理。故載于此。
 本事方に「泄とは消化不良」と書いてある。春は木が旺盛なので、肝が風邪を生じ、その肝気が脾経を侵すから夏になると冷えを呼び込む。風によるものは消化不良になりやすい。それには宜丸がよい。、神曲、白朮、附子を同量ずつ粉にし、糊でアオギリの実ぐらいに丸めて、一回に30〜50粒ずつ、米と一緒に飲む。湿邪による脾虚で下痢するものは100%治る。を使って湿邪を追い出すのは、なるほどと思うので、ここに
載せた。



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