鍼灸Q&A
  No3 北京景山公園 回答者:淺 野 周 

2003年~2006年ごろの質問
おととし煙草の煙を吸い過ぎたせいで、ウイルス性の髄膜炎になってしまい左脳、小脳が萎縮しました。さらに視神経まで萎縮したのです。最近ネットで何か回復させる方法はないかと探したのが鍼灸です。あるHPには視神経炎が回復するとあったのですが、実際治るのか教えていただきたい。
煙草を吸い過ぎたせいで、ウイルス性の髄膜炎になって、左脳と小脳が萎縮したということですが、煙草とウイルスは直接関係がないので、たぶん煙草の吸い過ぎで免疫力が低下して、髄膜炎になったと思われます。髄膜は脊髄を包む膜ですが、脳膜炎と言ったほうが判りやすいかもしれません。
 さても恐ろしい病気になったことです。
 それについては、私の翻訳書である『難病の鍼灸治療』に視神経萎縮が記載されているので、それからの引用かもしれません。
 私の好きな眼治療の本、『常見眼病針刺療』曹仁方著、人民衛生出版社1990年刊、定価2.5元によると、視神経脊髄炎と視神経炎、視神経萎縮が記載されています。
 その91ページを引用します。

九、視神経脊髄炎
 本病は中医眼科では暴盲と呼ばれる。
 本病は脊髄炎の炎症性の病変によって引き起こされる。その中でも視神経乳頭の炎症は視神経炎の8%を占める。急性脊髄炎の症例中80%は視神経炎を前駆症状としており、両目とも障害される。臨床では視神経炎のため視神経乳頭は徐々に白っぽく変色し、視神経萎縮となる。視力は急性炎症期に黒くかすみ、内科や小児科で治療すれば全身の脊髄炎症の症状は日増しに良くなっていったり全快したりするが、視力だけは依然として回復しない。そのため全身症状の治療と同時に、早期から障害を受けた眼に鍼治療をおこない、視力を早目に回復させておかなければならない。
【病因病機】
 腎は髄之海なので、腎陰が虧損すれば、外邪が足の太陽膀胱経や足の少陰腎経に侵入する。引き続いて虚に乗じて髄に入り込み、上に昇って目系に行き、この病気を起こす。
【辨証】
 始めは外感症状があり、引き続いて足の運動麻痺や尿失禁が起こり、ひどいものは呼吸困難となる。それと同時に両目が暴盲(突然の失明)となり、瞳神が中度に散大し、対光反射も消失する。眼底の望診で視神経乳頭の色が褪せているのが見えるが、黄斑区での異常はみられない。
【治療】
 陽明の気血を通調させ、肝腎を助ける。
 処方:睛明、球後、合谷、三陰交。
【穴の講釈】
 合谷は多気多血の陽明経の原穴で全身の気血を調理する。球後は視神経萎縮治療の要穴である。三陰交は脾経の経穴で、肝、腎両経との交会穴である。陽明は太陰と表裏であり、太陰の脾は全身に津液を散布して運動麻痺を起こした肢体を滋養する。そのためこの経穴で肝腎を滋養する。
【症例紹介】
 子供の患者は発病が急激であり、病変がすぐに蔓延する。一日の内に足の小指の痛みが、上に向かって昇って行き、足の運動麻痺を起こし、膀胱括約筋が麻痺する(尿失禁)。脊髄の損傷は、その水平位置で相当ひどく、呼吸筋が軽い麻痺を起こし、呼吸困難となったので気管を開こうとした。視神経にまで昇り、瞳孔は散大し、対光反射は消失する。視力は両目が黒くかすんでいる。発病の勢いが急であり、足の太陽膀胱経の至陰穴から経絡に沿って上行し、引き続いて足の運動麻痺となり、膀胱が失司し「暴盲」となった。風寒湿の邪に侵犯されているので、寒痺と証をたてる。
 張××・女・5歳・1980年3月22日初診。
 主訴:両目が見えなくなって一週間目。
 病歴:一週間前、患者は左足小指の痛みを訴え、二時間後に両足の力がなくなって立てなくなった。体温は正常。すぐに病院につれて行き診察すると、尿の失禁があった。11時間後に両足の運動麻痺となり、瞳孔が散大した。天津こども病院で「視神経脊髄炎」と診断され、両目は光を感じなくなった。脊髄の損傷された水平面でひどく、呼吸筋麻痺を引き起こしたので気管を切開する準備をし、危険な状態になったことを告げた。一週間の集中治療の結果、危険な状態はなくなったので、天津眼科医院に鍼治療を受けにきた。
 検査:視力は両目とも失明している。角膜は正常で瞳孔は中度に散大していて、対光反射は消失。中間質はきれいである。眼底は両目の視神経乳頭の色がうすくなっているが、境界がはっきりしている。網膜血管は細く中心窩の光反射は残っている。
 診断:視神経脊髄炎、両目の視神経萎縮。
 中医診断:足の太陽の寒痺、両目の暴盲。
 辨証:本病は左足の小指の痛みから始まっているが、そこは足太陽の経気が発するところであり、引き続いて下肢の運動麻痺が始まった。また膀胱が失司したことにより尿の失禁が始まった。これは足の太陽の寒痺である。そのため気血が昇って目に注ぐことができなくなり、目が栄養されなくなって暴盲になったものである。
 治療原則:温経通絡、通調気血。
 取穴:睛明、球後、合谷、三陰交。
 観察経過:以上の経穴を使い、一日1回、10回を1クールとして三ケ月治療した(1980年3月22日~1980年7月16日)。その結果視力は全く見えなかったものが0.2まで回復した。眼底の状態はほとんど前と同じである。
 再調査:(1983年4月11日)治療を終了して三年後では、視力は右目0.1、左目0.1。
【体験】
 本症例では危篤状態を脱してから病状が安定している。こうした状況になってから患者の瞳孔が散大し、視力がなくなっていることに注意がゆく。そのため視神経炎の後期に入っており、視神経乳頭の色はすでに褪せて萎縮してしまっている。視力は発病して、すぐになくなっているが、こうした状態になっていても治療しなければならない。鍼治療をしたあと視力はある程度回復した。もし治療の時期がもっと遅れていたら、患者は一生後悔しなければならない。

 96ページの引用です。

 十一、視神経炎
 本病は中医眼科では視瞻昏渺や視瞻有色と呼ばれる。
 視神経は眼球の後部と眼球内部に分布していて、視神経の炎症性の病変、および脳内の占位性病変(腫瘍)などによる圧迫、外傷による頭蓋骨陥没の圧迫、慢性の病巣(鼻炎、蓄 膿症、中耳炎)や虫歯による感染、また急性の伝染病や薬物や重金属の中毒などによって も起こる。眼球後部の視神経の炎症を視神経炎、眼球内部の視神経が炎症を起こしたものを視神経乳頭炎と呼ぶ。ここで紹介するのは眼球内部の視神経乳頭炎の内容である。
【病因病機】
 外感の毒邪が経脉に深く入り、それに沿って上り目系を侵犯したものである。また転んだり打ったりして頭や目に傷を受けても起こる。
【辨証】
 外観は、何かに覆われたような翳とか障の色の変化はなく、はっきりした痛みもない。瞳神の大きさも正常である。全体が暗く、ぼーっとしてはっきりしないものを「視瞻昏渺」と呼び、目の前に様々な大きさの赤黄色や緑色の影があるものを「視瞻有色」と呼ぶ。もし長いこと治療しなければ、人の顔もはっきり判別できなくなり、明るさも判らなくなって重症の青盲(視神経萎縮)に発展する。眼底所見は、病気の初期には視神経乳頭が充血して腫れ、境界線が混濁して曖昧になり、出血斑や白色斑があって、視神経乳頭や網膜の動脈が細く、静脈は拡張して折れ曲がっている。黄斑部の網膜は星芒状にシワがよっている。ほっておいて治療する機会を失うと、視神経乳頭の色が徐々に褪せて萎縮する。
【治療】
 清熱解毒、調気益損、疏肝和営。
 処方:合谷、睛明、球後、承泣。
【穴の講釈】
 合谷は手の陽明経の原穴で、頭目の蘊熱を流し去り、熱を清め毒を解く作用がある。睛明は五脉の会であり、眼部にある五脉の気血を調えて、気を調えて損失を補う。球後は経外奇穴であり、視神経炎や視神経萎縮を治療する要穴である。承泣は陽明胃経の経穴で、胃脉は面頬を循行し、頭面の気血を調える。また脾と胃は互いに表裏であり、脾は運化を司るため、湿を動かし腫れを消す。
【漢方薬】
 逍遥散を加減する。
 柴胡9g、当帰9g、白芍12g、白朮9g、茯苓12g、車前子9g、甘草4g、生地15~30g、石斛9g、蒲公英12~15g、鮮姜1片、薄荷3gを煎じ、これを一日2回に分けて飲む。
【処方意義】
 当帰、芍薬は血を育て陰をしまう働きがあり、また肝の通りをよくして営を和ませる作用がある。白朮は中焦を和ませ脾土を補う。柴胡は陽を昇らせ熱を散らす、邪熱を清めて調える意味があり、白芍と一緒に使って肝を安定させる作用がある。茯苓と車前子、生地は熱を清めて湿を排出し、水を滲ませ水腫を引かせる作用がある。生姜は胃を暖めて痰を取り去り、中焦を調整し塞がりを取り除く。薄荷は頭目をはっきりさせて風を取り除き、熱を散らす作用がある。石斛は陰を育て津を生じる。蒲公英には熱を清めて解毒する働きがある。甘草は脾を強くして中焦を和ませる。

 十二、視神経萎縮
 本病は中医眼科では青盲と呼ぶ。
 視神経萎縮は青盲に属する疾患である。それは視瞻昏渺や視瞻有色が手遅れになったことによって発展し、起きたものである。青盲、視瞻昏渺、視瞻有色は、慢性的な眼球内部の疾患で、それらに共通した特徴は、視力や視野の変化である。末期になれば視力が低下して視野も狭くなるが、瞳神(瞳孔)には何の異常もない。
【病因病機】
 肝腎不足、精血耗損、精気が上に昇って目を栄養しないなどの原因で、目に栄養がゆかなくなった。
 心営虧損、神気虚耗により、神光がなくなってしまった。
 飲食不節、労傷過度、脾気受損により、精微が生まれず、目に精が運べなくなった。
 内傷七情の鬱積や玄府の阻閉によって気血が滞り、精気が目に昇らなくなった。
 現代医学では、原発性視神経の病変、緑内障性、貧血性、糖尿病性、外傷性の視神経萎縮に分類する。
【辨証】
 青盲の特徴は、目の外観は正常で、瞳孔の大きさや色や、濁り具合も全く正常なのに、視力のみが徐々に減退し、視野も狭くなり、ひどくなれば失明する。
 初期には、物がぼんやり見えたりはっきりしないので「視瞻昏渺」と呼ぶ。目の前に陰影が見えるものもあり、青、緑、藍など様々な陰影の見えるものを「視瞻有色」と呼ぶ。長期に治療が適切でないと、ほとんどが重症な視神経萎縮となって失明する。青盲、視瞻昏渺、視瞻有色は、病気の各段階のプロセスに過ぎず、最後には視神経萎縮となる。
【治療】
 滋腎養肝、養心寧神、補中益気、疏肝解鬱。
 処方:腎兪、睛明、合谷、陽白、球後、承泣。
【穴の講釈】
 腎兪は腎気を大きく養うので、本を治療するために使う。睛明は、足太陽膀胱経の経穴で、腎と膀胱は表裏であり、五脉の交会するところなので、間接的に足太陽、手足陽明、陽脈、陰脉の脉気を通調させ、さらに腎兪と組み合わせることで、腎を滋養することができる。陽白は胆経の経穴で、足の少陽胆経の気を調えることができる。肝と胆は表裏なので、胆経の経穴を補えば肝を養うこともできる。合谷、承泣は陽明の経穴で気血を調え、脾を助け気に益する。合谷には精神を和ませ、鎮静させる働きもあり、胆経の経穴と組み合わせれば、肝を伸び伸びとさせ胆を調え、塞がりを取り除く効果がある。球後は視神経萎縮を治療する常用穴である。
【方法】
 睛明、球後は1.2~1.5寸に深刺し、承泣は1~1.2寸に刺鍼するが、小刻みに軽くゆっくりと旋捻しながら刺入する。もし鍼を刺入するとき、反発力や抵抗があれば、無理に捻鍼したり力を入れて刺入したりしてはならない。合谷、腎兪は提插の補法を使う。陽白は鍼尖を眼部に向け(斜刺)、切皮後横刺で2~5分刺入する。上の各経穴は20分置鍼する。1日一回で十回を1クールとする。
【頭皮鍼】
経験取穴:風池穴の上方一横指のところの盛り上がった部分に、後頭部の筋肉が少し隆起したところがあるが、それがこの穴である。2~3分直刺し、雀啄をしながら刺入する。そのあと、電気治療機を、その二つの経穴につないで通電する。電流の強さは患者自身で調節するが、患者が経穴の部分がピクピク動く(片側か両方)感じがすれば、余り強くしなくてもよい。パルス間隔は少し短めにして、20分置鍼する。
視区穴:頭皮鍼の視区(後頭隆起の直上4cmの、左右1cmのところ)、二鍼とも下に向けて刺入し、上と同じ方法で通電する。
【体験】
 天津眼科医院で1970年~1980年の十年間に251例、396眼について鍼治療をした観察記録では、
 頭皮鍼:視区、治療法は上と同じ。
 刺鍼穴・主穴:見陽、球後、見陽2 、睛明。配穴:腎兪、見陽5 、合谷、翳明。
 刺鍼して20分置鍼する。1日一回で十回を1クールとし、各クール間は2~3日休み、継続して治療する。
 分類:原発性125眼(31.6%)、続発性205眼(51.8%)、外傷性39眼(9.8%)で、そのほかは27眼(6.5%)だった。
 治療終了後の効果:著効24%、改善36.9%、無効39.1%で有効率は60.9%。
 長期にわたる観察結果:122眼で、期間は5.5±2年。最も長いものは8.6年、もっとも短いものは2年。再調査時の視力と初診のときの視力を比較すると著効26.7%、改善21.7%、無効51.6%で治療効果は、なお安定しているといえる。
病因別治療効果の比較 原発性 続発性 外傷性
著しい効果のあったもの  18.4% 26.3% 28.2%
以前よりよくなったもの  34.4% 36.1% 41.0%

