鍼灸資生経巻一 bW 下肢
●足厥陰肝経、左右二十二穴
大敦二穴、木也。在足大指端、去爪甲、如韮葉、及三毛中。灸三壮。鍼三分、留六呼。千云、足大指、聚毛中。
大敦二穴は木である。足第一趾の端で、爪をニラ葉ほど離れた三毛の中にとる。灸は三壮。鍼は三分刺入して六呼留める。『千金』は、足第一趾で、毛が聚った中という。
行間二穴、火也。在足大指間、動脈応手、陥中。灸三壮。鍼六分、留十呼。
行間二穴は火である。足第一趾の間で、動脈が手に応える陥中。灸は三壮。鍼は六分刺入して十呼留める。
太衝二穴、土也。在足大指、本節後二寸、或寸半陥中。今附、凡診太衝脈、可訣男子、病死生。鍼三分、留十呼。灸三壮。明云、在足大指、本節後二寸、骨罅間、陥中。灸五壮。素注、在足大指間、本節後二寸、動脈応手。刺腰痛注云、在大指、本節後、内間二寸。
太衝二穴は土である。足第一趾で、中足指節関節の後ろ二寸、または一寸半の陥中にある。太衝脈を診て男子の病の死生が判る。鍼は三分刺入して十呼留める。灸は三壮。『明堂』は、足第一趾で、中足指節関節の後ろ二寸にある骨の隙間陥中。灸は五壮という。『素問』の注は、足第一趾の間、中足指節関節の後ろ二寸で、動脈が手に応えるところ。『素問・刺腰痛』の注は、足第一趾で中足指節関節の後ろ、内側の間二寸と言う。
中封二穴、金也。在足内踝、前一寸。仰足取之、陥中。伸足、乃得之。鍼四分、留七呼。灸三壮。
素注、内踝、前寸半。甲乙云、一寸(千、与素同。又云、内踝前一寸、斜行、小脈上。一名懸泉)。
中封二穴は金である。足内踝の前一寸。背屈して陥中を取穴する。足を伸ばしても得られる。鍼は四分刺入して七呼留める。灸は三壮。『素問』の注は、内踝の前一寸半。『甲乙経』は一寸という(『千金』は『素問』と同じ。また内踝の前一寸。斜めに行く小脈上。別名は懸泉ともいう)。
蠡溝二穴。在足内踝上五寸。別走少陽。鍼二分、留三呼。灸三壮。
明下云、七壮(又云、交儀、在内踝上五寸。恐即蠡溝穴。別出蠡溝、故不可暁。蠡溝二穴、亦名交儀)。
蠡溝二穴は、足内踝の上五寸。分かれて少陽へ行く。鍼は二分刺入して三呼留める。灸は三壮。『明堂下巻』は七壮という(また交儀は内踝の上五寸という。これは恐く蠡溝穴であろう。蠡溝から別れるが、そのわけは知らない。蠡溝二穴は交儀ともいう)。
中都二穴、一名中。在内踝上七寸、骨中。与少陰、相直。鍼三分、灸五壮。
中都二穴は中とも呼ぶ。内踝の上七寸で、脛骨中にある。足少陰と平行。鍼は三分、灸は五壮。
膝関二穴。在犢鼻下二寸、陥中。鍼四分、灸五壮(犢鼻、在足陽明)。
膝関二穴は、犢鼻下二寸の陥中にある。鍼は四分、灸は五壮(犢鼻は足陽明にある)。
曲泉二穴、水也。在膝内、輔骨下、大筋上、小筋下、陥中。屈膝、取之。又云、正膝屈、内外両筋間、宛宛中。又在膝曲、横紋頭。鍼六分、灸三壮。
曲泉二穴は水である。膝の内側で、脛骨内側顆の下、半膜様筋の上で、縫工筋の下にある陥中。膝を屈して取穴する。また膝を屈し、内外両筋の間にある凹みともいう。また膝を曲げ、横紋の端ともいう。鍼は六分、灸は三壮。
陰包(明堂作胞)二穴。在膝上四寸、股内廉、両筋間。鍼六分、灸三壮。
明云七壮。
陰包(『明堂』は胞としている)二穴。膝の上四寸、大腿内側で、両筋の間にある。鍼は六分、灸は三壮。『明堂』は七壮という。
五里二穴。在気衝下三寸、陰股中動脈。灸五壮、鍼六分。治、腸中満、熱閉不得溺。気衝、在腹部、第三行(陰廉穴、気衝同)。
五里二穴。気衝の下三寸で、大腿内側の動脈にある。灸は五壮、鍼は六分。腸中の膨れ、熱閉で排尿できないものを治す。気衝は腹部の第三行にある(陰廉穴は気衝と同じ)。
五里有二。其一、在手陽明、肘上三寸。其一、在此当為、足五里也。
五里には二つある。一つは手陽明で、肘上三寸にある。もう一つがこれで、足五里である。
陰廉二穴。在羊矢下、去気衝二寸、動脈中。灸三壮、即有子。鍼八分、留七呼。
陰廉二穴。羊矢穴の下で、気衝を二寸離れた動脈中。灸を三壮すれば子ができる。鍼は八分刺入して七呼留める。
*羊矢穴は『千金方』に記載がある。
●足少陽胆経、左右三十穴
竅陰二穴、金也。在足小指、次指端、去爪甲、如韮葉。灸三壮、鍼一分。
竅陰二穴は金である。足の第四趾の端で、爪をニラ葉ほど離れたところにある。灸は三壮、鍼は一分。
*小指次指は、小指の次にある指の意味。
竅陰有二。其一在此。其一在側頭部。此当為、足竅陰也。
竅陰には二穴ある。一つがこれ。もう一つは側頭部にある。これは足竅陰である。
侠谿二穴、水也。在足小指、次指、岐骨間、本節前陥中。灸三壮、鍼三分。
明云、臨泣、去侠谿寸半。
侠谿二穴は水である。足第四趾で二股に分かれた骨の間、中足指節関節の前陥中にある。灸は三壮、鍼は三分。『明堂』は、臨泣は侠谿から一寸半離れているという。
地五会二穴。在足小指次指、本節後陥中。去侠谿一寸。鍼一分。不可灸。灸使人、羸痩。不出三年卒。
