鍼灸資生経巻一 bV 上肢
●手太陰肺経、左右中八穴
少商二穴、木也。在手大指端、内側、去爪角、如韮葉(明云、白肉際、宛宛中)。以三稜鍼、刺之。微出血、洩諸蔵、熱湊。不宜灸。成君綽、忽顋頷、腫大、如升。喉中閉塞、水粒、不下。甄権、鍼之。立愈。
明云、鍼一分、留三呼、瀉五吸。宜鍼、不宜灸。以三稜鍼、刺之。令血出、勝気鍼。所以、勝気鍼者、此脈脹腮之。候腮中有気、人不能食。故刺出血、以宣、諸蔵也。忌冷熱食。下云、灸三壮(甲乙作、一壮)。
少商二穴は木である。手母指の端、内側で、爪の角からニラの葉ほど離れたところ(『明堂』は、手掌との境の凹みという)。三稜鍼で刺鍼し、わずかに出血させる。諸臓に溜った熱を瀉す。灸は悪い。成君の綽は、急に顎が升のように腫れ、喉が塞がって水粒も飲めなくなった。甄権が鍼すると、すぐに癒えた。『明堂』は、鍼を一分刺入して三呼留め、五吸瀉法するという。鍼がよく、灸は悪い。三稜鍼で刺して血を出すほうが、毫鍼より勝る。だから毫鍼に勝るのは、この脈が膨れた顎だ。顎の気を伺って、食べられない。だから刺して出血させ、諸臓の脈を行き渡らせる。冷たいものや熱いものを食べない。『明堂下巻』は、灸三壮という(『甲乙経』は一壮としている)。
*では意味が通じないので、脈に改めた。これはオタフク風邪の治療。
魚際二穴、火也。在手大指、本節後内側、散脈中。鍼一分、留二呼。素注、二分、灸三壮。
魚際二穴は火である。手母指、中手指節関節後ろの内側にある散脈中。鍼は一分刺入して二呼留める。『素問』の注は二分刺入、灸は三壮。
太淵二穴。在掌後陥中。灸三壮、鍼一分。素注、二分。明下云、太泉、在手中、掌後横文頭、陥中。灸五壮(難、掌後、魚際下、脈会太淵。脈病治之)。
太淵二穴は、手掌の後ろ陥中にある。灸は三壮、鍼は一分。『素問』の注は二分。『明堂下巻』は、太泉は手中で、手掌後ろの横紋の端陥中。灸は五壮という(『難経』は、手掌後ろで、魚際の下、脈会の太淵。脈の病を治す)。
銅人曰、太淵。明堂曰、太泉。疑是二穴也。予按、千金方、注云、太泉、即太淵也。避唐祖名、改之。於是書、之以示、世医(泉脈、清冷泉同)。
『銅人』は太淵といい、『明堂』は太泉という。二穴あるかも知れない。私は『千金方』の注によって太泉を太淵とした。唐王朝創設者の名なので改ためている。この書によって示す(泉脈や清冷泉も同じ)。
経渠二穴、金也。在寸口陥中。鍼二分、留三呼。禁灸。灸傷人神。
経渠二穴は金也である。寸口陥中にある。鍼は二分刺入して三呼留める。禁灸穴。灸すると人の精神を傷付ける。
列缺二穴。在腕側上、寸半(明堂下云、腕上一寸)。以手、交叉頭、指末。両筋、両骨罅中。鍼二分、留二呼、瀉五吸。灸七壮。忌同。
列缺二穴。手首端の上一寸半(『明堂下巻』は手首の上一寸という)。両手の親指と人差指を開き、そこを交叉させて組むと、上になった人差指先端が当たるところ。二つの筋と二つの骨の隙間。鍼は二分刺入して二呼留め、五吸瀉法する。灸は七壮。避ける食物は同じ。
明云、鍼三分。日灸七壮。若患、偏風、灸至百。若患、腕労、灸七七。下云、三壮。素注云、腕上寸半。
『明堂』は鍼三分という。一日に灸は七壮。脳卒中の半身不随なら灸を百壮まですえる。手首の腱鞘炎には、灸を七×七壮。『明堂下巻』は三壮という。『素問』の注は、手首の上一寸半という。
孔最二穴。在腕上七寸(明下云、隠者、宛宛中)。手太陰、治熱病、汗不出。此穴、可灸三壮、即汗出。咳逆、臂厥痛、鍼三分、灸五壮。明下云、灸三壮。