 治療期間(平均刺鍼回数)は著効75.9回、改善54.9回、無効40.3回であった。
 以上の臨床観察の結果、視神経萎縮に対して鍼治療は満足できる効果があり、有効率は60.9%であった。長期にわたって治療したものでは、48.4%が治療時の効果を維持していた。病因によって比較すると、外傷性の視神経萎縮の効果がもっとも良く、その次が続発性視神経萎縮、原発性視神経萎縮はもっとも効果がない。治療時間では、一般的に50回ぐらい治療してから(5クール)、はっきりした治療効果が現れてくる。
【病例紹介】
 ここで紹介する二例は外傷の後、光が感じられる程度の状態となってしまった症例である。現地の病院による治療後の視力は、左右とも0.01で、それ以上視力の回復は望めないとされた患者である。我々の科にて、鍼と漢方薬で治療した結果、視力は0.1~0.2まで回復し、視野もほぼ正常になった。
症例一:自転車に乗ってぶつかった後、眼底出血を起こし、黄斑部分の浮腫を起こして、硝子体が混濁し、外傷性の斜視、視神経萎縮となった。眼底の螢光造影検査の結果は、右目の黄斑区の下方および上方にある一部の小さな血管が漏れていた。アルゴンレーザーで漏れを塞いだところ、蜂の巣状の畝となった。鍼と漢方薬で八ケ月半治療すると、黄斑の中心窩に光の反射が現れ、蜂の巣状の畝も徐々になくなり、視神経乳頭の鼻側にも新しい血管ができて吸収され、ERG(網膜電流図)の検査もほぼ正常に戻り、右目の視力も0.01から0.2に回復して、斜視もなくなり、角膜の映光点も正常の位置に戻った。
 梁×・女・39歳・幹部・1985年4月6日初診。
 主訴:右目の外傷の後視力が減退して11ケ月。
 病歴:患者は去年の五月、自転車にぶつけられ、顔の右側から地面に倒れた。右目は傷付いて腫れ、視力が減退した。××医学病院付属眼科に二回入院し、右目の硝子体を開く手術を働きかけられたが、手術に同意せず退院した。デキストラン、コエンザイムA、イノシン、漢方薬、ウロキナーゼ、ヨード製剤などで治療して、視力は0.02にまでなったが、その後はっきりとした進展はなかった。天津眼科医院に来て、眼底病専科で「視神経萎縮(右目捻挫以降)と診断され、黄斑の嚢状浮腫もあり、我々の科で鍼と漢方薬の治療を受けることになった。
 検査:外観は右目が軽度の外斜視、傷によるはっきりした腫れも濁りもない。右目の視力は0.01、眼球外部には異常無し。眼底:(右目)視神経乳頭の境界ははっきりしており、こめかみ側の色がややうすくなっている。鼻側には迂回した新しい血管ができており、黄斑区には網状の灰白質があって、ほぼ円形のうすいオレンジ色の斑がその間に散在している。中心窩の光反射は消失しており、網膜の動、静脈は正常に走り、下枝静脈のそばは灰色の鞘状を呈し、黄斑のこめかみ側の約2~3pdの外には、いくつかの出血斑が散在する。左目の視力は1.0で、外観は異常無し。眼底も正常。
 診断:右目の外傷性視神経萎縮、黄斑の嚢様水腫。
 中医診断:ぶつかったことによる外傷が目系に及び、眼内の絡脈が損傷されている。眼底の望診は視神経円板の色がうすくなっており、黄斑のこめかみ側の外側に出血斑が見られる。外観は濁りや影もなく、視力が減退している。
 治療原則:活血化 、舒通脉道、滋腎益損。
 処方:睛明と下睛明を交替で使う。球後、合谷、見陽、承泣。毎回2~3穴を選ぶ。1日一回おこない、20分置鍼する。
 漢方薬:桃仁9g、紅花12g、赤芍9g、川 9g、白芍12g、柴胡12g、地龍9g、鶏血藤12g、首烏12g、知母12g、黄柏12g、益母草12g、太子参12g、白朮12g、山薬12g、三七粉(送)6g 、黄12g、党参12g、茯苓12g、生地12g、沢瀉12gを煎じる。1日一服ずつ、二回に分けて飲む。
 観察経過:治療して5日目に眼底の螢光造影検査を行い、黄斑の嚢様水腫の原因をはっきりさせる。検査結果・右目の黄斑下方の網膜小血に末期の軽い滲みがある。上方では比較的軽く、黄斑の漏れは極めてわずかで、下枝の静脈は膨れ上がっているが末期である。
 漢方薬を20服飲み、鍼を20回打った。視力は右目が0.04で、眼底の視神経乳頭のこめかみ側の色は黄色。黄斑区の網膜状の、灰色体の間にはいくつかの円形の淡紅色の斑がある。中心窩の光反射はなくなり、元からあった出血斑は見られない。下方の網膜反射は散乱している(螢光造影の後、いつもアルゴンレーザーを使って、黄斑の下方および上方部分の小血管の漏れを封鎖するために照射していた)。
 二ケ月半の治療の後、右目の視力は0.06となる。眼底は黄斑区に蜂窩状の斑があり、上には灰色体組織がある。
 四ケ月半の治療後、右目の視力は0.08になる。眼底は視神経乳頭のこめかみ側は淡黄色、黄斑区は蜂窩状の斑がある。
 五ケ月の治療を終えて、右目の視力は0.08。眼底は視神経乳頭の鼻側の新しい血管は以前ほどはっきりしていない。黄斑区の蜂窩状も以前ほどはっきりしていない。上には網状の灰白質がある(眼底のアルゴンレーザーによる痕跡や、もともとあった視神経乳頭の新しい血管は明らかに吸収されている)。
 五ケ月半の治療で、ERGは、小さいエネルギーの光刺激でa波は正常範囲より大きいが、b波はみな正常範囲内にある。
 六ケ月の治療後、右目の視力は0.2。眼底の黄斑の中心窩に光反射が現れた。視野はこめかみ側で20°縮小、下は10°縮小。中心視野は正常。
 八ケ月の治療で、右目の視力は0.01から0.2になり、眼底は視神経乳頭の境界がはっきりして、色もうすく、血管も細く鞘状になっている。網膜には軽い水腫があり、黄斑のこめかみ側は星芒状の組織化斑があり、中心窩に光反射がみられる。現地に帰って治療し、病状が安定したので仕事に復帰する。
 症例二:患者は車のバックミラーでなぎ倒され、左目が真っ暗だったのが、光を感じる程度となった。××医学院付属病院で入院治療をし、左目の視力が0.02となった。我々の科で90回の鍼治療と、14服の漢方薬を使って治療したところ、左目の視力は0.03から0.1になり、視野もほぼ正常となった。
 曹××・男・26歳・農民・1983年8月30日初診。
 主訴:左目が外傷によって視力が低下して三ケ月半。
 病歴:患者は三ケ月前に、左目の目尻が車のバックミラーにぶつかり、その場で六時間意識不明となって倒れた。傷を負って七日後、頭部の包帯を外したとき、左目が光を感じるだけになったことが判り、××医学院付属病院の眼科で入院治療した。左目の視力は0.02。退院後、天津眼科医院で検査をしたところ「左目の外傷による視神経萎縮」と診断されたので、我々の科に回され、鍼と漢方薬で治療することになった。
 検査:右目の視力は1.0、外部は異常無し。左目の視力は0.03。額のこめかみ近くの眉 毛の皮膚に瘢痕が残っている。瞳孔の大きさは正常で、対光反射は鈍い。角膜と中間質は混濁している。眼底の所見は、視神経乳頭の境界ははっきりしており、色がうすく、境界から出ている血管は十一本、退色した部分の付近は凹んでいる。黄斑の色は暗く、中心窩の光反射は消失し、血管は細い。視野:右目はほぼ正常。左目は35°前後あるのみで、鼻側を向いている。こめかみ側の視野はほとんどなくなっており、20°残っている。
 診断:左目の外傷性視神経萎縮。
 中医診断:左目の青盲(捻挫による外傷)
 辨証:外傷によって目系を傷付け、左額とこめかみに傷痕が残っている。眼底の望診 では視神経乳頭の色がうすくなっており、網膜中心窩の光反射がない。外観は翳や障の様子はなく、視力のみがはっきりと減退している。
 治療原則:活血化 、舒通脉道。
 漢方薬の処方:通竅活血湯を加減する。(一日1剤)。
 処方:睛明、球後、合谷、太陽、瞳子 。一日1回で毎回2~3穴をグループから選び、20分置鍼する。
 観察経過:眼部を70回治療した後、頭皮鍼(視区)治療に変える。
 漢方薬を14服飲み、鍼治療を70回おこない、頭皮鍼20回おこなうと、左目の視力は0.1から0.3に回復し、左目の視野もほぼ正常となった。
【経験】
 視神経萎縮はいろいろな原因によって引き起こされる。外傷によって起こったものは視神経孔の骨折はないが圧迫している、視神経が切断しない程度の捻挫をしている等の者の内、傷を負う前の視力が正常で、各眼部組織の働きが正常なものに、鍼や漢方薬を使って治療すると効果が比較的良い。
 視神経萎縮の患者では、治療の前に必ず細かく眼圧や眼底検査を行い、緑内障患者を外しておく。もし緑内障で、視力がまだ正常ならば、できるだけ早く予防のための減圧手術をおこない、手術後さらに鍼治療をする。緑内障によって起こった視神経萎縮は、長期にわたる治療が必要なので、視神経の残った機能を保持し続けながら減圧術をして、その後で鍼治療を行えば効果はさらによい。
 それ以外にも視力低下の比較的速い患者では脳外科の検査をおこない、脳内の占位性の病変を排除したり、CTやMRIなどで正確に診断することが必要である。脳内の占位性病変により、視神経を圧迫しているものの治療効果は余り良くないので、手術によって腫瘤を摘除しなければならない。

 と書いてあります。以上のことから、早期治療が大切で、眼球後部、つまり脳と眼球を繋ぐ部分が問題となっており、いずれにしても最終的に視神経萎縮が起きると判ります。
 どれぐらいのパーセントで治るかという問題については、私の訳書である『難病の鍼灸治療』緑書房、張仁著に、視神経萎縮として書かれています。
 のちに張仁が出した『165種病症・最新針灸治療』には、レーザー照射と体鍼が増えていて、レーザーが25例、39眼を治療し、著効11眼、有効19眼、無効9眼で、有効率76.9%、体鍼が全部で110例、164眼を治療し、治癒12眼、著効71眼、有効39眼、無効42眼で、有効率74.4%。若くて早期に治療したものほど効果がよいとあります。
 穴位注射治療したのもあり、それは『難病の鍼灸治療』と同じ文で、脳炎の後遺症では効果が劣ると書かれています。
 他については、拙訳著『難病の鍼灸治療』の視神経萎縮を参照してください。
 それによると、少数ですが完治しているようです。

香港に在住しています。昨年、13歳(中学2年生)の娘が、やせ細り、秋に東京の国立がんセンターにて検査して、胃下垂と診断されました。身長152cm、体重30kgです。胃下垂ベルトを着用して、栄養剤を飲むというのが現在の治療です。東京で約2ヶ月間、週に2回、整体等に通いましたが、効果はありませんでした。
 
本人も努力しておりますが、なかなか体重が増えず、本来身体を作らねばならない成長期に、このような状態では将来非常に不安です。
 
本日、HPサイトを拝見し、すぐにでもお伺いしたいのですが、簡単に行けない状況です。(せめて、日本にいる時であれば)
 
こちらは香港、中医治療の本場ですよね。お知り合いの鍼灸士の方や、同じような治療をしてくださる方をご存知ないかと思い、メールいたいました。
 それとも、香港で鍼灸治療を受けるのは危険でしょうか? 鍼の使い回しとかありそうで、今まで考えたこともなかったのですが。
 もし香港の状況等ご存知でしたら、ご連絡いただけるとありがたいです。

胃下垂の質問ですが、6月22日に東京から胃下垂の姐ちゃんが来て、骨盤の中に胃が入っちゃってました。その一週間前に一回目の治療をしたのですが、それで胃は臍上3cmぐらいに上がり、なにせ本人が痛がって涙を流すことと、肋骨が協会の尖塔のような二等辺三角形をしているため、心窩部が狭くて胃の入る余裕がなく、二回目の治療では、それ以上は昇らなかったので、そこでストップしました。やはり胃が上がると症状が楽になったようですが、やはり吐かなければ胃が重いと本人が言うもので、だいたい十二指腸と同じぐらいの高さに胃があるのに、それはおかしいと思って、背中や頚を触ってみるとガチガチに固まっていました。東京という遠隔地でもあり、背や頚を治療するところは、どこでもあるのじゃないかということで、それ以上は胃も昇らなくなったしということで治療を打ち切り、東京で背や頚の治療所を捜すことになりました。
 胃下垂は、それだけでひどい症状があると思っている人も多いですが、確かにそれもありましょうが、背中や頚と胃の症状も大きく関係しています。
 彼女の場合は、胃が臍上10cmのところをキープしていましたので「吐かねばならないほどの症状はないはずだ」と思いました。
 実は、頚からは迷走神経が出ていて、心臓の裏を通って胃に分布していますので、頚の筋肉が凝り固まると、その迷走神経を圧迫して、心臓が締めつけられるような感覚が夜中に襲ってきたりします。私も、そうした症状になり、中国で油っ濃いものばかり食べて冠動脈が塞がったかなと思いましたが、いや朝鮮料理を主に食べていたから狭心症になるはずがないと調べ、どうやら頚が悪いことに気が付いて、後頚部に鍼をしたら、症状がスッと消えました。このように頚が悪くて迷走神経を圧迫し、胃や心臓の不快な症状が発生することもあります。
 また背中は、胸椎の間に交感神経節がありますが、交感神経と副交感神経は自律神経なので、内臓を支配していることは、誰でも知っています。背中の筋肉が凝り固まると、少し離れていますが自律神経に影響し、やはり胃の不快感が起きます。
 彼女の場合は、胃が臍以上に揚がったので、あとは頚と背中を治してみなければ、胃症状が消えるとも判りません。とにかく背と頚が悪く、それで胃に影響することがあり、悪い部位を治療してみなければ何とも言えません。ただ胃下垂を上げたら症状が軽くなったので、それも原因の一つではあったと思います。
 栄養剤は、胃下垂治療にはなりません。胃下垂ベルトなるものは、どういうものか拝見したことはありませんが、胃下垂は、胃が骨盤の中に入っており、底が恥骨ぐらいの辺りまで下がっています。ベルトでは骨盤に遮られて効果がないように思いますが、よほど特殊な構造をしているのでしょうか?
 鍼で胃を引き上げる場合は、まず排尿して膀胱を空にし、上から鍼を刺して胃壁に絡み着け、上部へ引っ張り上げます。その際は、右手で鍼を引っ張り上げながら、左手で恥骨辺りの胃弯部を押し上げるのですが、実際には胃と恥骨の間に手が入るほどの隙間がないので、鍼一本で引っ張り上げます。そして胃が上がり、恥骨と胃の間に手が入るようになれば、左手も手伝わせて押し上げます。
 6月に来た姐ちゃんも、この方法で上げましたが、実は一回目の治療では臍下3cmまでしか胃の底が上がりませんでした。それがなぜ帰る頃は臍上10cmまで上がったかと言いますと、手で押し上げていたからです。
 胃下垂治療は、刺鍼時間よりも休憩時間のほうが長くかかり、鍼をしているのは30分ぐらいかと思いますが、3時間ぐらい休み、その間は胃を下から押し上げています。
 だんだん押し上げ方がうまくなり、最初は鍼で上げた分しか移動しなかったのですが、そのうち手でも押し上げられるようになりました。でも正直言って、押し上げるのはしんどいです。それで恥骨と胃の間に手が入りさえすれば、あとは手で押し上げられるようです。ただし、これは腹筋の弱い女性に限ったことで、腹筋の強い男性では手で押し上げにくいので、やはり鍼がメインになります。
 恥骨から胃が離れれば間から手が入るので、一回の鍼治療だけやって恥骨から胃を引き上げ、それからは家族が胃を押し上げれば治るのではと思います。実際、鍼で胃を引き上げるのはしんどいです。だいたい骨盤から胃が出れば、あとは簡単に押し上げられます。
 実際、胃下垂の人はスラリとした美人が多いので、恥骨の辺りでゴチャゴチャやっているとセクハラになりかねません。
 私は、最初の骨盤から胃を出すまでは、鍼で引っ張り上げるのが最善と思います。
 整体でも恥骨と胃の間に手が入らないれないのでは、押し上げようがないと思います。
 また手さえ入れば、整体などに行かなくても、家族が押し上げてやればよいでしょう。

 まず治療には、レントゲンでバリウムを飲み、胃の位置を確定してから鍼をせねばなりません。腸に刺さると腹膜炎を起こす可能性があるのです。胃を触って確認することは、若い人では、ほとんどできません。少しお茶を飲むとポチャポチャ音がするので確認できるのですが。
 さて香港の状況ですが、昔の中国の状況は知っていますが、香港は詳しくないです。しかし中国でも圧力釜で、鍼をアルミの容器ごと消毒していました。ただ鍼灸師が治療している間に、隣のベッドにいた患者が、その容器からコッソリ鍼を抜き、試しに自分に刺してから、元の位置に戻している場面を見ましたので、鍼灸師は消毒済みと思い込み、それを刺鍼中の患者に刺したことがあります。香港はイギリス領だったので、もっと管理が厳しいと思います。
 私の治療法は、張仁が編纂した『難病針灸』を改良したものですが、やることは同じです。「内臓に刺しても大丈夫か?」と思われるでしょうが、内臓でも胃と膀胱、前立腺、子宮には刺鍼されます。問題ないようです。
 鍼の使い回しは、中国では使い捨ての鍼も消毒して使います。でもオートクレーブで消毒しているので、感染の恐れはないでしょう。
 胃下垂の治療法は、学校で教わったのではなく、『難病針灸』を読んで、見よう見まねで始めたものですから、最初は恐かったです。この治療は、中国発ですから。
 中国で使う鍼も、最近は徐々に細くなり、日本の五番ぐらいの鍼が多く、鍼も1.5寸や2寸(日本の1寸鍼や寸三に相当)を使うことが多いので、捜さないと胃下垂の治療をやっていないと思います。インターネットの雅虎かgooglで検索すれば、胃下垂の治療をしているところが見つかると思います。
 日本人でも、わざわざ台湾や中国、香港へ治療に行くツァーがあるらしいので、危険はないでしょう。