地五会二穴は、足第四趾で、中足指節関節の後ろ陥中にある。侠谿を一寸離れたところ。鍼は一分。灸はしない。灸をすると痩せ、三年以内に死ぬ。
臨泣二穴、木也。在足小指次指、本節後陥中、去侠谿寸半。灸三壮。鍼二分。
臨泣二穴は木である。足第四趾で、中足指節関節の後ろ陥中にある。侠谿を一寸半離れる。灸は三壮。鍼は二分。
偃伏第三行、既有臨泣穴矣。此亦有、臨泣穴。此当葢、足臨泣也。
偃伏第三行に臨泣穴がある。ここにも臨泣穴がある。これは足臨泣である。
邱墟二穴。在外踝下、如前陥中、去臨泣三寸。灸三壮。鍼五分、留七呼。
丘墟二穴は、外踝の下で、前の陥中にある。臨泣を三寸離れる。灸は三壮。鍼は五分刺入して七呼留める。
懸鐘二穴。在足外踝上三寸、動脈中。鍼六分、留七呼。灸五壮。千云、一名絶骨(外踝上三寸。又云四寸)。
懸鐘二穴は、足外踝の上三寸で、動脈中にある。鍼は六分刺入して七呼留める。灸は五壮。『千金』は絶骨と呼ぶ(外踝の上三寸。また四寸ともいう)。
陽輔二穴、火也。在外踝上四寸。輔骨前、絶骨端、如前三分。去邱墟七寸。灸三壮。鍼五分、留七呼。
千云、外踝上、輔骨前(余同)。
陽輔二穴は火である。外踝の上四寸。腓骨の前で、絶骨の端から前三分にある。丘墟から七寸離れている。灸は三壮。鍼は五分刺入して七呼留める。『千金』は、外踝の上で、腓骨の前という(ほかは同じ)。
光明二穴、在外踝上五寸。鍼六分、留七呼。灸五壮。
明下云、七壮。治疼、不能久立、与陽輔、療病同。
光明二穴は、外踝の上五寸にある。鍼は六分刺入して七呼留める。灸は五壮。『明堂下巻』は七壮という。脛が痛くて長く立っていられない者を治す。陽輔と治療する病は同じ。
外邱二穴、在外踝上七寸。鍼三分、灸三壮。
外丘二穴は、外踝の上七寸にある。鍼は三分、灸は三壮。
陽交二穴、一名別陽。在外踝上七寸、斜属三陽、分肉之間。灸三壮。鍼六分、留七呼。
千云、一名足。在外踝上七寸(一云、三寸)。
陽交二穴は別陽ともいう。外踝の上七寸にあり、分肉の間を斜めに走って三陽に属す。灸は三壮。鍼は六分刺入して七呼留める。
『千金』は、足とも呼んでいる。外踝の上七寸にある(一説には三寸という)。
陽陵泉二穴、土也。在膝下一寸、外廉陥中。鍼六分、得気即瀉。又宜、久留鍼。灸七壮、至七七壮、即止。
明下云、一壮。 素注、三壮(千云、膝下外、尖骨前。難疏、髀骨中、微側少許。筋会、陽陵泉。筋病治此)。
陽陵泉二穴は土である。膝の下一寸で、外側陥中にある。鍼は六分刺入して、得気があれば瀉す。また置鍼してもよい。灸は七壮から七×七壮で止める。『明堂下巻』は一壮という。『素問』の注は三壮という(『千金』は、膝下の外側で、尖った骨の前という。『難経疏』は、腓骨中で、少しばかり外側。筋会の陽陵泉。筋病は、ここで治すとしている)。
*原文は髀骨だが、どう見てもこれは腓骨のこと。輔骨の間違い。
陽関二穴、在陽陵泉上三寸。犢鼻外陥中。鍼五分。不可灸。
千云、関陽(一云関陵)。
陽関二穴は、陽陵泉の上三寸にある。犢鼻の外側陥中。鍼は五分。灸はいけない。『千金』は関陽という(一説には関陵という)。
中二穴、在髀骨外、膝上五寸、分肉間陥中。灸五壮。鍼五分、留七呼。
中二穴は、大腿骨の外側で、膝の上五寸。肉の分かれめ陥中。灸は五壮。鍼は五分刺入して七呼留める。
環跳二穴、在髀枢中。側臥、伸下足、屈上足、取之。灸五十壮。鍼一寸、留十呼。忌同。
明下云、在硯子骨、宛宛中。灸三壮。 甲乙云、五壮。
環跳二穴は、大転子中にある。側臥位で、下の足を伸ばし、上の足を屈して取穴する。灸は五十壮。鍼は一寸刺入して十呼留める。避ける食物は同じ。『明堂下巻』は、大転子の凹み中という。灸は三壮。『甲乙経』は五壮という。
*硯子骨は不明だが、他から推測すると大転子しかない。
風市二穴。在膝外、両筋間。立、舒下両手、著腿、当中指頭、陥中。療冷痺、脚脛麻、腿膝酸痛、腰重、起坐難(明下)。
風市二穴は、膝外側で両筋の間にある。立って両手を下へ伸ばすと、中指の頭が大腿に当たる陥中。冷痺、脚や脛の痺れ、大腿や膝が怠痛い、腰が重くて腰掛けたら立ち上がりにくいものを治療する(『明堂下巻』)。
予、冬月、当風市処、多冷痺急。熱手温之、畧止。日或両三痺、偶繆刺、以温鍼、遂愈。信乎能治、冷痺也(亦屡灸此)。不特、治冷痺、亦治風之要穴(見明堂)。銅人、乃不載。豈名或不同。将其本、不全耶。
私は、冬になると、風市のところが冷えて痺れて引きつる。手を擦って、そこを温めると、少し痛みが止まる。一日あるいは二三日ほど痺れ、たまたま繆刺し、灸頭鍼で温めて遂に癒えた。冷痺は治すことができると信ずる(また、何度もそこへ施灸した)。冷痺だけでなく風を治す要穴でもある(『明堂』を参照)。『銅人』には記載がない。名前が違うこともあるまい。その本は不完全だろうか?
