鍼灸資生経巻三 4
鍼灸資生経巻三27
溏泄
三陰交、治、溏洩、食不化(銅見腹脹)。地機(見水腫)、治、溏洩。地機、主、溏、腹痛、蔵痺(千)。太衝等、主、溏泄(見痢)。予,嘗患痺疼、既愈、而溏利者、久之。因灸臍中、遂不登溷、連三日灸之。三夕、不登溷。若灸溏泄、臍中第一、三陰交等穴、乃其次也。
三陰交は、下痢で消化しないものを治す(銅人の腹脹を参照)。地機は(水腫を参照)、治下痢を治す。地機は、下痢して腹部にシコリがあり、腹痛する臓痺を主治する(千金方)。太衝などは、下痢を主治する(痢を参照)。私は痺疼を患い、それは治ったのだが下痢が久しく続いていた。臍中へ施灸すると便所に行かなくなった。それから三日続けて施灸した。三の夕刻とも便所に行かなかった。もし下痢に施灸するとすれば臍中が第一で、三陰交などは次善である。
*溏は不明。恐らく溏とだと思われる。臓痺も不明だが、恐く腹痛のこと。痺疼も不明だが、どちらも痛みだから痺は脾の誤りで、脾痺のことと思われる。内臓の痺証の一種、脾気が損傷されたもので、胸の不快感や食欲不振がある。
本事方云、一親、毎五更初、必溏痢一次者、数月。有人云、此名腎泄、腎感陰気、而然。服五味子散、愈(五味子二両、呉茱萸半両。細粒、緑色者、並炒香熟、為末。毎服二銭、陳米飲下)。其論、溏利有理。故附載之。予,旧患,溏利、毎天,暁必如厠。人教、贖豆附丸、服即愈。其方、不可得也。他年、再患此。只用姜、煎附子、加豆、服愈。
本事方は、ある親戚が、いつも夜明け前になると、必ず下痢をする。それが数ケ月続いた。ある人が、それは腎泄であり、腎が陰気を感じて起きるという。五味子散を飲んで治った(五味子二両、呉茱萸半両を細かくし、緑色のものを香ばしくなるまで炒めて粉にする。それを二銭ずつ古米と一緒に飲む。その意見は、下痢なら道理があると思われるので、ここに載せる。私は昔、下痢になった。毎日、明け方になると必ずトイレへ行く。人に贖豆附丸を教わり、飲むと治った。その処方は得られない。別の年、また再発した。ショウガを使って附子を煎じ、豆を加えて飲むと治った。
鍼灸資生経巻三28
痢(余見瀉)
素問言、泄痢,有五種。一曰、胃泄、飲食不化、而色黄、胃与脾合、故黄也。二曰、脾泄、腹脹、而注泄無休、又上逆嘔、此為,寒熱之患也。三曰、大腸泄、食畢,腸鳴切痛、而痢白色、大腸与肺合、故白也。四曰、小腸泄、身痩、而便膿血、小腸与心合、心主血也。五曰、大泄、裏急後重、数至、不能便、茎中痛、此腎泄也。諸家方、有二十余種。此唯言五種。葢挙,其綱也。必用方、亦有赤白、疳蠱之別。其大概、則蔵府寒也。
素問は、下痢に五種類あるという。一つは胃泄で、消化不良で色が黄色い。胃と脾は表裏なので黄色い。二つめに脾泄で、腹が脹り、絶えず下痢を排便し、また嘔吐もする。これは寒熱によって発病する。三つめが大腸泄、食べ終わると腸が鳴って切られるように腹が痛み、白色の膿が混じった便が出る。大腸と肺が表裏なので白い。四つめは小腸泄。身体が痩せて便に膿血が混じる。小腸と心は表裏であり、心は血を管理するからだ。五つめは大泄である。裏急後重して、何回もトイレへ行くが排便できず、陰茎が痛む。それは腎泄である。諸家は、二十数種の下痢があるというが、この五種を述べているだけで、さらに五種を分類しているに過ぎない。必用方には、下痢に赤白と疳蠱の違いがあるという。それは臓腑の寒を言っているだけである。
廩丘公、所謂,諸下、悉寒、是也。数予、治人痢、惟与以鎮霊丹、無有不効。或未効。更加丸数、則効矣。若蠱利、則用,栢葉,黄連、煎服(見既効)。諸痢、惟耆域方、用厚朴、桜、粟殻末、最佳。後人,又加,木香、黄連、陳皮,等分、甘草拌之。黄殻葉、数片、姜、棗、烏梅、水煎。予嘗用之験。故載于此。然痢、本無悪証、而有患此、而死者。或者、世医、以痢、為熱病、多服冷薬故也。若其急難、亦当灼艾、不可専用薬云。
廩丘公の言うものは、すべて寒である。私は度々、人の下痢を治すとき、鎮霊丹だけを使うが、効果がなかったことはない。もし効果がなければ、さらに数丸を加えると効く。もし蠱痢ならば、栢葉と黄連を煎じて飲む(既効を参照)。さまざまな下痢には耆域方がよい。厚朴、桜、粟殻の粉が最も良い。のちの人は、さらに木香、黄連、陳皮を等分加え、甘草をかきまぜて、黄殻葉を数片、ショウガ、ナツメ、ウメと一緒に煎じる。私は、これを使って効果があったので、ここに載せた。それに下痢には、もともと悪証はない。それなのに下痢となって死んだという。世の医者が、下痢を熱病と思い込んで冷薬を沢山飲ませたからであろう。もし差し迫った下痢ならば、モグサで温めるべきで、薬だけを専用してはならないという。
*蠱痢は伝染性の下痢。
