腰痛治療は北京堂へ

膝痛
淺野 周  最終更新 2001年2月5日

膝痛の鍼治療
 前回は、フクラハギや向こう脛の痛む坐骨神経痛について、話しました。今回は、もう少し上がって膝についてです。

 膝痛は、坐骨神経痛や腰痛に次いで多い病気です。それに対する鍼治療というと、膝眼、鶴頂、曲泉などが知られています。
 果たしてどのツボが効果があるのでしょうか?今回も北京堂式発想によって、考えてゆきます。

膝の構造
 膝の痛む人で、水が溜っている人があります。水が溜るということは、膝関節の軟骨が傷付いているため、軟骨が擦れ合わないように膝上下の骨を離そうとする、身体の防衛反応なのです。フライドチキンを食べると判りますが、膝関節に少し油のような滑液(関節液)が入っています。そして黄色っぽい骨先端の関節部分には、白くて透明な軟骨がついていて、それを繋ぐ袋のようなものがあります。この軟骨は、上下の骨が摩擦しないように防ぐ役割をしていて、滑液はグリースの役割をしています。
 
 蝶番を考えてください。安い蝶番は、鉄と鉄とが直接触れ合っているのでうごきにくいのですが、高い蝶番は鉄と鉄の間に白くて硬いプラスチックが挾まっています。そのプラスチックが鉄どうしの摩擦を防いでいるのです。
 膝の軟骨も、この蝶番のプラスチックと同じ役割をしています。軟骨どうしの摩擦は、フィギャアスケートの氷よりも、はるかに摩擦が少ないと言われています。つまりグリースがあって、軟骨どうしが触れ合って摩擦してさえいれば、関節はスムーズに動くのです。

 一般に、膝が悪いというとレントゲンを思い起こしますが、レントゲンでは膝の内部は見えません。骨以外の組織は透けてしまうため、膝に隙間があって、上の骨が中空に浮いているように見えます。ですが実際には、その間に軟骨が挾まっていて、それがレントゲンで透けているだけですから、空中に浮かんでいるのではないのです。
 軟骨が見えないのに、なぜレントゲンで膝が悪いと判断できるのでしょう。上下の骨の間隔を見て判断しているのです。
 もし上の骨面が、下の骨面と平行でなく、内側や外側が狭くなっていたとします。すると狭くなった部分の軟骨は、擦り減ったため間隔が狭くなっているのではないかと考えられます。

関節鏡
 しかし想像ですので、実際には孔を穿けて覗かねば本当のことは判りません。切らない方法としては、やはりCTやMRIで内部を透視することができます。「孔を穿けて覗く」といっても、関節鏡を差し込める小さな穴を穿けるだけで、関節を包んでいる袋をバッサリ切るわけではないのですから、たいしたことはありません。バッサリ切ると、どうしても切り口から関節液が染みだしてしまいます。
 こうした関節鏡を使う方法は、関節内部を覗けるだけでなく、別の用途もあります。それは軟骨面がガサガサになると、関節鼠と言って、軟骨が剥がれて関節の袋(次から関節包と呼びます)に浮遊します。それが関節に挾まって痛む場合があるのですが、そうしたネズミがいたときに、その関節鏡から吸い出してしまうことができます。

 この関節鏡は、中国では膝鏡と呼び、日本のお医者さんが膝関節を診るため、胃カメラを入れたのが始まりとあります。胃カメラのような太いものが関節に入ったのかしら? と思いますが、そう書いてあります。
 いろいろな太さの関節鏡という注射針のようなもので覗き、もしネズミが見つかれば吸い出し、軟骨がガサガサにヒビ割れていれば、別に穴を穿けてメスを突っ込み、表面を削って滑らかにし、摩擦を弱める。軟骨がめくれて、舌のような弁となっていれば、別の穴から鋏を入れて切り取ってしまう、そうした手術をします。なぜならヒビがあると、上下の軟骨がヒビで引っ掛かり、ますますヒビ割れが深くなってしまうからです。弁もほっておくと、それが引っ掛かって、ますますメクレてしまいます。