●足太陰脾経、左右二十二穴
隠白二穴、木也。在足大指端、内側、去爪甲角、如韮葉、宛宛中。鍼三分。今附、婦人、月事過時、不止。刺立愈。
明云、鍼一分、留三呼。灸三壮。
隠白二穴は木である。第一趾の端、内側で、爪の角をニラ葉ほど離れた陥凹中にある。鍼は三分。ここに婦人の月事が時が来ても止まらなければ、刺鍼すると、すぐに癒えることを付け加えておく。『明堂』は、鍼は一分刺入して三呼留める。灸は三壮という。
大都二穴、火也。在足大指、本節後陥中。灸三壮、鍼三分。
千注本、本節内側、白肉際。
大都二穴は火である。第一趾の中足指節関節後ろの陥中にある。灸は三壮、鍼は三分。『千金』の注では、中足指節関節内側で、足底との境である。
太白二穴、土也。在足内側、核骨下陥中。灸三壮、鍼三分。
千云、足大指内側。
太白二穴は土である。足の内側で、中足指節関節の下陥中にある。灸は三壮、鍼は三分。千金は、第一趾の内側という。
公孫二穴。在足大指、本節後一寸。灸三壮、鍼四分。
公孫二穴は、第一趾で中足指節関節の後ろ一寸にある。灸は三壮、鍼は四分。
商邱二穴、金也。内踝下、微前陥中。灸三壮、鍼三分。
商丘二穴は金である。内踝下で、少し前の陥中にある。灸は三壮、鍼は三分。
三陰交二穴。在内踝上三寸、骨下陥中(明云、内踝上八寸陥中)。灸三壮、鍼三分。
三陰交二穴は、内踝上三寸で、骨の下陥中にある(『明堂』は、内踝の上八寸の陥中という)。灸は三壮、鍼は三分。
昔、宋太子、善医術。出苑、逢一妊婦。太子、診曰、女。令徐文伯、診曰、一男一女。鍼之、瀉三陰交、補合谷。応鍼、而落果。如文伯言。故、妊婦、不可刺。
千云、内踝上八寸、骨下(又云、内踝上三寸)。
昔、宋の太子は医術が好きだった。公園に出ると一人の妊婦にあった。太子が脈を診て女だと言った。徐文伯に脈を診させると一男一女だという。確かめるため鍼をする。三陰交を瀉して、合谷に補法する。鍼に応えて流産した。それは文伯の言ったとおり、一男一女の双子だった。だから妊婦に刺鍼してはならない。『千金』は、内踝の上八寸で、骨の下という(また内踝の上三寸という)。
漏谷二穴、亦名太陰絡。在内踝上六寸、骨下陥中。鍼三分。
明下云、灸三壮。
漏谷二穴は、太陰絡とも呼ぶ。在内踝の上六寸で、骨の下陥中にある。鍼は三分。『明堂下巻』は灸三壮という。
地機二穴、亦名脾舎、足太陰。別走上一寸空。在膝下五寸。灸三壮、鍼三分。
明云、膝内側、輔骨下陥中。伸足取之。
地機二穴は脾舎とも呼び、足太陰の穴である。別れて上一寸の空隙に行く。膝下五寸にある。灸は三壮、鍼は三分。『明堂』は、膝の内側で、脛骨の下陥中にある。足を伸ばして取穴するという。
*原文の輔骨は、転骨に見えるが、おかしいので輔骨にした。
陰陵泉二穴、水也。在膝下内側、輔骨下陥中。伸足取之。鍼五分。当屈膝、取之。
陰陵泉二穴は水である。膝下の内側で、脛骨下の陥中にある。足を伸ばして取穴する。鍼は五分。膝を屈して取穴する。
血海二穴。在膝上、内廉、白肉際二寸中。灸三壮、鍼五分。
千云、白肉際二寸半。注云、一作三寸。
血海二穴は、膝蓋骨の上で内側。内股の際で二寸を取る。灸は三壮、鍼は五分。『千金』は、内股の際で二寸半という。その注は、三寸ともしているという。
箕門二穴。在魚腹上、越筋間。動脈応手。在陰股内。
一云、上起筋間。灸三壮。
箕門二穴は、内側大腿直筋の上で、筋を越えた間。動脈が手に応えるところで、大腿内側にある。一説には、筋の起こる上の間という。灸は三壮。
●足陽明胃経、左右三十二穴
兌二穴、金也。在足大指次指端、去爪甲、如韮葉。鍼一分、灸一壮。
兌二穴は、金である。第二趾の端で、爪をニラ葉ほど離れたところ。鍼は一分、灸は一壮。
内庭二穴、水也。在足大指次指、外間陥中。灸三壮、鍼三分。
内庭二穴は水である。第二趾の外側間の陥中。灸は三壮、鍼は三分。
陥谷二穴、木也。在足大指次指、外間、本節後陥中。去内庭二寸。鍼三分、留七呼。灸三壮。
陥谷二穴は木である。第二趾の外側間で中足指節関節の後ろ陥中にある。内庭から二寸離れている。鍼は三分刺入して七呼留める。灸は三壮。
衝陽二穴。在足上、去陥谷三寸。鍼五分、灸三壮。 素注、上五寸、骨間動脈。刺三分。千云、上五寸、骨間。去陥谷三寸(一云、二寸)。
衝陽二穴は、足背の上で、陥谷から三寸離れている。鍼は五分、灸は三壮。『素問』の注は、足背の上五寸で、骨間の動脈という。三分刺入する。『千金』は、足背の上五寸で骨間。陥谷から三寸離れるという(一説には、二寸という)。
解谿二穴、火也。在衝陽後寸半、腕上陥中(明下云、在繋鞋処)。鍼五分、灸三壮。
解谿二穴は火である。衝陽の後ろ一寸半で、足首上の陥中にある(『明堂下巻』は、靴を繋ぐところという)。鍼は五分、灸は三壮。
素注、在衝陽後二寸半。新校正云、刺瘧注作、三寸半、二注不同。当従甲乙経、作寸半。
『素問』の注では、衝陽の後ろ二寸半にある。『新校正』は、刺瘧の注に三寸半としている。二つの注は異なる。『甲乙経』に従って一寸半とする。