質問:小針刀によるバネ指の治療を受けたいのですが。
 答え:残念ながら中国や台湾、シンガポールなど、中国系の病院でないと治療が受けられないと思います。北京では、創始者が病院(たしか病院名は長城病院)の院長をやっているようですが、このSARS騒ぎでは、行かないほうがよいでしょう。
 バネ指は、一般に整形外科で手術します。腱の膨らんだ部分を切って、引っ掛からないようにします。キシロカインは麻酔薬なので、一時的に痛みは抑えられますが、痛みがないので使うと、ますます悪化します。それは痛み止めで、治療薬ではないからです。だいたい~カインというと、麻酔薬が多いのです。例えばプロカインとか、コカインとか。
 テーピングは、傷んだ腱が引っ張るのを、ある程度は補助するので、やらないよりは増しですが、女性なので炊事をするときに濡れてしまいます。これも根本的な解決になりません。
 結局、小針刀を使わないでバネ指を治す方法は二つあります。
 解決方法を3つ挙げると、賢そうに見えるという噂なので、小針刀を加えて三つの解決法となります。まず小針刀、これは外国へ行くのはサーズが恐いので問題外です。
 次に整形外科による手術。
 三番目は、安静にして自然治癒を待つ方法です。
 整形の手術は、病院で相談されればよいのですから、ここでは取り上げません。でも一発で治ります。
 以上の二つは、速効性があります。
 三番目ですが、これは鍼を使って治療します。
 私が学生時代は、「弾発指を鍼で治せない」と聞いていました。でも、実際に治療すると、3ケ月ぐらいで治るようです。ただし一発というわけではなく、3回ぐらいの治療回数がかかります。
 小針刀が出現する前は、中国でも弾発指の鍼治療をしていたようです。そのやり方は、かなり太い鍼を膨れた腱へ何本も刺し、抜いたときに孔が開きます。そこを包帯などでグルグル巻きにして、膨れた部分から液を絞り出し、普通の太さにして治すというものでした。
 当然にして、そのような荒っぽい治療が日本で受け入れられるか判らず、ましてや手のひらは感覚器官が発達しているので、鍼で痛みを感じる部分なのです。
 例えば、痴漢などでも、手のひらで触っていたらアウトで、手の背で触っていたらセーフとなります。それだけ手のひらは感覚が鋭いのですが、手の甲が弾発指になることはありません。
 それは握る力が強く、開く力は弱いため、手のひらの腱鞘に負担がかかるからです。
 つまり弾発指になる人は、手を握る操作が多いのです。若ければ、腱鞘から潤滑油がたくさん出て、多少の擦れでは傷まないのです。ですから私が治療した人も、ほとんどは50代です。30代では、弾発指の前段階の腱鞘炎になる人はありますが、弾発指までいった人は見たことがありません。恐らく、それだけ身体が老化しているのか、栄養不足ではないかと思います。もしかすると、力を入れて握り過ぎるのかも。
 実は、うちの母親もバネ指になりまして、腱鞘炎もあったようなので鍼治療しました。するとバネ指が治ったというのです。そんな筈はないと思っていました。しかし、その後も、やはり「バネ指を治療してくれ」という某白根さんなどがありまして、「それは治らないから手術しろ」というと、「では腱鞘炎の治療だけでもしてくれ」と言います。そこで腱鞘炎の治療すると、まあ三回ぐらいで来なくなります。「やはり治らなかったな」と内心ほくそえんでいますと、また半年とかして来て、今度は腰が痛くなったから治してくれと言います。どうやらバネ指も、腱鞘炎が治ってから三ケ月もすると自然に治ったと言って、スムーズに動く指を見せてくれました。まあ、動くようになった指を見ても、ムラムラっと来るわけではありませんから、どうってことないのですが。
 そこで、どうして指が動くようになったか、考えてみることにしました。
 まず、北京堂の腱鞘炎治療とは、テニス肘にも共通していますが、手のひらに刺鍼するのではなく、前腕、つまりカイナに刺鍼します。カイヤではありませんカイナです。
 腱鞘炎の人は、前腕内側を触ってみるとコチコチになっています。しょっちゅう力を込めて握っているのですが、握るには前腕内側の筋肉を収縮させねばなりません。それが過ぎて、筋肉が収縮しっぱなしになっているのです。
 「使い過ぎると収縮しっぱなしになる」などということがあるんカイナ? と素人の方は思われるでしょう。
 いい例が、コムラガエリです。昔、東京オリンピックで、ロシアのマラソン選手がコムラガエリを起こし、ヘアピンを突き立てて治療していました。このようにマラソンなどで使い過ぎると筋肉が痙攣します。また目を使い過ぎると、目の網様筋が収縮しっぱなしになりますが、それが眼精疲労です。
ロシアの選手が、なにゆえにヘアピンを刺したか?
 筋肉の中には血管があって、それが筋肉に酸素やエネルギーを運んでいます。その血管は柔らかく、喩えて言えば、水道のビニールホースのようなものです。では筋肉が収縮すると、どうなるのでしょう。血管は筋肉に押さえ付けられます。すると水道のビニールホースで言えば、「あれっ!急に水が出なくなったな」というようなものです。すると自分の足で、ホースを踏んづけています。「これが原因か」と、足をのけると、再び水が出るようになります。
 血管も同じで、周囲の筋肉が収縮すれば、血管は圧迫されて内径が狭くなり、血が流れにくくなります。筋肉が収縮している時間が長くなれば、血管を圧迫している時間も長くなり、血液量も減るので、エネルギーや酸素が不足します。そのような酸素不足の筋肉では、死後硬直が起こります。筋肉に酸素やエネルギーが運ばれないので、硬直してしまいます。すると血管は、ますます圧迫され、アッ、これどこかでやった。
 とにかく、その悪循環を断ち切るために、筋肉にヘアピンを突き刺し、筋肉の痙攣を緩めれば、血管壁の圧迫も消えて血が流れ、筋肉が栄養されるというものです。当然、筋肉の中には血管だけでなく、神経も通っていますから、神経も筋肉に圧迫されて痛みも伴います。
 まあ、この「筋肉が収縮しっぱなし」という話は、にわかには信じられないでしょうが、自分のカイナを誰かに触ってもらうと、私の言っていることが本当かどうか判ります。自分では片方ずつしか触れず、両側一度に触って比較することができないので、誰かに触ってもらわねばなりません。両側を同時に按圧して比較しないと、素人には判りにくいものなのです。ただ、手の感覚が極端に悪い人もいますので、柔らかいか硬いか判断の付かない人もあります。だから何人かに触ってもらうとよいでしょう。島根に住む私が、東京くんだりの貴女の知り合いと組み、「硬くもないのに、硬いと言え!」などということは有り得ませんから、客観的に信じてよいと思います。
 触ってみると、右の前腕内側(日に焼けてなく白い側です)は柔らかいのに、左はカチカチです。それが収縮して力が脱けなくなった筋肉です。
 指の筋肉は、みな手のひらにあると思う人があるでしょう。しかし手のひらの筋肉が1/3収縮したとしても、2~3cmしか収縮しないでしょう。それでは手が握れません。そこで長いカイナの筋肉が縮みます。すると1/3収縮すれば10cmは収縮しますので、指を手首近くまで引っ張る事ができ、メデタク、手を握ることができるワケです。つまり握り拳する筋肉は、手のひらではなく、肘から下の前腕内側にあるのです。ここまではガッテンしていただけたでしょうか?
 すると、前腕内側の筋肉が収縮していて、そこも確かに按圧すると痛いのですが、「手首から先が痛むのはなぜ?」という疑問が浮かんできます。
 実は、あまり指には筋肉がないのです。もし腕の筋肉が、そのまま指まできていたら、指はブッ太いものになり、とてもシラウオのような指ではなく、サツマイモのような指になってしまうでしょう。それではみっともなくて、たまったものではありません。そこで登場するのがワイヤー! 前腕で引っ張り、手首から指まではワイヤーで力を伝える。そうすれば発動機を指に付ける必要はないので、ワイヤー分の細いスペースがあれば足ります。これでシラウオのように細くてしなやかな指が完成です。当然ワイヤーを引っ張ったときに、ワイヤーが浮き上がらないように押さえが必要です。だからワイヤーをストローのような管へ入れ、その管を指の骨に固定しています。私が固定したワケではないので、私に責任はありません。
 そのストローの内部は、潤滑油で満たされており、少しぐらいワイヤーと管が擦れ合っても傷まないように出来ているのですが、潤滑油の量が少ない、擦る回数が多い、強い力で擦るなどが原因で、摩擦が大きくなり、ワイヤーも生き物で柔らかいのですから、ワイヤーという腱が腱鞘でしごかれると、腱は手繰り寄せられて膨れます。それがバネ指とか弾発指です。これは症状から付けられた名前で、ワイヤーの膨れた部分が、直径スレスレの管へ入るとき、管の入口で引っ掛かって止まり、中を移動するときも強い力が必要なので動きが不自然になります。ひどければ玉が管に入れず、少ししか動かない場合もあります。この腫れた玉の部分が痛むのです。
 腱鞘炎の治療は、腱が膨れている玉部分へ直接刺鍼するわけではないのですが、前腕の筋肉を緩めます。すると腱は力が掛からなくなります。また握らないでも作業できるように、仕事内容を一緒に考えて工夫します。
 つまり鍼をして腱鞘炎を治し、腱と腱鞘に絶えず掛かっている負担をなくしたため、時間が経って、自然にバネ指が治ったと考えられます。
腱鞘炎の治療は、手首から肘までの前腕内側を、収縮した筋肉(長短母指屈筋とか深浅指屈筋など)へ刺鍼して40分ぐらい置鍼します。こうした治療を3日、ないし1週間ごとに続けます。3回ぐらいすれば力が抜けて、腱鞘炎の痛みが消えますが、そのまま、できるだけ使わないようにしていますと3ケ月ぐらいで治るようです。
 だいたい女性では腱鞘炎の治療が長くかかるのですが、それは治療で筋肉を緩めても、血流が回復して筋肉の酸素不足やらが回復する前に、炊事などをして筋肉を収縮させてしまうからです。それで元のモクアミに戻ってしまうのです。最初は「女性が筋肉が弱くて治りにくいのかな?」とも思ったのですが、2回で、一週間で腱鞘炎が完治した人があったので、考え方を変えました。その人はビールの栓抜きまで、旦那にさせたようです。漁村の人だったので(元美容師で、いま飲み屋らしいですが)、「自分が腱鞘炎だったことは恥ずかしいから言わないでくれ」と言うことでした。ところが後日、その人やら何やらの紹介で、人が来たのですが、それによると「某岩×さんは、御宅で癌が治ったらしい」などと噂され、何か、とんでもない難病を治したかのように触れ回られているようです。
 腱鞘炎など、たいした噂にもならないだろうに、あと「脳卒中で、手が動かなかったのが一発で治った」とか、「さすがに私も切れて、脳卒中や癌で腕が動かなかったのではなく、ただの腱鞘炎を治療しただけです!」と言いましたが。
 とにかく噂など、いい加減なものです。事実と全く違います。
 まあ、ともかく、お陰で、女性でも、ほとんど手を使わなければ、すぐに治ることが判りました。
 でも、一般の女性では、いろいろやることがあるので、3ケ月は覚悟しておいたほうがよろしいでしょう。
 余談ですが、キネシオテープを貼るときは、指の筋肉は前腕内側にあるので、肘から指先まで貼らないと効果がありません。

質問:ホームページのムチウチ症の治療ですが、そこの交感神経型に頚の異常から頭痛が起こってくると書いてあります。そこでホームページに従って、後頚部へ刺鍼してみるのですが、確かに後頭痛や前頭痛は消えます。しかし偏頭痛が治りません。なぜでしょうか?
答え:お答えいたします。頭へゆく神経は、大後頭孔から出て、大後頭直筋、小後頭直筋、下頭斜筋、上頭斜筋などの筋肉中を走っています。だから、そうした筋肉が痙攣すれば、大後頭神経や小後頭神経などが圧迫されるので、痛みが発生すると考えられます。だから後頚部へ刺鍼すれば、頭痛は消える。こうした発想で、後頚部へ刺鍼しておられると思います。その発想自体は正しいと思いますが、後頭部とかには、余り筋肉がありませんが、偏頭痛の場合は、そうもゆきません。そこには側頭筋があるからです。
 つまり偏頭痛に対して、完骨や翳風、安眠、風池、天柱などの経穴へ刺鍼し、頭から出てきた神経を叩いても、側頭筋が痙攣していれば、そこで圧迫されて痛みが起きてしまいます。
 拙書の『刺血療法』緑書房を見てみますと、偏頭痛には太陽の絡脈を捜し、そこへ刺鍼して血を出しています。
 つまり側頭部に位置する太陽へ刺鍼することにより、偏頭筋などを緩め、側頭部に分布する神経の圧迫を消していると考えられます。
 まあ坐骨神経痛でいえば、後頚部だけへ刺鍼して、側頭部へ刺鍼しないのは、大腰筋へ刺鍼して、梨状筋を刺鍼しないようなものです。片手落ちです。
とは言っても、太陽へ刺鍼すると、目の周囲の骨が盛り上がって刺しにくい欠点があります。
 一般に偏頭痛には、太陽から率谷へ透刺します。しかし以上の理由で、太陽から率谷までは到達しにくく、せいぜい入って2cmぐらいです。それとうつ伏せで後頚部を刺鍼しているのに、前の太陽から刺鍼するのはやりにくいし、「後ろが終わってから前を」というのも二度手間です。だから率谷から太陽へ向けて斜刺したほうがよいと思います。
 私見では、偏頭痛に対しては、後頭部の経穴を使うより、側頭筋、つまり率谷から太陽へ透刺したほうが効果がよいように思います。
 まあ確かに鍼灸には「上が痛めば下を取り、下が痛めば上を取る」ということもありますが、それが全てではなく、なかには側頭部が痛ければ、側頭部へ刺入するなど、局所治療が有効な場合もあります。つまり何事も、危険でなければ試してみることも必要かと思います。

はじめまして。
私は昨年開業したばかりの新米鍼灸師です。最近パソコンを手にしインターネットをしている内、偶然先生のホームページに出会いすごく興味をもって見させて頂いております。
 その中で一つだけ感覚的にわからないのが、先生の使っておられる鍼の長さと太さについてです。私は鍼灸師の免許をとってまだ5年足らずで、正直言って恐れを感じながら鍼をする、いわゆる「そこそこ鍼」の領域から脱することができず悩んでいます。どうしたら、そんな長く・太い鍼を苦痛を最小限にする事ができるのでしょうか? 時間と経験と言ってしまえば終わってしまうのでしょうが、それだけでは無いような気がします。いつか機会があれば先生の治療現場を見学させてもらえないでしょうか? 良きアドバイスとお返事を待っております。
  ちょっと質問の意味が取り辛いので、まあ、こんな質問だろうと想像して答えます。
 私の使っている鍼は、長くて太いと思われているようですが、それは誤解です。そりゃあ胃下垂治療では太くて長い鍼を使っていますが、そのほかでは頚や背中ならば寸六から二寸の3番、大腰筋や梨状筋で三寸の5番を使っているのが普通です。
  三寸の5番は、ほとんど使う人がいないようで、カナケンに注文したら「三寸ならば10番でなければ入れることができませんよ」と、なかなか聞き入れてくれません。「入るか入らないかは、あんたの知ったこっちゃない。作るのか作らないのか?」と、注文しています。ただ筋肉が非常に固かったりする場合、三寸の10番でないと入らなかったりしますので、稀には10番も使います。
  長くて太い鍼を入れるには、鍼管を使います。このQ&Aにも、以前に似たような質問がありましたが、鍼の痛みは長さや太さと、あまり関係がありません。問題は切皮痛で、その問題さえクリアできれば、苦痛を最小限にして刺入できるでしょう。それには鍼管を使うことが最も簡単です。
  鍼の切皮痛は、速度と鍼尖、切皮で入れる深さ、押手の圧力と張力、皮膚を巻き込んでないかなどによって決まります。
  瞬間的に切皮し、鍼尖に勾がなく、2mm程度入れ、押手で圧をかけると同時に皮膚を広げ、皮膚を鍼に巻き込まないようにすれば良いと思います。
  一般に、鍼の切皮は、切皮ではスピード、刺入はゆっくりとするのがコツです。そして抜鍼は、最初に左右へチョコチョコっとひねって絡み付いた筋肉を振り解き、ゆっくりと引き上げ、鍼尖が皮下まできたらスピードをつけて一瞬で抜く。つまり刺入と全く同じ手順ですね。それがコツだとされています。
  また患者が緊張すると痛いので、できるだけ筋肉を固くさせないようにします。なかには鍼管を当てただけで身を固くする人もありますが、そうした人には鍼管を人肌ぐらいに温めておいたり、鍼管を使わずに安心しているところへバサッと切り込んだりします。
  つまり鍼の刺入は切皮が肝心なので、太さや長さはどうでもいいのです。普通の鍼と全く変わりません。
  鍼を入れるコツは、やはり普通の鍼と同じように自分へ刺してみることです。自分が痛ければ、患者も痛い。自分が痛くなければ、患者も痛くない。長い鍼は、普通の場所に刺すと危ないので、腰の下部か尻、中臀筋に刺して練習するとよいでしょう。
  鍼というのは、口でコツを言っても、なかなか判らないのですが、経験すると理解できます。その意味で自分の身体というのは、口で伝えられない感覚も、ダイレクトに感じることができ、私などよりも優れた教師です。最良の教師といえるでしょう。
  資生経ではないですが、自分の身体に鍼を刺して、痛みのない打ち方を学んだり、病気の治し方を学ぶのが、一番の早道と思います。などと、結局は「みんなが言ってる普通のことしか喋らない」となってしまいます。
  鍼尖も、いろいろと鍼を研いでみて、どのような鍼尖が痛みが少ないのか、やはり自分の身体で試してみるしかありません。これも研ぎ方を口で言うより、自分の身体で学ぶしかないでしょう。
  治療法も同じです。まず腰痛があれば、自分の身体に鍼を打って治してみます。自分が治れば、人も治ります。では、自分が腰痛でない場合はどうするか?
  親や兄弟、イトコなど、身内を実験台に使います。自分よりは劣りますが、全くの他人よりも正確な意見を述べてくれます。
 