 こうした軟骨の損傷は、鍼で治すことができません。膝を90度に曲げて、膝眼穴へ鍼を刺入すれば膝関節腔へ刺入でき、十字靭帯に当たると言いますが、もともと膝関節には潤滑油である関節液しか流れておらず、血が流れていないので、鍼を刺入したからといって良くなるはずがありません。
 それより関節腔が感染するとやっかいです。感染した場合、ふつうは抗生物質を飲みますが、抗生物質は血に溶けて感染部へ運ばれるから効果を発揮できるのです。ですから血の流れていない関節腔は治しにくいのです。無菌操作では皮膚にヨードチンキを塗り、それをアルコール綿花で拭き取る消毒をしますが、一般の鍼灸院では、そこまでの消毒をしません。病院ですら、膝に注射針を刺していると結構感染します。関節内刺鍼は如何なものでしょうか?

 鍼灸院は、レントゲンも関節鏡も、CTもMRIも持ってないのに、どうやって軟骨がヒビ割れていることが判るんだ?
  当然の疑問です。

聴診器で関節内の音を聴く
 それには聴診器を使います。スベスベした軟骨どうしならば、擦り合わせてもボリボリとかガサガサという音は聞こえません。しかしヒビ割れていれば引っ掛かるので、膝を曲げ伸ばしするたびにボキン、ボキンという音がします。だから膝の皿に聴診器を当て、膝を曲げ伸ばししてもらえば、そのたびにボキン、ボキンと音がします。音がすれば軟骨が傷ついていると判りますので、さらなる検査が必要です。
 音の程度が軽ければ、鍼治療を続けながら、膝の潤滑油であるヒアルロン酸を注射しに病院へ行ってもらいます。ひどければ関節鏡手術を勧めます。
 よく人工関節はどうかと言われますが、作り物ですから長期の摩擦によって擦り減り、関節がダメになるため再手術が必要になります。それに人工関節にしても正座はできません。私としては自前の身体が一番と思いますので、人工関節はどうかと思います。

足底挿板療法
 だんだんと内側の軟骨が擦り減ってO脚になると、膝の内側に体重がかかるので、ますます内側の軟骨が擦り減ってO脚がひどくなります。
 ここで単純に考えれば、内側ばかりの軟骨に圧力がかかって擦れているのだから、外側の遊んでいる軟骨にも体重を支えさせてやればO脚が進行しないのではないかという発想が出てきます。つまり外側が高くなった斜面を歩かせれば、外側に体重がかかって内側の負担が減る。こうゆう発想でできたのが、外側の盛り上がった靴の底敷です。足底板といいますが、これを使えば斜めになった谷底を歩いているようなものですから、健康な外側の軟骨で歩いて、内側の傷付いた軟骨は使わないため、ある程度の効果が望めます。また、X脚(エックスきゃく)では、外側の軟骨がすり減っているので、ちょうど逆の治療になります。

膝痛の原因
 この前の坐骨神経痛は、ヘルニアという壁があるため100%の患者さんには満足してもらえませんでした。今回は膝痛ですので鍼灸で満足できる効果があります。
 これまで述べてきたのは、膝の軟骨の話でした。しかし軟骨が神経を圧迫しているかというと違います。現実に膝内側の軟骨が擦り減って、完全なO脚になってしまった人でも、現在は普通に歩ける患者さんもいます。だから軟骨や十字靱帯の損傷は病院で、膝痛は鍼灸でと住み分けが重要です。