復溜、主、腸、便膿血、泄痢、後重、腹痛如状(千)。交信、主、泄痢、赤白(銅同)、漏血。太衝、曲泉、主、溏泄、痢注下血。小腸兪、主、泄痢、膿血五色、重下腫痛。丹田、主、泄痢不禁、小便絞痛。関元、太谿、主、泄痢不止。脾兪、主、泄痢、不食、食不生肌。五枢、主、婦人赤白、裏急、。曲泉、治、泄水、下利膿血(銅見風労)。中膂兪、治、腸冷、赤白痢(明同下利)。関元、療、洩痢(見便不禁)。
復溜は、腸出血で、便に膿血が混じり、下痢して後重があり、引きつるような腹痛があるものを主治する(千金方)。交信は、下痢で血や膿が混じり(銅人経と同じ)、血が漏れるものを主治する。太衝と曲泉は、水様便が出て、下血するものを主治する。小腸兪は、五色の膿血を下痢し、裏急後重で下腹が腫れぼったく痛むものを主治する。丹田は、下痢が止まらず、小便すると絞られるように痛むものを主治する。関元と太谿は、下痢がとまらないものを主治する。脾兪は、下痢して食べず、食べても太らないものを主治する。五枢は、婦人で便に血や膿が混じり、腹が引きつって痙攣するものを主治する。曲泉は、水様便が出て、膿血を排泄するものを治す(銅人の風労を参照)。中膂兪は、腸が冷え、血や膿が混じった下痢を治す(明堂の下利と同じ)。関元は、下痢を治療する(便不禁を参照)。
*重下は『諸病源候論』十七巻にある。
小児痢、下赤白、秋末,脱肛、毎厠,腹痛,不可忍。灸十二椎下、節間、名接脊穴一壮。黄帝、療、小児、疳、痢、脱肛、体痩、渇飲、形容痩悴。諸薬、不差。灸尾翠骨上三寸、骨陥間三壮。岐伯云、三伏内、用桃水、浴孩子、午正時、当日灸之、用青帛拭、似見疳虫、随汗出、神効。小児、伏深、冷痢不止、灸臍下二寸,三寸間、動脈中三壮。婦人、水洩痢、灸気海百壮。泄痢、食不消、不作肌膚、灸脾兪,随年壮(千)。泄注、五利、便膿、重下腹痛、灸小腸兪百壮。泄痢不禁、小腹絞痛、灸石門百壮(三報)。久痢,百治不差、灸足陽門下一寸、高骨上陥中、去大指岐三寸、随年、又臍中二三百壮、又関元三百(十日灸)。赤白下、灸窮骨、多為佳。四支不挙、多汗、洞痢、灸大横随年(余見千金)。痢暴下,如水云云、気海百壮(指)。
小児で、血や膿を下痢し、秋の終わりに脱肛し、いつもトイレで耐え難い腹痛が起きる。それには十二椎下で棘突起間、その名を接脊穴に一壮施灸する。黄帝は、小児の栄養不良や下痢、脱肛、痩せ、喉が渇いて水を飲む、身体が痩せて容貌は憔悴しているが、薬では治らないものを治療するとき、尾骨先端の上三寸で、骨が凹んだ間へ三壮ほど施灸する。岐伯は「夏の盛りならば、桃水を使って子供に水浴びさせ、正午になった時、太陽が当たった部位へ施灸し、黒い絹で拭けば、疳虫は汗と一緒に出る。非常に効果がある」と言う。小児が、秋が深まっても冷えによる下痢が止まらないときは、臍の下2寸と3寸の間にある動脈の中に三壮ほど施灸する。婦人が水様便ならば、気海へ灸を百壮。下痢して、消化不良となり、食べても太らなければ、脾兪へ歳の数だけ施灸する(千金方)。最初に挙げた五種の下痢で、便に膿が混じり、裏急後重の腹痛があれば、小腸兪へ灸を百壮すえる。下痢が止まらず、下腹が絞られるように痛ければ、石門へ灸を百壮(三回に分けてすえる)。慢性の下痢で、いろいろ治療しても治らねば、足陽明の下1寸。足の項で高く盛り上がった骨の上陥中、足の親指と人差指の分かれ目から3寸上がったところへ歳の数だけ施灸する。さらに臍中へ200〜300壮、さらに関元へ300壮(十日に分けて施灸する)。血と膿を下痢するときは、尾骨へ施灸する。多いほどよい。四肢が重くて挙がらず、汗が出て下痢すれば、大横へ歳の数だけ施灸する(ほかは千金方を参照)。水のような激しい下痢は、気海へ百壮という(指南)。
*足陽門は、足陽明の間違いで、原穴の衝陽。
鍼灸資生経巻三29
便血(余見痢、腸風)
復溜、太衝等(並見痢)、会陽(見瀉)、主、便血(千)。下廉、幽門(明同)、太白(見吐瀉)、治、洩利膿血(銅)。太白、治、吐洩膿血(見腹脹)。小腸兪、治、大便,膿血出(明同)。下、治、大便下血。腹哀、治、大便膿血(見腹痛)。千又云、寒中、食不化、腹痛。労宮(見傷寒)、治、大小便血。
復溜や太衝など(併せて痢を参照)、会陽(瀉を参照)は、血便を主治する(千金方)。下廉、幽門(明堂と同じ)、太白(吐瀉を参照)は、膿血が便に混じるものを治す(銅人経)。太白は、膿血を吐いたり排泄するものを治す(腹脹を参照)。小腸兪は、大便に膿血が出るものを治す(明堂と同じ)。下は、大便の下血を治す。腹哀は、大便の膿血を治す(腹痛を参照)。千金方は、中焦が冷えて消化できず、腹痛するものも治すという。労宮(傷寒を参照)は、大小便に血が混じるものを治す。
陸氏続集験方、治、下血不止。量臍心与脊骨、平於脊骨上灸七壮、即止。如再発、即再灸七壮、永除根本。目睹数人、有効。予嘗用此、灸人、腸風,皆除根本、神効無比。然亦須按、其骨突処、疼、方灸之。不疼則不灸也。但便血、本因於腸風、腸風即腸痔、不可分而為三、或分為而治、之非也。