  恐らく他のホームページの質問コーナーで質問しても、やはり似たような答えが返ってくると思います。つまり誰が答えても一緒の質問なのです。
  見学は、今は治療所が狭いので無理ですが、新しく建てようかなとも思っているので、そのときであればいいですよ。でも太い鍼はともかく、長い鍼はどこの部分でも刺せるというものではないので、まず解剖や断面を知り、安全な方向などを知らなくては危険です。うちの弟子なども、危険方向へ刺入していて、ストップをかけたら「先生、××先生の本には、この方向へ刺せと書いてありますよ!」という。そこで断面写真を持ち出して、「じゃあ、その方向で入ったとしたら、どこに当たる?」、「延髄です。危険ですねぇ」ということがありました。
  危険な方法が掲載されている本もあるのです。私の『難病の鍼灸治療』を含めて。それで、その部分をどうしようかとも思ったのですが、翻訳なので全部を掲載しました。
  まず解剖を知り、自分の鍼が、どの器官に向かっているかを知ることが、治療よりも重要です。患者の生命を危険にさらしてはなりません。
  まぁ、その本の方法が危険でないかどうか、本に書いてあることを全面的に信じず、自分の頭で考えてから長い鍼を刺すようにします。


よく癌に鍼治療が効果があると聞きますが、どういうしくみで鍼は効くのでしょうか。それとも鍼で癌が治るといううわさは、インチキなのでしょうか。
答え:松江から戻って、細々と営業を続けていたら、突然マルサに踏み込まれました。何がなんだか判らず、「おねげいです、お代官様」といって難を逃れたのですが、さすがに積み上げたままの20箱近くの本を放っておくのも極まり悪いので、本を整理して本棚を組み立てることにしました。それで嫁の実家に運び込んだ本以外は、置き場ができるわけです。しかし回答も結局は、拙書『難病の鍼灸治療』と『急病の鍼灸治療』を併せたような、張仁の『最新針灸治療』を使って回答します。てっとり早いから。この本は一冊で、『難病の鍼灸治療』と『急病の鍼灸治療』を見れるので、便利ですよ。ただ『難病の鍼灸治療』と『急病の鍼灸治療』がある以上、重複した本を翻訳する人があるとは思えないけど。それによると白血球や赤血球の減少、嘔吐などの化学療法や放射線治療による副作用を抑え、そうした治療が普通なら2週間ぐらいで打ち切らねばならないところが、長期にわたって継続できると書いてあったような気がします。ところが、このあいだ依頼された漢方の翻訳にも、朝鮮人参には化学療法や放射線治療による副作用を抑える作用があり、長期にわたって継続できると書いてありました(ただし、朝鮮人参は定期的に服用を停止する必要あり)。また肝炎ですが、覆盆子の作用を鍼と比較したところ、同等な効果があったと書かれていた文献があったと記憶しています。すると漢方薬と鍼は、ほぼ同じ作用をする? また治療とは少し違うかもしれませんが、癌が背骨などに転移すると、転移された背骨が膨れて背骨から出た神経を圧迫し、痛みを発します。末期癌です。こうした痛みに対してはモルヒネを使って痛みを止めますが、一般に薬物は有効量の範囲が狭く、それを過ぎると毒作用が現れ、有効量以下では効きません。しかもモルヒネの有効量は個人差が大きいので、24時間体制でモニタリングせねば有効量を超過して毒作用ゾーンへと入ってしまいます。治験ならばモニタリングもしましょうが、一般の臨床治療ではそんなこともせず、必然的に毒作用ゾーンへと入りますが、その副作用が禁断症状なのです。禁断症状になると体力が衰えるので、必然的に癌が進行します。鍼麻酔によるエンドルフィンは、脳の痛みを感じる部分に填まり込み、痛みをシャットアウトしますが、もともと自分の身体で生産した物質なので副作用がありません。だから適量が出て、禁断症状も起こらないので癌も進行することがないのです。じつは鍼麻酔で出るエンドルフィンによって、モルヒネの作用機序が明らかになった経緯があるのです。
 人間も、昔は類人猿でしたから、トラやライオンなどの強い動物に出会うと逃げなければなりませんでした。しかし猛獣は追いかけてきます。逃げて走り続ければ心臓がバクバクです。でも苦しくとも逃げなくては食われてしまいます。するとエンドルフィンが出て脳の苦しさを感じる穴をピッタリ塞ぎ、もう苦しくはありません。高橋尚子は、これを利用しているのです。モルヒネは頭の部分がエンドルフィンと同じものでできているため、やはり脳の苦しさを感じる穴にピッタリと填まり込んでしまうので痛みを感じなくなってしまうことが判りました。しかしモルヒネ注射では、痛みを感じる穴を塞いでも、まだモルヒネが余ってしまいます。余分のモルヒネが禁断症状を起こして癌を進行させるため、自然のモルヒネであるエンドルフィンは副作用のない痛み止めなのです。方法は両手の曲池+と合谷-へ刺鍼し、3~4ヘルツのパルスを流して20分ほど放置するだけ。欠点は、時間がかかることと、効かない人(エンドルフィンが出ない人)がいること。まあ皆が皆、先祖がトラやライオンに追われたとは限りませんから。
 まあ取りとめもないことは置いといて、中国の鍼灸文献整理屋さん=張仁の『最新針灸治療』から探してきます。 では『難病・急病の鍼灸治療』の補足をかねて、張仁の『最新針灸治療』文匯出版社p316より、癌の鍼治療を引用します。
 六十七、悪性腫瘍(癌)
 【概論】
 腫瘍とは、体内で成熟した、あるいは発育過程にある正常細胞が、異なる関連因子が長期に作用している下で、過剰な増殖や異常な分化してできた新生物である。悪性腫瘍は、こうした増殖や分化が不規則であり、また組織を浸潤したり破壊する。悪性腫瘍は治療しても再発しやすく、末期では悪液質となることが多い。
 悪性腫瘍の鍼灸治療は、古医籍にも古くから類似の記載がある。例えば噎膈症は『霊枢・四時気』に「飲食不下、膈塞不通、邪在胃。在上,則刺抑而下之。在下,則散而去之」と書かれている。『備急千金要方』には「腫れて堅く、根のある」「石癰」を灸治療したことが記載されている。明代は張景岳の『類経図翼』では「乳岩(乳癌)」の鍼灸を論じている。同時代の鍼灸家である楊継洲は、噎膈症(食道癌)に対して処方穴を打ち出しているばかりか、病因病機も研究して「脾絶胃枯」之症と考えている。古代に積み上げられた治療経験は、その多くが現在でも参考になる。
 現代に、癌を鍼灸で治療したという最も初期の報告は1950年代の始めであるが、60年代でも多くが一症例の形で登場し、その内容は乳癌,子宮頚癌,食道癌などに集中していた。当然、その実際の効果と臨床価値に対して、事実関係を追試する必要性はあるものの、そのチャレンジ精神は重要である。80年代から現在まで、世界の鍼灸従事者は、さらに多量の臨床を重ね、癌の鍼灸治療でも多くの重要な臨床経験をものにしている。まず診断面では、癌患者を何人も観察することによって、悪性腫瘍患者の耳介には、病巣部分と対応する耳穴に、例えば隆起物や癌点(蝿の糞の色やな褐色で、針尖から粟粒ぐらいのシミ)、あるいは特殊な反応などのような、ある種の陽性反応物が現れることを発見した。中国の外でも癌患者を観察し、良導絡で癌患者を測定すると、その病状の程度が判るという。治療面でも資料によれば、鍼灸は主に食道癌,胃癌,子宮頚癌,皮膚岩の治療に用いられるとともに、例えば疼痛症状など幾つかの症状に対して良好な作用がある。鍼灸の癌治療は、臨床症状を改善させ、生存期間を延ばし、ケースによっては癌を縮小させたり消滅させたりする。なかでも痛みは悪性腫瘍に最も多く、もっとも厳しい症状だが、中国および旧ソ連、日本などの学者は、脳腫瘍,乳癌,胃癌,肺癌,直腸癌などによる痛みと不眠を、体鍼と耳鍼が明らかに抑制することを証明した。穴位刺激の方法では、刺鍼だけでなく、灸,穴位注射,電熱鍼,皮内鍼,割治,埋植などの方法がある。刺鍼手法は、患者に合わせ、症状に合わせて変えるが、頑強な体質であれば涼瀉法や平補平瀉法、虚弱体質なら熱補法や平補平瀉法を使う。
 鍼灸が癌を治療するメカニズムの研究でも、多くの研究がされている。現在、悪性腫瘍は、主に人体の免疫系統と生体電気が関わっている問題だと考えられる傾向にある。世界の研究者の研究によって明らかになったことは、刺鍼は肝臓細網内皮系統の細胞活動を活発にさせ、腫瘍細胞を食べるようにし、免疫能力を高め、新陳代謝を促す。次に、癌細胞は、必ず細胞分子の酸化異常によって生体電気の活性が低下しているが、鍼灸は細胞の生体電気活性を強力に刺激する作用があり、それによって優れた臨床効果を得られるなどである。最近の研究でも、鍼灸が高める癌患者の免疫機能は多段階であり、ある一種の抗腫瘍免疫エフェクター細胞にだけ作用するのではないことが証明されている。
 【治療】
 ○鍼灸
 本法は、主に胃癌と食道癌を治療する。
 (一)取穴
 主穴:2組に分ける。a.大椎,身柱,神道,霊台,夾脊胸8,脾兪,胃兪,足三里。b.中,章門,足三里,行間,三陰交,膈兪,豊隆,公孫。
 配穴:食道上段の癌には天突璇璣華蓋、食道中段の癌には紫宮,玉堂,中、食道下段の癌には鳩尾,巨闕,中庭、胃癌には上,中,下をそれぞれ加える。また脊髄分節に相応する華佗夾脊穴(食道上段:夾脊頚6~胸2、中段:夾脊胸3~6、下段:夾脊胸7~10、胃癌:夾脊胸11~12)を組み合わせてもよい。
 (二)治療法
 主穴のa組は麦粒灸する。毎回督脈穴を2個、または肢体の穴を1対取る。純艾で作った麦粒大の艾で直接灸(化膿灸法)する。穴位を選んだらニンニク汁を穴位に塗り、艾をくっつけて施灸する。灸の痛みを軽くするため、手のひらで穴位の傍らを軽く叩く。一壮が終わったら、また一壮と、1回に灸を7~9壮すえる。灸が終わったら生理食塩水で灰をきれいに拭き取り、灸瘡膏を貼って化膿させる。隔日に1回施灸し、6回の灸が終わったら1クールとする。主穴のb組は刺鍼である。毎回1~2穴を選び、病変部位に基づいて配穴を加える。26号2寸の毫鍼を使い、提插だけで置鍼しない手法を採用する。虚弱体質なら弱刺激し、小さな提插を10~20回おこない、刺激時間は10~20秒とする。丈夫な体質ならば重刺激で、大きな提插を30~40回おこない、刺激時間は30~40秒とする。一般には中程度の幅で20~30回の提插し、20~30秒刺激する。毎週3回刺鍼し、15回を1クールとして2週間休む。aとbを交互に使ってもよいし、どちらか一つだけ使ってもよい。患者の病状を見ながらおこなう。
 2クール目は配穴だけを取るが、そのうち華佗夾脊穴の刺鍼法と手法は、前と同じである。ほかの穴には薬餅灸法をする。
 薬餅の調整:白附子,乳香,没薬,丁香,細辛,小茴香,蒼朮,川烏,草烏を等量ずつ。すべてを粉末にし、ハチミツとネギを加え、水で調整して薬餅にする。大きさは1円玉ぐらいで厚さは2分、いくつかの小孔を開ける。
 2クール目は、麦粒灸の化膿期か、鍼治療の2週間後に開始する。毎回、病巣部位に基づいて3穴を取る。施灸時は薬餅の下に少量の丁桂散を敷き、薬餅の上にモグサを乗せて3~5壮すえる。モグサの大きさは、病状によって変える。隔日1回で10回を1クールとする。鍼灸を終えて2週目、3クール目は、刺鍼主穴のb組と薬餅灸の配穴を併用し、同時進行で10回を1クールとする。
 (三)治療効果の評価
 治療効果の判定基準
 臨床治癒:飲食が正常で、身体も健康、X線造影で癌が完全に消失し、食道脱落細胞検査でも癌細胞が消えている。
 有効:嚥下困難などの症状が明らかに寛解し、半流動食か普通の食事が食べられ、X線造影で癌病変部位が明らかに縮小しているが癌細胞は消失していなかったり、食道脱落細胞検査で癌細胞が一時的に消失しているものの癌部分の縮小はない。
 無効:症状に改善がみられないか、かえって悪化した。
 全部で353例の食道癌と胃癌を治療した。そのうち50例は漢方薬などの内服を併用した。結果は有効24例(48%)、無効26例(52%)で、有効率は48%だった。303例には放射線治療、化学療法、手術、漢方薬などを併用した。そのうち6例は早期の患者で、5例が臨床治癒、1例が有効だった。297例は末期患者あり、癌の一時消失率は0.99%、癌の縮小率は1.65%、症状に対する有効率は96.37%だった。

 ○電熱鍼
 本法は主に皮膚癌を治療する。
 (一)取穴
 主穴:阿是穴。 阿是穴の位置:表層の悪性腫瘍局部。
 (二)治療法
 腫瘍の大きさによって、腫瘍部位に1c㎡当り2本の密度で刺鍼する。刺入方法は、単刺,傍鍼刺,斉刺,揚刺,叢刺などを使う。刺鍼の前に切皮部位を消毒し、2%リドカイン1~4mLで局部麻酔する。毫鍼を刺入したら電熱鍼儀に接続し、電流を100~140mAの間にする。刺鍼して20分したら腫瘍表面の温度を測定し、温度を43~50℃の間に保ったまま40分置鍼する。毎日あるいは隔日に1回治療し、10回を1クールとする。クール間は3~5日開ける。
 (三)治療効果の評価
 治療効果の判定基準:国際癌研究機関の制定する充実性癌の評価基準に基づく。
 完全寛解:治療期間に腫瘍の形跡が全て消失した。
 部分寛解:腫瘍の消失が50%以上(二つの直径を掛けた積)で、治療期間中に新たな腫瘍が現れた形跡がない。
 改善:腫瘍の縮小が50%より少ない(二つの直径を掛けた積)。
 無変化:治療期間中に腫瘍の変化がない。
 全部で10例の皮膚癌(扁平上皮癌、悪性組織球腫、角化型扁平上皮癌などを含む)を治療した結果、完全寛解4例(40%)、部分寛解3例(30%)、無変化(20%)2例、死亡1例(10 %)で、有効率は70%だった。

 ○電熱
 本法は主に肺癌を治療する。
 (一)取穴
 主穴:十二井穴。
 (二)治療法
 毎回、十二井穴から一対を取り、電熱鍼を使って鍼感の感伝を発生させて、経気を病巣部へと伝わらせる。治療時の室温は20~25℃で、穴位の温度は20℃以上、鍼の鍼尖温度は35~38℃とするか、我慢できる程度に調整する。鍼尖で十二井穴を刺激するときは、鍼尖を病巣部へ向け、心地好く感じる刺激強度で、パルス間隔1~2回/秒にして1~2分刺激する。感伝が起きても遠くへ伝わらなければ、感伝が胸にまで達する上肢の穴位を刺激して、鍼感をリレーさせる。もし感伝が発生しなければ、パルス周波数を3000~4000回/分にまで上げ、そこで感伝が起こったら500回/分に緩めると、だいたい引き続いて感伝を延長させることができる。それでも感伝が起きなければ、まず電流をいったん0に戻し、再び電流を上げて、穴位の筋肉がわずかに跳動するようにし、患者が耐えられる限度まで電流を上げる。そのあとで再び周波数を上げれば、ほぼ感伝を発生させられる。毎日1回治療し、毎回1本の経脈を刺激して6~12回をクールとする。そして各クール間は3日開ける。
 (三)治療効果の評価
 治療効果の判定基準
 著効:臨床症状、徴候ともに明らかに好転し、普通の仕事ができ、肺の腫瘍は縮小するか消失する。
 有効:臨床症状と徴候が軽くなる。
 無効:治療しても症状や徴候に改善が見られないか死亡する。
 全部で14例の肺癌患者を治療した結果、著効4例(28.6%)、有効7例(50.0%)、無効3例(21.4%)で、有効率78.5%だった。本法のポイントは、気が病巣部に至るかどうかにある。肺癌患者に対して、睡眠を改善したり、体重が増加する、生存期間が長くなる延命作用などがある。

