鍼灸資生経巻七 bS 2001年6月28日更新
鍼灸資生経巻七19
癬疥瘡
日中時、灸病処、影上三壮。呪曰、癬中蟲毛戎戎。若欲治、待日中。又法、八月八日、日出時、令病人、正当東向戸、長跪平、挙両手、持戸両辺、取肩、頭小垂、際骨解宛宛中、灸両火倶下、各三壮、若七壮、十日愈。千金翼曰、瘡疥癬、皆有諸蟲、三年不差便為悪疾云云、治久癬不差方、細研水銀霜如粉、和臘月猪膏、先以、清洗瘡、拭乾一塗、即
差、再塗、永差矣。
皮膚病は、日中に病巣の影の上へ三壮施灸する。そして癬虫、毛もじゃもじゃと呪って言う。治したければ日中を待つ。ほかの方法は、八月八日の日の出時に、患者に東を向かせ、戸板に向かってひざまずかせ、両手を挙げて戸板の両端を持たせ、頭を少し下げさせて肩の肩峰と上腕骨の隙間にある凹みを取り、両側一度に施灸する。三壮ずつ、七壮すえれば十日で癒える。『千金翼方』は、デキモノ皮膚病は、すべて虫のしわざである。三年治らねば難病である。長いこと治らぬ皮膚病の処方、水銀霜を粉にし、臘月猪とで膏薬にする。まず米のとぎ汁で瘡を洗い、拭いて乾いたら一塗りすれば癒える。さらに塗れば永いこと治っている。(臘と猪の字は、はっきりしないので、あるいは違うかも)
太陵、支溝、陽谷、後谿主痂疥。陽谿治痂疥。合谷、曲池療皮膚痂疥。
太陵、支溝、陽谷、後谿は皮膚病を主治する。陽谿は皮膚病を主治する。合谷、曲池は皮膚病を治療する。
予少患疥、凡十五年、遇冬、則為瘡。人教、用羊蹄、菜根(蛇床子根)、片切如銭、米浸二三宿、出、入生薑礬、同研細、裹以生布、遇浴、擦洗良久、以水洗三四次。用即除根、後数年再生、用前法愈、神効如此、何以灸為也。
私は小さい頃、皮膚病になって十五年、冬になって瘡となった。人に羊の蹄と菜根(オカゼリ)の根をコインのように切り、米のとぎ汁に2〜3日浸し、それを濾過して出し、生ショウガ礬を入れて、一緒に細かくし、布で包んで入浴するとき、それでよく擦る。3〜4回は使える。それを使えば根治できる。数年して再発したら、同じ方法で癒える。神のような効果がある。どうして灸する必要があろう。
白癜風、灸左右手中指、節去延外宛中、三壮。未差報之、至道単方治紫癜風、用舶上、硫黄細研、綿帛裹生薑自然汁、半盞浸、和綿子塗所患処、稍乾、再易此。患多、従夏発、但請験之。予雖未試、想必奇方也。千金翼、灸白癜白駮等、重午日午時、灸膝外、屈脚、当文頭、随年壮、一時下火、不得動。又白癜白駮浸、癰瘍著頭頚胸前、灸両乳間、随年壮、立差。
白ナマズには、左右の手の中指、中手指節関節を去り、外に伸ばした近位指節間関節の凹みに三壮すえる。まだ治らねば、これを知らせる。道教の紫癜風を治す民間処方は、船形の上で硫黄を粉にし、さらし木綿で包み、生ショウガの汁を盃半杯に浸し、木綿と一緒に患部へ塗る。少し乾いたら交換する。この皮膚病は夏から発生するものが多いが、これを試してほしい。私はまだ試したことがないが、必ず効果があると思う。『千金翼方』に、白ナマズなどには、午日の午の刻、膝の外側に施灸する。脚を屈し、膝窩横紋の端に歳の数だけ施灸する。点火したら動いてはならない。また白ナマズなどにオデキができ、頭頚胸の前にオデキができたら、両乳の間に歳の数だけ施灸すれば、すぐに癒える。(白癜も白駮も同じ。大きければ白癜、まだらになっていれば白駮。は淫と同じ意味。)