豊隆二穴。在外踝上八寸。下廉外廉陥中。鍼三分、灸三壮。 明下云、七壮。
豊隆二穴は、外踝の上八寸にある。脛骨下縁の外縁陥中。鍼は三分、灸は三壮。『明堂下巻』は七壮という。
下廉二穴、一名下巨虚。在上廉下三寸。当挙足取穴。鍼八分、灸三壮。
下廉二穴は、下巨虚とも呼ぶ。上巨虚の下三寸にある。足を挙げて取穴する。鍼は八分、灸は三壮。
明云、上廉下三寸、両筋、両骨罅陥、宛宛中。蹲地、坐取之。鍼六分、得気即瀉。
甲乙云、鍼三分、灸三壮。主、小腸気不足、面無顔色、偏風、熱風、冷痺、不遂、風湿痺。灸亦良、日七七壮。
素注、足陽明、与小腸、合在上廉下三寸。鍼三分。
『明堂』は、上巨虚の下三寸で、両筋と両骨の隙間、凹みの中。地面にしゃがみ、坐って取穴するという。鍼は六分刺入して得気があれば瀉法する。『甲乙経』は鍼三分、灸は三壮という。小腸の気不足、顔色が悪い、半身不随、高熱による痙攣、冷えるような痛み、足が思うように動かない、風湿痺を主治する。灸も良く、一日七×七壮すえる。『素問』の注に、足陽明で、小腸と上巨虚の下三寸で合流する。鍼三分とある。
手陽明、亦有下廉。此乃、足下廉也。
手陽明にも下廉がある。これは足の下廉である。
條口二穴。在廉上一寸。挙足取之。鍼五分。
明云、在上廉下一寸。鍼八分、灸三壮。
条口二穴は下巨虚の上一寸にあり、足を挙げて取穴する。鍼は五分。『明堂』は、上廉の下一寸にあるという。鍼は八分、灸は三壮。
上廉二穴、一名上巨虚。在三里、下三寸。当挙足取之。灸三壮、鍼三分。
上廉二穴は、上巨虚とも呼ぶ。足三里の下三寸にあり、足を足げて取穴する。灸は三壮、鍼は三分。
甄権云、治蔵気不足、偏風、腰腿手足不仁。灸随年為壮。
明云、巨虚上廉、在三里下三寸、両筋、両骨罅陥、宛宛中。鍼八分、得気即瀉。灸大良。日七壮。
下云三壮。 素注、在三里下三寸。又云、在膝犢鼻下、外廉六寸。
甄権は、臓気不足、半身不随、腰腿手足の感覚がないものを治す。歳の数だけ施灸するという。『明堂』は、巨虚上廉は、足三里の下三寸で、両筋と両骨の隙間、陥凹中にある。鍼は八分刺入して、得気があれば瀉法する。灸は良い。一日七壮という。『明堂下巻』は三壮という。『素問』の注には、足三里の下三寸とある。また膝犢鼻下で、脛骨外縁六寸ともいう。
手陽明、亦有上廉。此乃足上廉也。
手陽明にも上廉がある。これは足の上廉である。
三里二穴、土也。在膝下三寸、外廉、両筋間(一云、骨外、大筋内)。当挙足取之。秦承祖云、諸病皆治。食気、水気、蠱毒、癖、四肢腫満、膝痛、目不明。華佗云、療五労、羸痩、七傷、虚乏、胸中血、乳癰。外台、明堂云、人年三十以上、若不灸三里、令気上衝目。所以三里、下気也(下同)。灸三壮、鍼五分。
明云、鍼腹背、毎須取三里穴。鍼八分、留十呼、瀉七吸。日灸七壮、止百壮。
素注、刺一寸。在膝下三寸、骨外廉、両筋肉分間(指云、深、則足趺陽脈、不見。集云、按之、太衝脈不動)。
三里二穴は土である。膝下三寸で、脛骨の外縁、両筋の間にある(一説には、脛骨の外で、大筋内という)。足を挙げて取穴する。秦承祖は、諸病すべて治す。食気、水気、蠱毒、腹の膨れ、四肢の腫満、膝や脛の怠い痛み、目がよく見えないという。華佗は、五労、羸痩、七傷、虚乏、胸中の血、乳腺炎を治療するという。『外台』と『明堂』は、人は三十歳以上になって、足三里に施灸しなければ、気が上がって目を衝く。だから足三里は、気を下げるという(『明堂下巻』も同じ)。灸は三壮、鍼は五分。『明堂』は、腹背に鍼し、常に足三里穴を取る。鍼は八分刺入して十呼留め、七吸瀉す。一日に灸は七壮から百壮という。『素問』の注は、一寸刺入する。膝下三寸で脛骨外縁、両筋の肉の分かれた間とある(深くて足趺陽脈は見えないことを指して言っている。『集』は、按じても太衝脈は動かないという)。
手有三里。此亦曰、三里。葢足三里也。銅人云、在膝下三寸。明堂、素問注、皆同。人多不能求其穴。毎以、大拇指、次指、圏其膝蓋、以中指住処、為穴。或以、最小指住処、為穴。皆不得、真穴所在也。予按明堂。有膝眼四穴、葢在膝頭骨下、両旁陥中也。又按銅人等経、有犢鼻穴、葢在膝下骭、侠罅、大筋中也。又按銅人、有膝関二穴、葢在犢鼻下二寸陥中也。而新校正、素問注、巨虚上廉云、三里在犢鼻下三寸。則是、犢鼻之下三寸、方是三里。不可便、従膝頭下、去三寸、為三里穴也。若如今人之取穴、恐失之太高矣(千
云、灸至五百壮、少一二百壮)。
手にも三里があるが、これも三里という。これは足三里である。『銅人』は、膝下三寸という。『明堂』と『素問』の注も同じ。ほとんどの人が、この穴を得られない。常に、親指と人差指で、その膝蓋骨を囲み、中指の当たるところを穴としている。または小指の当たるところを穴としている。いずれも、本当の穴の所在を得られない。私は『明堂』に基づいている。それには膝眼四穴があり、それは膝蓋骨の下で、両旁の陥中にある。また『銅人』などの経典に基づけば、犢鼻穴が膝蓋骨の下で、脛骨の間隙を挟んだ大筋中にあるという。また『銅人』には膝関二穴があって、それは犢鼻の下二寸の陥中にある。そして『新校正・素問』の注、巨虚上廉は、足三里は犢鼻の下三寸にあるという。すなわち犢鼻の下三寸こそが足三里である。つまり膝蓋骨の下三寸が足三里穴ではない。今の人の取穴では、高すぎる恐れがある(『千金』は、灸は五百壮、少なくとも一二百壮という)。