 ○総合療法一
 本法は主に末期の食道癌に使う。
 (一)取穴
 主穴:3つに分ける。a.天鼎,止嘔,璇璣中,上,中。b.耳穴の咽喉,食道,賁門,胃,胸,膈。c.中,膈兪,夾脊胸椎4~9。
 配穴:2つに分ける。a.内関,公孫,足三里,三陰交,中魁。b.耳穴の交感,神門,三焦,内分泌,皮質下,腎上腺,肝,腎。
 止嘔穴の位置:廉泉穴と天突穴を結んだ線の中点。
 (二)治療法
 主穴abは、それぞれ配穴abと組み合わせる。治療ではa組を主とし、鍼灸法を使う。30 号1.5寸の毫鍼を両側の天鼎穴へ刺入するが、鍼尖は天突を向けて斜刺する。止嘔穴は横刺し、鍼尖を下へ向けて天突へと透刺する。他の穴位はマニュアル通り刺鍼し、平補平瀉手法したあと30~40分置鍼する。もし食べても喉を通らず、舌苔が厚膩ならば、中と中魁へ10の雀啄灸を加える。食べたとき急に支えたならば、内関へ鍼尖を体幹へ向けて刺入し、強刺激の瀉法するとともに、患者に激しく咳をさせて、多量の痰と食べた物を吐き出させる。隔日に1回治療し、連続2ケ月治療して1クールとする。
 b組は耳鍼法で、主穴を全て取り、配穴から2~3穴選んで、30号0.5寸の毫鍼を使う。耳介を消毒したあと、すばやく切皮し、捻転して気が得られたら40~60分置鍼する。毎回一側の耳穴を使い、両耳を交互に使う。
 c組は穴位注射で、毎回2~4穴を選び、腫節風注射液を各穴に0.5mLずつ注入する。bcは隔日に1回治療し、治療クールはaと同じ。耳鍼と穴位注射は交互にしてもよく、一般に体鍼治療と組み合わせて用いられる。
 この治療法にて1クールが有効ならば、さらに2クール3クールと治療し、病状が安定するまで続ける。
 (三)治療効果の評価
 全部で84例の末期食道癌患者を治療し、1クール目で著効25例、有効50例、無効9例で、有効率は89%だった。1クール目に有効だった75例は、2クール目の治療して、著効12例、有効39例、無効24例で有効率68%だった。2クール目に有効だった51例は、3クール目の治療して、著効8例、有効21例、無効22例で、有効率56.9%だった。平均生存期間は6.5カ月で、鍼灸治療をしない患者の平均生存期間3.1カ月に比較すると、明らかに高かった(P>0.005)。

 ○総合療法二
 本法は主に肝臓癌や肺癌、胃癌の痛みを抑える目的で使われる。
 (一)取穴
 主穴:百会,内関,大椎,阿是穴,神門(耳穴),足三里。
 配穴:肝臓癌には肝炎点,肝兪,腎兪、肺癌には肺兪,風,定喘,豊隆、胃癌と膵臓癌には陽陵泉,胃(耳穴),胆(耳穴)を加える。
 阿是穴の位置:疼痛点。
 肝炎点の位置:右鎖骨中線の直下で、肋骨弓下縁2寸の部位。
 (二)治療法
 薬剤:20%胎盤組織液。
 毎回、主穴を3~4穴取り、状況によって配穴を加える。異なる穴位刺激方法を使って治療する。大椎と足三里は穴位注射法を採用し、20mLの注射器を使って4~6mLの薬剤を吸入させ、それぞれ穴位に分けて注入する。耳穴には磁石粒(380ガウス)を貼り、阿是穴には磁石片(磁場強度1500~2000ガウス、直径2mm~3cmの大きさがマチマチの円盤)を貼る。疼痛点、つまり阿是穴に貼るときは、それぞれ疼痛点の上か近くに貼るが、もし2つ以上を同時に貼るときは、互いに引きつけ合わない距離にするか、身体の前後を磁石で挟むように貼り、貼るときもN極とS極が向かい合うように注意する。そうして磁場ができたらバンソコウで固定する。そのほかの穴位は刺鍼するが、ゆっくりと刺入して気が得られればよく、30分~1時間置鍼する。例えば肝臓癌であれば、順々に3回捻転したあと抜鍼する。こうした方法は、穴位注射が隔日か2日置きに1回、穴位磁石貼布が週に1~2回、刺鍼を毎日か隔日に1回とし、10~15回を1クールとする。
 (三)治療効果の評価
 治療効果の判定基準
 有効:痛みが消失するか軽減する。
 無効:痛みが止まらないか、痛みが増しても減らない。
 全部で49例を観察し、全員で痛みがある程度軽くなり、痛みの止まる時間は10時間以上に及ぶ。それと別の34例の肝臓癌患者は、穴位注射に西洋薬と漢方薬を併用して痛みの増加が制御でき、さらにそのうち2例は占拠性病変が消え、3例は病気がありながら9カ月~4.5年生存した。

 ○穴位注射
 本法は主に悪性腫瘍により発熱が続くものを治療する。
 (一)取穴
 主穴:足三里。
 (二)治療法
 薬剤:デキサメタゾン注射液。
 毎回位置側から選穴し、両側を交互に取る。注射針を垂直に穴位へ直刺したあと、捻転や提插などの方法を使って気が得られたら3~5分運鍼する。乱暴に操作してはならない。注射器内に血が逆流してこなければ1mLの液を注入する。毎日1回治療して、5回を1クールとする。
 (三)治療効果の評価
 治療効果の判定基準
 著効:治療が終わって30日以内は体温が36~37℃へ下がり、それ以降も発熱の治療がやはり有効である。
 有効:治療が終わって15日以内は体温が36~37℃へ下がり、それ以降も発熱の治療がやはり有効である。
 無効:治療が終わっても体温が37℃以上のまま。
 この方法で28例を治療し、結果は著効21例、有効4例、無効3例で、有効率は89.3%だった。

 以上が癌の痛みや発熱など、症状に対する鍼灸治療でした。化学療法や放射線治療の副作用に対する治療は、この張仁『165種最新針灸治療』文匯出版社にはp324に書かれています。

 六十八、放射線反応
 【概論】
 放射線反応とは、悪性腫瘍患者が放射線療法を使って治療する過程で現れる有害反応である。全身反応として食欲不振,悪心,嘔吐,頭痛,怠さがあり、血液反応として白血球や血小板の減少などがあり、局部反応もある。ただちに処置と治療をしなければ、放射線障害が残ってしまう。現代医学は放射線反応に対し、一般に治療方法を調整したり量を減らす、あるいは中止するなどの措置をするが、特に有効な処置はない。
 放射線反応に対する鍼灸治療は1950年代から始まり、多くの奨励観察によって、刺鍼と灸は明らかに全身症状を軽減し、白血球の減少や放射線直腸炎、皮膚の潰瘍などに対しても確実な効果のあることが発見された。70年代は耳針を使って治療し、放射線治療や化学療法による白血球減少に一定の治療効果があった。この20年は、穴位刺激方法や治療効果の観察などで大きく進歩して深まり、ヘリウムネオンレーザーを穴位に照射する方法が各種の放射線反応の治療に使われたり、その治療の適応症状と現実の効果について厳密な観察と客観的な対照試験がおこなわれた。
 鍼灸で放射線反応を治療するメカニズムについても、多くの研究がなされている。実験研究により、人体の免疫機能を抑制する放射線治療の作用に鍼灸が対抗し、血液象(ヘモグラム)を保護し、骨髄の造血機能を強め、それによって人体の放射線治療に対する耐性を高めることが証明された。最近では、鍼灸により白血球が増える主なメカニズムが、血清中にあるコロニー形成刺激因子の含有量と活性を高め、それによって骨髄の造血幹細胞の分裂増殖が促進して、白血球コロニー形成が増え、骨髄中の未熟顆粒球と成熟顆粒球が顕著に増加することが証明されている。

 【治療】

 ○穴位注射
 (一)取穴
 主穴:足三里。
 (二)治療法
 薬剤:デキサメタゾン注射液。
 一回に両側の穴位を取り、5mL注射器に5号の歯科用注射針を装着して5~10mgのデキサメタゾン注射液(5mg/mL)を吸入させ、垂直に刺針して局部に得気感があったら各穴へ2.5~5mgずつ注入する。毎日1回で、3回を1クールとする。
 (三)治療効果の評価
 治療効果の判定基準
 著効:穴位注射1回して24~48時間で、白血球上昇幅が2×109/Lより大きく、白血球数が5×109/L以上。
 有効:穴位注射1~2回して24~48時間で、白血球上昇幅が1.9×109/Lより大きく、白血球数が4×109/L以上。
 無効:穴位注射を3回しても、はっきりした白血球の上昇が起きなかった。
 全部で56例を治療し、著効30例,有効22例,無効4例で、有効率は92.9%だった。

 ○体鍼
 (一)取穴
 主穴:曲池,内関,足三里。
 配穴:白血球減少には大椎と肋縁、食欲不振には中,関元,三陰交、頭がぼんやりして不眠には百会,神門,頭維、直腸炎には合谷,天枢,上巨虚を加える。
 肋縁穴の位置:鎖骨中線と肋骨縁の交点から下0.5寸。
 (二)治療法
 主穴から1~2穴取り、症状に基づいて1~2穴を配穴する。刺鍼して気が得られたら提插捻転手法で平補平瀉し、中刺激で運鍼したあと15~30分置鍼する。肋縁,関元,天枢は、鍼のあと棒灸で15分熏して施灸部分を赤くする。毎日1回治療し、10回を1クールとする。クール間は3~5日開けて次のクールの治療をする。
 (三)治療効果の評価
 a.白血球減少患者は全部で154例あり、治療した有効率は79.3~91%。多くは3~4日以内で改善する。ほとんどは5000/mm3以上に回復し、長期効果もある。
 b.直腸炎患者は全部で56例あり、治療して有効率は100%。そのうち治癒率は66.1%だった。
 c.臨床症状の現れた患者は385例あり、治療後の有効率は90.3~100%だった。
 結局は、早く治療するほど効果がよい。

 ○穴位のレーザー照射
 (一)取穴
 主穴:2組に分ける。
 a.阿是穴。
 b.頭がクラクラして疲れる:命門,腎兪,膏肓,足三里。食欲がなくて悪心嘔吐する:内関,地機,脾兪,中,承満。口腔咽喉反応:照海,少商,列缺,廉泉。直腸膀胱反応:気海,関元,天枢,大腸兪,大敦,中極。
 阿是穴の位置:放射線皮膚潰瘍の病巣部。
 (二)治療法
 全部ヘリウムネオンレーザーを穴位照射する。
 aは主に皮膚の放射線反応の治療に使う。レーザー出力2~4mW、光斑直径1.5~2mmとし、50mm離して照射する。直接照射する面積が10c㎡より大きければ区域に分けて照射し、1回の照射を20~30分とする。毎週6回治療して10~12回を1クールとし、各クール間は3~5日開ける。
 bの穴位は、各症状に対する治療である。症状に基づいて毎回3~4穴を取る。照射出力は症状によって変え、一般に3~5mWとするが、8mWにすることもある。メチルバイオレットて穴位をマーキングし、100cmの距離で垂直に各穴3分ずつ照射する。一穴に15回以上照射してはならない。この光鍼治療は、毎日1回治療して10回を1クールとし、3~5日開けて次のクールに入る。
 (三)治療効果の評価
 a.皮膚の放射線損傷を治療したのは58例あり、有効率89.7%、治癒率はコバルト60で8%だった。
 b.いろいろな臨床症状を治療したのは120例あり、多くの患者で症状が改善した。しかしコバルト60を頭不に照射して起きた放射線反応に対する効果は劣っていた。

 ○棒灸
 (一)取穴
 主穴:大椎,合谷,足三里,三陰交。
 (二)治療法
 主穴は全て取る。患者を腰掛けさせて穴位を露出し、棒灸で温和灸する。棒灸の火は、皮膚から約1.5cm離し、患者が暖かく感じるが熱くない程度とする。一穴に10~15分施灸し、局部の皮膚が赤くなるようにする。施灸が終わったら各穴を3~5分ぐらいずつ軽く按摩する。毎日1回治療して10回を1クールとする。
 (三)治療効果の評価
 本法は主に、癌患者の化学療法による白血球低下の治療に使われる。
 全部で49例を治療した結果、著効29例,有効11例,無効9例で、有効率は81.6%だった。白血球を増加させる現代薬と比較すると、明らかに優れていた(P<0.01)。

 もちろん、これは下訳なので、依頼された文ならば漢方薬の成分も調べ、単位も日本のものに治します。
 ところで実は私の母親も癌でして、異常を感じて10軒以上の病院を回ったのですが、最後に発見されたときは相当に進行しており、5年生存していたとき担当医に「実は、もう絶対に助からないと思っていた」と打ち明けられたそうです。実は、助からないと思われていたために、内緒で実験薬を使われていたようです。その治験薬を拒否したために生き残ったのでしょうが。
 13年後に脇が凝るというので、鍼しようとしたら小豆粒ぐらいのシコリがあり、早く検査しに行けと言ったのですが、主治医が「検査は半年後にする」というので、それまで1カ月ぐらい待っていたようです。そのときは横隔膜にも転移し、腰骨にも転移して坐骨神経痛が出ていました。半年放っておいた主治医もどうかと思いますが、その時ここまで進行したのは自分のせいだと主治医が思ったのかもしれません。主治医は、もう駄目だと感じたらしく、「僕も偉くなったので、あんたを以後は見てあげられない。これから若い担当医に代わるから」と言いました。
 それから2年後には病巣部が消え、7年後の現在も再び坐骨神経痛が出て、覚悟を決めて病院へ行ったら「薬の副作用」とのことでした。
何度もダメだと思い、もうかれこれ20年は生存しています。アガリスクやメシマコブを食べていたりということもありましょうが、思い出したように鍼をすることも免疫力の向上に役だっているかと思います。坐骨神経痛が「薬の副作用」とのことで、現在は全く薬を飲んでいません。
 だから鍼が症状を改善するだけでなく癌も消滅させるのか、果たして母親だけが特殊な癌だから広がっても復活するのか、「憎まれっ子、世にはばかる」という諺により生きているのか、地獄で閻魔が受入拒否しているのか不明ですが、抗癌剤を飲んでいたときだけが調子が悪く、腫瘍マーカーも骨シンチ(シンチグラフィー)も異常がなくなってしまいました。
 もっとも100歳以内で両親に死なれては、「あそこの鍼は、両親も長生きさせられん」と、悪い噂が立ってしまいます。
 うちの母親の膝が悪く、若い頃から歩けないことがキッカケで鍼灸師になりましたが、今では親戚のおばさん連中のなかで一番足がよく、何年も前から癌がひどくてダメだと思われていたのが、結局は癌でもなんでもなかった親戚の叔父さんが肺癌にかかって死に、長年の癌を患っている母親が生き残って、もっと若いおばさんや親戚が死んだりボケたりするという不思議なことになっています。
 どうやら鍼は、どこへ打っても免疫力がアップするようで、坐骨神経痛の鍼治療を続けていたらB型肝炎が陰性になった患者さんもいます。
 鍼は、やり続けると身体が慣れて免疫力もアップしにくくなるようなので、週一とかでやれば癌治療の助けになるのではないかと思います。
 まあ私の母親みたいに50ぐらいで広範囲の癌になっても古稀まで生き、さらに十数年に一度の再発を繰り返しながらも生存している人間もいるのですから、それが鍼の御陰かどうか判りませんが、悲観することもないと思います(もっとも母と同じ病室に居た他の人は、全部死んだらしいのですが)。この間は「坐骨神経痛が腰に癌が転移したせいかも知れん」と言ったので、かなりガックリきていましたが、薬の副作用らしいと判って、今は大喜びです。だから「鍼が癌に効く」というのは、まったくのデタラメではないと思います。


はじめまして。こんにちは。HP拝見しました。
2002年4月4日、脳幹(橋)出血で倒れた××と申します。倒れたときは43歳、今は44歳です。右手、右足、構音に障害が残りました。左手と左足も、若干の痺れがあります。とにかく最初の数ヶ月は、もうショックでショックで目の前が真っ暗でした。しかし今では、とにかく復帰をしたいと強く思い、リハビリに励んでいます。OT、PTは毎日、STは週2回、鍼治療を週2回、訪問マッサージを週2回、さらにヴォイストレーニングを週1回、後でくわしく話しますがいろいろな原稿読みや発声練習や滑舌練習は自宅で毎日、それも土も日も死にものぐるいでやっています。