 なぜ膝の軟骨に弁ができたりヒビが入ったり、擦り減るのでしょう? 高齢になれば潤滑油である滑液が減って、摩擦のため擦り減るだろうと思いましたが、ではなぜ男性は膝の痛む人が少なく、女性に多いかという疑問にぶち当たりました。高齢になっても膝の痛まない人もあります。また右足だけ痛くて左足はなんともないという人もいます。右足と左足の年齢が違うとでもいうのでしょうか?
 中国の朱漢章が書いた『小針刀療法』を読んでみると「軟骨は上下で歯の凹凸のようになっており、上下がピッタリと噛み合う。だがズレると、例えば山と山がぶつかり、谷と谷がぶつかれば、山と山がぶつかった部分には全体重がかかるので、圧力に耐え切れずに軟骨が壊死し、谷と谷はそのままで平坦になる」と書いてあります。だから関節がはずれた時には、早く整復しなければならないという話です。
 「これだ!」と思いました。膝の軟骨も上から平均に圧力が加われば問題がないのだけれど、内側にのみ圧力がかかったり、外側にのみ圧力がかかったり、前側のみ圧力がかかれば、そこの軟骨は壊死して狭くなるのではなかろうか?だから真っ直だった膝も、内側が狭くなったり、外側が狭くなったりするのではなかろうか?
 わたしの母も膝が悪く、夜になると体重がかかるわけでもないのに膝が疼きます。リュウマチとも診断されましたがリュウマトイド因子はなく、特に変形もありません。
 母親を観察していて奇妙なことに気が付きました。それは階段を下りるときに、ドスン、ドスンという音をたてることです。そうしたときは歩くときも、ドタン、ドタンと音を立てます。
 ふつう歩くときはスタスタ歩くのに、なんでドスン、ドスンと音がするんだろう?よくみると歩き方も違います。なんだか竹馬に乗っているような歩き方をしていました。

 摩擦には強い軟骨も、衝撃にはひとたまりもありません。表面がツルツルしている軟骨は、摩擦には強いのですが、もろいため衝撃には弱いのです。だからドスンドスン歩かれると、全体重が急激に加わるため軟骨は損傷します。そこで静かに歩くよう注意しましたが直りません。

 「病は、まず原因を求める」という鍼灸の原則に従い、どうしてドスドス歩くのか原因を知りたくて、スボンを脱がせてみました。すると膝内側で、膝のすぐ上にある内側広筋がなくなっていました。私の足を見ると膝上内側は盛り上がっているのに、母親は凹んでいるのです。これがひどくなって腿の筋肉がなくなったものを、中国では「鶴膝風」と呼びます。膝は骨ばかりでもともと筋肉がないのですが、大腿の筋肉がなくなって膝の上下が細くなり、フラミンゴの足のようになったものを「鶴膝風」と呼ぶのです。これは関節が大きくなったわけではなく、膝の上下が細くなったために膝が大きくなったように見えているだけなのです。
 触ってみると膝の皿に、緑豆のようなシコリがあって、それを押すと痛むのです。だいたい鶴頂という奇穴の部位でした。そして本人は膝の皿が痛むと思っていたのですが、鍼灸診断の原則に従って、痛む部位の上下にある筋肉を押してみると、触れないほど痛がります。こうした経絡に沿って、というより痛む部位の上下を広く押してみることは、切経と呼ばれる重要な鍼灸の診察方法なのです。
 とにかく、本人が痛みを訴えるのは膝だが、その上にある大腿の筋肉は、固くなって小さくなり、触ることもできないほど敏感になっていることが判りました。
 ここで何故、膝の内側が擦り減ったり、外側が擦り減ったりするのか考えてみましょう。そこには強い圧力がかかっているから擦り減るのでしょう。
 なぜ関節面にヒビや弁ができるのか考えてみました。衝撃があるから割れるのでしょう。