陸氏続集験方は、下血が止まらないものを治すのに、臍の中心と背骨を測り、背骨の上で臍と水平な高さに、七壮ほど施灸すれば止まるという。もし再発すれば、さらに七壮施灸すれば、病は根本から除かれるという。何人も目撃したが効果があった。私が、この灸を人の血便に試したが、病が根本から除かれた。効果があること比べようがない。その方法は、棘突起を必ず押してみて、怠い痛みのある部位へ施灸する。しかし血便の原因は腸風であり、腸風とは腸痔のことである。これを血便、腸風、腸痔と分けられない。もし別なものとして治療するのならば、それは間違いである。
鍼灸資生経巻三30
痔(瘻、漏、余見瘍瘻)
長強、治、腸風下血、五種痔、疳蝕下部。此痔、根本是冷、謹冷食、房労(銅与明同);明下云、療、久痔。会陰、治、穀道擾、久痔相通者死(千云、主、痔与陰、相通者死)。会陽、治、久痔。小腸兪、治、五痔疼(明同)。秩辺、治、五痔発腫。復溜、治、血痔洩、後腫。飛揚、治、野鶏痔。承山、治、久痔腫痛。扶承、治、久痔、尻腫、大便難、陰胞有寒、小便不利。
長強は、腸風による下血、五種の痔、全身にオデキができて肛門に穴が穿くものを治す。この痔は冷えが原因であるから、冷たいものを食べたり、セックスすることを禁じる(銅人は明堂と同じ);明堂下巻は、慢性の痔を治療するという。会陰は肛門が痒いものを治すが、慢性の痔もあれば死ぬ(千金は、痔と陰部を主治し、それが通じるものは死ぬという)。会陽は慢性の痔を治す。小腸兪は五痔で疼くものを治す(明堂と同じ)。秩辺は、五痔で腫れたものを治す。復溜は、内痔で血が漏れ、肛門が腫れるものを治す。飛陽は、痔を治す。承山は、慢性の痔で、肛門が腫れて痛むものを治す。承扶は、慢性の痔で、尻が腫れ、大便が出にくく、子宮が冷えて小便が出にくいものを治す。
*疳蝕は『千金要方』巻五に記載。全身にオデキができるもの。は穴が掘れるもの。久痔は『太平聖恵方』巻六十に、慢性の痔とある。五痔は『備急千金要方』巻二十三に、牡痔、牝痔、脈痔、腸痔、血痔の5種類とある。血痔は血便を伴う内痔。野鶏痔は『華佗神医秘伝』巻五に記載。陰胞有寒は判らないが、恐らく子宮が冷えることで、子宮筋腫などを指すと思われる。
千云、療、五種痔、瀉鮮血、尻中腫、大便難、小便不利。気海兪、療、痔病瀉血(明)。飛揚、主、痔簒傷痛。商丘、復溜、主、痔血泄、後重。労宮、主、熱痔。承筋、承扶、委中、陽谷、主、痔痛、掖下腫。商丘、主、痔骨蝕(銅云、痔疾、骨疽蝕)。支溝、章門、主、馬刀、腫瘻。絶骨、主、瘻、馬刀掖腫。侠谿、陽輔(銅同)、太衝、主、掖下腫、馬刀、瘻(銅云、太衝、臨泣、治、馬刀、瘍瘻)。天突、章門、天池、支溝、主、漏。天突、天窓、主、漏、頚痛。長強、療、下漏(明見痔一千、用,亭歴子、作餅、灸漏。外台云、 不可灸,頭瘡。亭歴気入脳、殺人)。
千云は、五種の痔によって鮮血が出、尻が腫れて大便が出にくく、小便も出にくいものを治療するという。気海兪は、痔で出血するものを治療する(明堂)。飛陽は、痔のために会陰が傷つき痛むものを主治する。商丘と復溜は、痔で出血し、後重するものを主治する。労宮は、熱痔を主治する。承筋、承扶、委中、陽谷は、痔が痛み、腋下が腫れるものを主治する。商丘は、痔で骨まで蝕まれるものを主治する(銅人は、痔で骨が蝕まれるものという)。支溝と章門は、腋窩のリンパ結核、痔瘻を主治する。絶骨は、痔瘻、腋窩のリンパ結核を主治する。侠谿、陽輔(銅人と同じ)、太衝は、腋窩の腫れ、腋窩のリンパ結核、痔瘻を主治する(銅人は、太衝と臨泣は、腋窩のリンパ結核と痔瘻を主治するという)。天突、章門、天池、支溝は、血が漏れるものを主治する。天突、天窓は、血が漏れ、頚が痛むものを主治する。長強は、下血するものを治療する(明堂の痔一千では、亭歴子と味噌を混ぜて、湿ったビスケットのようなものを作り、痔瘻へ隔物灸する。外台秘要は、頭のオデキには施灸するな。亭歴子の気が脳に入れば人を殺すという)。
*熱痔は不明。たぶん痔で肛門が熱っぽいもの。骨蝕は『霊枢・刺節真邪』にあり、オデキが骨まで達したもの。骨髄炎など。漏は一般的に精液が漏れるものだが、ここでは主治と合わないので血が漏れるとした。
灸痔法、疾若未深、尾閭骨下、近穀道、灸一穴、便可除去。如伝信方、先以経年,槐枝、煎湯洗、後灸其上七壮、大称其験。如本草、只以馬藍菜根一握、水三碗、煎碗半、乗熱以小口瓦器中,熏洗、令腫退、於元生鼠根上灸(即不可灸、尖頭、恐効遅)。若患深、用湯洗、未退。易湯洗、令消。然後灸、覚火気,通至胸、乃効。病雖深、至二十余壮、永絶根本。以竹片,護四辺肉。仍於天色寒涼時灸、忌毒物(集効)。千金灸漏、更有数穴。