 脳幹出血という脳出血の中でも重篤なだけに、最初は先生に「あとちょっとずれてたら命がなかったかもしれない」とか「一生車椅子かもしれない」とも言われました。同じ病院に入院している患者からは「脳幹?・・・人間、脳幹をやられたら終わりだっていうからねえ」ともいわれました。かつての仕事仲間にも、ずいぶん冷たい言葉を投げかけられました。もうだめだと何回首にロープを巻き付けたかわかりません。うつ病にもなりかけました。

 でも人がなんと言おうと、そんなことは真実の一部でしかないか、誤りだとわかりました。はじめは自力で立つことさえ出来なかった僕が、なんとか立てるようになり、平行棒で歩き、4点杖歩きになり、普通の1点杖になり、そして今歩く速度もがぜん速くなりました。装具と杖はしていますが。でもこれからはどちらか一方、例えば装具をなしにしようと思います。そして今なんとPTの先生にお願いして走る練習を始めました。もちろんまだ走れませんが、いつか走ることを夢見ています。「もし走れたら!」と思うと興奮して眠れないほどです。

 手も初めは全然動きませんでした。でも毎日練習することで指が動き、手首が動き、腕が上がるようになりました。そのうち爪切りが使え、鋏もなんとか使えるようになりました。今では字が書け、箸も何とか持てます。先日、握力を測ったら35.4キロありました。1年前は2~3キロだったのに。マットの上で腕立て伏せも1回ですができます。ぶらさがり棒にもぶらさがることができます。OTの先生にいわせると、脳のシナプスから樹上突起が伸び始めているかもしれないとのことです。

 そんな中でも仕事への復帰は、僕の大・大・大目標です。でも復帰といっても会社に復職して通勤して業務をこなすというのではありません。僕の職業はフリーのアナウンサーです。どこかの社員でもありません。声の職人といったらよろしいでしょうか。きびしい職人の世界ですから、構音障害は100パーセント回復しなけば復帰はできません。今は70点くらいでしょうか。元気な頃でさえ毎日2時間くらいは発声や滑舌の練習はやっていました。1日も欠かさずです。ですから今はその数倍、へたしたら10倍やってもダメかもしれません。でも逆に人間として、男として、その練習に命をかけたいのです。僕は負け犬には絶対なりません。

 そういえばリハビリ病院に転院したとき初めて会ったSTの女の先生は「復帰?復帰は難しいと思うよ」と、いとも簡単に言ってのけました。初日ですよ、初日。「よくも練習を始める前から、そんなことが言えるな」と憎んだこともありました。僕は、やるまえからあきらめることが大っ嫌いです。

  ここで質問です。構音障害を少しでも取り除くための針治療のポイントを教えてもらえますか?今通っている針治療でやっているのは、
 ①口の周りや頬、こめかみに10本程度鍼を刺したまま電気を15分間程度流す。
 ②顔や喉のマッサージを5分程度。
 ③喉や首に鍼を何本か刺す。
 といったものが主な治療なのですが。

答え:脳幹出血とのことですが、中国では一般に延髄麻痺とか球麻痺と呼ぶものと思います。松江から引っ越した後で、本の置場がなく、蔵書が箱の中なので詳しいことは調べられませんが、とりあえず『頭穴基礎与臨床』『針灸三絶』『最新針灸治療』などの本から回答しましょう。
 まず良いニュースと悪いニュースがあります。良いニュースは、私の経験では、脳出血の鍼治療では出血が消えて治りやすいのですが、脳塞栓では効果が悪い。それと構音障害は治りやすいことです。私も脳出血が起きて七年になるという患者さんを治療したことがありますが、本人は脳出血の後遺症で腰痛となった症状を訴えて来ました。なにせ構音障害で「ワァーワァー」いうだけなので、家族の通訳がなければ判りませんでした。それで腰痛治療と一緒に頭鍼を併用したところ、2~3回で喋れるようになり「おかげで電話に出れるようになりました」と喜んでいました。確か5回もしたら喋り方は少しゆっくりですが、全く普通人のように喋れるようになりました。だから構音障害はリハビリよりも鍼の方がなんぼか効くと思います。普通の脳梗塞による手足麻痺ならば、一年も経過していれば頭鍼をしてもなかなか治らないものですが。
 悪いニュースというのは、鍼は確かに早期治療であれば脳出血に対して魔法のような効果があるのですが、鍼を入れるのは頭皮なので、頭蓋骨に近い部分では効果が大きく、頭の中心部のように頭蓋骨から離れると出血も消えにくく効果が悪くなります。球麻痺では脳の深部なので、従来の頭鍼や頭皮鍼をしても効果が悪いのです。
 このような話で気落ちされたことでしょう。しかし「禍福あざなえる縄の如し」、今まで頭鍼の効果があまりなかった球麻痺に対し、『針灸三絶』や『針灸六絶』の高維濱は「項鍼療法」という新技術? を開発しました。

 あなたの状況がよく呑み込めてないのですが、嚥下障害とか他の球麻痺症状もあるのでしょうか? それとも構音障害だけがあるのでしょうか?

 方法を検討します。
①口の周りや顔、こめかみに10本程度鍼を刺したまま電気を15分間程度流す。
 脳卒中に最も使われるのは焦順発の頭鍼ですが、それによると運動区の下2/5が頭面運動区、または語言1区と呼ばれている部分です。于致順の『頭穴基礎与臨床』には、この部分が対側中枢性顔面神経麻痺、運動性失語、流涎、発音障害などに効くとあります。この発音障害が、日本の構音障害に相当します。
 コメカミならば、その語言1区かと思われます。感覚性失語を治療する語言3区は、耳の上に相当します。語言2区は後頭部にあり命名性失語、日本語でいえば名称性失語を治療します。だからコメカミは運動性失語なら一般的でしょう。
 そして口の周りや顔への刺鍼ですが、これは顔の筋肉が動かなければ、その筋肉が廃用性萎縮を起こしてしまい、いざ神経が回復したときに筋肉が萎縮して使えなくなっている恐れがあるので、それを他動的にでも動かして萎縮を防ごうという意図でしょう。顔面麻痺の治療と同じです。そのため口輪筋や頬筋、側頭筋など口を動かす筋肉に刺鍼して通電し、顔や喉のマッサージも、そこの血流をよくして萎縮を防ぐ目的でおこなっていると思われます。それは構音障害の治療というより顔面麻痺の治療に似ています。
③喉や首に鍼を何本か刺す。
 首や喉への刺鍼は、文革のあと随分やられたようです。まず昔から中枢が原因で発声できないものに対して門という経穴が使われています。また喉仏の上の廉泉という経穴も発声できないものに対して使われています。また増音という奇穴も使われ、下角の下にあるのですが、これも発声できないものに対して使われるようです。

 総合してみれば、声の出ないものを治療する方法とはいえます。この治療効果ですが、残念ながら私は門への刺鍼はしたことがありません。そこへは突き上げるように刺入すると効果がよいようですが、そうすれば硬膜越しに延髄を刺激することになるので、かなり危険な治療法なのです。そこで下向きに入れたり、耳へ向けて刺入したりの方法がありますが、本来の「延髄を刺激して脳の障害を治す」目的から外れてしまいます。実際に刺入するところを見たのですが、細い鍼を1cmぐらいゆっくりと入れてゆき、足にピクッと反応があったら、すぐに後退させるという鍼でした。そんな神経を遣う鍼などしたくないので試したこともなく、またやってみようとも思いません。経穴は沢山ありますが、勇気がないのでやりたくない経穴も相当あります。これもその一つです。増音は中枢性の発声障害より、嗄声など喉の疾患によって声が出なくなったものに効果があると思います。廉泉は結構使われます。これは舌の根元へ向けて刺入し、舌がこわばったものを治療するので、舌の筋肉を緩めて動きを良くするのに効果があると思います。また脳卒中に対する体鍼治療は、その部分は脳からの神経が支配しているのだから、その部分を刺激すれば逆に似たようなルートを通って脳の支配部分に治療効果を及ぼすと主張する本もありました。
 いずれにせよ門の刺鍼はしたことないし、廉泉を使ったこともないので、その効果についてはコメントできませんが、そうした治療もあります。

 ところで私ならば、まず脳幹出血が原因で起きた構音障害ですから、頭のどこに出血があるのか尋ねます。これはMRIとかで判っているでしょう。それで脳幹出血ならば、呼吸中枢とかの生命中枢がある近くなので、傷付ければ即呼吸が停止してしまうため手術できないはずです。そうすると鍼で出血を消すことがメインな治療法になります。これも早く治療しないと、脳細胞が出血のため圧死してしまいますので、できるだけ早く頭鍼や項鍼を開始します。確か頭鍼のクモ膜下出血は出血量が50mL以下であれば頭鍼で治療し、それ以上ならば手術することに中国ではなっていたと思いますが、脳幹出血では手術ができないので、すぐに鍼をします。
 脳卒中の鍼には2つあります。一つは脳卒中直後の鍼です。これは脳卒中が起きた現場に立ち会ってなければなりませんが、指先などの十宣穴や井穴へ点刺し、全身の血管を痛みで収縮させることによって脳内の出血量を減らす治療法です。おそらく眼鍼なども、これに属すると思います。出血量が少なければ、症状も軽くて済みます。脳の血管が切れると、脳は十分な血が来ないので、心臓の動きを強くして血圧を上げ、そのために出血がひどくなって脳の圧迫を悪化させるので、初期の指先への刺鍼は非常に効果があります。
 次は、しばらく経過した時の治療です。これは主に頭鍼や項鍼を使い、脳の血流を改善して、出血した血を吸収させる治療です。刺鍼した翌日には出血が吸収されていますので、脳に対する圧迫も短時間で済ますことができ、ダメージをかなり軽減できます。
 あなたの場合は1年が経過していますので、手足麻痺に対して驚くような頭鍼治療効果は期待できません。でも構音障害になら効果があると思います。 側頭部への刺鍼通電は、もし側頭部に出血があれば効果があると思います。ただ側頭部に出血がなければ、いくらそこが構音障害の治療ポイントだとしても、あまり意味はありません。なぜなら正常部分に鍼をしても、ほとんど効果がないからです。もし脳幹部分に出血があるのなら、項鍼とか小脳付近の後頭部への刺鍼が重要になるでしょう。こうした頭鍼治療は、一般に3ケ月以内であれば結構効果があるとされていますが、それ以降は脳が圧死してしまいますので、いくら鍼でも死んだ細胞を生き返らせることはできず、頭鍼の効果が悪くなります。
 その時期も過ぎてしまったら、硬直した筋肉へ刺鍼して筋肉を緩め、痛みを消して可動域を広げ、リハビリをしやすくすることと、やはり頭鍼や項鍼を併用して脳の血流を改善させ、少しでも回復しやすくする治療が中心になります。だから体鍼と頭項鍼を併用することです。通電して他動的に動かし、廃用性萎縮を防ぐことも、この時期には治療範囲となりますが、この段階では「魔法のような回復」は、あまり望めません。なかには鍼するとメチャクチャに回復する人もありますが、それは50代までの若い人です。
 実は私も現在、日曜日か土曜日に頼まれてリハビリ病院へ通っています。患者は80歳近くで、アジアでは有名な作曲家です。去年の11月、心臓の拍動がおかしかったのに上海へゆき、そこで脳が詰まったらしいのです。心臓病があると、心臓で血栓ができやすく、それが流れて、肺に詰まるやら、眼に詰まるやら、脳に詰まるやら判らない状態になります。脳出血で、サラサラした血をしている人は、鍼で「魔法のような効果」がありますが、血栓が詰まる人には対処しにくいのです。もっとも心臓が悪くなったこと自体が、血がベトベトしている証拠ですが。動物性の中性脂肪を摂取したり、酸化した食用油や魚の油を摂取しないよう注意しなければなりません。最近の患者さんは脳血管が詰まるタイプが非常に多くなり、脳卒中を鍼で奇跡的に治すことができにくくなっています。ベトベト血では鍼の効果も悪くなります。
 脳血管が詰まって倒れ、私が呼ばれたのですが、すぐに頭鍼をしても肢体の動きが回復しませんでした。よく考えれば、血管が詰まった場合は、薬でさっさと血栓を溶かしてしまうので、鍼で血管を広げて血栓を除こうにも、その血栓そのものが消えているので、あまり効果のないことが多いのです。まあ血流を良くして脳の回復を少し早める程度。ですが、こうした病気では筋肉が硬直し、それが神経を挟みつけて痛むため、痛みを消すためには効果がありました。患者は、夜になると痛み止めを飲んでも痛くて眠れなかったのですが、痛みが消えたので眠れるようになりました。半年過ぎて、再び痛みが出てきたということで呼ばれましたが、やはり体鍼で筋肉を緩めると、当日はかえって痛かったようですが、翌日から痛みが半減したようです。そうした詰まったものに比べれば、一般的に出血は鍼の効果があります。
 まあ脳卒中でも癌に対してでも、鍼はある程度の作用をします。例えば癌に対しては、癌そのものを治療することはできませんが、化学療法や放射線治療によって白血球や赤血球が減少したり、吐き気などの副作用を消すことができるので、そうした治療を長く継続する目的で鍼治療は使われています。
 書いてある範囲では、あなたが不合理な鍼治療を受けておられるとは思えません。ただ本当にコメカミに出血があるのか?球麻痺ならば後頚部にも刺鍼したほうが良いのでは?という不明点があります。それと15分の通電では、少し時間が短いのではないかと思います。
 後はマニュアル通り、頭鍼で太い鍼を使っているかとか、何cmぐらい刺入しているかなどということですが、これは第三者が観察していなければ判らない問題です。
 あなたの場合は40代なので、正確に頭項鍼をすれば、すぐに治ると思います。
 それから北京中医の参考資料に、人迎のブロック注射で脳卒中に効果があったようなことが書いてあったと思います。まあ星状神経節に1ccぐらいの麻酔薬を注射する方法だったと思いますが、それが脳の血流を改善し、回復に効果があったようです。最近ではイチョウの葉を食べたり、朝鮮人参などでも脳の血流を改善できるようなので、それならば頭鍼など必要ないかなとも思っているこのごろです。