 膝の痛む人は、膝だけでなく、大腿や下腿の筋肉が弱っていました。歩行を考えると、後ろへ蹴った瞬間に、次の足で着地しますが、その着地した足は、膝を少し曲げています。自然に抜き足、差し足、忍び足になっているので、あまり音もせず、着地した瞬間の衝撃が吸収され、そのあとで膝を伸ばしてゆくのです。
 ところが膝の悪い人は、着地した瞬間に膝が伸びています。つまり膝の伸びた棒状態の足で着地するから竹馬のような歩行になるのです。当然、着地した瞬間、膝は着地の衝撃が加わって叩きつけられます。それが何度も繰り返されれば、膝の軟骨はガサガサにヒビ割れ、剥がれて弁ができます。
 なぜ膝を伸ばして着地するか?それは大腿前面にある大腿四頭筋の力が弱いため、曲げて着地した膝を体重を支えながら、よう真っ直に伸ばさんわけですわ。だから最初から伸ばしたままで着地する。だからドスンドスン音を立てるし、その衝撃で膝の上下がぶつかり合う。ぶつかりあえば脆い軟骨ですからヒビ割れる。こうして膝が悪くなってゆくのです。
 それじゃあ大腿四頭筋を鍛え、膝を曲げて着地しても、伸ばせるだけの筋力を着ければよいじゃあないかとなります。とうぜん私の患者にも大腿四頭筋を鍛える運動をさせようとしますが、断られます。理由は「病院でも同じ運動をさせられました。しかも重りを着けて。一日何回も」。そこで腿の筋肉を触ってみます。膝内側から内腿の筋肉を触ると、悲鳴を上げます。そこの筋肉が引きつっていて痛いのです。こんな筋肉では運動なんかできません。筋肉が引きつって血管を締めつけているため、運動すれば酸素不足になって痙攣がひどくなってしまいます。

 まとめますと、膝の内側や外側の軟骨が擦り減るのは、その部分に加重がかかるからではないか? 軟骨にヒビが入るのは、ぶつかり合う衝撃のためではないか?と思います。
 まず膝の内側や外側の加重は、体重が変わらないのだから大腿の筋肉が引っ張っているために発生しているのではないかと考えます。
 前にも述べたとおり、膝の皿(膝蓋骨)で鶴頂あたりに小豆粒のようなシコリがあって痛む人は、大腿四頭筋が引きつって痛んでいました。これらの筋肉は、すべて膝蓋骨に付着していて、椅子から立ち上がるなど、膝を伸ばす作用をしています。もしこれが弱れば、体重に逆らって椅子から立ち上がることができず、手で何かに掴まって支えなければなりません。

膝の内側が痛む場合
 次に膝の内側が痛む人を調べますと、薄筋、大内転筋、内側広筋、縫工筋など、大腿内側の筋肉が痙攣しているため、大腿内側に触れると痛むのです。しかし普段、本人が痛みを感じるのは内転筋群ではなく、やはり大腿四頭筋で膝蓋骨に痛みを感じるのと同じく、それらの筋肉が脛骨に付着している部分、つまり膝下内側の骨である曲泉穴に痛みが出るのです。恐らく内転筋群が引っ張るため、それらと骨の結合部に痛みが出るのでしょう。そうした筋肉群が強く引っ張るため、軟骨の内側に圧力がかかり、擦り減ってO脚となるのでしょう。それらの筋肉の付着部が曲泉や陰陵泉になるのです。痛みの出ている部分は引っ張られて痛むのだから、その実体は内転筋群の痙攣にあると判断しました。
 ですが痛む部分へ鍼を刺して欲しい患者さんを納得させるためには、疼痛部位(よくマッチの頭ぐらいのシコリが触れます)に刺鍼しなければなりません。私はよく円皮針とか皮内針を入れます。そして皮内針が痛くなれば自分で取り外してもらいます。しかし、その痛みの実体は、疼痛部分が原因なのではなく内転筋群なのです。大腿の筋肉は相当ブ厚いので、やはり3寸鍼を大腿内側に沿って直刺します。膝の近くでは筋肉が薄くなるので、それに合わせて寸三とかの短い鍼を使います。とうぜん最初に押してみて、圧痛のある筋肉にマジックで膝まで線を引いてから刺鍼します。まあ「1穴を取りたければ5穴を取れ、1経を取りたければ3経を取れ」でしたか? 竇漢卿のような名人でも、なかなか正確に的中できなかったのですから、私などは腎経、脾経、肝経と、上から下まで5本ずつ、3列で計15本を絨毯爆撃します。そんなに深鍼して大丈夫か? 内臓に当たらないかですって!
 大丈夫です。大腿には内臓などナイゾーなんてね。とうぜん腫れぼったく締めつけるような得気があります。その感覚がないようならば、筋肉は引きつっていません。刺入したあとは、締めつける感じが消えるまで置鍼します。縫工筋にも刺鍼すると、腫れぼったい得気があったりします。不思議なことに、固くなって痛んでいる筋肉には、中国製の太くてザラザラした鍼(現在の中国製鍼は、鍼全体がなめらかです)をしても出血しません。筋肉がある程度柔らかくなり、血が流れるようになると内出血するようになります。恐らく筋肉が、血管と神経を締め付けているため血が流れず、太い鍼をしても出血しないと思われます。その証拠に触ってみると大腿が冷たいのですが、体温は血液が運んでくるのです。

