糖尿病で食事制限している人にお勧め
家庭でできる糖尿病の鍼治療

 今回のテーマは家庭できる糖尿病の鍼なので、耳穴を中心にします。これを書かされることとなった原因は、鍼の販売業者から「ロイヤルトップ」というベーゴマを小さくしたようなものが送られ、それを嫁が耳に貼り着けたところ、かなり刺激感があって食欲が湧かなくなったところから、それを使った糖尿病治療の文献を集めろとの命令で書かされることになりました。

 本ホームページの「Q&A」でも書いたように、現在では皮膚に刺す鍼は、耳鍼としてほとんど使われなくなりました。その理由は、少数とはいえ耳介が化膿し、ドレナージで排膿しなければならない患者さんが出てくるため、現代では王不留行の種、あるいは銀粒というベアリングの球を貼り着ける方法が取って代わったのです。しかし良いことばかりはないもので、耳介軟骨が化膿することはないものの、指圧したときにしか耳に刺激がないため、効果が円皮針に較べて悪くなりました。それがベーゴマ式のロイヤルトップは、指圧しなくとも耳に常に圧迫感があるため、面倒臭くない耳鍼法として優れものと思います。

 私が使ったのは、送られてきた見本品ですが、1箱3,800円で300粒入りのようです。注文方法は、〒225-8790横浜市青葉区美しが丘2丁目17-39。株式会社カナケン行として、裏に自分の住所を書けば送られてきます。送料と消費税がつくかもしれません。支払方法は、代金引換か郵便振替かを明記し、氏名、住所、電話番号を書けば終わりです。そして上に注文書と書いて、コードがKN-506、商品名がロイヤルトップ、数量が1箱と書いて投函します。

 これに何故、刺激する作用があるかというと、粒や王不留行は球なのでバンソコウとの接触面積が小さく、貼っても浮き上がってしまうので、指で強く挟まないと刺激がないのですが、ロイヤルトップは三角錐型でバンソコウとの接触面積が大きいため、なにもしなくても皮膚と当たっているところに圧力が加わるようです。

 このロイヤルトップが気に入ったので勧めていますが、別に製造元から宣伝してくれと頼まれたわけではありません。使用後もバンソコウを剥がして別のバンソコウに貼り着ければ、何度でも再使用できます。

 【準備するもの】:消毒用アルコール(薬局で70%の消毒用エタノールを買います。800円ぐらいです。メタノールは目が潰れるのでいけません)。ロイヤルトップ、綿花、輪島塗りの箸(耳穴探索棒の代用)。
 【方法】: 
 1.消毒用アルコールを綿花に染み込ませて、耳の内側を消毒します。これは消毒するためではありません。もともと鍼で刺すわけではないので、消毒する必要はないのです。では何故に消毒するか? それは耳介の内側に、身体の油が着いており、それを拭い取らなければバンソウコウの粘着剤がうまく付きません。貼り付けても落ちそうであれば、圧迫刺激が望めないため皮脂を落としておくのです。
 2.次に、下の説明を読んで自分に効くと思う区画を3~5個選び、そのあたりを塗り箸の先端で、押してみます。そしてズシーンと響いたり、痛みや違和感のある場所を捜してツボとし、塗り箸の先で強く押さえて痕を残します。この痕は、すぐに消えますので、痕を付けたらすぐにロイヤルトップを貼り付けます。
 3.耳鍼というのは、貼り続けていると効果が徐々に薄れてきますので、4日~1週間ぐらいしたら反対側の耳に貼り替えることです。このようにして両耳を交替交替で使えば、効果を落とさないようにできます。

 だいたい以上で終わりですが、こんな大ざっぱなことでは治療できないと嫁が申しますので注意点を挙げておきます。
 a.耳鍼はフランスのノジェが開発し、中国で国家的に研究しました。その結果、ノジェ式と中国式の耳マップができています。一般に、耳は胎児が頭を下にして、丸くなったような状態と対応していると言われます。さらには十年前ぐらいから「耳にも経絡がある」と主張する人が現れ、その経絡を頼りに耳穴を捜したりもします。
 耳穴を捜す方法は、主に二つあります。一つは、臓器と対応する耳穴区から捜すこと。もう一つは、辨証によって穴区から捜すことです。
 具体的に言えば、糖尿病は膵臓のB細胞で作られるインスリンが不足して起きるので、膵区から反応点を捜します。膵臓は、日本では臓器と考えられていますが、中国では臓器ではなく、副腎や脳下垂体と同じようにホルモンを分泌する腺体と考えられているので、と呼びます。だから膵臓は腺と呼んで、臓器ではないのです。ほとんどの呼び名は、漢字のため同じなのですが、中には大きく違うものもあります。ほかには視床下部などを脳と考えて丘脳。副腎は腎上腺。後頭骨は枕骨。これに習って後頭神経は枕神経。腓腹筋は腓腸肌などと呼びます。
 を捜しても、ないじゃないかという場合もあります。それは左右で胆とを分けていて、を反対側の胆で代表させているのです。だから胆区から捜せばよいのです。それと内分泌の問題ですから内分泌区を加えるのも考えられます。さらに胃が空腹になるので、胃区を加えるというのも考えられます。