疣目、着艾疣目上、灸之三壮、即除。支正治生疣目。疣目、雖可灸、千金方亦有用杏仁、焼令黒、研膏、塗上者。有用松栢脂、合和塗之、一宿失去者。有用牛口中涎、敷塗、自落者。有用苦酒、漬石灰六七日、滴取汁、點疣上、小作疣、即落者。有以猪脂、揩癢処、令少許血出、即差、神験、無以加者。不必専拘灸也。
イボは、モグサをイボの上に三壮すえれば消える。支正はイボを治す。イボには施灸できるといっても、『千金方』には杏仁を黒焼きにし、粉にして膏薬を作って塗る方法もある。また松と桧のヤニを一緒に混ぜて塗り、一晩で消える方法。牛の涎を塗って自然に落とす方法。苦酒を石灰に6〜7日漬け込んで、その汁をイボに塗り、イボを小さくして落とす方法。ブタの油で痒いところを擦り、少し出血さて癒える方法は、神験があって他を加える必要がない。もっぱら灸だけにこだわることはない。
鍼灸資生経巻七20
蠱毒
巨闕治蠱毒。俗亦有灸法、初中蠱於心下捺、便大灸百壮、併主猫鬼、亦灸得愈。又当足下小指尖上、灸三壮。当有物出、酒上得者、有酒出。飯上得者、有飯出。肉菜上得者、有肉菜出、即愈、神験、皆於灸瘡上出。
巨闕は寄生虫による毒を治す。俗には灸もする。最初は心窩部に寄生虫が当たって手で押さえる。そうしたら大きな艾 で巨闕に百壮施灸する。猫鬼も主治し、施灸すれば癒える、また足下の第5趾先端に三壮施灸する。また排出するものもある。酒で入ったものは酒で出て、飯で入ったものは飯で出て、肉料理で入ったものは肉料理で出て、すぐ癒える。神験がある。それらは、すべて灸瘡の上に出る。(猫鬼とは射工のこと。やはり寄生虫によるマラリアのような病気。)
梅師治卒中、蠱、下血如肝、蔵府敗壊、桔梗擣汁、服七分、合隹録験方亦云、卒中、蠱、血如肝、晝夜出血、桔梗擣屑、酒服方寸七、日三、薬不下、開口灌。又有用、馬藺根末、水服方寸七、随吐即出、極神者。肘後方云、凡中蠱、令人心腹切痛、如有物咬、或吐、下血、不即治、蝕人五蔵、盡即死。麻一枚、去皮朴消一銭同研、新水作一服、連進二三服、効此、雖未試、亦奇方也。
梅師は、卒中、蠱、鶏肝のような下血、臓腑の損傷を治す。キキョウを潰して汁を取り、その七分を飲む。『合隹録験方』にも、卒中、寄生虫、鶏肝のような下血、昼夜出血には、キキョウを潰したものを、1寸四方の升に七分取って酒で飲む。1日3回、脳卒中などで薬が飲めなければ、そのつど口を開いて流し込む。また馬藺根の粉を、1寸四方の升に七分取って水で飲むとある。嘔吐とともに吐き出される。極めて神効がある。『備急肘後方』は、寄生虫に当たったら、人の心窩部や腹が切られるように痛い。何かが咬んでいるようで、吐いたり下血する。すぐ治療しなければ、人の五臓を蝕んで死んでしまう。麻一枚と、皮を取った朴消一銭と一緒に粉にし、新しい水で一服作り、続けて2〜3服を飲む。この効果は試したことはないが、これも優れた処方である。(は鶏の字。現代では寄生虫の心配がほとんどないが、古代では水や食べ物に寄生虫がいたことを物語っている)
鍼灸資生経巻七21