犢鼻二穴、在膝下骭、侠解(明堂、作罅)、大筋中。治膝中痛、不仁。難跪起。膝腫潰者、不可治。不潰者、可療。若犢鼻堅硬、勿便攻。先以洗熨、即微刺之愈。
明云、鍼三分、灸三壮。 按素問・刺禁云、刺膝、出液、為跛。犢鼻、在膝下骭。用鍼者、不可軽也。
犢鼻二穴は、膝蓋骨下の脛骨で、関節を挟んだ(『明堂』は隙間としている)大筋中にある。膝中の痛みや知覚麻痺、ひざまづいたら起き上がるのが難しいものを治す。膝蓋骨が腫れて潰れた人は治らない。潰れていなければ治療できる。もし犢鼻が堅くなっていれば、すぐに攻めることなかれ。まず洗って温め、少し刺せば癒える。『明堂』は、鍼は三分、灸は三壮という。『素問・刺禁論』には、膝蓋を刺して液が出ると、びっこになるとある。犢鼻は、膝蓋骨下の脛骨にある。鍼するものは、軽々しくすることなかれ。
*これは当時の鍼の消毒が不十分で、感染することと思われる。
梁邱二穴、在膝上二寸(明云三寸)、両筋間。灸三壮、鍼三分。
明云五分。
梁丘二穴は、膝上二寸で(『明堂』は三寸という)、両筋の間にある。灸は三壮、鍼は三分。『明堂』は五分という。
明堂、作三寸。銅人、千金、皆作二寸。千金注、謂或云三寸。姑両存之。
『明堂』は三寸としている。『銅人』と『千金』は、いずれも二寸としている。『千金』の注は三寸ともいう。しばし併存させる。
陰市二穴、一名陰鼎。在膝上三寸、伏兎下陥中。拝而取之。鍼三分、不可灸。
明下云、灸三壮。千注二十巻云、在膝上、当伏兎、下行二寸、臨膝、取之(又云、膝内輔骨後、大筋下、小筋上、屈膝得之)。
陰市二穴は陰鼎とも呼ぶ。膝上三寸で、伏兎下の陥中にある。おじぎして取穴する。鍼は三分、灸はいけない。『明堂下巻』は灸三壮という。『千金』の注二十巻は、膝上で、伏兎から二寸ほど下行したところ、膝に接近して取穴するという(また膝内側脛骨の後ろ、大筋の下で、小筋の上。膝を屈して取穴するともいう)。
銅人云、不可灸。明堂乃云、灸三壮。豈以禁穴、許灸一壮、至三壮耶。
『銅人』は、灸が悪いという。『明堂』は灸三壮という。禁穴といえども灸の一壮から三壮は、許されるのではあるまいか?
伏兎二穴、在膝上六寸起肉。正跪取之。 一云、膝蓋上七寸。鍼五分、不可灸。
明云、婦人八部、諸病通。鍼三分。
伏兎二穴は、膝上六寸で肉の起こるところ。正坐して取穴する。一説には、膝蓋骨の上七寸という。鍼は五分、灸はできない。『明堂』は、婦人八部の諸病に通じる。鍼は三分という。
髀関二穴、在膝上、伏兎後、交分中。鍼六分。
明云、灸三壮。
髀関二穴は、膝上で伏兎の後ろで交わる分れめの中にある。鍼は六分。『明堂』は、灸三壮という。
膝眼四穴、在膝頭、骨下、両旁陥中。主膝冷疼不已。鍼五分、留三呼、瀉五吸。禁灸(有人、膝腫甚。人為灸此穴。遂至不救。葢犯、其所禁也)。
膝眼四穴は、膝頭の骨の下。両側陥中にある。膝の冷痛が治らないものを主治する。鍼は五分刺入して三呼留め、五吸瀉す。禁灸穴(ある人は、膝がひどく腫れていた。人が、この穴に施灸したが、結局効果がなかった。これは、その禁を犯している)。
銅人、無此四穴。明堂有之。故附入于此。
銅人には、この四穴がない。『明堂』にはある。だから、ここに加えた。
●足少陰腎経、左右二十穴
涌泉二穴、木也。一名地衝。在足心陥中、屈足、捲指、宛宛中。灸三壮、鍼五分。無令出血。淳于意云、漢北、霽王、阿母、患足下熱、喘満。謂曰、熱厥也。当刺足心、立愈。
湧泉二穴は木である。別名を地衝という。足心の陥中で、足底を屈して指を巻くとできる凹み。灸は三壮、鍼は五分。出血はさせない。淳于意がいうには、漢北の霽王である阿母は、足底が熱っぽくて喘いでいた。これは熱厥である。足心を刺して、すぐに癒えた。
明云、灸不及鍼。若灸、廃人行動。下云、在脚心底、宛中、白肉際、灸三壮。素注、刺三分。千注・肝蔵巻云、在脚心、大指下、大筋(史記、霽北王、阿母。足熱、而懣。淳于意曰、熱厥也。刺足心、各三所。案之、無出血、病已。病得之、飲酒大酔)。
『明堂』は、灸は鍼に及ばないという。もし施灸すれば、人が行動できなくなる。『明堂下巻』は、足心底の陥中で、足底の厚い肉と土踏まずの境目、灸三壮という。『素問』の注に、三分刺すとある。『千金』の注・肝蔵巻は、足心で、第一趾の下にある大筋という(『史記』に、霽北
王の阿母は、足が熱くて悶える。淳于意は、熱厥という。足心を三ケ所ずつ刺す。按じても出血しない。病は治っていた。発病したのは、飲酒して、ひどく酔っぱらったからであると記載されている。
然谷二穴、火也。一名龍淵。在内踝前、起大骨下陥中。灸三壮、鍼三分。不宜、見血。素注、刺三分。刺此、多見血、令人立飢、飲食。千注・婦人方云、在内踝前、直下一寸。