 次に、辨証配穴によって耳穴区から捜す方法です。辨証配穴とは、病気の徴候や症状から五臓六腑の疾患に分ける方法です。というと五臓六腑で合計11。これに分けるのは何やら難しそうですが、すでに先人達は「この病気に関係する臓腑は何々!」と、絞っておいてくれているので、その限られた中から当てはまるものを選べばよいので簡単です。それは中医内科学という教科書なのですが、どちらかというと鍼灸ではなく、漢方薬を処方するための理論が辨証法です。鍼灸では、漢方薬と違って速効性があり、両性の治療作用(例えば漢方薬は、冷えた症状には温める薬を使い、熱っぽい症状には冷やす薬を使いますが、同じ鍼で冷えにも熱っぽさにも効果を発揮すること)があるため、昔から一穴治療が盛んで、この数百年前になってから順序が決まった経穴処方ができた程度なのです。
 漢方薬と鍼灸を併用する中医となってから、鍼灸にも辨証法が導入されたのですが、どうも様々な面で鍼灸と漢方薬は違うため、辨証配穴が鍼灸にとって最善の治療法と断定するのは難しいのです。しかし現在のところ、全体を総括した体系的な理論がないため、とりあえずは辨証法を使っている人も多いのです。辨証配穴は『蝦蟇経』のような時間配穴法ほど怪しげなものではありませんが(こんなこと書くと、子午流注鍼法をやっている人に怒られそう)、将来には一部しか残らなくなるものでしょう。現在の大学では正科として教えており、内臓疾患などで広範に使われています。

 その中国の鍼灸師の大部分が習う『中医内科学』には、どう記載されているでしょう。249ページに「消渇」という糖尿病の古病名で記載されています。まとめたものが以下

 上消:肺熱津傷
 喉が渇いて多飲する。口が乾いて舌が燥となり、頻尿で尿量が多い。
 中消:胃熱熾盛
 多食で、すぐ空腹となり、痩せて、便の水分がない。
 下消:
 a腎陰虧虚:頻尿で尿量が多く、尿が脂のように濁っている。または甘い。口乾唇燥。
 b陰陽両虚:頻尿で尿が脂のように濁っている。ひどければ水を飲む度に排尿する。顔色は黒く、耳は焦げたよう。腰膝が怠く、寒そうな様子で実際に寒がり、インポになる。

 このあとで漢方薬が処方されていますが、これに各経絡から経穴を当てはめると辨証配穴になります。それから辨証は、本来は漢方薬のもので、それを鍼灸が仮借していると判ります。でも、いまだに仮借している部分があるというのは、ある程度有用だからです。

 簡単にまとめると、
 上消は水をガブガブ飲むことが主な症状ですが、それは肺に熱があるからと説明されています。肺に熱があるので、水を飲んで冷やそうとしますが、水は肺をすり抜けて胃に落ち、結果として肺が冷えないので水をガブ飲みする。
 中消は、すぐに空腹となることが主な症状ですが、それは胃に熱があるからと説明されています。胃に熱があるので、食べたものがすぐに腐熟し、脾が消化する暇もなく腸へ送られるため、胃には常に食べ物がないので空腹になる。
 下消は、尿の症状が主です。それは膀胱が尿を支配していますが、その膀胱を管理しているのが腎と考えているからです。
つまり辨証法によれば、ガブ飲み症状は肺区、大食い症状は胃区、尿症状は腎区を加えるというのが辨証配穴です。だから糖尿病で、どの症状が目立つかによって、肺区、胃区、腎区から反応点(圧迫すると響くところ)を捜すのです。

 上の2つがメインな取穴方法ですが、それに加えて症状による対症療法を加えます。それは高熱には大椎、便秘には支溝などのように、症状に対して反射的に使ってしまう経験的な対症取穴です。メインな取穴を主穴と呼ぶのに対し、これは配穴と呼ばれています。
 糖尿病は、喉が渇いて多食するので、喉の渇きに対して渇点、多食に対して飢点を取ります。この2穴は、日本人が発見し、一時は「痩身の鍼」として大ブームになりました。しかし『耳鍼で痩せる』とか様々な本が出たのですが、実は痩せるツボではなくてダイエットの禁断症状を和らげるツボだったのです。それを知らないため「耳鍼をしたから痩せられる」と思い込み、安心してガバガバ食べる人が多く出たため却って太り、「なんだ、インチキじゃないか」ということで下火になりました。ですから現在は、あまり日本で用いられず、アメリカや最近の経済成長で肥満体が増えた中国にて盛んに使われています。
 ダイエット時の空腹症状を和らげる目的に使用します。