痔に施灸する方法。まだ深くなければ、尾骨の下で、肛門の付近へ施灸する。一穴で治る。『伝信方』には、まず年を経たエンジュの枝を煎じた湯で洗い、そのあと痔の上へ灸を七壮すえると効果があるという。『本草』は、馬藍菜の根を一握、三碗の水で煎じて碗半分の量になるまで煮詰め、それが熱いうちに小さな口のトックリに入れ、その湯気で患部を温めて、ぬるま湯ていどになったら煎じた湯で洗い、腫れが引いたら、もともとあったイボ痔の付け根に施灸する(イボ痔の先端には施灸してはならない。恐らく効果が遅い)。患部が深く、煎じ湯で洗っても消えなければ、煎じ湯を新しいものと取り替えて洗い、消失させる。そのあと施灸して、火気が胸まで通じたように感じたら効果がある。病が深くても二十数壮すえれば根絶する。施灸するときは竹ヘラを使い、施灸する周囲の肉が焼けないように護る。やはり寒涼な天候のときに施灸し、毒物を避ける(集効)。千金では痔瘻の灸に、さらに数穴使う。
*鼠というのは知らないが、鼠痔というのがある。は乳の意味で、肛門からネズミの乳房のようなものが出ているため鼠痔という。
鍼灸資生経巻三31
腸風
脊端窮骨(脊骨尽処)、名亀尾、当中灸三壮、腸風瀉血、即愈;須顛倒身、方灸得。久冷五痔、便血、脊中百壮(千翼)。何教授,湯簿、有此疾積年,皆一灸、除根。湯簿、因伝此法後、観灸経、此穴、療、小児脱肛瀉血。葢岐伯、灸小児法也。後人、因之、以灸大人腸風瀉血爾。葢大人小児之病、初不異故也。五痔、便血、失屎(回気百壮、在脊窮骨上、赤白下)。
背骨の端の窮骨(背骨が尽きるところ)を亀尾という。そこへ三壮ほど施灸すれば、すぐに血便が治る;身体をひっくり返さねば施灸できない。慢性で冷える五痔や血便は、脊中に百壮すえる(千金翼方)。何教授の『湯簿』には、長年の血便が記載され、すべて一灸にて根治している。『湯簿』が、この方法を伝えたため、それからのちの灸経には、この此穴が、小児の脱肛による血便の治療穴となった。それは岐伯が、小児に施灸する方法である。のちには、そのために大人の腸風による血便の灸となった。それは大人と小児の病といえども、もともと違いはないからである
。五痔の血便や便の漏れ(回気へ灸を百壮。この穴は、尾骨の先端で、肛門で皮膚が茶色になる境目)。
*亀尾は長強。
腸風薬、甚衆、多不作効、何也。本草衍義曰、腸風乃腸痔、苟知其為痔、而治之、無不効矣。若灸腸風、長強為要穴云。近李倉、腸風、市医,以杖,量臍中、於脊骨、当臍処灸、即愈。予因此、為人灸腸風、皆除根(陸氏方、治下血除根)。
下血の薬は非常に種類が豊富だが、ほとんど効果がない。なぜだろうか?『本草衍義』には「腸風とは痔出血である。それが痔と知っていて治療するのなら必ず効果がある。もし 腸風へ施灸するのなら長強が要穴という。最近、李倉が腸風になり、街の医者が杖を使って臍まで測り、それで背骨を測って臍に当たる部位へ施灸したら治った。このように下血は施灸すれば、すべて根治する(陸氏方の下血の根治)。
鍼灸資生経巻三32
腸
復留(見痢)、束骨、会陽(見瀉)、主、腸(千)。中都、治、腸、疝、小腹痛(銅)。四満、治、腸切痛(見積聚)。結積留飲、嚢、胸満、飲食不消、灸通谷五十壮(千)。大腸兪、主,風、腹中雷鳴、大腸潅沸、腸、洩痢、食不消化、小腹絞痛、腰脊疼,強、大小便難、不能飲食,灸百壮、三報之。諸結積、留飲、嚢、胸満、飲食不消、灸通谷五十壮、又胃管三百三報之。第十五椎、名下極兪、主、腹中疾、腰痛、膀胱寒、飲、注下、随年壮(千翼)。会陽、主、腹中有寒、泄注、腸、便血。束骨、主、腸泄。膺窓、主、腸鳴、泄注。陽綱、主、大便不節、小便赤黄、腸鳴、泄注。三焦兪、小腸兪、下、意舎、章門、主、腸鳴、腹脹、欲泄注(千)。
復留(痢を参照)、束骨、会陽(瀉を参照)は、腸を主治する(千金方)。中都は、腸、鼠径ヘルニア、下腹部痛を治す(銅人)。四満は、腸で腸が切られるように痛むものを治す(積聚を参照)。胸に水気が溜り、胃腸に溜って胸が膨らみ、胃がもたれれば、通穀へ灸を五十壮(千金方)。大腸兪は、顔面の浮腫、腸鳴して大腸が湧き返り、腸となって下痢し、消化不良で下腹が絞るように痛み、腰背が痛んでこわばり、大小便が出にくく、飲食できないものを主治する。灸百壮を三回に分けてすえる。胸に水気が溜り、胃腸に溜って胸が膨らみ、胃がもたれる諸病には、通穀へ灸を五十壮すえるか、中へ三百壮すえる。三回に分けてすえる。第2と第3腰椎の間は下極兪である。腹中の疾患、腰痛、膀胱の冷え、水気の滞留、下痢を主治する。歳の数だけすえる(千金翼方)。会陽は、腹が冷え、下痢したり、血便が出るものを主治する。束骨は、下痢を主治する。膺窓は、腸鳴して下痢するものを主治する。陽綱は、節度なく排便し、小便がダイダイ色で、腸鳴し、下痢するものを主治する。三焦兪、小腸兪、下、意舎、章門は、腸鳴して腹が脹り、下痢しそうなものを主治する(千金方)。