 最初に一番多い膝内側の痛むケースを紹介しましたが、膝蓋の上にある鶴頂が痛む場合もあります。そこにもマッチの頭ぐらいのシコリがありますので、それにも円皮鍼や皮内鍼を入れます。そして胃経を目指して、といっても固くなっている筋肉に向けてですが、大腿四頭筋群に鍼を刺入してゆきます。それも按圧して膝蓋骨の上部から大腿前面で痛む部分に刺鍼します。大腿神経は腰部L1~L4から出ます。

膝の外側が痛む場合
 次に膝外側が痛む場合です。この場合は外側大腿皮神経に痛みのあることが多いのです。この神経は腰部のL2~L3ぐらいから出て、身体の外側を行きますが、腰方形筋を貫いていることがあります。そして中小臀筋を通って大腿外側に分布します。ですから筋肉としては腰方形筋と中小臀筋がポイントになります。坐骨神経痛以外は、腰の上部なので圧力も小さく、あまりヘルニアは考えられません。これに効率よく刺入するには、痛い側を上向きにして、側臥位で腰のL2から下を刺入します。そして中小臀筋にも竇漢卿の教え通り3本ぐらいずつ刺入します。患者さんを納得させるために大腿外側への刺鍼を加えても良いでしょう。

 L2は腎臓があって危険なんじゃないかって?
 いい質問です。これは腰方形筋に刺入しているのですが、この筋は第12肋骨と腸骨に付着しています。表面には脊柱起立筋があり、奥は大腰筋です。2cmぐらいの薄い筋肉ですので横から背骨に向かって刺入するわけです。その深部に腎臓があるわけですから、長い刺入をしても深部には達していないわけです。

痛くて正座ができない場合
 次に正座ができない患者さん。正座しようとすると、膝頭が痛くて正座ができません。考えられる原因として、次のようなものが考えられます。
①正座途中の膝の角度が、ちょうど亀裂の入った軟骨にさしかかる。
②引きつった大腿四頭筋が正座するために引っ張られて痛む。
③膝頭が痛むような気がするが、実は膝の裏側の筋肉が突っ張っており、正座しようとすると突っ張った筋肉が大腿後側で押さえつけられて痛む。
 これを一つ一つ消去してゆきます。①聴診器で聞けば判ります。②は大腿四頭筋を押さえてみれば判ります。③は気が付きにくいので、もっとも判りにくいのですが、膝窩やフクラハギを圧迫してみれば、痛むかどうかが判ります。
 ③のケースが最も多いようです。膝窩には足底筋と膝窩筋があるので、それに痛みがあれば刺鍼します。2寸もあれば十分でしょう。以外とヒラメ筋や後脛骨筋が痙攣していることもあるので、それには3寸鍼を曲泉や陰谷から陽陵泉へ透刺します。まあ経穴にこだわらず、痙攣した筋肉を緩めるために刺鍼してみてください。