犬傷
外丘治,犬所傷、毒不出、発寒熱、速以三壮、艾可灸齧処、立愈。
外丘は狂犬の傷で毒が出ず、寒熱を発するものを治す。すぐに三壮すえる。噛まれた処へ施灸しても、すぐに癒える。
春末夏初、狂犬咬人、即令人狂、過百日、乃得免、当終身、禁食犬肉、蠶蛹食。此則発、不可救也。先去却悪血、灸瘡中十壮、明日以後日灸一壮、百日乃止。忌酒、毎七日搗韮汁、飲一二盞。
春の終わりから夏の初め、狂犬が人を噛むと、人が発狂する。百日過ぎると免れるが、死ぬまで犬の肉、イモ虫やサナギを食べられない。そんなことをすると、すぐに発病して助からない。まず咬傷から悪血を吸い出し、その傷痕に灸十壮すえる。それ以降は1日1壮すえ、百日で止める。酒を止め、七日ごとにニラ汁を盃に1〜2杯飲む。
日、蛇入七竅。以艾灸蛇尾、即出。又法、刀破蛇尾、些子入椒七粒、蛇自出。出後、急以雄黄、朱砂細研、煎人参湯調、灌取蛇毒。
月垂 日に蛇が、五官の竅から入る。蛇のシッポに施灸すれば、すぐに出る。また蛇のシッポを破り、山椒の実を七粒入れると、蛇は自然に出る。蛇が出た後は、急いで雄黄と朱砂を粉にし、人参湯を煎じて流し込み、蛇毒を取る。(日のの字は、はっきりしない。あるいは違う字なのかも。したがって意味も判らず)
山居人、或被蛇傷、即以溺、溺之。拭乾、以艾灸之、効。朝野僉載記、艾当毒蛇齧処灸、引出毒気、差。薄切独頭蒜、貼蛇咬処、灸熱徹、即止。灸蛇毒上、三七壮、無艾、以火頭、将瘡孔大小之。
山に居る人が、蛇に咬まれたら、すぐに小便をかける。拭いて乾いたら施灸する。効く。政府と民間のいずれも、毒蛇が咬んだ処へ施灸して、毒気を引き出せば癒えると記載している。薄切りにしたニンニクスライスを、毒蛇が咬んだ処へ貼って、灸で熱を浸透させると止まる。蛇毒の上に三十七壮施灸する。モグサがなければ咬まれた傷口を炎で焼く。
狂犬咬人、令人吮去悪血盡、灸百壮後、日日灸、百日止、差。血不出、一生忌酒猪。
狂犬が人を咬んだら、傷口を人に吸ってもらって悪血を出し尽くす。そして灸を百壮すえる。毎日施灸して、百日したら癒える。血が出なければ一生、酒を飲んだり豚肉を食べたりできない。
鍼灸資生経巻七22
乳癰
膺窓治乳癰、寒熱、臥不安。臨泣治乳癰。神封治乳洒淅、悪寒。乳根治乳癰、惨、寒痛、不可按。三里主乳癰、有熱。下廉治乳癰、驚、痺、脛重、足不収、跟痛。神封、膺窓主乳癰、寒熱、短気、臥不安。天谿、侠谿主乳腫、癰潰。
膺窓は、乳腺炎で寒熱があり、静かに寝ていられないものを治す。臨泣は乳腺炎を治す。神封は、乳が冷や冷やし、悪寒するものを治す。乳根は乳腺炎で、悲惨に冷たく痛み、触らせないものを治す。三里は、乳腺炎で熱があるものを主治する。下廉は、乳腺炎でヒキツケ、痛み、脛が重く、尖足、カカトの痛むものを治す。神封と膺窓は、乳腺炎、寒熱、短気、静かに寝ていられないものを治す。天谿と侠谿は、乳房が腫れ、乳腺炎が潰れたものを主治する。
論曰、産後宜勤済乳、不宜、令汁蓄積蓄積不去、便結、不復出、悪汁於内、引熱温、壮結堅、牽掣痛、大渇引飲。乳急痛、手不得近、成妬乳、非癰也。急灸、両手魚際二七壮、断癰脈也。不復悪手近、乳汁、亦自出、便可手助将之、則乳汁大出、皆如膿状、内服連翹湯、外以小豆薄塗之、便差。又以縄、横度口、以度従乳上行、灸度頭二七壮。