然谷二穴は火である。別名は龍淵。内踝の前で、大骨の起こる下陥中。灸は三壮、鍼は三分。出血させるのはよくない。『素問』の注は、三分刺入という。これを刺して血を出せば、すぐに人は空腹となって飲食する。『千金』の注・婦人方は、内踝前の直下一寸という。
太谿二穴、土也。在内踝後、跟骨上、動脈陥中。灸三壮、鍼三分。
太谿二穴は土である。内踝後ろで踵骨の上、動脈の陥中にある。灸は三壮、鍼は三分。
大鐘二穴。在足跟後、衝中。灸三壮。鍼二分、留七呼。
大鐘二穴は、足跟の後ろで、動脈中。灸は三壮。鍼は二分刺入して七呼留める。
水泉二穴。去太谿下一寸。在内踝下。灸五壮、鍼四分。
水泉二穴は、太谿の下一寸。内踝の下にある。灸は五壮、鍼は四分。
照海二穴。陰脈、所生。在内踝下。鍼三分、灸七壮(千云、在内踝下四分)。
照海二穴は陰脈の生まれるところ。内踝下にある。鍼は三分、灸は七壮(『千金』は、内踝の下四分にあるという)。
明上云、陰二穴、在内踝下、陥宛中。鍼三分、灸三壮。下云、陰二穴、在内踝下、陥中。灸三壮。 千云、内踝下、容爪甲。
『明堂上巻』は、陰二穴は内踝下の陥凹中にあるという。鍼は三分、灸は三壮。『明堂下巻』は、陰二穴は、内踝下の陥中という。灸は三壮。『千金』は、内踝下で爪が入る凹みという。
明堂上下経、有陰穴。而銅人無之。惟有、照海穴、亦在内踝下。与陰同、而未知其故。予按、素問・気穴論、陰陽穴、在内踝下。是謂照海、陰所生。則与銅人、照海穴、合矣。則是陰、即照海也。故附陰、于照海之末。
『明堂上下巻』には陰穴があるが、『銅人』にはない。照海穴だけがあり、やはり内踝下にある。これは陰穴と同じだが、その理由は判らない。私が『素問・気穴論』を見ると、陰穴は内踝下にある。これは照海で、陰の生まれるところである。つまり『銅人』の照海穴と同じである。これは陰すなわち照海である。そこで陰を照海の末に付け加える。
*『素問・気穴論』に「陰陽穴、在内踝下」という文は見あたらない。それで陽穴を省いて訳した。
復溜二穴、金也。一名昌陽、一名伏白。在内踝上二寸、動脈陥中。鍼三分、留三呼。灸五壮。明云、七壮。
復溜二穴は金である。別名を昌陽とか伏白と呼ぶ。内踝の上二寸で、動脈陥中にある。鍼は三分刺入して三呼留める。灸は五壮。『明堂』は七壮という。
交信二穴、在内踝上二寸。少陰前、太陰後廉前。筋骨間。灸三壮、鍼四分、留五呼。
明下云、内踝上二寸後廉。筋骨陥中。素・気穴論、踝上、横二穴。注云、内踝上者、交信穴也。
交信二穴は、内踝の上二寸。足少陰の前で、足太陰の後縁の前。筋骨間の腓腹筋にある。灸は三壮、鍼は四分刺入して五呼留める。
『明堂下巻』は、内踝の上二寸後縁。筋骨の陥中という。『素問・気穴論』は、内踝の上に、横二穴。注は、内踝上とは交信穴であると書いている。
按素問・気府論、陰穴。注云、謂交信也。在内踝上二寸。少陰前、太陰後、筋骨間、陰之。竊意、陰、即交信也。至気穴論、陰陽穴注、乃云、陰穴、在内踝下、是謂、照海。陰所生、則是陰。乃照海、非交信矣。故明堂下経、既有交信穴、在内踝上。又出陰穴、在内踝下。上下不同。葢二穴也。但不知、素問之注、何故前後、自異。学者、毋信、其一注、而不考、其又有一注也。
『素問・気府論』の陰穴の注は、交信である。内踝の上二寸。足少陰の前で、足太陰の後ろ、筋骨の間、陰のという。私の見解では、陰とは交信である。『素問・気穴論』の陰陽穴の注は、陰穴は内踝の下。これは照海で、陰の生まれるところ、つまり陰は照海であって交信ではない。だから『明堂下巻』では交信穴が内踝上にあるのに、さらに陰穴が内踝下に出る。上下が違うので、これは二穴である。しかし『素問』の注が、なぜ前後で異なるのか判らない。学ぶ人は、一つの注だけ信じ、もう一つ注があることを忘れないように。
築賓二穴。在内踝上、分中。灸五壮、鍼三分。 明云、在内踝上、灸三壮。
築賓二穴は、内踝の上で、腓腹筋の分かれめの中。灸は五壮、鍼は三分。『明堂』は、内踝の上で、灸三壮という。
陰谷二穴、水也。在膝内、輔骨後、大筋下、小筋上。按之、応手。屈膝乃取之。灸三壮。鍼四分、留七呼。
陰谷二穴は水である。膝内側の脛骨後ろで、大筋の下、小筋の上にある。圧すると手に応える。膝を屈して取穴する。灸は三壮。鍼は四分刺入して七呼留める。
●足太陽膀胱経、左右三十六穴
至陰二穴、金也。在足小指外側、去爪甲角、如韮葉。鍼二分。灸三壮。
至陰二穴は金である。足第五趾外側で、爪の角をニラ葉離れたところ。鍼は二分。灸は三壮。
通谷二穴、水也。在足小指外側、本節前陥中。灸三壮、鍼二分。
通谷二穴は水である。足第五趾外側で、中足指節関節の前陥中にある。灸は三壮、鍼は二分。
束骨二穴、木也。在足小指外側、本節後陥中。灸三壮、鍼三分。
束骨二穴は木である。足第五趾外側で、中足指節関節の後ろ陥中にある。灸は三壮、鍼は三分。
京骨二穴。在足外側、大骨下、赤白肉際陥中。按而得之。鍼三分、灸七壮。
明云、五壮。 素注、三壮。