膝眼穴による治療
 最後に残った膝眼ですが、これは朱漢章の『小針刀療法』に、膝蓋靭帯の損傷という項目があり、膝が伸ばしにくく、ビッコをひき、階段を昇れるが下りられないとあります。そのあとに脂肪パッド損傷があって、同じような症状と原因があります。つまり①膝関節の使い痛みがある。②膝蓋骨の下に痛みがある。膝蓋靭帯は大腿四頭筋の収縮で痛み、脂肪パッドの損傷では膝がまっすぐ伸ばせない。
 こうした捻挫などによる膝蓋靭帯、および膝蓋靭帯の内部にあって膝蓋骨を安定させている脂肪パッドが痛む場合、膝眼あたりに圧痛が出ます。それには膝をまっすぐに伸ばして、膝眼辺りに2寸鍼を刺入するとズシンとした痛みがあり、痛みが消えるまで置鍼しておくと治ります。この場合は、膝蓋靭帯の下にある脂肪パッドへ刺入するのが目的で、膝関節腔内の十字靭帯を狙っているわけではないのです。

 以上が北京堂のおこなっている膝痛の治療方法です。
 いえいえ、肝心なことを忘れていました。膝に平均して体重がかかっていれば、膝関節が痛むことはないというのが私の主張ですが、では膝の負担に片寄りを与えているのは何かということになります。重複しますが、膝の痛む人は、ほとんどに坐骨神経痛があります。大腰筋による坐骨神経痛では、身体が前屈みになるため膝の前面に体重がかかります。また足が痛むために力が入らず、どうしても竹馬のような膝を伸ばした歩き方になってしまいます。だから膝が痛む患者さんは、まず坐骨神経痛の有無を調べることが肝要です。特に膝が夜間に痛む人は、たいてい筋肉性の坐骨神経痛があります。また、これまで述べたきたとおり、大腿に分布する神経は、すべて腰のL1より臀部にかけて出ています。ですから、これまで述べてきたことが標治法とすれば、腰を治すことは本治法になります。坐骨神経痛がなければ3回ぐらいで膝の痛みなどは治ってしまいます。それがあるから長くかかるのです。
 大腿の筋肉は、トレーニングして筋力をつけなければなりませんが、足が痛むうちは動かしたくなく、また痙攣した筋肉を動かしてもかえって痛くなったりします。まず筋肉を鍼で緩め、血液が循環するようにして、それから少しずつ足のトレーニングしてゆけばよいのです。最初の痛みがひどいうちは、キネシオテープなどを筋肉の上へ貼ってカバーもしています。

運動療法
 どんな運動がよいかと聞かれるのですが、腿の上げ下げ運動を勧めています。これは大腿四頭筋を鍛えるだけでなく、大腰筋も動かすので、大腰筋への血液循環がよくなって、ギックリ腰が起きにくくなるのです。内転筋群を鍛えるには、どうしたらよいか聞いてきた人もありました。内転筋は股を閉じる筋肉だから、膝にボールのような弾力性のあるものを挟んで締めつけたらどうでしょうか? と答えました。金持ちの患者さんですが「ボールを買うのは高いので、枕を股の間に挟んで締めつける運動をしています。おかげで痛みがなくなりました」と言われます。もちろん鍼で筋肉をゆるめてから、負担をかけないように少しずつリハビリしてもらっています。硬直した筋肉を運動させても、血が流れてきませんから。
 また膝の中には血が流れていないので、そのままでは栄養されません。正座をすると膝蓋骨が膝に押しつけられ、関節包の液体が追い出されるのです。そして伸ばせば外から新しい液体が流入して栄養されるのです。ですから多少の正座はプラスになります。
 こうして痛んでいた膝は、周りの筋肉が支え、内部は栄養されて、りっぱな膝になったのでした。そして前屈みになっていた姿勢も直り、痛みも消えましたが、歪んだO脚は直りませんでした。現在の技術では、高齢になると軟骨を増殖させることができないのです。こうして痛みの消えた膝を持たすには、ぎっくり腰になったら一発で治してくれる鍼屋さんに行くこと。仰向けになって足をまっすぐに伸ばし、足を上げ下げする。これは大腿四頭筋だけでなく大腰筋も鍛えられるので、ぎっくり腰の予防にもなります。それから内転筋群を鍛えるための枕はさみ運動。そうした運動によって、膝の痛みからオサラバできます。ただ、最初から回数を多くやらないように。そんなことをすれば弱った筋肉がこむら返りを起こし、ますます痛みが増加します。最初は一日10回、眠る前に行い、一日ごとに1回ずつ増やしてゆきます。もし近くに良い鍼灸院がなく、膝の痛みに膝しか打ってくれなかったら、自分で膝の裏をマッサージしたり、腿をマッサージしたり、股から下を湯に浸したりして、まず下肢の筋肉をほぐしてから運動します。こうしたマッサージだけでも、結構効果があります。

