全訳中医基礎理論
科学技術出版社シリーズ(近日刊を含めて):全訳中医基礎理論、全訳経絡学、兪穴学、全訳鍼灸治療学、全訳刺法灸法学。
中医内科学は東洋学術出版社が版権を持っており、2000年頃に翻訳しましたが出版できません。鍼灸治療学と刺法灸法学は、2000年に原稿を渡し、2004年に鍼灸治療学を校正しました。
-大学中医学教本-    全訳 全訳中医基礎理論(上海科学技術出版社)        翻訳 淺野周
主編 印会河 / 副主編 張伯訥     編委 李徳新/孟憲民/張珍玉/劉承才/銭承輝/張新春/劉燕池
発行所 (株)たにぐち書店(℡03-3980-5536 Fax03-3590-3630)
定価 3150円A5判 351頁(ISBN4-925181-21-1 C3247)。amazon.comで買えます。アベマリアさんの書評つきです。
もよりの書店でお求めになるか、直接たにぐち書店にご注文ください。たにぐち書店発行、浅野周訳、全訳中医基礎理論です。

 推薦文
※中国の鍼灸大学教科書、中医基礎理論を翻訳したものです!兪穴学を翻訳した今村氏が「我々の習った教科書をすべて翻訳しよう」と計画し、たにぐち書店社長の協力を得て、出版にこぎつけました。
 当初は、中医基礎が戴毅、今村氏の一年先輩である私が経絡学、本人が兪穴学を担当という計画でしたが、中国人の戴毅が日本語に翻訳するのは無理と思い、彼の分は私が翻訳して、私は彼に確認だけをしてもらうことになりました。
 中国で現在も使われている教科書で、ほとんどの大学がこの教科書を使っているため、中国へ留学したとき教科書を日本語で読め、授業について行きやすいのです。私が留学していたときに、こんな本があれば苦労もなかったのに。
 本書は、弁証を中国式に弁証と辨証に分けて訳し、哲学的な弁証理論(ヘーゲルなどの哲学理論)と症状を分類する辨証法(中医学の診断分類法)を混同しないよう配慮しています。
 全訳版ということで『素問』、『霊枢』も含めた明代の引用文など、すべて現代語訳をつけました。
 訳者が鍼灸師なので鍼灸畑の人間が漢方薬の中医基礎を訳したものなど信用ならんと思われる方もあるかもしれません。その点は、原書の編集委員、劉燕池先生の直弟子である北京中医葯大学中医系出身の日本語もできる戴毅先生(現、兵庫医科大学勤務)が監修されていますので安心できると思います。

●本書の特徴
  中国では1985年に鍼灸学科が新設されましたが、そのときに教科書も改正されました。主な改正点は以下の通りです。
  ①3版教材では、外淫六邪に内生五邪が併記されており、外淫六邪と内生五邪の違いが判りにくかったのですが、5版教材では内生五邪を病因病機として別の項にまとめ、混同しないように工夫しています。
  ②3版教材では、寒邪の直中は記載されいなかったのですが、新版の5版教材では不備を改正し、寒邪が外部から脾陽を直接損傷するケースを解説しています。これによって虚寒証の下痢だけでなく、寒実証の下痢も説明できるようになりました。
 教師用教科書である遼寧科学技術出版社・李徳新の『実用中医基礎学』P199、外寒と内寒の違いの項には、四行目に「過食生冷、寒邪直中脾胃則腹冷痛、嘔吐清水、大便稀薄、如寒瀉(生ものや冷たいものを食べ過ぎれば、寒邪が脾胃に直中し、胃が冷たく痛んで、胃液を嘔吐し、便が水っぽくなって寒瀉のようになる)」。故曰「諸病水液、澄澈清冷、皆属于寒」(《素問・至真要大論》)(だから素問・至真要大論は、水液清冷の病気を、すべて寒に属するといっている)と、より詳しく解説されています。