京骨二穴は、足の外側で、中足骨の下。足底と足背の境目陥中。押すと得られる。鍼は三分、灸は七壮。『明堂』は五壮。『素問』の注には三壮とある。
申脈二穴、陽脈、所出。在外踝下陥中、容爪甲、白肉際。鍼三分。
千云、申脈、在外踝下陥中。 明上云、陽二穴。在外踝前一寸陥宛中。鍼三分。 素・気穴注、陽穴、是謂申脈、陽所出。在外踝下、陥中。 新校正云、按刺腰痛篇注、在外踝下五分。繆刺論注、外踝下半寸。容爪甲。
申脈二穴は、陽脈の出るところ。外踝下の爪が入るほどの陥中で、足底の皮膚が終わるところ。鍼は三分。『千金』に、申脈は外踝下の陥中という。『明堂上巻』は、陽二穴は、外踝の前一寸にある凹み。鍼は三分という。『素問・気穴注』に、陽穴は申脈で、陽が出るところ。外踝の下陥中とある。新校正の『素問・刺腰痛篇』の注には、外踝の下五分とある。『繆刺論』の注は、外踝の下半寸。爪が入るところという。
明堂上経、有陽穴。而銅人無此穴。惟有申脈二穴。陽脈所出、在外踝下陥中。与陽穴同、而未知其故。予、按素問・気穴論、陰陽穴注云、陽穴、是謂申脈、陽所出。在外踝下陥中。則与銅人申脈穴合、是則陽、即申脈也。故附明堂陽、于申脈之後。
『明堂上経』には陽穴があるが、『銅人経』にはない。申脈二穴だけがある。陽脈の出るところで、外踝下の陥中にある。陽穴と同じだが、その理由は知らない。私が『素問・気穴論』を調べると、陰陽穴に、陽穴は申脈であり、陽の出るところ。外踝下の陥中にあると注がある。これが『銅人経』の申脈穴と同じで、陽とは申脈である。それで『明堂』の陽を、申脈の後ろに付け加える。
金門二穴、一名関梁。在外踝下。灸三壮。如小麦。鍼一分。
金門二穴は、関梁とも呼ぶ。外踝下にある。灸は三壮。艾は小麦大。鍼は一分。
僕參二穴、一名安耶。在跟骨下、陥中。拱足、得之。鍼二分、灸七壮。明云、三壮。
僕参二穴は、安耶とも呼ぶ。踵骨下の陥中にある。両足の裏を合わせると得られる。鍼は二分、灸は七壮。『明堂』は三壮という。
崑崙二穴、火也。在外踝後、跟骨上陥中(素注、細脈動、応手)。灸三壮、鍼三分。
明云、上崑崙。鍼五分。下崑崙、外踝下一寸、大筋下。
崑崙二穴は、火である。外踝の後ろで踵骨の上陥中(『素問』に、細脈が動いて手に応えると注がある)。灸は三壮、鍼は三分。
『明堂』は、上崑崙。鍼は五分。下崑崙、外踝の下一寸で、アキレス腱の下という。
明堂、有上崑崙、又有下崑崙。銅人、只云崑崙、而不載、下崑崙。豈銅人、不全耶。抑名不同。未可知也。但上経云、内崑崙、在外踝下一寸。下経云、内崑崙、在内踝後五分。未知其孰是。予、謂既云、内崑崙、則当在内踝後矣。下経之穴為通、上崑崙、在外踝故也。
『明堂』には上崑崙があり、下崑崙もある。『銅人経』には崑崙だけがあって下崑崙はない。『銅人経』が不完全なのだろうか?それとも名前が違うのだろうか?分からない。ただし『明堂上巻』は内崑崙を外踝の下一寸という。『明堂下巻』は内崑崙を内踝の後ろ五分という。どれが正しいのか判らない。内崑崙は内踝の後ろと言っているのだから、下巻の穴と通じており、上崑崙は外踝にあるとの意味だと私は思う。
付陽二穴。在外踝上三寸(足太陽穴同、千金亦同)。陽。太陽前、少陽後、筋骨間。陽之。灸三壮。鍼五分、留七呼。 明下云、付陽、在外踝上二寸(恐二字、当作三字)後、筋骨間、宛宛中。灸五壮。
素・気府論、陰陽、各一。注云、陽、謂付陽穴也。在外踝上三寸。太陽前、少陽後。筋骨間。陽之。
陽二穴は、外踝の上三寸にある(足太陽穴と同じ、『千金』も同じ)。陽脈の穴。足太陽の前で、足少陽の後ろ、筋骨の間にある。陽の。灸は三壮。鍼は五分刺入して七呼留める。『明堂下巻』は陽を、外踝の上二寸の(二字は三字とすべきだろう)後ろ、筋骨の間の陥凹にある。灸は五壮という。『素問・気府論』は、陰陽脈各一の注に、陽とは陽穴である。外踝の上三寸、足太陽の前で、足少陽後ろの筋骨間にある。陽脈の穴とある。
按素問・気府論、陽穴注云、謂付陽穴也。在外踝上三寸。竊意、陽、即付陽也。及考気穴論、陰陽四穴注云、陽穴、是謂申脈。陽所出、則是、陽乃申脈。非付陽矣。故明堂下経、既有付陽、在外踝上二寸。上経又有、陽、在外踝前一寸。一寸、二寸、既異。是付陽、陽、各是一穴也。但不知、素問之注、何故前後、相背耶。
『素問・気府論』、陽穴の注には陽穴とある。外踝の上三寸にある。私の考えでは、陽とは陽穴である。『素問・気穴論』の陰陽四穴の注には、陽穴は申脈で、陽脈の出るところとある。つまり陽は申脈であり、陽ではない。だから『明堂下巻』に陽は外踝の上二寸とあり、『明堂上経』では陽が外踝の前一寸とある。一寸と二寸では異なっている。だから陽と陽は、それぞれ一穴である。しかし『素問』の注が、なぜ前後で相い反しているのか判らない。
飛揚二穴、一名厥陽。在外踝上九寸(明堂、千金、並云七寸)。鍼三分、灸三壮。
明云、五壮。
飛陽二穴は厥陽とも呼ぶ。外踝の上九寸にある(『明堂』や『千金』では、いずれも七寸という)。鍼は三分、灸は三壮。『明堂』は五壮という。