*腸は、血便あるいは下痢のこと。留飲は、水気が胸郭に溜ったもの。は『素問・生気通天論』に滞留とある。嚢は、ここでは陰嚢ではなくて腸のこと。風は『素問・平人気象論に』ある。膀胱寒は『千金要方』に、膀胱の冷えで、頻尿と白く混濁した尿が出るものとある。注下は『神農本草経』に下痢とある。
鍼灸資生経巻三33
腸痛(余見腸)
太白、主、腸痛(甲見腸鳴)。陥谷等、主、腸痛(千見腸鳴)。商曲、治、腸切痛(銅見積聚)。建里、療、腸中疼、嘔逆、上気、心痛、身腫(明)。気衝、治、腸中之熱(銅見上気)。腸痛、亦多端。若疼甚者、乃腸癰、急宜服,内補十全散等薬、其他、宜随証灸之。有老嫗、大腸中、常若裏急後重、甚苦之。自言人、必無老新婦、此奇疾也。為按其大腸兪、疼甚、令帰灸之、而愈。
太白は、腸痛を主治する(甲乙経の腸鳴を参照)。陥谷などは腸痛を主治する(千金方の腸鳴を参照)。商曲は腸を切るように痛むものを治す(銅人の積聚を参照)。建里は、腸中が疼き、嘔吐してゼイゼイあえぎ、心窩部が痛み、身が浮腫となるものを治療する(明堂)。気衝は、腸中の熱を治す(銅人の上気を参照)。腸痛にも、いろいろと種類がある。痛みがひどければ盲腸なので、すぐに内補十全散などをの薬を飲む。ほかには証に基づいて施灸する。ある婆さんの大腸が、いつも裏急後重のようで、非常に苦しい。自分で人に、たぶん既婚者でないから、この奇病になったという。その大腸兪を押さえると非常に痛む。帰らせて施灸させると治った。
腸癰為病、小腸重、小便数、似淋,或繞臍生瘡、或膿従臍出、大便出膿血、屈両肘、正灸肘頭鋭骨、各百壮、則下膿血、止差。胡権、内補十全散、治腸癰、神効。
盲腸は、小腸が重く、頻尿で尿の病気に似ている。臍の周囲にオデキができたり、臍から膿が出たり、大便に膿血が混じる。両肘を屈し、肘先端の尖った骨の先へ百壮ずつ施灸すると、膿血が出るのが止まって治る。胡権は内補十全散で盲腸を治す。神のような効果がある。
鍼灸資生経巻三34
腸鳴(腹鳴)
不容、治、腹虚鳴(銅見痃癖)。三間、主、胸満、腸鳴(千)。胃兪、主、腹満而鳴(明下云、腹中鳴)。臍中、主、腸中常鳴、上衝於心。天枢、主、腹脹、腸鳴、気上衝胸(又主、婦人)。陰都、主、心満、気逆、腸鳴。太白、公孫、大腸兪、三焦兪等(見瀉)、主、腸鳴。陰交、主、腸鳴,濯濯,有如水声。上廉、主、腸鳴,相追遂。漏谷、主、腸鳴、強欠、心悲、気逆。
不容は、腹の虚鳴を治す(銅人の痃癖を参照)。三間は、胸がつかえて腸鳴するものを主治する(千金方)。胃兪は、腹が膨れて腸鳴するものを主治する(明堂下巻は、腹中鳴という)。臍中は、腸が常に鳴り、気がミゾオチに上がってくるものを主治する。天枢は、腹が脹って腸鳴し、気が胸に込み上げるものを主治する(婦人も主治する)。陰都は、心窩部がつかえて嘔吐し、腸鳴するものを主治する。太白、公孫、大腸兪、三焦兪などは(瀉を参照)、腸鳴を主治する。陰交は、腸鳴してゴロゴロと水の音がするものを主治する。上廉は、腸鳴して排便するものを主治する。漏谷は、腸鳴して、シャックリ、悲しくなる、ゲップを主治する。
*強欠を『霊枢』では足太陰脾経で強立としているが、『太素』は強欠とし、シャックリだと解説している。強いは無理やり、欠はアクビのこと。
膺窓、主、腸鳴、泄注。陥谷、温溜、漏谷、復溜、陽綱、主、腸鳴,而痛。下、主、婦人腸鳴、注泄。胸脇脹、腸鳴切痛、太白主之(甲)。三里(見胃)、三間、京門(見瀉)、関門(見積気)、三陰交(見腹脹)、陥谷、一水分、神闕(並見水腫)、承満、温溜、三焦兪、大腸兪、胃兪(腹脹)、天枢(月事)、治、腸鳴(銅)。
膺窓は、腸鳴して下痢するものを主治する。陥谷、温溜、漏谷、復溜、陽綱は、腸鳴して痛むものを主治する。下は、婦人が腸鳴して下痢するものを主治する。胸や脇の膨満感、腸鳴して腸を切るように痛むものは、太白が主治する(甲乙経)。三里(胃を参照)、三間、京門(瀉を参照)、関門(積気を参照)、三陰交(腹脹を参照)、陥谷、一穴の水分と神闕(水腫も参照)、承満、温溜、三焦兪、大腸兪、胃兪(腹脹)、天枢(月事)は、腸鳴を治す(銅人経)。
章門、治、腸鳴,盈盈然(千同)、食不化、脇痛,不得臥、煩熱、口乾、不嗜食、胸脇支満、喘息、心痛、腰(下経有、背脇)痛,不得転側。上廉、治、腸鳴、気走痛。商丘、治、腹脹、腸鳴不便、脾虚、令人不楽、身寒、善太息、心悲、気逆。復溜、治、腹雷鳴(見鼓漲)。腎兪、療、腹痛、雷鳴(明見腹痛)。承満、療、腸鳴、腹脹、上喘、気逆(下)。