孔最二穴は、手首の上七寸にある(『明堂下巻』は、隠れた凹みの中という)。手太陰は、熱病で汗が出ないものを治す。この穴に灸三壮すれば汗が出る。咳、腕が冷たくなって痛むなどは、鍼を三分、灸は五壮。『明堂下巻』は灸三壮という。
尺沢二穴、水也。在肘中、約上、動脈中。鍼三分、灸五壮。
尺沢二穴は水である。肘窩の少し上、動脈中にある。鍼は三分、灸は五壮。
明云、肘中、約上、両筋動脈中。甄権云、在臂屈伸、横文中。筋骨罅陥中。不宜灸。主癲病。不可向手臂、不得上頭。素刺禁云、刺肘中、内陥、気帰之、為不屈伸。注云、肘中、謂肘屈折之中、尺沢穴中也。刺過、陥脈、悪気帰之。気閉、関節、故不屈伸(難疏言、尺之一寸外、為尺沢也。言尺脈、入沢。如水入、大沢)。
『明堂』は、肘窩の少し上で、両筋の動脈中という。甄権は、腕を屈伸する横紋中で、筋骨隙間の陥中という。灸は悪い。鬱病、手が腕に向かわない、腕が頭の上に挙がらないなどを主治する。『素問・刺禁論』は、肘中を刺鍼して内陥させると、そこへ気が留まり、屈伸できなくなるという。注には、肘中を肘を屈折する中、つまり尺沢穴の中である。刺入が深すぎると、脈が凹んで、そこへ悪気が留まり、関節の気が動かなくなるから屈伸できないとある(『難経疏』は、尺の一寸外が尺沢であるという。尺脈が沢に入るということで、水が大沢に入る
ことに喩えている)。
*経気が深く入って海に合流するので、合穴。
銅人云、灸五壮。明堂下経乃云、不宜灸。主癲病、不可向手、臂不得上頭。既曰、不宜灸矣。乃曰、主癲病、是又可灸也。必有誤。且従銅人、灸五壮。明堂亦云、禁穴、許灸一壮、至三壮故也。
『銅人』は、灸五壮という。『明堂下巻』は灸が悪いという。鬱病、手が腕に向かわない、腕が頭の上に挙がらないものを主治する。一度、灸は悪いと言っておきながら、鬱病には灸できるという。必ず誤りがある。また『銅人』は灸五壮だが、『明堂』は禁穴でも灸の一壮から三壮は許されると言っているからだ。
侠白二穴。在天府下、去肘五寸、動脈中。鍼三分、灸五壮。
侠白二穴は、天府の下で、肘から五寸離れた動脈中にある。鍼は三分、灸は五壮。
天府二穴。在腋下三寸、動脈中。以鼻取之。禁灸。使人逆気。今附、刺鼻衂、血不止。鍼四分、留三呼。
明云、四分、留七呼。灸二七壮、不除至百壮。出明堂経。其甲乙経、禁灸。
天府二穴は、腋下三寸の動脈中にある。鼻が上腕に着くところを取る。禁灸穴。施灸すると咳が出る。ここに鼻血が止まらないものには鍼を四分刺入して三呼留めることを付け加えておく。『明堂』は四分刺入して七呼留める。灸は二×七壮すえて、よくならねば百壮まですえるという。これは『明堂経』の言うもので、『甲乙経』では禁灸穴。
甲乙、銅人、皆云禁灸。明堂乃云、灸二七壮、至百壮。亦甚不同矣。要非大急、不必灸。
『甲乙経』と『銅人経』は、いずれも禁灸穴という。『明堂』は、灸二×七壮から百壮という。まったく異なっている。もし緊急でなければ灸しないほうがよい。
●手陽明太陽(*大腸の誤字)経、左右二十八穴
商陽二穴、金也。一名絶陽。在手大指、次指内側、去爪甲角、如韮葉。灸三壮、鍼一分、留一呼。
商陽二穴は金である。別名を絶陽と呼ぶ。手母指の次指(人差指)の内側で、爪の角をニラ葉ほど離れたところにある。灸は三壮、鍼は一分刺入して一呼留める。
二間二穴、水也。一名間谷。在手大指、次指本節前、内側陥中。鍼三分、灸三壮。
