鍼灸古典
 伝統医学である鍼灸の真髄を学ぶには、まず古典から。というわけで、鍼灸の基本である霊枢経の一部を現代語訳してみました。  訳者は現代中国語の訳者なので、あまり古典が現代語として意味が通じない部分もあるかもしれませんが、浅学非才を省みずに無謀な挑戦をしたものです。鍼灸学校の学生のみなさんにオリジナルを知って欲しくて、訳しました。
 霊枢現代語訳
霊枢・経脈 bP 手の太陰肺経→手の陽明大腸経→足の陽明胃経→足の太陰脾経→手の少陰心経→手の太陽小腸経
霊枢・経脈 bQ 足の太陽膀胱経→足の少陰腎経→手の厥陰心包経→手の少陽三焦経→足の少陽胆経→足の厥陰肝経

霊枢・絡穴、経別など (経脈・絡穴、霊枢・経別、霊枢・根結、霊枢・衛気、交会穴)


帛書現代語訳 (長沙馬王堆の漢墓から発掘された帛書は、経脈が記述された最古の書です。)
陰陽十一脈灸経/足臂十一脈灸経

鍼灸甲乙経現代語訳 (素問霊枢を抜粋し、明堂を加え、経穴を考証した現代に残る最古の経穴古典書)
 鍼灸甲乙経 1/鍼灸甲乙経 2/鍼灸甲乙経 3/鍼灸甲乙経 4/鍼灸甲乙経 5/鍼灸甲乙経 6/鍼灸甲乙経 7 /鍼灸甲乙経 8 /鍼灸甲乙経 9 /
 鍼灸資生経現代語訳トップ(宋代に王執中が自己の治療体験をまとめた書)

原文
 鍼灸大全
 鍼灸聚英
 鍼灸神書(瓊瑶神書)宋代の本で、瓊瑶真人が書いたと言われる刺鍼手法と治療法の本。
 黄帝蝦蟇経 月と人間気血の関係を図入りで解説した本。
 鍼灸大成 一巻から十巻まで原文を全文公開。大陸と台湾の本を複数照合し、妥当な文字を選択しています。
 十四経発揮
 神灸経綸
 鍼灸問対
 医学原始
 医林改錯
 瀕胡脈学
 雑病源


黄帝蝦蟇経 黄帝内経の素問に「月が満月なら補してはならず」などとありますが、こうした月と人間気血の関係は、こうだと解説した本。後世で子午流注など、時間取穴法の基になった本。月には蝦蟇ガエルがいて、月を食べるために欠けてくると信じられていた時代。太陽には三本足の烏が住んでいました。昔は九個の太陽があり、弓で射落とすと烏に変わったという伝説があります。

 ここで力試しとして、資生経と同じく宋代の鍼灸神書をアップしてみました。中級鍼灸師として、初級者のために古典を翻訳するポイントを、簡単に手ほどきします。といっても語言学院で私もチョット習っただけですが。まず文頭に「何」とか疑問詞が来るときは疑問文になるのですが、とかも往々にして疑問詞の一つとなることが多いのです。は「それ」という代名詞で、のほうがよく使われています。私の文では、本当の蓋と該当の該を区別しやすくするため、代名詞の場合は、あまり使われることのない「」という文字で統一しています。だけど一般には、蓋とあった場合、本当の「蓋」とする場合もあるし、「それ」と訳さねばならない場合もあると言うことです。ほとんどは後者ですが。そして也、哉、焉、乎、耶などが来ると文末になります。またを耶の替わりに使って、文末の「。」の替わりにもしているので、それは耳と訳してはなりません。また焉と間違えて、などが使われていることがあります。その原因は、原稿は紙に書かれていたはずですが、それを木版に彫る職人は文字が読めなかった、あるいは当該字を知らなかったなどの理由で、似たような文字を彫ってしまったためでしょう。日本の出版社は、かなり校正がしっかりしているので、あまり考えられないことなのですが、中国の書物、特に鍼灸関係の専門書は、そうした誤字が多く、中国大陸で出版された書籍が台湾で出版されると、誤字が増えてメチャクチャになるという減少が多々あります。力試し教材は、そうした誤字をある程度修正しています。または、出発点を表しているので、従×や自×とあれば、×から始まるという意味になります。仮定を表し、「若〜」とあれば、もし〜ならばと訳します。若に年齢が若いという意味はありません。
 中級鍼灸師の私は、漢日辞典として主に大修館書店の『中日大辞典愛知大学中日大辞典編纂処編を使っています。だいたい9000円ぐらいです。ただし現代中国語を勉強する方には不向きです。現代中国語なら小学館の中日辞典がお勧めです(5000円ぐらい)。しかし、それは現代語の収録が多く、現代では死語となった古典を読むには、愛知大学のでなければなりません。
 次に病名が判らない場合が多いので、中国の病名辞典が必要です。現在もっとも入手しやすいのは、人民衛生出版社の『簡明中医病名辞典』でしょう。また鍼灸神書は治療手技の本なので、盤とか震とかの刺鍼操作の本もなければ、その漢字が意味する手法が理解できないでしょう。
 以上の3冊があれば、鍼灸神書は翻訳できるはずです。これだけのアドバイスがあれば、学生や新米鍼灸師も古典が読めるはずです。