はじめまして、私は46歳男性です。最近(2~3週間)くらい前から尻から両ふともも(後側から外側にかけて)に痛みがあります。毎日曜日に剣道をやっておりますが、ここ1ヶ月やっておりません。痛みのためです。最初のうちは、ちょっと凝ってる感じで、その時は相撲の「しこ」をふむように両足を肩幅程度に開き、尻を深く下におろすと痛みが消えました。痛みの頻度が多くなり、今では朝起きてすぐストレッチ(準備運動)をしないと駅まで(約15分)歩けません。思い当たるのは2年半程前(2000/11/5)、剣道稽古中の左足ふくらはぎ中央(腓腹筋?)の肉離れです。約2ヶ月の松葉杖生活を送りました。その間、近所のスポーツマッサージに通っていました。治療はマッサージと鍼です。そんなある日、鍼をうって(電気をかけ)、5分ぐらい静かに横になっている時、ちょとお尻を5センチぐらい動かしました。その時ズキンと、痛みがふくらはぎからふとももにかけて走りました。左足ふくらはぎ内側の膝裏側から3~4センチ下あたりにある鍼でした。その後は順調に回復して剣道もできるようになりました。しかしズキンとなった時、鍼が途中で折れて体内に残っているのでは? この尻からふとももにかけての痛みは、残った鍼のせいかな? と考えてしまいます。ちなみに肉離れをおこした所に鍼を感じます。こちらのホームページを興味深く読んでいましたら、腰痛の項に「おおかた鍼の管理が悪い人が、鍼が切れちゃったから置き鍼だと誤魔化したのでしょう。置き鍼では、体内に一生鍼が刺さったままなので、後に障害がでることは言うまでもありません。」とありましたので、愚問と思いつつ質問いたしました。
脅かすようなことを書いて申し訳ありませんでした。私が当たった患者さんで、鍼が折れた経験を持っていたのは一人だけで、珍しいのであれこれ質問しました。鍼灸院では、そういうふうに何かあると治療所を変え、他の治療所で「こういうことがありました」と報告してきます。「お宅は大丈夫でしょうか?」との意味だと思います。
 その人は背中に鍼をしてもらった途端に、その部分が痛くなり、病院で手術して取ってもらったということでした。でも治療所に補償はしてもらっていないし、手術代も払ってもらっていないとのことでした。背中のような、あまり動かなそうなところに鍼があっても、すぐに気になって手術してもらわないといけないのですから、かなり辛かったのだと思います。なにせ患者さんですから、鍼の材質は何だったか、どういう方向に入っていたのか、いろいろと尋ねたいこともあったのですが、背中のことだから判らなかったそうですし、その鍼灸院にも手術したことを伝えてなく、それから行っていないとのことでした。島根県西部の鍼灸院だったようです。十年以上も前のことですので、地名は忘れてしまいました。いろいろと事故話を聞いている私としても、切鍼(折鍼)の話は、それ一件だけです。
 結論から言うと、お気に障ると思いますが、あなたの足に鍼が刺さったままになっている可能性は99%ありえません。
 その理由は、鍼の残った患者さんは、すぐに刺鍼部分が痛くなり、その直後に歩けなくなるはずですが、あなたの話では「その後は順調に回復して剣道もできるようになりました。しかしあのズキンとなった時に鍼が途中で折れて体内に残っているのでは?」とあります。実際に残っていた人の話では「すぐに痛みで動かせなくなった」とのことなので、「その後は順調に回復して」ということはありえません。また、うちで刺鍼中に、刺鍼してあるのを忘れて起き上がろうとした人がありましたが、動こうとしても痛くて動けなかったそうです。鍼が体内に残っても、刺鍼中と同じ結果になったはずです。
 また別の理由では「ちなみに肉離れを起こした所に鍼を感じます」ともありますが、一般に電気鍼は、電気分解による切鍼(折鍼)を防ぐためにステンレスを使っています。人間の身体は皮膚が電気を通しにくいので、皮膚から入った所で電気が流れ、その部分が電蝕しますので、それから先が体内に入ったと考えられます。ところがあなたの話では「静かに横になっている時ちょっとお尻の位置を5センチぐらい動かしました。その時ズキンと痛みがふくらはぎからふとももにかけて走りました。左足ふくらはぎ内側ひざの裏側より3~4センチ下あたりにうった鍼でした」とあります。一般に、電気鍼は動く可能性があるので、それほど深くは入れません。せいぜい1cm程度でしょう。ところが膝窩から3~4cm下ならば、かなり筋肉も厚くなっています。そしてあなたは「痛みがふくらはぎからふとももにかけて走りました」という。すると鍼は坐骨神経に刺さっていたと考えられます。ならば4cmぐらいは入っていたと考えられます。もし4cmの鍼が残っているとして、それが電気鍼のとおりステンレスであったとしたら、運動量の多いふくらはぎでは、そこの場所に留まっているはずがなく、筋肉が動くにしたがって前進し、脛の方に先端が突き出るはずです。ところがあなたの言葉は「2年半ほど前に鍼をしたところに鍼がある」というように取れます。そこに留まっているとは考えられません。それだけ運動量が多いところならば、ふくらはぎか脛に出るはずです。
 最後に、電気鍼に使う鍼は、電気分解しても切れなくするため、相当に太い鍼を使うのが普通です。また細い鍼では鍼の表面積が小さくてチクチクし、あまり電気を流せないので太い鍼を使います。ですから傷があって、それが折れるかもしれない傷であれば、鍼を見たりさわったときに、すぐに気が付くはずです。まあ傷に気付かなかったとしても、足なら毎回同じような深さに刺しているはずです。すると皮膚と接触する部分が電気分解されますから、その部分が細くなっているはずです。そこで切れたとすれば、とうぜん残った部分はポロリと落ち、途端に電気が通じなくなって電気刺激を感じなくなるはずです。ところがあなたのは、ポロリと落ちて電気刺激がなくなってとは一言も書いていません。
鍼を刺して電気を通じると鍼全体から電気が流れると思う人も多いでしょうが、実際は電気を流すと一番近い経路を通って流れるので、鍼の先端には電気が流れないのです。先端から流すには、鍼を絶縁物でコーティングせねばなりません。ちょうど鍼に灸を着けて燃やすと、素人は鍼に熱が伝わって体内にまで熱が入ると思いがちですが、実際には皮膚しか熱くなっていないのと同じです。

 こうして、さまざまな内容を分析してみますと、あなたに鍼が残っている可能性は非常に低いと思います。でも心配ならば、電気鍼の鍼は太いので、レントゲンを撮ってみられることをお勧めします。それで映っていなければ安心ではないですか。

 電気鍼は電蝕して切れる可能性があるので、それをする人は非常に注意して、何回か使うと破棄するようにしていると思います。それに、私はまだ切鍼をしたことはありませんが、もしふくらはぎで起こしてしまったとしたら、まず患者に切れたことを告げ、運動が激しい部分なので、そのままにしておくと痛むことが予想されるため、反対側から抜くでしょう。つまり患者さんには抜くことに協力してもらうようにします。
中国の鍼は質が悪かったので、昔の中国の鍼灸書には、鍼が切れたときの除去方法が書いてありました。
『鍼灸大成』や『鍼灸聚英』、『鍼灸大全』などには、磁石を使ったり、さまざまな切れ鍼除去方法が記載されていますが、ステンレスでは磁石にくっつかず、書かれている内容もあてになりません。私のホームページの刺鍼方法は、骨に当てたりして万一の場合にも抜けるようにしてあります。それと手足では、動いているうちに出ることが多いので、一生鍼が刺さったままというのは、金鍼などでは真実であり、ステン鍼では真実でないとも言えます。

 つまり、あなたに鍼が残っている可能性は低く、もし私があなたの足に切鍼が残ってしまったとしたら、そこを押したり、揉んで移動させ、取り出してしまうであろうこと。しかし鍼灸師が取り出す様子を見せなかったので、まず残っている可能性はないのではないかということです。 どうしても心配ならばレントゲンをかけてくださいということ。

 私の感想は以上ですが、現在のあなたの症状は鍼が残っているせいではなく、坐骨神経痛が起きたためと思われます。それはふくらはぎの痛みが腰まで上がったために起きたのかもしれません。そのスポーツマッサージで順調に回復したと言われるので、ある程度の鍼の技術はあるのかもしれませんが、スポーツマッサージに通っていたと言われます。普通フクラハギの痙攣ぐらいならば、私でさえ3回もあれば治しますので、それを通っていたとおっしゃるのでは、やはり鍼が専門とは思えません。鍼が専門でなければ、うちのホームページの坐骨神経痛の鍼も難しく、フクラハギの痙攣ぐらいなら治せても坐骨神経痛を治せるとは思えません。30分以内で通えるところなら、あまり治療効果に差が出ませんので、30分以内の範囲で坐骨神経痛を治す技術をもった鍼専門の治療所を捜すことをお勧めします。鍼を専門にしている治療所はすごいですよ。初めてきた人は「こんなに鍼が効くものだとは思わなかった」と言います。筋肉の痙攣には鍼が一番です。それを簡単に消せるので、鍼は凄いというイメージがあるのです。あなたの症状ならば3回ぐらいで治ると思いますので、まともな鍼をしてもらい、剣道に復帰されれば良いと思います。スポーツ鍼とかスポーツマッサージとかにこだわる必要はないと思います。
 ちなみにうちはスポーツ鍼とかの看板を揚げているわけではないのですが、この辺りのスポーツ関係では結構有名で、特にバレーボールの患者が来ます。スポーツ鍼の看板を揚げているところへは行かないで、揚げてないところへ来ます。
 うちに紹介されてきた患者さんの話を聞きますと、やはり高校や中学、小学校の監督がうちを紹介している例が多いのです。理由は、生徒が治ったというから。
 つまり学校のスポーツ関係の先生は、情報が豊富だということです。ですから学校の監督、特にバレーボールは故障が多いようなので、バレーボールの監督に治療所を紹介してもらうのがよい方法かと思います。

鍼灸や整体の方面に進もうと考えている35歳無職の男性です。
将来、鍼灸のみ、もしくは鍼灸と整体の技術を持つ者になりたいと考えています。
 ひとまず、当座の生活費(一人分)と学費をある程度得る為に、関連分野でアルバイトをしようと考えております。
 現時点で下記の3方向を考えておりますが、先生はどのようにお考えになるでしょうか?
 ①未経験者可のクイックマッサージ店で教わりながら働く。
 ②鍼灸の実力の低い近場の接骨院で受付や装置操作・脱着の助手をする。
 ③めったにない鍼灸院の助手の口を時間を掛けて探す。
 なお、
 ・各種施術を受けた経験は多いほうだと思います。
 ・マッサージの「勘」は悪くない方だと思います。(あくまでド素人ですが)
 ・以前から東洋医学に興味を持っており、陰陽五行説に基づいた診断ができるようになりたいと考えています。
 ・抑うつ状態で療養しておりました。人生の目標といったものを考え直す機会になり、低収入でも構わないから東洋医学の方面で生活してゆきたいと考えるようになりました。
 ・志向の方向は「癒し」よりも「医療」、さらにより好ましくは「研究」です。

生活費を稼ぐために関連分野でアルバイトしても、あまり勉強にならないようですし、生活費だってあまり稼げないと思います。同級生でも関連分野でアルバイトしている人は多かったですが、それは生活費を稼ぐためにというより、学校に入れるよう推薦してもらう目的の人が多かったようです。私などは入学してすぐ同級が弁当屋さんを紹介してくれ、午前中は弁当配達、夜は学校という生活でした。でも弁当屋さんだったので食いっぱぐれはなく、月に十万円以上になったので、学費や生活費ぐらいは出たと思います。で、夜は図書館へ行って、十二時頃まで読書時間という生活でした。
  鍼灸師に習いたければ、卒業してからでないと無理と思います。無免許の人間に、患者へ鍼を打たす鍼灸院は、おそらく皆無と思われるからです。
  電気鍼のコードの脱着も、同じ仕事で飽きるでしょう。
  クイックマッサージで働くというのは、私が学校へ行っていた時にはなかったので判りませんが、整骨院でアルバイトしていた人は、ほとんどマッサージをやらされていました。
  というわけで難しいのですが、私は短時間で稼げる仕事が、ゆっくり勉強できてよいのではないかと思います。

  「陰陽五行説に基づいた診断」ですが、それは漢方薬が詳しく勉強する分野で、それほど鍼灸では勉強しませんよ。例えば『中医基礎理論』は、鍼でも漢方でもやりますが、それは入口の段階です。「基礎理論」ですから噛った程度ですか?  そのあと鍼では『鍼灸治療学』で陰陽五行理論に則った辨証法を習いますが、漢方の『中医内科学』とは比較にならないほど省かれた内容です。
  病院での治療も、昔なら陰陽五行で辨証治療したでしょうが、現在では病院のマニュアルができています。
  鍼灸院が鍼灸師を雇いたいと思うときは、院長が鍼灸の資格を持ってないときぐらいと思います。患者さんは院長の治療を受けたくて来ているのに、弟子が刺鍼すると嫌がって来なくなったりします。つまり患者を減らすことにつながるからです。来なくなれば、本来は治癒した患者でも、治らないことが起こってきます。だから鍼灸師が鍼灸師を雇って教えながらやらせてみるというのは、かなり道楽の要素があります。よっぽど頼み込まないと難しいでしょう。うちも弟子にばかりやらせてと、怒って来なくなった人もありますから。
  というわけで、中医学校に通ったり、留学したほうが早いということになります。
  マッサージの勘がよければ、鍼専門の人と組んで、鍼を習いながらマッサージで患者を呼び、稼げばよいと思いますが、それは卒業した後のことです。
  抑うつとのことですが、鍼の患者さんは半身不随とか嚥下障害、ひどい痛みや痺れがあって夜も眠れないとか、二人だけになると夫と離婚したいだの、家族や子供の悩みまで相談されるので、結構メゲますよ。治療しても変化ありませんとか言われると、かなりショックですよ。ひどい人は、鍼を打つとシクシク泣き始める人もありますよ。重症の人は、鍼すると2~3日は症状が悪化することがありますから。かなり陽気な人でも、鬱っぽくなりますよ。だいたい楽しい話する人など、そもそも鍼灸院には来ませんから、みんな「どこかが痛い」が口癖で、家族から疎まれているような人達ばかりですから。
  鍼の勉強ですが、現代中国の鍼を学びたければ、やはり中国語が読めて、中国の鍼灸臨床の文献を読んで内容を検討し、自分でも同じ方法を真似できねばなりません。古典は、私のホームページである程度できるようにしたいのですが、医療機器や健康食品、西洋薬の中国語文を日本語訳してくれという依頼が最近は相次ぎ、なかなか金儲けが忙しくてホームページが更新できません。
  私は、鍼灸師にとって最もふさわしいアルバイトは中→日の翻訳だと思います。なにせ治療所を離れる必要がないし、時間的にも調整が利く。それに中国語能力が上がれば、中国へ行って本屋で本を買うときにも、パラパラっとめくればどんな本か判るようになるので、しょうもない本を買わなくて済む。それに中国行きの旅費が必要経費で落とせるし、パソコンや辞書も必要経費で落とせます。
  さらに翻訳すると、分厚い辞書を引くことが多いので、どうしても下向きにならざるおえず、頚に負担がかかって腕に痺れがきたり、指に痺れが走ったり、肩関節が痛くなったりします。これは翻訳者としての宿命ですが、鍼灸師ならば自分で治喘や喘息へ刺鍼し、2~3日ほどキーを叩かなければ治ってしまいます。つまり自己修復能力のある翻訳者なので、自己修復能力のない翻訳者と比較すれば、適性は雲泥の差です。

  私は明治の夜間部へ入学し、昼間は弁当屋さんで詰めたり配達したりして、午後から学校へ行き、卒業して約一年ほど鍼灸師として勤めながら中国語を学び、それから中国へ渡りました。そして中国人とともに鍼灸を学んで、留学中は日曜日ごとに書店へ出かけ、どうやら3ケ月ごとに書店の本は変わることが判りました。
  帰国してからは、持って帰った本の翻訳作業が始まりました。だいたい3ケ月に1冊のペースで、面白そうな鍼灸本を翻訳してゆきました。翻訳することの利点は、本の判らない部分を調べることです。ただ読んでいれば不明点は流してゆきますが、翻訳ということになると不明点を調べます。なかには意味が判りさえすれば良いものもあるので、そのままにしておいたりしますが、自分が理解できるまで調べます。そんなことをしている間に本の内容は、そっくり頭に入ってしまい、どのへんに何が書いてあったか思い出せます。
  こうした翻訳を続けていれば、漢方薬と違って、鍼灸は西洋医学の薬物名やホルモン名などがしょっちゅう出てきますから、どんな辞書を集めたら医学関係のことが翻訳できるようになるとか判るし、また中国で現代医学の専門書を買えば、日本より遥かに安いし、またそれを理解する能力もついてきます。それから暇なときに、私のように鍼灸書の打ち込みをやれば、だんだんと古文も理解できるようになります。
  現在は、嫁の医学英語の翻訳を助けて、医学中国語の翻訳を担当し、そっちのほうで飛躍的に仕事が増えて、何屋さんか判らない状態になっていますが、最先端の鍼灸を学ぶには最新の文献(『北京針灸』とかの雑誌を含めて)を読まねばならないし、そのためには中国語能力は必須です。

  これは私個人の経歴ですが、こうした経歴を考えてみると、我ながら非常に順調に進んでいると思います。まるで鍼の神様に指図されているみたい。

  志向の方向というのは意味が分かりませんが、「癒し」も「医療」も「研究」も一緒じゃないかと思います。患者が不調を訴えて来る、こちらはそれを除くように努力する。それで快調になれば「癒し」であり「医療」でしょう。もしそれが治らなかった。己の至らなさを恥じて、どうやったら治るか文献を調べたり方策を考える。それが「研究」というか「学習」というか。だから成功したら「癒し」と「医療」、成功しなかったら「研究」でしょう。それとも大学でやっている動物実験などの研究のことでしょうか?