二間二穴は水である。別名は間谷。手母指の次指(人差指)の中手指節関節前、内側陥中にある。鍼は三分、灸は三壮。
三間二穴、木也。一名少谷。在手大指、次指本節後、内側陥中。鍼三分、留三呼。灸三壮。
三間二穴は木也である。別名は少谷。手母指の次指(人差指)の中手指節関節後、内側陥中にある。鍼は三分刺入して三呼留める。灸は三壮。
合谷二穴、一名虎口。在手大指、次指、岐骨間陥中(明云、手大指、両骨罅間、宛宛中)。鍼三分、留三呼。灸三壮。今附、若婦人、妊娠、不可刺。刺、損胎気(千云、手大指、虎口、両骨間)。
合谷二穴は虎口とも呼ぶ。手母指の次指(人差指)で、第一中手骨と第二中手骨の間陥中(『明堂』は、手母指で、両骨の隙間の凹みという)にある。鍼は三分刺入して三呼留める。灸は三壮。ここに、婦人が妊娠していれば刺してはならないことを付け加えておく。刺せば胎児の気を損なう(『千金』は、手母指の虎口で、両骨の間という)。
陽谿二穴、火也。一名中魁。在腕中、上側、両筋間陥中。鍼三分、留七呼。灸二壮。忌同。
陽谿二穴は火也である。別名を中魁。手首中の上側で、長母指伸筋腱と短母指伸筋腱間の陥中。鍼を三分刺入して七呼留める。灸は二壮。避ける食物は同じ。
偏歴二穴。手陽明絡、在腕後三寸、別走太陰。鍼二分、留七呼。灸三壮。
明下云、五壮。
偏歴二穴は、手陽明の絡脈である。手首の後ろ三寸から別れて太陰へ行く。鍼は二分刺入して七呼留める。灸は三壮。『明堂下巻』は、灸五壮という。
温溜二穴、一名逆注、一名池頭。在腕後、大士三寸、小士六寸。鍼三分、灸三壮。
明云、在腕後、五寸、六寸間。
温溜二穴は、逆注とか池頭とも呼ばれる。手首の後ろから、大男は三寸、小男は六寸にある。鍼は三分、灸は三壮。『明堂』は、手首の後ろ五寸と六寸の間という。
下廉二穴、在輔骨下、去上廉一寸、輔兌肉、其分外鍼。鍼五分、留二呼。灸三壮。
下廉二穴は、橈骨の下で、上廉から一寸離れたところで、橈側で盛り上がった肉の一分外斜めにある。鍼は五分刺入して二呼留める。灸は三壮。
*この鍼は斜めの誤字。
此有下廉、足陽明、亦有下廉。葢在足者、乃下巨虚也。
ここに下廉があり、足陽明にも下廉がある。それは足にある下巨虚である。
上廉二穴、在三里下一寸。其分、独抵、陽明之会、外斜。鍼五分、灸五壮。
上廉二穴は、三里下一寸にある。その分支だけが陽明之会の外側斜めに達する。鍼は五分、灸は五壮。
此有上廉、足陽明、亦有上廉。葢在足者、乃上巨虚也。
ここに上廉があるが、足陽明にも上廉がある。それは足にあって上巨虚である。
三里二穴、在曲池下、三寸(手陽明穴云、二寸)。按之肉起、兌肉之端。灸三壮、鍼二分。
明云、一名、手三里。在曲池下二寸。
三里二穴は、曲池の下三寸にある(手陽明穴は二寸という)。圧すると肉の始まるところで、盛り上がる筋肉の端。灸は三壮、鍼は二分。
『明堂』は、手三里とも呼んでいる。曲池下二寸にある。
三里有二。有手三里、有足三里。此手三里也。故明堂云、一名手三里、是也。銅人云、三里、在曲池下三寸。明堂乃云、二寸。手陽明穴、亦云二寸。恐銅人本、誤二字、作三字也。
三里は二つある。手三里と足三里である。これは手三里である。だから『明堂』が、別名を手三里と言っているものが、これである。『銅人』は、三里を曲池の下三寸としている。『明堂』は、二寸と言っている。手陽明穴も二寸と言っている。恐らく『銅人本』は、二の字を三字と誤ったのであろう。