産後は、できるだけ多く授乳するとよいという。そのようにしなければ、乳汁が蓄積してなくならず、固まって二度と出なくなり、体内で悪汁となって熱を持ち、強く固まって堅くなり、引きつって痛み、喉が渇いて水を飲む。乳房が引きつって痛むと、手を近づけられず、急性乳腺炎となる。これはオデキではない。いそいで両手の魚際へ灸を二十七壮すえ、乳腺炎の脈を断つ。手を近づけることを嫌うことは、もうなくなり、乳汁も自然に出る。それを慌ただしく手で助けると、たくさん乳汁が出るが、それらは膿のようである。そして連翹湯を内服し、乳腺炎には小豆を薄く塗ると癒える。また縄で口の横幅を計り、その縄を乳頭から上に向け、その端に灸を二十七壮すえる。(悪には、悪い、嫌だ、憎む、どうしての4つ意味がある)
千金論曰、女人患乳癰、四十以下治之、多差。四十以上治之、多死、不治、自終天年。予有親、年七十、生乳癰。不信此論、令外科用刀仗、開時、暫雖快、未幾而。方知、千金猶信也。有擣地楡汁傳。有擣蔓青葉、或根傳。熱即易之。有用白末、温湯調傳効。
『千金』は、女性が乳腺炎になったとき、四十歳以下なら治療して、ほぼ癒えるが、四十歳以上では治療しても多くは死に、治らずに天年を終えるという。私には親があり、七十歳で乳腺炎になった。私は『千金方』の記載を信じなかったので、外科医にメスで切らせた。最初は暫く軽快したが、幾らもしないうちに死んでしまった。それでやっと『千金』は信じられることが判った。地楡を潰した汁を塗る方法。蔓の青葉や根を潰して塗る方法がある。熱くなったら取り替える。白の粉を、お湯で練って塗ると効く。
鍼灸資生経巻七23
乳腫痛
乳根療乳痛。肓門治,婦人乳有餘疾。千云、中極主乳餘疾。気衝治難乳、子搶心。府舎厥気両乳。太泉主妬乳、膺胸痛。天谿治乳腫、賁膺。梁丘、地五会治乳腫。天主乳腫、缺盆中腫。足臨泣主乳腫。亶中治乳汁少。明下云、脈滞、無汁、下火、立愈。小児吐、灸中庭一壮。小児、喉中鳴、嚥乳不利、三壮。
乳根は乳痛を治療する。肓門は、婦人の乳に余疾があるものを治す。『千金方』は、中極は乳余疾を主治するという。気衝は新生児の熱証、子癇を治す。府舎は、両乳の気が途絶えるもの。太泉は急性乳腺炎、前胸痛を主治する。天谿は乳の腫れ、横隔膜や胸を治す。梁丘と地五会は、乳の腫れを治す。天は乳の腫れ、缺盆中の腫れを主治する。足臨泣は乳の腫れを主治する。中は乳の出が少ないものを治す。『明堂経』は、乳脈が滞り、乳汁が出ないものは、施灸すると、すぐに癒えるという。小児の吐乳には、中庭へ一壮すえる。小児の喉が鳴って、乳が飲み込めないときは、へ三壮すえる。(乳有餘疾とは、千金方の乳餘疾のこと。この意味は乳の疾患ではなく、産後の母体の疾患。難乳も難産のことで、乳の疾患と関係ない。著者は乳を乳房のことだけと思っている。子搶心は、よく判らないので請指教。台湾医者の話では子癇のような病気だが、裏は取れてない。は窓という意味。乳には、乳の意味と出産する意味がある)
鍼灸資生経巻七24
婦人無子