章門は、ゴロゴロと腸鳴し(千金と同じ)、消化不良、脇痛で横になれない、発熱して苦しい、口が乾く、食欲不振、胸脇のつかえ、喘息、心痛、腰痛(下巻には背脇痛とある)で身体をひねれないものを治す。上巨虚は、腸鳴し、腸で気が動き回る感染症による腹痛を治す。商丘は、腹脹し、腸鳴するが排便せず、脾虚で不快感があり、身体が冷えて、溜め息ばかりつき、悲しくて咳き込むものを治す。復溜は、腹の雷鳴を治す(鼓漲を参照)。腎兪息は、腹痛して腸が雷鳴するものを治療する(明堂の腹痛を参照)。承満は、腸鳴して腹が膨れ、ゼイゼイ喘いで咳が出るものを治療する(明堂下巻)。
陽綱、療、食飲不下、腹中雷鳴、腹満脹、大便洩、消渇、身熱、面目黄、不嗜食、怠惰(下);千云、主腸鳴(見大便不禁)。三焦兪、療、腹脹、腸鳴。腸中雷鳴,相遂痢下、灸承満五十壮(千)。天枢、主、腹脹、腸鳴、気上衝胸、不能久立、腹痛,濯濯、冬日,重感於寒,則泄(見泄瀉)、食不化、嗜食、身腫、夾臍急。腹中雷鳴、灸太衝、無限壮数(千見上気)。
陽綱は、食飲できず、腹中から雷鳴し、腹が膨れ、大便を漏らし、喉が渇いて発熱し、顔や目が黄色くなって食欲がなく、身体が怠いものを治療する(明堂下巻);千金要方は、腸鳴するものを主治するという(大便不禁を参照)。三焦兪は、腹脹して腸鳴するものを治療する。腸中が雷鳴し、それに伴って下痢すれば、承満へ灸を五十壮(千金方)。天枢は、腹脹して腸鳴し、気が胸へ突き上げて長く立っていられず、ゴロゴロと腹痛し、冬に何度も冷えると下痢し(泄瀉を参照)、消化不良だがよく食べ、身体が浮腫となり、臍を挟んでひきつるものを主治する。腹中から雷鳴するものは太衝へ壮数にこだわらず施灸する(千金方の上気を参照)。
鍼灸資生経巻三35
脱肛
百会、療、脱肛(明);下云、療、大人小児脱肛;銅云、治、小児脱肛、久不差。岐伯、療、小児脱肛瀉血、秋深不較、灸亀尾一壮、脊端窮骨也。黄帝、灸小児疳痢、脱肛。小児痢下、脱肛(並見痢)。小児脱肛、灸頂上,旋毛中三壮、即入(千)、或尾翠骨三壮、或臍中随年。寒冷、脱肛、灸翠骨七壮、立愈、神効;臍中随年(千翼)。横骨百壮、或亀尾七壮(窮骨)。
百会は、脱肛を治療する(明堂);下巻は、大人や小児の脱肛を治療する;銅人経は、小児が脱肛して、久しく癒えないものを治すという。岐伯は、小児が脱肛して出血するものに、さほど秋が深まらないうち長強へ灸を一壮すえる。背骨の端の骨である。黄帝は、疳痢と脱肛の小児に施灸する。小児が下痢して脱肛(痢も参照)。小児の脱肛には、頭頂のツムジの中に灸を三壮すえると、すぐに入る(千金方)、あるいは長強へ三壮、あるいは臍中へ歳の数だけ施灸する。寒冷による脱肛は長強へ灸を七壮すえれば立ちどころに愈える、神効がある;臍中へ歳の数だけ施灸する(千金翼方)。横骨へ百壮、あるいは長強へ七壮(尾骨先端)。
*疳痢は、疳と痢が合わさったもの。つまり栄養不良の消痩と下痢が合わさったもの。
人有小女、患痢、脱肛。予、伝得一方、用草茶葉一握、姜七片、令煎,服而愈。然不知、其方所自来也。後閲坡文、始知,生姜、咀煎茶。乃東坡,治、文公、痢之方也。故附於此。
女児が赤痢で脱肛した。私が伝え聞いた処方は、草茶葉を一握、ショウガ七片を煎じて服用させると治った。しかし、その処方がどこから来たものか判らない。あとで坡の文を見て、生ショウガを茶と一緒に煎じることを知った。東坡が文公の下痢を治療した処方である。そこで付け加えた。
*咀:薬物を加工すること。『霊枢・寿夭剛柔』や『傷寒論・桂枝湯方』を参照。
鍼灸資生経巻三36
霍乱転筋(筋緩急、餘見手足攣)
凡,霍乱、頭痛、胸満、呼吸喘鳴,窮窘不得息、人迎主之(千)。巨闕(明云、療、霍乱、不識人)、関衝、支溝、公孫、陰陵泉、主,霍乱。太陰、大都、金門、僕参、主、厥逆、霍乱。太白、主、霍乱、逆気。魚際、主、胃逆、霍乱。承筋、主、霍乱、脛不仁。承筋、僕参(見尸厥)、解谿、陰陵泉(見疝)、治、霍乱。金門、僕参、承山、承筋、治、転筋、霍乱(千)。
すべての霍乱、頭痛、胸満、呼吸が喘鳴して息ができない症状は、人迎が主治する(千金方)。巨闕(明堂は、霍乱で意識不明を治療するという)、関衝、支溝、公孫、陰陵泉は、霍乱を主治する。太陰、大都、金門、僕参は、手足が冷たくなる霍乱を主治する。太白は、霍乱して嘔吐するものを主治する。魚際は、嘔吐する霍乱を主治する。承筋は、霍乱して脛の感覚がなくなるものを主治する。承筋と僕参(尸厥を参照)、解谿、陰陵泉(疝を参照)は、霍乱を治す。金門、僕参、承山、承筋は、筋肉が痙攣して霍乱するものを治す(千金方)。
*霍乱はコレラなど、激しい下痢と腹痛を伴う胃腸疾患。転筋はコムラガエリなど、筋肉の痙攣。最後の文の治は、もともとなかったが、意味が通らないので付け加えた。