曲池二穴、土也。在肘外輔骨、屈肘曲中、以手拱胸、取之。鍼七分、得気、先瀉後補之。灸大良、可三壮。
明云、曲池木也。在肘外輔骨、曲肘、横文頭陥中。日灸七壮、至二百。且停十余日、更下火、至二百罷。忌同。
下云、在肘外輔、屈肘、曲骨紋頭。素注、肘外輔、屈肘、両骨中。千、肘外、曲頭陥中。
曲池二穴は土である。肘外側の橈骨で、肘を屈した曲がりの中。手を胸の前で組んで取穴する。鍼を七分刺入して、得気があれば先瀉後補する。灸が良く、三壮すえる。『明堂』は、曲池は木である。肘外側の橈骨で、肘を曲げた横紋の端陥中という。一日に灸七壮から二百壮。そして十日あまり休んで、さらに施灸し、二百壮になったら終える。避ける食物は同じ。『明堂下巻』は、肘外側橈骨で、肘を屈したときの曲がった骨の横紋端という。『素問』の注は、肘外側の橈骨、肘を屈した両骨の中という。『千金』は、肘外側で、曲げた端の陥中という。
肘二穴、在肘大骨、外廉陥中。灸三壮、鍼三分。
肘二穴は、肘の上腕骨、外縁陥中。灸は三壮、鍼は三分。
五里二穴、在肘上三寸、行向、裏大脈中央。灸十壮。禁鍼。
五里二穴は、肘の上三寸、深く入って行く大脈の中央。灸は十壮。禁鍼穴。
素気穴論云、大禁二十五。在天府下五寸。注云、謂五里穴也。謂之、大禁者、禁不可刺也。亦曰、五里者、尺沢之後、五里、与此文同。
『素問・気穴論』に、大禁二十五は、天府下五寸とある。注は、五里穴という。これは大禁で、刺鍼を禁ずるという。また五里は、尺沢の後ろ五里ともいい、この文と同じである。
*昔の鍼は、鉄を研いで作ったので太く、神経を傷付けることがあった。
五里有二。其一、在足厥陰肝経部、与此穴、為二。此当為、手五里也。素問、所謂、在天府下者、指此五里也。注云、尺沢之後、五里指、亦指此五里也。天沢穴、在手太陰。
五里には二つある。一つは足厥陰肝経にあり、この穴と二つである。これは手五里である。素問に、天府の下とあるのは、この五里である。注は尺沢の後にある五里を、この五里としている。尺沢穴は手太陰にある。
臂臑二穴、在肘上七寸、肉端。手陽明絡。灸三壮、鍼三分。 明云、在肩下。一云、両筋、両骨罅陥、宛中。平手取之。不得、拏手、令急其穴、即閉。宜灸、不宜鍼。日七壮、至百。若鍼、不得、過三五。過多、恐悪。忌同。千名、頭衝(肩、在肩部)。
臂臑二穴は、肘の上七寸で、盛り上がった肉の端。手陽明の絡脈。灸は三壮、鍼は三分。明堂は、肩の下という。一説には、両筋と両骨の隙間で凹んだ中という。手を水平に挙げて取穴する。手のひらを上に向けると、その穴が引きつって閉じる。灸がよく、鍼は悪い。一日に七壮から百壮。もし刺鍼ならば、三〜五回以内にする。多すぎると、恐らく悪い。避ける食物は同じ。『千金』は、頭衝という(肩は肩部にある)。
●手少陰心経、左右十八穴
少衝二穴、木也。一名経始。在小指内廉端(明下作側)、去爪甲角、如韮葉。鍼一分、灸三壮。明云一壮。
少衝二穴は木である。別名を経始という。小指内縁の端(『明堂』は内廉を内側としている)で、爪の角をニラ葉ほど離れたところ。鍼は一分、灸は三壮。『明堂』は一壮という。
少府二穴、火也。在手小指、本節後陥中。直労宮(労宮、在手厥陰)、鍼二分、灸七壮。明云三壮。
少府二穴は火である。手小指で中手指節関節の後ろ陥中。労宮と横並びで(労宮は、手厥陰)、鍼は二分、灸は七壮。『明堂』は三壮という。