 私の資生経は、現在では入手できない辞書なども使って翻訳しているので、それとまったく同レベルは無理ですが、80%は同じ訳ができるはずです。もちろん、いくら辞書があってもインターネットがあっても検索できない病名や症状もありますので、それには膨大な量の医学古書から探す必要があります。そこまでゆくと上級レベルの鍼灸師になってしまいますので、中級鍼灸師としては何冊かの辞書を調べるまでとしておきます。言い訳がましいですが、私は現代鍼灸書の翻訳者で、古典鍼灸書はこの程度です。ですから病名を調べると言っても、厚い辞書は中医辞書一冊のみで、あとは薄い辞書を6冊か、も少し、鍼灸辞書を3冊程度です。現代鍼灸書の翻訳ならば、も少し辞書も多く、ホルモン名でも物質名でも、薬品名でも症候群でも、だいたい調べることはできます。この分野では上級でないかと自負していますが。まあ古典については門外漢が手慰みでやったこと。上級鍼灸師の観賞に耐えられるものとは思っておりません。しかしあまりにもインターネットも世間にも古書の解説書が少ないため、門外漢が学生の助けにやった手慰みと大目に見て下さい。
 私のような下手っぴいに任せておけないという先輩鍼灸師により、次々と古典書が読みやすくて判りやすい現代語で読めるようになることを期待します。私は、どちらかというと古典より現代鍼灸書を訳したいのですから。

 鍼灸は伝統医学だと言われます。しかし日本では、古典の鍼灸書籍といえば『霊枢経』と『難経』のほかは、ほとんど目にすることができません。それ以外の古典は、個人に死蔵されて公開されませんでした。これは学生が、伝統医学としての鍼灸を学ぶうえで大きな障害となっています。
 そこで私は入手しにくい古典を現代訳を付けて公開し、伝統医学を学ぶ後輩諸君に提供します。
 現代の鍼灸書籍にも、いろいろと良書があり、個人的には三十冊以上は翻訳していますが、これらには著作権の壁があり、出版社を通さねば公開することができません。
 そこで経脈の原点である帛書霊枢・経脈篇を現代語訳で公開しました。これには著作権なんかないもんね。50年過ぎてるし。

 ここでは鍼灸書のうち、初めて自分の鍼灸経験を公開した王執中の『鍼灸資生経』をアップしています。
 私は『鍼灸資生経』をアップしましたが、とても手が足りません。ほかにも『黄帝蝦蟇経』、『鍼灸甲乙経』、『黄帝内経明堂』、『黄帝内経太素』、『黄帝明堂灸経』、『銅人穴鍼灸図経』、『扁鵲神応鍼灸玉龍経』、『十四経発揮』、『鍼灸大全』、『鍼灸聚英』、『鍼灸問対』、『鍼灸大成』、『神灸経綸』『鍼灸集成』、『鍼灸逢源』、『医学原始』など名書があります。
 なかでも『帛書』は最初の経脈書として、『霊枢経』は最初に経脈を明らかにした書として、『鍼灸甲乙経』は最初に経穴を確定した書として、『鍼灸資生経』は最初に自らの治療経験を表した書として、『鍼灸大成』は鍼灸をまとめ上げ、自らのカルテ集を整理し、『黄帝内経』に対する問題点を提示した書として重要と考えています。まあ、いずれにしても最初の『霊枢経』と最後の『鍼灸大成』は、最がつくだけに最重要でしょう。ただ『鍼灸資生経』は、ある雑誌で、誰も訳していないと書かれており、そのなりの良書としてかなり引用されているため取り上げました。