陰廉治婦人絶産、若未経産者、灸三壮、即有子。中膠治絶子、帯下、月事不調。次膠、涌泉、商丘治絶子。中極治,婦人断緒。明下云、療失精、絶子。石関治絶子、蔵有悪血、上衝腹痛、痛不可忍。曲泉主女子疝痂、按之、如以湯沃両股中、小腹腫、陰挺出痛、経水来下、陰腫、或癢、青汁、如葵羹、血閉、無子、不嗜食。水原、陰主女不字、陰暴出、淋漏、月水不来、多悶、心痛。然谷主不字、陰暴出、経漏。上主絶子、瘧、寒熱、不禁白瀝、痙脊反折。
陰廉は、婦人の不妊症を治す。もし出産したことがなければ、三壮すえると子ができる。中膠は不妊症、帯下、生理不順を治す。次膠と湧泉、商丘は不妊症を治す。中極は婦人の不妊症を治す。明堂は、早漏や不妊症を治療するという。石関は不妊症で、子宮に悪血があり、それが上昇して腹痛し、痛くてたまらないものを治す。曲泉は、女子の下腹が痛んで膨れ、それを圧すると、両股中に湯をかけたようになる、下腹の膨れ、子宮脱で痛む、生理が来ると陰部が腫れたり、痒く、葵スープのような青汁が漏れ、血が閉塞して子ができない、食欲がないものを主治する。水原の照海は、女で子ができない、急性の子宮脱、ポタポタ漏れる、月経が来ない、煩悶、心痛を主治する。然谷は不妊、急性の子宮脱、生理がポタポタと続くものを主治する。上膠は不妊、マラリア症状、寒熱、白帯が続くもの、背骨が痙攣して反り返るものを主治する。(膠は月ヘンが、実は骨へん。石関の「上衝腹痛、痛不可忍」は、腹の後の字が不明瞭。ヤマイダレなので痛と思う。疝痂は、よく判らないので、疝と「ヤマイダレに王のない瑕」と考えた。字は子と同じ。水原は、あるいは穴名かも。照海は「水の下源」の経に属すと考えた。淋漏は尿の疾患と思われるが、テーマと合わないのであいまいにした。)
陰交主拘攣、腹満、疝、月水不下、乳餘疾、絶子、陰癢、賁豚上、腹堅痛、下引陰中、不得小便。石門主腹満、疝積、乳餘疾、絶子、陰癢、賁豚上、小腹堅痛、下引陰中、不得小便、忌灸絶孕。関元主絶子、血在内不下、胞轉不得尿、小腹満、石水痛。又主引脇下脹、頭痛、身背熱、賁豚、寒小便数、泄不止。中極主子門不端、小腹苦寒、陰癢及痛、賁豚搶心、飢不能食、腹脹、経閉不通、小便不利、乳餘疾、絶子。又主拘攣、腹疝、陰癢。築賓主大疝、絶子。涌泉主,女子無子、 而短気。気衝主無子、小腹痛。
陰交は、引きつる、腹満、下腹部痛、無月経症、産後の余疾、不妊、陰部が痒い、胃腸神経症、腹脹、腹の堅い痛みが下の陰部まで及ぶ、排尿できないなどを主治する。石門は腹満、下腹部痛、産後の余疾、不妊、陰部が痒い、胃腸神経症、腹脹、下腹の堅い痛みが下の陰部まで及ぶ、排尿できないなどを主治するが、灸をすると不妊となるので避ける。関元は不妊、血が子宮内にあって出ない、尿貯溜のため排尿できない、下腹が膨れる、下腹が堅い水腫痛を主治する。また脇下まで脹り、頭痛、身背熱、胃腸神経症、冷えによる頻尿、下痢が止まらないものも主治する。中極は、子門不端、下腹の冷え、陰部の痒みと痛み、賁豚が心臓まで突き上げる、空腹でも食べれない、腹脹、無月経症、排尿困難、産後の余疾、不妊症を主治する。また硬直、下腹部痛、陰部の痒みも主治する。築賓は鼠径ヘルニア、不妊を主治する。湧泉は女子の不妊、咳して息切れするものを主治する。気衝は不妊、下腹部痛を主治する。(子門不端は不明。文字通り取れば、「子宮口がきちんとしていない」だが……