承山、治、霍乱、転筋、大便難(銅)。金門、治、霍乱、転筋。曲泉(見疝)、懸鐘(見膝攣)、陽輔(見膝痛)、京骨(見足麻)、胃兪、治、筋攣(見腹脹)。僕参(見足痛)、竅陰(見無子)、至陰(見頭痛)、解谿(見風)、丘墟(見掖腫)、治、転筋。髀関、治、筋絡急(銅見膝痛)。浮、治、小腸熱、大腸結、股外脛筋急、髀枢不仁。曲池、治、筋緩、捉物不得、挽弓不開、屈伸難、風臂肘細無力。
承山は、霍乱して転筋し、大便が出にくいものを治す(銅人図経)。金門は、霍乱して転筋するものを治す。曲泉(疝を参照)、懸鐘(膝攣を参照)、陽輔(膝痛を参照)、京骨(足麻を参照)、胃兪は治、筋肉の痙攣を治す(腹脹を参照)。僕参(足痛を参照)、竅陰(無子を参照)、至陰(頭痛を参照)、解谿(風を参照)、丘墟(掖腫を参照)は、コムラガエリを治す。髀関は、筋肉が引きつるものを治す(銅人の膝痛を参照)。浮は、小腸に熱があって大腸が詰まり、大腿外側と脛の筋肉が引きつって股関節の感覚がないものを治す。曲池は、筋が弛緩して物が掴めず、弓を引いても開かず、腕の曲げ伸ばしができず、風邪で上肢や肘が細くなって力がなくなるものを治す。
*筋絡急は変なので、筋脈急の誤りと思う。風臂肘は不明だが、文意からして上肢の肉がなくなるもの。
中、治、寒気,客於分肉間、痛攻上下、筋痺不仁。承筋、治、寒搏、転筋、支腫、大便難、脚重、引小腹痛。委中(見脚弱)、附陽、承山(見腰脚)、療、筋急(明下)。張仲文、灸脚筋急(見腰脚)。岐伯、療、脚転筋、発不可忍者、灸脚踝上一壮。内筋急、灸内。外筋急、灸外。解谿、主、膝重、脚転筋、湿痺(千)。竅陰、主、四支転筋。太淵、主、眼青、転筋、乍寒乍熱、缺盆中,相引痛。
中は、寒気が皮下に宿り、痛みが上下を攻め、筋が痺れて感覚のないものを治す。承筋は、寒が入って筋肉が引きつって腫れぼったく、便秘し、フクラハギが怠くて重く、それが下腹にまで及んで痛むものを治す。委中(脚弱を参照)、陽、承山(腰脚を参照)は、筋肉の引きつりを治療する(明堂下巻)。張仲文は、脛の筋肉の引きつりに施灸した(腰脚を参照)。岐伯は、フクラハギのコムラガエリが起きて、我慢できないものの踝へ一壮ほど施灸して治療する。内側の筋が引きつれば内踝へ施灸し、外側の筋が引きつれば外踝へ施灸する。解谿は、膝が重く、フクラハギが痙攣する湿痺を主治する(千金方)。竅陰は、四肢の筋痙攣を主治する。太淵は、眼が青みがかり、筋肉が引きつって、寒気がしたり熱っぽかったりし、缺盆中が引っ張られて痛むものを主治する。
*分肉には、@皮膚表面から見える筋肉と筋肉の分かれ目。A皮下脂肪と筋肉組織の境目。B筋肉と骨の境目。という3つが場に応じて使い分けられており、@は肉分とも呼ぶ。ここでは痺れるとあるのでAのこと。寒搏の搏には、@格闘する。A捕まえる。B拍動する。の3つ意味がある。この場合はAの意味で、結合すること。
丘墟、主、脚急腫痛、戦掉、不能久立、附筋足攣。委中、委陽、主、筋急、身熱。肝兪、主、筋寒熱、痙、筋急手相引。心兪、肝兪、主、筋急,手相引、転筋,入腹痛、欲死者、使四人、捉手足、灸臍左辺二寸,十四壮(備急);千云、臍上一寸,十四壮。転筋、灸涌泉六七壮(千)。転筋、四厥、灸乳根,黒白際一壮。若手足厥冷、三陰交二七壮。霍乱,已死、有暖気者、承筋七壮、起死人;又,塩内臍中、灸二七壮。
丘墟は、足が引きつって腫れぼったく痛み、震えて長く立てず、足部が痙攣するものを主治する。委中、委陽は、筋肉が引きつけて熱っぽいものを主治する。肝兪は、筋肉の寒熱で痙攣し、筋が引きつって手まで引っ張られるものを主治する。心兪、肝兪は、筋が引きつって手まで引っ張られ、コムラガエリが腹に入って痛み、死にそうなものは、四人で患者の手足を捉え、臍の左辺二寸へ灸を十四壮すえる(肘後備急方);千金方は、臍の上1寸に十四壮という。コムラガエリに湧泉へ灸を6〜7壮(千金方)。筋肉が痙攣して、四肢が冷たくなるものは、乳輪の黒白の境目に灸を1壮すえる。もし手足が冷えるのならば、三陰交へ2×7=14壮すえる。霍乱で死んでいるが、まだ身体が暖かければ、承筋へ七すえると死人が起きる。また臍へ塩を入れて灸を14壮すえる。
腰背不便、転筋,急痺、筋攣、二十一椎随年。転筋、在両臂,及胸中、灸手掌,白肉際七壮。又灸亶中、中府、巨闕、胃管、尺沢、并治、筋拘頭足、皆愈。腹脹、転筋、臍上一寸二七壮。人有身屈、不可行、亦有膝上腫疼、動不得。予為,灸陽陵泉、皆愈。已救百余人矣。神効、無比(有吐瀉、転筋者。予教、灸水分即止)。転筋,十指攣急、不得屈伸、灸脚,外踝骨上七壮(余見千金)。