 ただ私の本領は、現代鍼灸書を読むことです。現代鍼灸は常に進歩し続け、治療効果や適応症を増やし続けていることは、誰の目にも明白です。私の夢は、日本の鍼灸師は、誰でも中国の鍼灸書籍が読め、対等に話し合うことができるようになり、日本人も世界最先端の鍼灸治療が受けられ、中国や台湾へ鍼灸治療を受けに行く患者さんがいなくなることです(なんだ、私のやっている事って、中国に敵対することだったのか)。それには世界で最多数の鍼灸関係書籍を発行している中国語が読めなければなりません。
 中国の鍼灸師は『素問』『霊枢』『難経』『鍼灸大成』の四冊を暗記していると言われます(本当かどうか知らないけど沙灘の先生は、自分は暗記していると言った)。最初の3冊は翻訳されている。あまり『難経』は鍼灸の書籍とは思えないが、少し鍼のことが掲載されている。そこで私は、この4冊は現代語訳をしないことにした。もっと上級の人がすべきだ。だから大成は、自分だけで読む。中国には何冊か解説書があることだし。
 この4冊の古典素養を身につけ、資生経や甲乙経のようなプラスαを身にれば、中国人と話をしても馬鹿にされることはないので、現代鍼灸についても対等にディスカッションできる。そうなれば世界最先端の中国鍼灸を身につけることができる(中国人ならば誰でも世界最先端の鍼灸技術を持っているわけではないので騙されないように。そうした人は、むしろ少数。以上の鍼灸4冊を知らない人は騙されやすい。向こうだって、この4冊は読んでいるというフリをすれば、一目置くので騙されずに済む)。
 では、どうやって一目置かせるか?上級鍼灸師ならば、実力を発揮すれば尊敬される。私のような中級鍼灸師でも、対等近く見られるから騙そうとはしない。問題は鍼灸学生と新米鍼灸師。まず日本語訳でいいから『素問』『霊枢』『難経』を読んで、その解釈を借りること。ようするに人のふんどしで相撲をとることだ。だいたいのうろ覚え内容で良い。そうすれば、おかしな解釈だが、一応は読どるなと思って一目置く。問題は『鍼灸大成』だ。やはり素霊の内容だから問題ないが、大成の特徴的な事は、実用書なので鍼灸歌賦の内容が非常に多いことだ。まあ鍼灸聚英なども鍼灸歌賦が多いので、まあ巻二と巻三だけは読んでおいた方がよい。時間取穴法については、「あれは非実用的だ」とか言っておけば、中国には同じ考えの人も多いので、わざわざ外人の貴方と論争しようとする中国人は、まずいないだろう。そのうえで私の訳した資生経や甲乙経、それに帛書などの内容をふまえて、経絡の原型はこうだったとか、甲乙経の経穴編には、どうも現在の流注とは違うようだとか、資生経の背兪穴の取穴法は、どうも0.5寸ほど勘違いしているのではないかと、少しだけパラリパラリとばらまけば、貴方を学生や新米鍼灸師と見破るのは非常に困難なはずだ。
 しかし鍼灸が急激に進歩しているのは、古典鍼灸の分野ではなく現代鍼灸だ。それには現代中国語を中国語をマスターしなければならない。
 私の翻訳した張仁の『難病の鍼灸治療』や『急病の鍼灸治療』を実践された方は、現代中国鍼灸の驚異的な治療効果を目にしておられるだろう。最先端の鍼灸技術をものにするには、現代の鍼灸書が読めねばならない。簡単なのは留学することだ。しかし、なかなか暇がない。駅前留学で中国語をマスターできればよいが、地方ではノバがない。
 もっとも安く上がる勉強方法は、NHKのテレビとラジオの中国語講座だ。地道にやっていれば中級になって、鍼灸書ぐらい読めるだろう。次には東方書店が出している昔の中国語教材。新中国語。内容は決して新ではないが使えなくはない。あとは少し劣るけど、北京放送局の中国語講座。
 鍼灸師には、どうしても中国語の素養が必要だ。情報量に差が出てくる。かたや東京のど真ん中とすれば、かたや田舎のど真ん中ぐらいの差が出る。
 


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