 これまでの内容をまとめると、膝の痛みには坐骨神経痛の有無を疑ってかかれということ。夜間痛があれば、まず大腰筋へ置鍼する。膝から音がしたら、まずヒアルロン注射、それでダメなら関節鏡で手術する。
 ①膝の筋肉は、内側が痛めば梨状筋と半腱半膜様筋を緩める。②外側が痛めば中小臀筋と大腿筋膜張筋を緩める。③膝の皿が痛めば、中間広筋と大腿直筋を緩める。④膝眼に痛みがあれば、膝眼を取って脂肪パッドへ刺鍼する。⑤正座できなければ、足底筋とヒラメ筋、そして大腰筋を緩める。
 家庭療法ならば、局部には円皮鍼が有効。直接灸でも効く。それと膝の上下、裏を押してみて、痛むところにマッサージ。凝りが解れたら少しずつ運動。
 上に挙げた内転筋群ですが、稀に大腿内側へ三寸鍼を刺入しているのにかからわず、まったく緩まない人があります。そうした人は、うつ伏せにして、三寸鍼を使って、内閉鎖筋、下双子筋、外閉鎖筋を緩めると、大腿の内転筋群が緩みます。


 では膝関節の治療は終わりにして、私のアホ話を一席。

経脈を筋肉と考える根拠は?
 ところで経脈を筋肉と考える根拠について再び。確かに昔は経脈を血管と考え、刺鍼法も浅刺して血を出すことが主な手法でした。また病を候うために脈を診て、病があるのに脈には異常がないとか、病があって反対の脈に異常が現れているなどに基づいて、繆刺したり巨刺したことからも、血脈と経脈は同じものだったと判ります。ところが『素問・生気通天論』には「筋脈和同」とあります。まあ、これは筋肉と血脈が調和しているとも解釈できますが、次の「風客淫気、精之亡、邪傷肝也。因而飽食、筋脈横解、腸澼澼為痔」の「筋脈横解」は、筋肉が緩んでしまうとしか解釈できず、筋と脈が緩むとは解釈できません。そのあとにも「味過於辛、筋脈沮弛、精神之央」とありますが、「筋脈沮弛」は筋肉が壊れたり緩むと解釈されています。また後世では「筋脈が冷えで引きつる」とか「筋脈が熱で緩む」とかの表現が出てきますが、これは血脈のことではありません。脈には血脈と筋脈があり、筋脈は筋肉のことだと判ります。