)
陰廉主絶産、若未曽産婦人、絶子、灸然谷五十壮。婦人,絶嗣不生、胞門閉塞、関元三十壮、報之。婦人,妊子不成、若堕落、腹痛、漏見赤、胞門五十壮、在関元,左辺二寸是。婦人,絶嗣不生、灸気門、在関元,旁三寸百壮。婦人、子蔵閉塞、不受精疼、胞門五十壮。婦人,絶嗣不生、漏赤白、泉門十壮、三報。月水不利、賁豚上下、併無子、曰満三十壮。婦人、胞落頽、臍中三百壮。又陰交五十壮、三報、在臍下、横文中。又背脊、当臍五十壮。又玉泉五十壮、三報。婦人,胞下垂注、陰下脱、灸侠玉泉三寸、随年壮三報。
陰廉は不妊症を主治する。もし出産したことがなく、子がなければ、然谷へ灸を五十壮すえる。婦人で子が生まれず、子宮の門が閉塞していれば、関元に三十壮すえると報われる。婦人で、子を妊娠できず、流産し、腹痛し、出血すれば、胞門へ五十壮すえる。それは関元の左2寸にある。婦人で子が生まれなければ、気門に施灸する。それは関元の傍ら3寸で、百壮すえる。婦人で子宮が閉塞し、受精できずに痛めば、胞門へ五十壮すえる。婦人で子が生まれず、血や膿が漏れれば、泉門へ十壮すえると、三回で報われる。生理不順で、賁豚の気が腹を上下し、子がなければ、曰満へ三十壮すえる。婦人で、流産するなら、臍中に三百壮。また陰交へ五十壮、三回で報われる。それは臍の下で、横紋の中にある。また背骨で、臍に当たるところへ五十壮。また玉泉へ五十壮。三回で報われる。婦人で流産し、子宮脱なら、玉泉の横1.5寸に歳の数だけ施灸すると、3回で報われる。(曰満は不明)
婦人,陰冷腫痛、帰来三十壮、三報。中極,婦人断緒、最要穴。関元主断緒、産道冷、鍼八分、留三呼、瀉五吸。灸亦佳。灸不及鍼、日灸百壮止。妊不成、数堕落、玉泉、五十壮、三報。又龍門、二十壮。婦人無子、鍼関元。涌泉治婦人無子。婦人欲断産、灸右踝上一寸、三壮、即断。石門忌灸絶孕、銅云、鍼之、絶子、明云、懐胎、必不鍼関元、若鍼、而落胎。胎多不出、鍼外崑崙、立出。陰交灸多、絶孕、又云、石門、関元相去一寸、鍼関元治婦人無子、鍼石門、則終身絶嗣。其道、幽隠、豈可軽侮哉。
婦人の陰部が冷えて痛ければ、帰来へ三十壮すえると三回で報われる。中極は、婦人の不妊にとって最要穴である。関元は不妊症で産道が冷えるものを主治する。鍼を八分入れて三呼吸留め、五呼吸瀉す。灸でもよいが、鍼には及ばない。一日灸百壮で止める。妊娠できず、何度も流産すれば、玉泉へ五十壮すえれば三回で報われる。また龍門にも二十壮。婦人で子がなければ関元に鍼をする。湧泉は婦人の子無きを治す。婦人が不妊を望むなら、右踝の上1寸に三壮すえれば妊娠しない。石門に灸をすえると妊娠しなくなるのでいけない。『銅人経』は、そこへ刺鍼すると子ができないといい、『明堂経』は、関元へ刺鍼するな。もし鍼すれば流産するという。胎児がでないとき、外崑崙へ刺鍼すると、すぐに出る。陰交へ施灸が多いと不妊になる。また石門と関元は互いに1寸離れているが、関元へ刺鍼すると婦人の子無きを治し、石門へ鍼をすれば一生妊娠しない。この道は奥深く、軽んじて馬鹿にすることはできない。