●このシリーズを刊行したことの意義
  いやあビックリしました。中国の教科書など1985年に刊行されましたから、我々が翻訳する前に、とっくに誰かが翻訳しているもんだと思っていました。
  東洋学術から教科書を抜粋してまとめた本があるから、今さら教科書を全訳しても意味がないという元留学生の意見もありましたが、やはり内容100%と内容70%では、たとえば上に記載した寒邪直中のように、70%の方には記載されていないことも書かれており、違うのではないかと思います。今後は上海科技の教科書を今村3冊、私6冊、合計9冊と出版してゆきますが、私も残り4冊、今村氏も3冊で、それ以上の教科書シリーズは予定しておりません。やはり校正は大変だ。
  しかし、たにぐちの社長は、教科書シリーズを全巻発刊したい意向で、我々が鍼灸関係以外の教科書は翻訳しないというと(中医内科学は何なんだ?)、ひどくガックリしてました。でも餅は餅屋、漢方薬は漢方薬屋ということで、棲み分けが必要です。私も、素霊や難、甲乙や資生、聚英や大成などはともかく、鍼灸の何倍も書籍量のある漢方まで手を出すわけには参りません。中医内科学は、神戸の鍼灸師のお姐ちゃんが谷口書店へ話を持ち込み、私が「それは売れるんじゃあ、あーりませんか」と太鼓判を押した手前、そのお姐ちゃんが中医内科学の翻訳について、まったく音信不通となり(生きてるかホレ)、社長に出版ゴーをそそのかした私が責任をとることになりました。それに辨証関係の本でもあるし、鍼灸治療学の副読本として参考になるかなとも思ったからです。
  しかし、このような煮え湯を飲まされたので、私は今後、教科書シリーズをやりたいという人をよほどでない限り推薦はしません。残りの中薬学、方剤学、内経講義、傷寒論講義、金匱要略講義、温病学、中医各家学説、中薬鑑定学、中薬炮製学、中薬薬剤学など、漢方薬を勉強している方が翻訳原稿を持ち込めば、たぶん90%ぐらいの確率で出版してもらえると思います。社長も煮え湯を飲まされているので、翻訳したいという話だけで原稿もなしではOKしないでしょう。
  東洋学術からの教科書抜粋が約6000円ですが、それは兪穴学と経絡学の二冊を一緒にしているので、分ければ一冊ずつということで3000円になっています。この両書は同じ本であり、片方は翻訳の読みにくさを払拭するために抜粋して日本語で編集し直したといい(翻訳して判らないところは省いたという意地の悪い声もあり)、我々は翻訳が読みにくいものであっても情報を落とさないことにこだわったものです。東洋学術とたにぐちの両書を読み比べてみると、理解が深まることでしょう。二倍の値段がかかるので、やる人はいないだろうけど。
  ただし私は、自分の訳が既成の本に引きずられないため、敢えて人のものは読まないことにしています。自分だったら、ここに書かれていることを、どのように日本語で表現するのだろう、どう説明したら理解してもらえるだろうということにこだわって訳しています。だから原文を読める人が参照したら、原文に簡単に書かれていることを、こいつは譬えを使ったりして、なんと長々とまどろっこしい説明をしているのだろうと思うでしょう。
  むかし超訳というのがありましたが、それぞれ翻訳スタイルというのがあります。原文をそのままに訳す人、ロミオとジュリエットを太郎と花子に訳す人。
  私の翻訳スタイルは解説翻訳です。例えば、いま校正している刺法灸法学は、耳穴の名前が最新のもので書いてありますが、私の訳にかかると耳中(膈)とか外鼻(鼻、飢点)などのように旧名を加えてしまいます。だから腎上腺とか内分泌などの旧名耳穴も()して書かれています。色を赤で検証しましょう。

 この本の誤りについて、東京都の名越×子様より指摘がありました。本文98ページ「肺者、相伝之官。治節出焉(肺は大伝の官である…)」このが正しいです。相傅之官、大傅。相傅は補助の意。まことにおっしゃるとおり、私の不徳の致すところであります。ゴメンちゃい。字が似てたので、間違えました。