神門二穴、土也。一名兌衝。在掌後、兌骨端陥中。灸七壮、如小麦。鍼三分、留七呼。
神門二穴は土である。別名は兌衝。手掌後ろで、豆状骨端の陥中。灸は七壮、モグサは小麦大。鍼は三分刺入して七呼留める。
陰二穴。在掌後、脈中、去腕五分。鍼三分、灸七壮。
陰二穴は、手掌後ろの脈中で、手首から五分離れたところ。鍼は三分、灸は七壮。
通里二穴。在腕後一寸陥中。鍼三分、灸三壮。明云七壮。
通里二穴は、手首の後ろ一寸の陥中。鍼は三分、灸は三壮。『明堂』は七壮という。
霊道二穴、金也。去掌後寸半。灸三壮、鍼三分。
霊道二穴は金である。手首の後ろ一寸半にある。灸は三壮、鍼は三分。
少海二穴、水也。一名曲節。在肘内廉、節後。又云、肘内大骨外、去肘端五分。屈肘得之。鍼三分、灸三壮。甄権云、屈手、向頭、取之。治歯寒、脳風、頭痛。不宜灸、鍼五分。
少海二穴は水である。曲節とも呼ぶ。肘内縁で節の後ろにある。また肘内側の内側上顆で、肘の端から五分離れたところともいう。肘を屈して取る。鍼は三分、灸は三壮という。甄権は手を頭に向けて屈し、取穴するという。歯寒や頭痛を治す。灸は悪く、鍼は五分。
明云、在肘内、横紋頭、屈手向頭、取之、陥宛中。
甲乙云、穴在肘内廉、即後陥中、動応手。鍼二分、留三呼、瀉五吸。不宜灸。
『明堂』は、肘内側で、肘窩横紋の端、手を頭に向けて曲げ、凹んだところを取るという。『甲乙経』は、肘の内縁で、すぐ後ろ陥中に穴位があり、動かすと手に応える。鍼は二分刺入して三呼留め、五吸瀉法する。灸は悪いという。
下云、灸五壮。素注、五壮。銅人云、灸三壮。明堂下経、素問注、皆云、灸五壮。上経、甄権、皆云、不宜灸。亦可疑矣。非大急、亦不必灸。
『明堂下巻』は灸五壮という。『素問』の注は五壮という。『銅人』は、灸三壮という。『明堂下巻』と『素問』の注は、いずれも灸五壮という。『明堂上巻』と甄権は、いずれも灸は悪いという。これも怪しい。どうしてもということがなければ、やはり灸しないほうがよい。
青霊二穴。在肘上三寸。伸肘、挙臂取。灸七壮。
明下云、三壮。
青霊二穴は、肘の上三寸にある。肘を伸ばし、腕を挙げて取穴する。灸は七壮。明堂下巻は三壮という。
極泉二穴。在腋下、筋間。動脈入胸。灸七壮、鍼三分。
極泉二穴は、腋の下で、両筋の間。動脈が胸に入るところ。灸は七壮、鍼は三分。
●手太陽小腸経、左右十六穴
少沢二穴、金也。一名小吉。在手、小指端、去爪甲下一分、陥中。灸一壮、鍼一分。
少沢二穴は金である。小吉とも呼ぶ。手の小指端で、爪の下一分にある陥中。灸は一壮、鍼は一分。
前谷二穴、水也。在手小指外側、本節前陥中。鍼一分、灸一壮。明云三壮。
前谷二穴は水である。手小指外側で、中手指節関節前の陥中。鍼は一分、灸は一壮。『明堂』は三壮という。
後谿二穴、木也。在手小指外側、本節後陥中。灸一壮、鍼一分。明云、在手外側、腕前、起骨下陥中。灸三壮。
後谿二穴は木である。手小指外側で、中手指節関節後ろの陥中。灸は一壮、鍼は一分。『明堂』は、手外側で、手首の前から起こる骨の下陥中。灸三壮という。
腕骨二穴。在手外側、腕前、起骨下陥中。灸三壮、鍼二分、留三呼。
腕骨二穴は、手外側で、手首の前から起こる骨の下陥中。灸は三壮、鍼は二分刺入して三呼留める。
陽谷二穴、火也。在手外側腕中、兌(素作鋭)骨下陥中。灸三壮。鍼二分、留二呼。
陽谷二穴は火である。手外側で手首の中、盛り上がった(『素問』は鋭い骨としている)骨の下陥中。灸は三壮。鍼は二分刺入して二呼留める。