 この前は経絡感伝現象から、その伝導が筋肉と一致することを述べましたが、今回は操作方法から考えてみます。

 前に「気至病所」と何度も書きましたが、『霊枢・九鍼十二原』は「刺之要、気至而有効。効之信、若風之吹雲、明乎若見蒼天、刺之道畢矣」と解説しています。つまり「刺鍼のポイントは、気が至って有効である。その時の効果は信頼すべきもので、雲が風に吹き流されて、青空が見えて明るくなるが如し。刺鍼の道は、それに尽きる」という意味です。
 この鍼の聖書に書かれた「気至病所」を求めて、後世では様々な技法が現れました。
 ここで問題とするのは、循法、捏法、敲撃法、按圧法、切法です。切法は、刺入するときの手法で、鍼感を伝導させるためのものではないと専門家から苦情が出そうですが、確かに一般的にはそうです。しかし切法には3つあります。最初のは皮膚に爪で印を付けるもの、切皮のとき爪に沿わせて刺入するもの、そして刺鍼した経脈に沿わせて爪を押しつけるものです。循法は経脈に沿わせて指先でなぞるもの、捏法は経脈に沿わせて指先で揉む方法、敲撃法は経脈に沿わせて指先で叩打する方法、按圧法は経脈に沿わせて指先で指圧するものです。これらの方法は、いずれも「経脈に沿って」と言っていますが、実は筋肉線維に沿って刺激しているのです。ほかにも阻断法、鍼向法、接力法、語言誘導法、複合法があります。経脈の伝導性は双方向ですが、伝わらせたくない側の経脈を圧迫し、反対側の経脈に鍼感を伝導させるのが阻断法です。これも反対側の筋線維を圧迫して響きを伝わらせないようにしているともいえますが、神経の伝導も双方向性なので、どちらとも言えません。でも血管でないことは確かです。鍼向法は、倒鍼法とも呼ばれ、得気したあと鍼尖を皮下に引き上げ、鍼感を伝わらせたい方向に鍼尖を向ける方法です。これは語言誘導法と同じくイメージ法と思われます。接力法は、前に解説したとおり、穴位や関節などで鍼感が止まったとき、鍼をリレーさせる方法です。語言誘導法は、催眠誘導のようなイメージ法の一種と思われます。昔はありませんでした。複合法は解説するまでもなく、以上の方法を組み合わせたものです。
 揉んだり叩いたりしても血管や神経に変化が起きるとは思えませんから、これは筋肉に対して操作していると言えます。

 また三刺補瀉法という三才に分けた刺鍼操作があります。これは刺入部位を、天部、人部、地部の三層に分けて、その層ごとに運鍼操作する方法です。『内経』に「一刺で陽邪が出て、再刺で陰邪が出て、三刺で穀気に至る。穀気に至れば鍼を止める。穀気に至れば……」後は省略しますが、まあ穀気に至れば補虚瀉実されて邪は去り、まだ陰陽は平衡になってないといえど、必ず病気が治ると続きます。一刺の陽邪は皮膚を刺し、衛気に刺鍼している。再刺の陰邪は表層の静脈を刺し、栄血に刺鍼している。三刺で穀気を刺して病が癒えるとありますが、これは筋肉でしょう。骨ではありません。現実の刺鍼操作は、皮膚、表層の静脈、筋肉の部分で操作するのではなく、複数の筋肉が重なっている厚い穴位で分層操作します。ですから二つの筋肉しか重なっていなければ二層に分けて操作しますし、一つの薄い筋肉しかない部位では分層操作をしません。こうした現実の毫鍼操作は、鍼を筋肉に作用させていることを物語っています。

 以上が刺鍼操作から経脈は筋肉であるとする根拠です。

 恐らく筋膜へ鍼尖が達したとき、筋肉は侵害刺激のため収縮して神経や血管を圧迫し、怠い、腫れぼったい、締めつけられるなどの感覚が発生すると思われます。それは金属の鍼が筋膜に接触することで筋膜の性質が変わり、筋肉内部のカルシウムイオンが膜の内外で移動した結果、筋肉が弛緩するのではないかと考えています。そこで北京堂は、締めつける力の強い横紋筋が血管や神経を締めつけることが痛みの原因と考え、内臓の平滑筋は締めつける力が弱いので血管や神経を締めつけないから影響がないと思っています。それで内臓には刺鍼しない、というより鍼灸の聖書には内臓へ刺すと、動じたり死ぬとあるので、いかに臓器を避けて横紋筋だけに刺鍼するか研究しています。シコリは筋肉線維が収縮したものと考えていますので、当然それが目標になります。

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