  私は、わりとスムーズに鍼の道へと来たのですから参考になったと思います。とにかく中国語ができないと話にならないので、ラジオ講座でもテレビ講座でも中国語会話を始めてください。最近はCDや衛星放送のおかげで、我々のテープ時代より遥かに学びやすいのですから。そして文盲でなくなったら、北京や上海の新華書店や科学技術出版、図書城などで膨大な鍼灸書籍の海が待っています。鍼灸好きの人には感激ですよ。ただ脈と舌は実地でやらないとダメと思いますので、留学して中医診断学は履修せねばならないと思います。
  なにせ鍼灸では、メイン言語は「鍼灸が発祥した地の言語を公用語とする」。補助言語は「その時代に、世界語として使われている言語(現在は英語)を補助言語とする」と決められているので、中国語には日本の鍼灸文献からアメリカのまで、すべてがピックアップして読めます。しょうもないのを省いているので、現地語で読むよりポイントがつかめます。
  それに中国語ができない鍼灸師は、私はそうではないのですが「みんな仲良く派」ですから、できる鍼灸師からは一人前として扱ってもらえません。いちばん困るのは、例えば「君のいうことは教科書『中医内科学』の何ページに載っているよ!」と言っても、我々ならば教科書を持ってますから「そうか」でしまいですが、読んだことない人は「そんなこと学校で習ってません!」と来る。何を喋っても通じないので、結局あまり相手にしなくなってしまいます。こいつは素人なんだと。
  例えば鍼灸科(北京中医では針推系)では、経絡学やら刺法灸法学を習いますが、中薬系では経筋やら絡脈、経別などは習わないと思うのです。だから経絡に対する知識も素人レベルなので、それなりに話を合わせる程度でしょう。また刺法灸法学もやってないと思うので、腕踝鍼や足踝鍼などについては話題にしないと思います。私は中薬系を知らないので、たぶんそうだろうと思いますが。だから膈線なども中薬系の人は知らないでしょう。そうした人を相手に喋る内容は限られたものになってしまい、とても自由に討論できる状態にはありません。
  例えば、私は嫁さんと今村氏と2002年10月に北京中医に行きました。6人で行ったのですが、最初は日本の鍼灸師との交流会とのことで、日本の鍼灸の現状を聞きたいという話で、あまり盛り上がらなかったのですが、私が北京中医の卒業生と判ると、急に「球麻痺に頭鍼を使っているのですが、どうも効果が芳しくありません」と質問してくる。頭鍼は焦氏か、方氏か、朱氏か尋ね、それは項鍼療法を使うべきだね。と返事する。相手は学生、まだ勉強中の身だから現代鍼灸についてはご存じない。当然、教科書とか、例えば『鍼灸学釈難』とかを読んでいるこちらとしては、十分にまともな返答をしてやれるんですよ。
  ところが、私が「なんだか日本で、辨証鍼灸するという人と話したら寒邪の直中も知らなかった」とぼやいたら「そんなこと当然ですよ」といってくる。はなっから相手にしてない感じ。私は「あんたら留学生は中国人か?」と思った。そういえば彼等の発音は妙に中国人ぽい。だが、彼も日本人の鍼灸レベルの低さを嘆いていた。だから私は自分の習った教科書を翻訳し、同じ考えを持つ今村氏と谷口書店の社長に協力してもらい、中国の教科書を日本語で読み、私のホームページで古典に興味をもってもらい、私のホームページが中国語を学ぶキッカケになればと思います。そして膨大な中国の鍼灸書サーフィン。そうすると我々のような留学グループと日本の鍼灸師が、あるいは中国人鍼灸師と日本の鍼灸師が同じ話題について、「それについては素問には、こう書かれています」とか、「いや鍼灸神書では、こうだ!」とか、話ができそうな気がします。
  例えば、私が中国で同級生とした話題ですが、太陰経は多気少血か多血少気か?
  そうしたことを15年前に同級生と議論してました。とっても楽しかったし、彼も的確な答えを返してくれました。日本で鍼灸師と、そのような話をして、果たして楽しいでしょうか?  オカルト的な、それは何を根拠としているのだ?  というような答えが返って来たら、こいつは素人なんだ。話題にふさわしくないんだと思うでしょ?

  昔の鍼灸書には、最初にかならず毛沢東語録が載っていました。だいたい最初には「医療の実践は農村にある。農村へ行け!」という文章でした。しかし最近では本音が現れています。鍼灸を人々の幸福のために貢献させるようにという文章です。私が留学した頃は、中医学院というと一般の人に馬鹿にされました。来ている生徒は優秀な生徒ではなく、文革時代に父親が飛行機(十字架を背負って市中引回し)してヘルニアになったので、それを治そうと思って中医に来たとか、唐山地震で両親とも死んだとか、まあ医者なら文革でも労改へ行かなくて済むとか、知事に言われてというのもありましたが、少なくとも成績優秀なので金儲けのために医者になるというのはいませんでした。中国の医者は金が儲からないのです。だから鍼灸で貢献したいの一心でしょう。病人を見れば、何とかしてやりたいと思うのは人の常です。それができるのだからすばらしいですね。
  まあ何だか判らない話になりましたが、結局は鍼灸治療するには、それを治せる人の治療法を真似るしかないということ。師匠は、そんなに沢山いるわけないのだから、本で勉強するしかないこと。本は多いほうが、より優れたものも多くなること。そして中国語で出版されている鍼灸の本が最も多いことです。
  ということで3方向でなく、第4の方向をお勧めします。
  私のような生き方も、楽しいと思いますが。


質問:中国の会社に勤務しています。こちらで中日医学辞典を探しているのですが、種類も少なく、いいものがありません。
インターネットで日本にあるものも探してみたのですが見つかりませんでした。
 もし何か良い辞典をご存知でしたら、教えていただけないでしょうか。

答え:お答えいたします。神の啓示では、それは非常に難しい質問です。単なる中日医学辞典でしたら人民衛生出版社の『漢日医学大詞典』というピンク色の辞書が一般的です。まあ一番よい辞書というと、それになります。しかし医療機器となりますと、黒っぽい色した黒龍江科学技術出版社の『漢日科技大詞典』も必要だと思います。
 よい辞典をと言われるので、これを紹介しましたが、本当のことをいうと、それで完成した翻訳文は会社の内部文書ぐらいならばよいのですが、外に出す文書というと少し問題があります。
 というのは、よく中国人が中文を日文に翻訳していますが、少し変ですよね。だいたい意味は通じるのですが、聞いたこともない単語がたまにありますよね。
 実は、このどこでもある『漢日医学大詞典』は、ステッドマンを使って日本語に訳したと書いてありますが、本当かな? と首をかしげる言葉がままあります。
 実際、私も自分用に2冊、嫁用に1冊の85元の『漢日医学大詞典』を持っています。現在は180元です。しかし嫁の辞書は知りませんが、私の辞書は書込みだらけです。というのは、やはり載ってない単語があって書き込んだり、「そんな言葉は日本語にない」というわけで訂正したりしています。この訂正は、特に薬物名で多いのです。 無修正! 失礼しました。嫁が、無修正という言葉を入れないと、カウントが上がらんでと、脅すものですから、つい無関係に入れてしまいました。
 嫁は朗道というクマがピアノひいているパソコンソフトを使うことが最も多いようで、あとソシアル日外エーツとかの技術用語辞典という英日のパソコンソフトを使っていると思います。それから紙では『新世紀漢英科技大詞典』という辞書をよく使っています。
 私は『漢日医学大詞典』と、経済日報出版社の『新漢英医学詞典』、『漢日科技大詞典』、電子ブックの日外アソシエーツ25万語医学用語大辞典(英和/和英対訳)と日外アソシ エーツEB科学技術用語大辞典(英和/和英対訳)を使っています。しかし25万語と称する日英医学辞典も、どうかと思われる訳語が載っています。

 私の感想では、経済日報出版社の肌色をした『新漢英医学詞典』が最もよい辞書と思いますが、zhunの頁がまるで跳んでおり、欠落した辞書になっています。おそらく打ち込み段階の操作ミスで消してしまい、そのまま出したのでしょう。まあ、それだけあれば機械関係の医療翻訳ならば、できると思います。私は化学分析からバイオまでやりますので、化学辞典とか生物辞典も持っていますが、植物とかカビを頼まれるので、漢英植物辞典とかの必要性も感じています。 中国の軍事医学科学出版社の細菌名称英解漢訳詞典とか科学出版社の漢英生物漢英詞匯は持ってますが。
 中国では、なかなか手に入らない辞書もありますので、とりあえず私の中国語講座で紹介しているように、中日大字典と『漢日医学大詞典』で翻訳し、その訳語が正しいかどうかだけプロに依頼されたらどうでしょう。全部訳してもらうより安くつきますし、現実的と思います。全部揃えるとなると『漢日科技大詞典』など、95年頃に天津の科技書店で風邪をひきながら私が持って帰ったレアもの商品は入手困難でしょう。
 上海だったら南京路にある新生新華書店より、一本豫園寄りの道を外灘から歩いてみるとよいでしょう。灯台の近くから医療器具屋を経て、最初に3階建ての科技書店があり、そこであらかたの辞書は手に入ると思います。そこから人民公園というか、下のほうに道を下ると5階建てぐらいの上海図書城があるので、その二ケ所で、まあ辞書は手に入ると思います。科技書店の4階はパソコンソフトを売っているので、朗道ぐらいは手に入るでしょう。中国の書店は、注文しずらいので大変です。
 翻訳は通訳と違って、どれだけ辞書を持っているかが勝負といえますので、中国の狭い部屋では、置き所に困ると思います。『新世紀漢英科技大詞典』はCDの辞書もあるようです。ただ時代の新しい辞書ほど確認の必要がないようです。『漢日科技大詞典』や漢日英の医学辞典などは画数検索なので引きにくいです。

 質問:去年、先生に質問したことのある埼玉県の鍼灸師です。その後、何故か、近くの76歳の鍼灸師の先生が遊びにくるようになり、お互いに治療をするのですが、これまた深刺しで、置針なしで、数百回もの鍼をさす方法なのです。私は、怖いので最初は断ったのですが、目上の方のため治療をうけたのですが、いつ気胸をおこすのではと、ひやひやしたものです。私が治療するとそんな浅い鍼じゃ効くわけがないといい、これじゃー客がこないわけだといいたげな顔をされています。こんなわけで、深刺の先生も現れ、少しずつ勉強しています。
 ところで網膜色素変性症の患者さんがいるのですが、私には手におえないのでHPで調べて見たのですが、その中で東京の月島鍼灸院というところで100%進行はとめられ、治すことも可能のようなことが記されていました。その人は、中国人の先生から指導をうけたとのこと。
 眼窩針で治すらしいのですが、眼窩針を使う鍼灸師は結構いると思いますが、そんなに効果があるものでしょうか。一応、患者さんには、そこに行くように薦めているのですが、眼窩針を説明したら不安らしく、躊躇しているのです。
 先生の経験から、網膜色素変性症への効果、眼窩針の安全性、等何かアドバイスがあれば教えていただけますか。
 患者さんは45歳男性、5年前に診断、現在夜道はきつく、視力も低下しています。

                          
答え:置鍼なしならば、肺に刺さっても問題ないようです。我々は置鍼したいがために、鍼尖を背骨に当てたりして、上下する肺に刺さらないよう注意しているのですが、肺が動く前に抜鍼してしまえば、肺に小さな穴があくだけなので、すぐに塞がってしまい、気胸が起きても、あまり問題がないようです。中国の本にも「絶対に背中では置鍼するな」と書いてあるものもあります。それは著者が、速刺速抜で問題が起きなかった経験からでしょう。

  眼窩内刺鍼は、それなりに効果があります。眼球表面の角膜炎とかへの効果は疑問ですが、眼球後部の疾患には確かに効果があります。私も何年かに1度は使います。例えば、網膜に浮腫が起きて剥離しかけていた患者さんがいたのですが、何とかしてくれと頼まれて眼球後部へ刺入し、徐々に治っていったのです。そして行き付けの眼科で検査したところ、「不思議だ、この薬で良くなっている。今まで、こんな人いなかった」と、驚いていたそうです。当然、患者さんは、その言葉を聞いて「最初から治らないと判ってる薬を投与したのか」と非常に立腹し、「あんたの薬で治ったんじゃあないわい」と思ったそうです。また、こういうこともあるかとは思いますが「眼に黒いものがあって、良く見えない」という人があったのです。一応、私も眼窩内刺鍼は好きなほうではないので、頚の後ろの風池とか、率谷から太陽への透刺をしましたが、翌日は朝一で電話がかかり、「前は黒いものがあっただけなのに、今朝起きてみたら全く眼が見えなくなっていた」ということでした。急に眼が見えなくなったのだから、恐らく眼の動脈に血栓が詰まって見えなくなったものと思い、すぐに来てもらって眼窩内刺鍼すると、メデタク網膜動脈の血栓が流れ、眼が元のように見えるようになったばかりか、黒い影も消えました。これなどは眼窩内刺鍼を使わなければ、失明していたかもしれません。まあ風池と率谷へ刺鍼した私は、裁判では責任を問われないでしょうが、「眼の鍼をしたら失明した」などという評判が立てば、営業を続けられなかったと思います。
  まあ私の考えとしては、眼窩内刺鍼は患者さんが恐がるので、よっぽど必要性があるか信頼関係がないとしてはならないし、目をパチパチする人だと内出血して目の周りが黒くなるので、やらないに越したことはないのですが、どうしても眼の病気を治したいとか、たまたま失明してしまったときなど、やらざるおえない一発ではないかと思います。
  注意すべきことは3番以下の細い鍼を使うこと。そして無理をしない。少しでも抵抗があれば、それ以上入れないこと。捻鍼とかの手技を使わず、単刺でそっと入れ、そっと抜くこと。置鍼は20分ぐらいにすること。事前に鍼尖を特に確かめることなどですか。
  一番注意しておくことは、眼の解剖をよく知っておくこと。とくに視神経に向けたり、眼窩下孔の承泣へ深刺すると、上眼窩裂から脳内へ入り、脳内出血を起こす恐れがあるので、球後を直刺するのが一番安全です。どうしても視神経を狙いたかったり、承泣へ深刺したければ、できるだけソフトに入れるべきでしょう。
  あと眼球上部は、目を閉じると眼球が上を向くため、ちょうど刺入するところに瞳孔が来ることになり、私は瞳孔を傷付けるのが恐くて絶対にしません。眼球結膜ならば硬くて丈夫なので、問題ないでしょう。
  あと細々したことですが、目の周囲を消毒するときは、ベトベトの綿花を使うとアルコールが目に沁みて痛いので、よく絞って拭きます。
  刺鍼するときは押手で眼球を推して、眼窩と眼球の隙間を広げます。

  網膜色素変性症について、もっとも詳しい本は、人民衛生出版社『常見眼病針刺療法』曹仁方編著1990年でしょう。著者は1958年から近視治療を始め、天津眼科医院で研鑽を積んでいます。そして前書きに「ある外国の眼科医が、網膜色素変性症と視神経萎縮(様々な療法と薬物治療したが無効だった症例から患者を選んだ)に対し、眼部針刺治療をしたところ、満足できる効果があった」と書かれています。そして、その本の115ページから129ページにかけて、原発性網膜色素変性症の症状、病因と病機、辨証、治療、穴位解説、併用する漢方薬、漢方薬の処方理由、症例紹介、ここでは五例の治療例が紹介され(三が2回あるので、四とはなっているが)、体験、病気の特徴と原則、注意事項と書かれています。私は、最初は眼科の鍼治療を志して、この本を翻訳したのですが、眼科など患者が来ないので、そのままお蔵入りです。なぜ眼科を目指したかというと、眼の見えない人が治れば、鍼灸師の競争相手が減るので、やりやすいのではという不純な動機でした。
  その本の網膜色素変性症に対する治療体験には「早期治療しないと、良い効果が得られない」とあります。そして視力が目の前で指の本数が判る程度だったり、0.2~0.3以下だったり、視野が極度に縮小しているときは効果が悪い。また末期で、視神経萎縮など他の病気を併発しているときは、効果が極度に劣ると書かれています。使われている漢方薬は、補法の漢方薬で、植物系です。
  この結果を見ると、進行が止まったり、少し回復しているようなのですが、全く正常人のようには回復していないようです。だから少しオーバーかなとも思いますが、効果はあることは事実のようです。
  注意事項として、この病気は血管が硬く、脆くなっていて、弾力性がないので、刺鍼で眼球後部が出血しやすい。
  あと眼を使うな、暗いところで読書するなとあります。

  使用する穴位は、百会、合谷、睛明、球後、承泣、足三里。このうち睛明、球後が眼窩内刺鍼で、直刺すれば安全です。恐らく直接的に効果があるのが、この二穴で、私の経験では、眼の動脈に詰まった血栓が取れるぐらいですから、その刺鍼によって眼球後部の網膜辺りの血流が相当改善し、回復するのだと思います。
  他にも眼専門の本がありましたが、やはり漢方薬を併用しています。

  この本は、視神経方向へ向けて睛明に2cm刺入しています。睛明では隙間がないので、ほとんど直刺にしかならないでしょう。球後は、本当に視神経方向へ進んでしまいます。  この本は、昔の本なので「神経を刺激する」という発想が強かったのでしょう。私は、神経を刺激するというより血液循環を回復させて治療するという発想が強いのですが。
  もしかすると「月島鍼灸院で100%進行は止められ、治すことも可能」というのは、このころから技術も進んだことでしょうから有り得ますが、それには治療法を公開して、みんなに試してもらい、追試をして再現性がなければ、本当と断言できません。

  まあ、ともあれ、私の方法で刺入すれば、絶対安全と思います。なにせ直刺だから脳へ入る恐れもなく、もし何かあっても眼球後部の出血か、眼球周囲の出血ぐらいです。ところが今まで、眼球周囲の出血は2回ほどあったのですが、眼球後部の出血は起きたことがありません。

  その患者さんには、早めに眼窩内刺鍼をしたほうがよいでしょう。ある程度の技術があれば、誰にでもできることですから。そうしないと進行して、そのうち失明してしまうでしょう。
  今挙げた本は、眼科鍼のもっとも良い著書と思うので、ぜひ読まれたらよいのでは。
  鍼灸師はプロなので、眼に刺鍼してくれといわれたら、危険のない方法で実行しなければならないのではないでしょうか?  現実に、それを何十年もやって事故が起きてないところがあるのだから、中国人にできて日本人にできないことはないのでは?


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