腰背が不便で、コムラガエリして引きつって痺れ、筋肉が痙攣するものは、腰兪へ歳の数だけ施灸する。両腕と大胸筋にコムラガエリすれば、手掌の魚際へ七壮ほど施灸する。また中、中府、巨闕、中、尺沢へ施灸すれば、筋が拘縮している頭や足が、全て治る。腹が脹ってコムラガエリするものは、臍の上1寸に14壮ほど施灸する。前かがみになって歩けない、また膝の上が腫れて痛くて動けない人に、私が陽陵泉へ施灸すると、誰でも皆が治る。すでに百人以上を救った。比べようもない神効がある(嘔吐して下痢し、筋肉が痙攣するものに、私が水分への灸を教えると、すぐに止まった)。コムラガエリして十指が引きつり、曲げ伸ばしできなければ、足の外踝の上に七壮ほど施灸する(他は千金方を参照)。
鍼灸資生経巻三37
霍乱吐瀉(余見転筋)
凡霍乱、泄出不自知、先取太谿、後取太倉之原(千)。三里、主、霍乱、遺矢、失気。期門、主、霍乱、泄注。尺沢、主、嘔泄上下出、脇下痛。太白、主、腹脹、食不化、喜嘔泄,有膿血。関衝、治、霍乱、胸中気噎、不嗜食、臂肘痛,不挙(銅)。人迎、治、吐逆、霍乱、胸満、喘呼不得息。期門、治、胸中煩熱、賁豚上下、目青而嘔、霍乱、洩利、腹堅硬、大喘不得臥、脇下積気。
霍乱で、便が漏れても判らぬものは、まず太谿を取り、その後で中穴を取る(千金方)。足三里は、霍乱して大便を漏らし、オナラするものを主治する。期門は、霍乱で下痢するものを主治する。尺沢は、嘔吐しながら下痢し、上下から出して脇下が痛むものを主治する。太白は、腹が脹って消化せず、何度も嘔吐や排泄して、その吐瀉物に膿血が混じるものを主治する。関衝は、霍乱で、胸中の気が詰まって食欲がなく、腕や肘が痛くて挙がらないものを治す(銅人図経)。人迎は、嘔吐して霍乱し、胸がつかえて喘ぎ、息ができないものを治す。期門は、胸中が熱っぽく、腹の中を腑気が上下し、眼球結膜が青くなって嘔吐し、霍乱となって大便を漏らし、腹筋が堅くなり、大きく喘いで横になれず、脇の下に気の塊があるものを治す。
*太倉之原を、最初は太倉が胃なので胃経の原穴ある衝陽かと思ったが、後の文を訳してみると衝陽が使われておらず、ほとんど中を取っている。だから太倉は文字通り中のことで、原というのは「膏の原」や「肓の原」の意味と解釈した。気噎は『諸病源候論』巻20に「寒気が胸膈を塞ぐもの」とある。煩熱は『素問・本病論』に、心煩して熱っぽい症状とある。目青は『張氏医通』巻八に、白眼が青くなることとある。
上腕、治、霍乱、吐利、身熱,汗不出。隠白、治、吐洩(見腹脹)。中腕、治、霍乱、出洩不自知。支溝、天枢、治、嘔吐、霍乱(見臍痛)。太白、治、気逆、霍乱、腹痛、又吐洩膿血(見腹脹)。陰、治、心痛、霍乱、胸満。上管、治、霍乱、心痛、不可臥、吐利(明)。巨闕、治、胸脇満、霍乱、吐利不止、困頓不知人(下)。吐逆、霍乱、吐血、灸手心主五十壮(千)。凡霍乱、先心痛、及先吐、灸巨闕七壮;若先腹痛、太倉二七壮;若先下利、灸大腸募(臍旁二寸)、男左女右;若吐下不禁、両手脈疾数、灸蔽骨下三寸、又臍下三寸、各七十壮;若下不止、太都七壮;若泄利、傷煩欲死、慈宮二七壮。
上は、霍乱で吐いたり下したりし、発熱して汗が出ないものを治す。隠白は、嘔吐して下すものを治す(腹脹を参照)。中は、霍乱で大便が漏れても判らないものを治す。支溝、天枢は、嘔吐する霍乱を治す(臍痛を参照)。太白は、嘔吐して霍乱し、腹痛して膿血を吐いたり漏らしたりするものを治す(腹脹を参照)。陰は、心窩部が痛く、霍乱して胸がつかえるものを治す。上は、霍乱で、心窩部が痛く、横に鳴れなくて、吐いたり下したりするものを治す(明堂)。巨闕は、胸脇がつかえる霍乱で、嘔吐と下痢が止まらず、疲れきって失神するものを治す(明堂下巻)。嘔吐して霍乱し、吐血するものは、手厥陰心包経の内関へ灸を五十壮(千金方)。霍乱で、まず心窩部が痛くなって嘔吐するものは、巨闕へ灸を七壮;もし先に腹痛すれば中へ14壮;もし先に下痢するならば天枢(臍の傍ら2寸)へ、男は左、女なら右へ施灸する;もし嘔吐と下痢が止まらず、両手の脈拍が速ければ、剣状突起の下3寸の上と臍下3寸の関元へ灸を70壮ずつすえる;もし下痢が止まらなければ太都へ七壮;もし下痢のため死にそうなほど不快ならば、慈宮へ14壮すえる。
*慈宮は経外奇穴で、臍下6寸で、横に2.5寸。霍乱泄瀉の治療穴と言われる。また衝門や箕門の別名を指すこともある。
霍乱、吐瀉、尤当速治、宜服来復丹、陳霊丹等薬、以多為貴。尤宜、灸上管、中腕、神闕、関元等穴。若水分穴、尤不可緩。葢、水穀不分、而後泄瀉。此穴、一名分水、能分水穀故也。或兼,灸中管穴、須先中管、而後水分可也。
霍乱による吐瀉に、最も即効性があるのは来復丹や陳霊丹などの薬を飲むことだ。多いほどよい。最も良いのは、上、中、神闕、関元などへ施灸することだ。水分穴が最もよくならない。それは水と穀が分けられないために下痢するものである。この穴は、分水とも呼ばれるが、水と穀を分けることができるからである。または中穴の灸と併用するつもりならば、先に中へ施灸して、そのあとで水分へすえるのであれば問題ない。