*鋭と兌は同じ意味で、鋭く尖った骨のこと。ここでは尺骨茎状突起。
養老二穴。在手踝骨上、空寸陥中。灸三壮、鍼三分。
養老二穴は、手踝骨上で、一寸ほど空隙となっている陥中。灸は三壮、鍼は三分。
*手踝骨とは、茎状突起。
支正二穴。在腕後五寸。別走小腸。灸三壮、鍼三分。
明云、在手太陽、腕後五寸。去養老穴、四寸陥中。灸五壮。
支正二穴は、手首の後ろ五寸。分かれて手小腸へ行く。灸は三壮、鍼は三分。『明堂』は手太陽で、手首の後ろ五寸という。養老穴から四寸離れた陥中。灸五壮という。
小海二穴、土也。在肘内、大骨外、去肘端、五分陥中。甄権云、屈手、向頭取之。灸三壮、鍼二分。
小海二穴は土である。肘の内側で、上腕骨内側上顆の外側、肘の端から五分離れた陥中。甄権は、手を頭に向けて屈し、取穴するという。灸は三壮、鍼は二分。
●手厥陰心主脈、左右十六穴
中衝二穴、木也。在手中指端、去爪甲、如韮葉陥中。鍼一分、明云、灸一壮。
中衝二穴は木也である。手中指の端で、爪からニラ葉ほど離れた陥中。鍼は一分、『明堂』は、灸一壮という。
労宮二穴、火也。一名五里。在掌中央、横文、動脈中。屈無名指、著処是。灸三壮。明云、鍼二分、得気即瀉。只一度鍼。過両度、令人虚。不得灸。灸令息肉、日加。忌同。素注、灸三壮(一名掌中)。
労宮二穴は火である。五里とも呼ぶ。手掌中央の横紋で、動脈中にある。薬指を屈すると手掌に着くところ。灸は三壮。『明堂』は、鍼を二分刺入して得気があれば瀉法するという。一度だけ刺鍼する。二度を過ぎると人を虚にする。灸はできない。灸するとポリープができて、日に日に大きくなる。避ける食物は同じ。『素問』の注に、灸三壮とある(別名を掌中という)。
趙岐、釈孟子、云。無名之指、手第四指也。今曰、屈無名指、著処、是穴。葢、屈第四指也(無名指、当屈中指為是。今説、屈第四指非也)。
趙岐が孟子を解説して「薬指とは、手の第四指である。ここでは薬指を屈して着くところが、この穴である。それは第四指を屈することである」と言っている(無名指とは、中指を屈することである。現在の説では、第四指を屈することではない)。
大陵二穴、土也。在掌後、両筋間陥中。鍼五分、灸三壮。
大陵二穴は土である。手掌の後ろで、両筋間の陥中。鍼は五分、灸は三壮。
内関二穴。在掌後、去腕二寸。別走少陽。鍼五分、灸三壮。
内関二穴は、手掌の後ろで、手首を二寸離れたところ。分かれて手少陽へ行く。鍼は五分、灸は三壮。
間使二穴、金也。在掌後三寸、両筋間陥中。鍼三分、灸五壮。
明下云、七壮(千云、腕後三寸。或云、掌後陥中)。
間使二穴は金である。手掌の後ろ三寸で、両筋の間陥中にある。鍼は三分、灸は五壮。『明堂下巻』は七壮という(『千金』は、手首の後ろ三寸。あるいは手掌の後ろ陥中という)。
門二穴、去腕五寸。手厥陰。鍼三分、灸五壮。
門二穴は、手首を五寸離れたところ。手厥陰の穴。鍼は三分、灸は五壮。
曲沢二穴、水也。在肘内廉陥中。屈肘取之。灸三壮。鍼三分、留七呼。素注、内廉下。
曲沢二穴は水である。肘の内縁陥中で、肘を屈して取穴する。灸は三壮。鍼は三分刺入して七呼留める。『素問』の注は、内縁の下という。
天泉二穴、一名天湿。在曲腋下二寸。挙臂取。鍼六分、灸三壮。
天泉二穴は、天湿とも呼ぶ。腋の下二寸。腕を挙げて取穴する。鍼は六分、灸は三壮。
●手少陽三焦経、左右二十四穴