目次
第1章 緒論
 1・1 中医学理論体系の形成と発展
 1・2 中医学理論体系の唯物弁証観
 1・2・1唯物観
1・2・2弁証観
 1・3 中医学の特徴
 1・3・1整体概念
 1・3・2辨証論治
 1・4 『中医基礎理論』の内容   
 第2章 陰陽五行
 2・1 陰陽説
 2・1・1陰陽説の内容
 2・1・2中医学における陰陽説の応用
 2・2 五行説
 2・2・1五行説の内容
 2・2・2中医学における五行説の応用
 第3章 蔵象
 3・1 五臓
 3・1・1心
 3・1・2肺
 3・1・3脾
 3・1・4肝
 3・1・5腎
 3・2 六腑
 3・2・1胆
 3・2・2胃
 3・2・3小腸
 3・2・4大腸
 3・2・5膀胱
 3・2・6三焦
 3・3奇恒の府
 3・3・1脳
 3・3・2女子胞
 3・4 臓腑どうしの関係
 3・4・1臓どうしの関係
 3・4・2六腑どうしの関係
 3・4・3五臓と六腑の関係
 第4章 気、血、津液
 4・1 気
 4・1・1気の基本概念
 4・1・2気の生成
 4・1・3気の生理機能
 4・1・4気の運動と運動形式
 4・1・5気の分布と分類
 4・2 血
 4・2・1血の基本概念
 4・2・2血の生成
 4・2・3血の機能
 4・2・4血の運行 
 4・3津液
 4・3・1津液の基本概念
 4・3・2津液の生成と散布、排泄
 4・3・3津液の作用
 4・4 気、血、津液の相互関係
 4・4・1気と血の関係
 4・4・2気と津液の関係
 4・4・3血と津液の関係
第5章 経絡
 5・1 経絡の概念と経絡系統
 5・1・1経絡の概念
 5・1・2経絡系統の構成
 5・2 十二経脈
 5・2・1名称
 5・2・2走向、交接、分布、表裏関係と流注順序
 5・2・3循行部位
 5・3 奇経八脈
 5・3・1督脈
 5・3・2任脈
  
 5・3・3衝脈
 5・3・4帯脈
 5・3・5陰脈と陽
 5・3・6陰維脈と陽維脈
 5・4 経別、別絡、経筋、皮部
 5・4・1経別
 5・4・2別絡(絡脈)
 5・4・3経筋
 5・4・4皮部
 5・5 経絡の生理と経絡学説の応用
 5・5・1経絡の生理機能
 5・5・2経絡学説の応用
 第6章 病因と発病
 6・1 病因
 6・1・1六淫
 6・1・2癘気
 6・1・3内傷七情
 6・1・4飲食と労逸
 6・1・5外傷
 6・1・6痰飲と
 6・2 発病のメカニズム
 6・2・1邪正と発病
 6・2・2内外環境と発病
 第7章 病機
 7・1 邪正の盛衰
 7・1・1邪正の盛衰と虚実
 7・1・2邪正の盛衰と転帰
 7・2 陰陽失調
 7・2・1陰陽の偏勝
 7・2・2陰陽の偏衰
 7・2・3陰陽互損
 7・2・4陰陽格拒
 7・2・5陰陽亡失
 7・3 気血の異常
 7・3・1気の失調
 7・3・2血の異常
 7・3・3気と血の互根互用の失調
 7・4 津液代謝の異常
 7・4・1津液不足
 7・4・2津液の散布と排泄に対する障害
 7・4・3津液と気血の機能失調
 7・5 「五邪」の内生
 7・5・1風気内動
 7・5・2寒従中生
 7・5・3湿濁内生
 7・5・4津傷化燥
 7・5・5火熱内生
 7・6 経絡の病機
 7・6・1経絡を流れる気血の偏盛と偏衰
 7・6・2経絡を流れる気血の逆乱
 7・6・3経絡を流れる気血の運行が悪い
 7・6・4経絡を流れる気血の衰竭
 7・7 臓腑の病機
 7・7・1五臓の陰陽と気血の失調
 7・7・2六腑の機能障害
 7・7・3奇恒の腑の機能障害
 第8章 予防と治療の原則
 8・1 予防
 8・1・1未病先防
 8・1・2病気の進行を防ぐ
 8・2 治則
 8・2・1治病求本
 8・2・2扶正と
 8・2・3陰陽の調整
 8・2・4臓腑機能の調整
 8・2・5気治関係の調理
 8・2・6因時、因地、因人制宜
● 本文内容抜粋  P287~288

