乳児の夜泣きの針灸治療


 夜泣きの鍼灸治療には、主として鍼治療を使います。これは小児針として大阪で盛んに行われている方法です。

 実は、私の従姉妹が昔、長女を生んだときに、そのあまりの夜泣きに夜も眠れず、ノイローゼ気味になったのです。あんたは幼女が好きだが、何か方法がないかと聞かれ、この方法を教えました。子供の夜泣きは、親が治療してやるのが一番で、知らないおじさんに抱かれたりしますとギャーギャー泣きますから。それに近所とはいえ、毎日従姉の家へ行くわけにも参りません。

 中国では、小児に鍼をすることは聞いたことがありません。子供には鍼など刺さなくても、背中を按摩してやれば十分効果があると考えられているからです。『内経』にも、幼児は気が弱くて、内臓が華奢だと書かれています。では日本で使われている小児鍼というのは何でしょう。
あれは鍼とは呼んでいますが、実際には刺す鍼ではないのです。

 鍼と命名されていても、実際は鍼でないものがあります。例えば太乙鍼は、鍼と呼ばれていますが、実際には棒灸で、モグサに漢方薬を混ぜてシガレット状に巻いたものです。また杵針療法という本に掲載の杵針とは、木を削って作った指圧する道具でした。

 手元にある小児鍼のカタログを見ましても、松葉鍼、バチ鍼、長刀鍼、車鍼、かき鍼、ヘラ鍼、三角鍼、ホーキ鍼など、櫛や三味線のバチのようなものばかりです。しいて言うならば金属製で、金や銀のメッキが施され、金メッキのほうが少し値段が高いぐらいの違いしかありません。

 昔、鍼灸学校にいた頃、小児鍼について講義を受けました。それで小児鍼は刺すのでなくて、それで摩擦するものならば、爪でもいいじゃないか? と誰かが質問しました。すると「爪ではバイ菌が入るでしょう?」との答え、ではスプーンでは? と質問すると、似たような物でしょうとの答え。

 方法は、赤ん坊が眠る前、お風呂へ入った後ぐらいに、赤ん坊を抱いて背中を出し、スプーンを裏側にして、口をつけるところの先端で背骨の両側を擦るのです。だいたい頚の付け根から腰ぐらいまでをゆっくりと擦ります。これを何回か繰り返すだけで、赤ん坊は夜泣きをしなくなります。背骨の両側を擦る道具としては、ローラー針が簡単です。これは金属の円筒が皮膚の上を転がって刺激するので、擦っても絶対に皮膚を傷付けることがありません。いろいろ種類がありますが、柄の長いものが高価ですが使いやすいです。小児鍼の見本
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 注文したいときは、近くの鍼灸院で買うとよいでしょう。鍼灸院は、大量に注文するため送料がかかりません。だから鍼灸院に頼めば、送料なしの定価で買えます。

 中国の小児按摩は、捏法というのを使います。それは背骨の両側の皮膚を、親指の腹と人差指の横で摘み、それを頚から腰まで繰り返すのです。指先で擦る方法もあります。

 また刮療法(スクレーピング療法)と言って、中国の民間で行われていた方法で、やはり背骨の両側を、食用油を塗ったコインや陶器のスープスプーン(レンゲ)で上下に擦り、治療するという方法があります。擦ったところの皮膚が病のように赤くなるため、刮療法と呼んでいます。刮は擦る意味で、は皮膚が赤くなる病気です。
現在では、水牛の角で作った道具や、玉で作った四角いヘラなどが売れており、食用油の代わりに、いろいろと薬物を配合して作った刮療法用の油も売っています。

 日本の小児鍼は、中国民間の刮療法が変化したものなのでしょう。
 刮療法は、水牛の角で擦るだけの簡単な治療法ですが、さまざまな病気が治療できます。

 こうした赤ちゃんへの接触は、子供の人間形成にも大きく影響します。猿の赤ちゃんに金網で作った母猿からミルクを与えた猿では、成長したあとで異常行動が目立ちましたが、ぬいぐるみで作った母猿からミルクを与えた猿では、普通の猿と何ら違いがなかったという実験が、むかしアメリカでされました。それだけ触覚は、成長のために重要だということです。
 小児鍼やマッサージは、夜泣きを防ぐだけでなく、子供の人格形成にとっても大切だと判ります。ちなみに従姉は二人の娘がいますが、夜泣きして擦られて育った子供は大人しい性格ですが、夜泣きしないので擦られなかった子供は凶暴な性格になっています。


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冷え症の灸治療