関衝二穴、金也。在手小指、次指端、去爪甲、如韮葉。鍼一分。灸一壮。忌同。
素注三壮(一云、握拳取之)。
関衝二穴は金である。手小指の次指(薬指)の端で、爪をニラ葉ほど離れたところ。鍼は一分。灸は一壮。避ける食物は同じ。『素問』の注は三壮(一説には、拳を握って取穴するという)。
液門二穴、水也。在手小指、次指間陥中。鍼二分、灸三壮(
一云、握拳取之)。
液門二穴は水である。手小指の次指(薬指)の間陥中。鍼は二分、灸は三壮。一説には、拳を握って取穴するという。
中渚二穴、木也。在手小指、次指本節後、間陥中。鍼三分、灸三壮。
明云、二壮。
中渚二穴は木である。手小指の次指(薬指)の中手指節関節の後ろで間陥中。鍼は三分、灸は三壮。『明堂』は二壮という。
陽池二穴、一名別陽。在手表、腕上陥中。鍼二分、留三呼。不可灸。忌同。
素注、灸三壮。
陽池二穴は、別陽とも呼ぶ。手背で手首上の陥中。鍼は二分刺入して三呼留める。施灸はしない。避ける食物は同じ。『素問』の注は、灸三壮。
外関二穴。正少陽絡。在腕後二寸陥中。鍼三分、留七呼。灸二壮。明云、三壮。
外関二穴は、手少陽の絡脈である。手首後ろ二寸の陥中にある。鍼は三分刺入して七呼留める。灸は二壮。『明堂』は、三壮という。
支溝二穴、火也。在腕後三寸、両骨間陥中。鍼二分、灸二七壮。忌同。
明云、五壮。素注、三壮(千云、腕後、臂下三寸)。
支溝二穴は火である。手首の後ろ三寸で、両骨間の陥中にある。鍼は二分、灸は二×七壮。避ける食物は同じ。『明堂』は五壮という。『素問』の注は三壮(『千金』は、手首後ろで、前腕の下三寸という)。
会宗二穴。在腕後三寸、空中一寸。鍼三分、灸三壮。
会宗二穴は、手首後ろ三寸で、中一寸空ける。鍼は三分、灸は三壮。
三陽絡二穴。在臂上、大交脈(明云、肘前五寸、外廉陥中)、支溝上一寸。禁鍼。灸七壮。
明云、五壮。
三陽絡二穴は、前腕の上で、脈が大きく交わるところ(『明堂』は、肘の前五寸で、外縁陥中という)、支溝の上一寸にある。禁鍼穴。灸は七壮。『明堂』は、五壮という。
四二穴。在肘前五寸、外廉陥中。灸三壮。鍼六分、留七呼。
四二穴は、肘の前五寸で外縁陥中。灸は三壮。鍼は六分刺入して七呼留める。
天井二穴、土也。在肘外、大骨後、肘上(明堂作後)一寸、両筋間陥中。屈肘、得之。甄権云、曲肘後一寸。叉手、按膝頭、取之。両筋骨罅。鍼三分、灸三壮。忌同。
明云、五壮。 素注、刺一寸(千、肘後、両筋間)。
天井二穴は土である。肘の外側で上腕骨外側顆の後ろ、肘の上(『明堂』では後ろとしている)一寸、両筋の間陥中にある。肘を屈して取穴する。甄権は、曲がる肘の後ろ一寸。腕組みして肘頭を押さえ、取穴する。両筋骨の隙間。鍼は三分、灸は三壮。避ける食物は同じ。『明堂』は五壮という。『素問』の注では一寸刺入(『千金』は肘の後ろで、両筋の間)。
清冷淵二穴。在手肘上二寸。伸肘、挙臂、取之。灸三壮、鍼三分。
清冷淵二穴は、手肘の上二寸。肘を伸ばして腕を挙げ、取穴する。灸は三壮、鍼は三分。
消二穴。在肩下、臂外腋、斜肘分下行。鍼一分、灸二壮。明云、在肩下、外開腋、斜肘分下行。鍼六分、灸三壮。素注、肩下、臂外開腋。
消二穴は、肩の下で、上腕を腋から外し、肘部へ斜めに一分下行する。鍼は一分、灸は二壮。『明堂』は、肩の下で、外に腋を開き、斜めに肘部を一分下行する。鍼は六分、灸は三壮という。『素問』の注は、肩の下で、上腕を外に腋を開く。