・4・2 津液の散布と排泄に対する障害
 津液の散布(輸布)と排泄は、津液代謝の重要なカギである。津液の散布が障害されることと排泄が障害されることは違うが、どちらも結果的には体内に津液が異常に停滞し、水湿や痰飲などの病理生成物ができる。
 津液の散布障害とは、津液が全身各部へ正常に運ばれないことで、体内での津液循環が緩慢になったり、体内の一部で津液が停滞し、津液が代謝されないため水湿が内生したり痰や飲ができたりする。津液の散布が障害される原因は非常に多い。それは肺の宣発と粛降、脾の運化と散精、肝の疏泄と条達、三焦の通調水道など、様々な臓腑がいろいろな面で関わっているからである。たとえば、肺が宣散と粛降をしなければ、痰が肺を塞ぐ。脾が健運(
健全な運化)をしなければ、水湿の運化と散精機能が減退し、津液の循環が緩慢になり、湿ができて痰が作られる。肝が疏泄しないと気機がスムーズに流れず、気が滞って津液も停滞し、痰や水となる。三焦水道がスムーズに通らなければ、津液の還流が障害されるだけでなく津液の排泄にも影響する。津液の散布障害には以上のような原因があるが、なかでも重要なのは脾の運化障害である。それで『素問・至真要大論』に「諸湿腫満、皆属於脾(湿気、水腫、脹満などの症状は、脾に原因がある)」とある。
 津液の排泄障害では、津液を汗と尿に変える機能が減退して水液が溜まれば、皮下に溢れて水腫(
浮腫)となる。津液を汗にするのは肺の宣発作用である。津液を尿にするのは腎の蒸留気化(蒸騰気化)の作用である。だから肺と腎の働きが弱まると、どちらが原因でも水液が貯溜して浮腫となる。ただし津液を排泄する役割は、主に腎の蒸留気化が担っている。つまり肺が宣発できなくて理が塞がり、代謝された津液を汗として皮膚から排泄できなくとも、尿として体外に排泄できる。それを『霊枢・五津液別』は「天寒、則理閉、気湿不行、水下留於膀胱、則為溺与気(寒冷な天気では、毛穴が閉じて汗が出ず、陽気が閉じこめられて水分が皮膚から蒸発できず、水液は下がって膀胱に溜まり、尿となって気とともに排出される)」と言っている。しかし腎の蒸留気化する機能が減退すると、尿の生成と排泄が障害され、汗だけでは水液代謝を支え切れなくなり、水湿が皮下に氾濫して浮腫となる。それを『素問・水熱穴論』は「腎者、胃之関也。関門不利、故聚水、而従其類也(腎は胃の関である。関門が悪ければ、水が停滞して様々な水病が発生する)」という。
 津液の散布障害と排泄障害は、それぞれ別物ではあるが、両者は相互に影響を与え、互いに原因となって水湿を内生させ、痰飲を作って様々な病気を発生させる。

7・4・3 津液と気血の機能失調
 すでに述べたように津液の生成、散布と排泄は、臓腑の気化作用と気の昇降出入によっておこなわれる。気は津液を媒体として循行し、それによって津液は全身の上下内外に運ばれる。津液や血は
ブラウン運動の粒子のようなもので、気は血と結合したり、津液に溶け込むことによって一体となり、それらを運ぶことができる。津液が十分ならば、血脈も充実して血液がスムーズに循環する。だから津液と気血の働きが調和していないと、身体の生理機能は正常に活動できない。もし津液と気血の調和が崩れると、次のような病理変化が発生する。
 1) 津停気滞
 津停気滞とは、津液代謝の障害によって水湿や痰飲が貯溜し、そのために気機が阻まれて滞る病理状態である。
水飲が肺を阻むと(水飲阻肺)、肺気が塞がれて(壅滞)宣降できず、胸満したり咳が出て、ゼイゼイ喘いで横たわれない。水飲が心を冷やすと(水飲凌心)心気を遮り、心陽が抑えられるので心悸や心痛がする。水飲が中焦に停滞すると脾胃の気機が遮られ、清気は昇らず濁気が降りなくなり、頭昏困倦(頭がフラフラして怠い)、腹脹満(胃が脹る)、納化呆滞(食欲不振)が起こる。水飲が四肢に停滞すると経脈が滞るので、肢体が重くて脹痛するなどの症状が現れる。

 とまあ何の変哲もない文ですが、気は血を動かすという文を、ブラウン運動に喩えて視覚化し、イメージが湧きやすくしたというところがコンピュータ翻訳では味わえないところだと思うので、この部分を抜粋しました。もし文字通りに翻訳したのならば、赤の部分は私が加えたものなので消えてしまいます。     2002年に北京中医葯大学に行ったとき、私の中医基礎を使って勉強しているという姐ちゃんがおり、えらく感激しました。
 私の翻訳は、この赤を見ても判るように、調べたり、要らんことを書いていたりしています。それは私が留学生と受けた授業で、呉老師がしてくれた説明や、本科生と受けた授業の解説を翻訳中に思い出して付け加えたものです。でもそれは+αであり、別に本文を省いているのではありません。五版教材は、もっとも長く使われた教材です。言い換えれば、もっとも優秀な教材でしょう。中医では、気が血や水を運ぶという概念が判りにくいと思い、いろんな表現で解説しています。

※本文は出版社の了承を得て転載しています。
北京堂鍼灸ホーム