承山二穴、一名魚腹、一名肉柱、一名傷山。在兌腸下、分肉間陥中。灸一壮、鍼七分。 明云、八分、得気即瀉、速出鍼。灸不及鍼。止七七壮。下云、五壮(一云、在腿肚下、分肉間)。
承山二穴は、魚腹や肉柱、傷山とも呼ばれる。腓腹筋の盛り上がった下で、肉の分かれた間の陥中にある。灸は一壮、鍼は七分。『明堂』は、八分刺入して、得気があれば瀉法して、すばやく抜鍼するという。灸は鍼に及ばないが七×七壮で止める。『明堂下巻』は五壮という(一説にはフクラハギの下で、肉の分かれた間という)。
承筋二穴、一名腸、一名直腸。在腸、中央陥中。灸三壮、禁鍼。 明云、在脛後、従脚根後、到上七寸、中央陥中。鍼三分。 千云、従脚根上七寸、中央、不刺。
承筋二穴は、腸とか直腸とも呼ぶ。腓腹筋の中央陥中にある。灸は三壮、禁鍼穴。『明堂』は、脛の後ろにある。カカトの後ろから上へ七寸で、フクラハギの中央陥中。鍼は三分。『千金方』は、カカトから上に七寸。フクラハギ中央。禁鍼穴という。
*昔の鍼は、蹄鉄を使って自分で研いで鍼にしたため太かった。太い鍼では神経を切ったのだろう。
銅人、千金、皆云、禁鍼。明堂乃云、鍼三分。亦可疑矣。不鍼可也。
『銅人』と『千金』は、いずれも禁鍼穴という。『明堂』は鍼三分という。また疑わしい。鍼しないほうがよい。
合陽二穴。在膝約中央、下二寸(千作、三寸)。鍼六分、灸五壮。
合陽二穴は、膝ほぼ中央の下二寸にある(『千金』は三寸としている)。鍼は六分、灸五壮。
委中二穴、土也。在膕中央、約文中、動脈。今附、委中者、血也。熱病、汗不出、足熱、厥逆、満、膝不得曲伸。取其経血、立愈。
明云、甄権云、在曲内、両筋、両骨中、宛宛、是。令人、面挺腹地、而取之。鍼八分、留三呼、瀉五吸。
甲乙云、鍼五分、留七呼。灸三壮。 素注、在足膝、後屈処、膕中央、約紋中。
又骨空論云、在膝解後、曲脚中、背面取之。
委中二穴は土である。膝窩の中央で、ほぼ膝窩横紋の動脈中にある。ここで委中とは血であることを付記しておく。熱病で汗が出ない、足熱、厥逆(冷え)、脹満(腹の膨れ)、膝が屈伸できないなどの症状は、その経血を出せば、すぐに癒える。『明堂』は、甄権は、足が曲がってシワのできる内側、両筋と両骨の中央で、凹むところである。患者の腹を真っ直にして地に着け、取穴する。鍼は八分刺入して三呼留め、五吸瀉法する。『甲乙経』は、鍼を五分刺入して七呼留める。灸は三壮という。『素問』の注は、足の膝で、後ろに屈するところ。膝窩の中央で、ほぼ横紋中とある。また『素問・骨空論』は、膝の関節の後ろで、足が曲がる中央。背面を取るという。
委陽二穴、三焦下輔也。在足太陽後、出於膕中外廉、両筋間。屈伸取之。承扶下六寸。灸三壮、鍼七分。
素注、在足膕中外廉、両筋間。 千云、足太陽前、少陽後。
委陽二穴は、三焦の下合穴である。足太陽の後ろで膝窩中の外側、両筋の間に出る。膝を屈伸させて取穴する。承扶の下六寸。灸は三壮、鍼は七分。『素問』の注に、足膝窩中の外側で両筋の間とある。『千金』は、足太陽の前で、足少陽の後ろという。
浮二穴。在委陽上一寸。展膝得之。灸三壮、鍼五分。
浮二穴は、委陽の上一寸にある。膝を伸ばして取穴する。灸は三壮、鍼は五分。
殷門二穴。在肉下六寸。鍼七分。
殷門二穴は、肉の下六寸にある。鍼は七分。
承扶二穴、一名肉、一名陰関、一名皮部。在尻臀下、股陰、衝上紋中。鍼七分。
明下云、灸三壮。 千云、在尻臀下、股陰、下紋中(一云、股臀下、横紋中)。
承扶二穴は、肉や陰関、皮部とも呼ぶ。お尻の下で、大腿内側を突き上げた横紋中央。鍼は七分。『明堂下巻』は灸三壮という。『千金』は、尻の下で、大腿内側の下横紋中央という(一説には股尻の下で、横紋中央という)。
以上諸穴、皆依銅人経。次第而編、明堂上下経、有穴、而銅人不載、亦或附入。惟有其穴、而無其名者、無慮数十穴、不編。当各依本経所説、而鍼灸之。不可泥此。経之無穴名、而不鍼灸也。
以上の諸穴は、すべて『銅人経』に基づき、次には『明堂』上下巻に穴位があり、『銅人経』に記載がないものを加えて編集した。ただ部位だけがあって名のない穴位が数十穴あったが、それは編集に組み込まなかった。『本経典』に従って鍼灸するが、それに捕らわれてはならない。経典に名前がなければ鍼灸はしない。
扁鵲、灸鬼邪、凡十三穴。与銅人、明堂、同而其名却異。故不編入。許希鍼経之穴、既与諸経不同、其名、又異。如龍興穴之類、是已。亦不附入者、不欲以一人之私名、乱諸経之旧穴、以滋、後学者惑也。
扁鵲の鬼邪の灸は、およそ十三穴である。それは『銅人経』や『明堂経』と同じ穴位だが名前は異なる。それで編集しなかった。許希の『鍼経』の穴は、各種教典とは異なり、名前も違う。たとえば龍興穴などがそうである。また加えなかった穴位には、個人が勝手に命名したり、各種教典の混乱した旧穴名があるが、それは後の学者が迷うために加えたくなかった。
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