 耳鍼の作用は、飢餓感などの禁断症状を抑えたり、麻酔したり、食べ物の味を変えたりすることなので、足が痺れたり腐ってきたり、目が見えなくなるなどの症状を消すことはできないと考えられます。足の痺れや腐れは、やはり本格的な鍼でないと無理でしょう。
 ここでは食事制限をすれば治るという初期の糖尿病を、いかにすれば飢餓感を抑えて乗り切れるかというテーマで書きました。ですから耳鍼をしただけで、いままで通り食べていれば、やはり糖尿病は進行します。耳鍼は、それほど完全なものではないのですから。

 参考に、何冊かの糖尿病処方を引用します。

汪至純、張遠炎『簡明耳穴診療法』人民軍医出版社は118頁
「一、糖尿病
 1.主穴腺点、胆、肝、内分泌、三焦、丘脳、縁中、皮質下、腎。
 2.配穴:口が渇き、飢えやすければ、上屏、下屏、口を加える。多尿には、膀胱、尿道を加える。皮膚が痒ければ、肺、風渓、痒みのある部分に相当する部位(例えば上肢が痒ければ、腕とか肘)。手足の痺れには、枕小神経点、耳大神経点、そして痺れのある部分と対応する部位」


王其祥、建中『百病耳圧診治秘訣缺』中国中医葯出版社74頁(辨証カルテ)
「本病は、中医辨証では陰虚陽亢、津涸熱淫(陰が虚して陽が亢進し、そのために水分が涸れて熱に犯されたもの)、治療は滋腎健脾、潤燥清熱(腎水を滋養して脾を健康にし、水を生み出して乾燥を潤し、熱を清める)。
 カルテ例
 張××、女、59歳。1986年秋に来診。
 主訴:身体は丈夫で、めったに病気などしなかったが、近頃は口が乾いて飲みたくなり、いくら飲んでも渇きが癒されず、小便ばかりする。消穀善飢(食べても、すぐに腹が減ること)で、身体が怠く、元気もなくなった。某病院で検査して糖尿病と確定診断され(尿糖4+、血糖300mg/dl)、D860などの薬物を飲んだが、何か副作用を感じるので、前にきたときは耳貼(耳に粒を貼り付ける治療法)を受けた。
 検査:肥満体で、顔が赤く、舌は赤くて舌苔が少ない。脈は虚浮で虚。
 診断:糖尿病(消渇)。
 治療:脾、腎、三焦、腺、肺、内分泌などを取って耳貼する。2回の治療で、尿糖を再検査すると(2+)、血糖は230mg/dlと落ちていた。引き続いて3回の耳貼をしたところ、再検査で尿糖が再び上昇し(3+)、血糖は250mg/dlになった。病状は繰り返したが、やはり耳貼を続け、心、肝、腎上腺などの耳穴を追加するだけでなく、「経絡耳穴診療機」を耳介の心,腎,脾,肺点、並びに体穴の列缺、照海、地機(毎回2~4穴を選ぶ)へ繋ぎ、補助としてパルス電気を流す治療を1ケ月続けた。すると患者の「口渇思飲(喉が渇いて水を飲みたがる症状)や消穀善飢、頻尿などの症状は明らかに好転し、再検査すると尿糖は(±)、血糖は110mg/dlになり、ほぼ治癒した。患者は故郷の家に帰りたがったので、再発防止のための治療は中止した」

楊伝礼『実用耳穴診療法』対外貿易教育出版社125頁
「廿.糖尿病
 糖尿病は、臨床に多い遺伝傾向のある疾病の一つである。その基本的な病理生理は、ランゲルハンス島から分泌されるインスリンの絶対的、あるいは相対的な不足により糖代謝障害が発生し、さらに脂肪代謝と蛋白質代謝の障害を引き起こす、内分泌-代謝疾患である。その臨床的特徴は、血糖が高すぎることと糖尿で、初期には無症状だが、後期には多食、多飲、多尿と疲労消痩、皮膚の掻痒感、再発性フルンケル(。オデキ)、インポテンス、生理不順などが起きる。末期や重症患者では、心臓血管、神経、腎臓、目などにも合併症が発生する。
 [耳診]胆、内分泌、腎などの耳区の電気容量測定が、陽性反応となる。
 [取穴]主穴:胆、内分泌、腎、三焦。
 輔穴:耳迷根、胃、心。
 加減:感染があれば耳尖、屏尖。皮膚掻痒には、肺、蕁麻疹区、神門。性機能障害には、卵巣(精宮ともいう)、皮質下。以上を症状によって加える。
 [治法]耳穴を粒で圧迫し、レーザーを照射する。また食事制限と少量の血糖低下剤を飲む。
 [療効]耳穴治療は、軽症の糖尿病に対しては優れているが、すでにインスリン注射をしている患者には効果が悪い。
 カルテ
 例1.王××、女、54歳。
 糖尿病になって1年余り。口が乾燥し、疲労感があり、多尿。尿糖(4+)。耳穴圧迫法で10回あまり治療すると、口の乾燥は明らかに軽減し、疲労間もなくなり、尿糖もなくなった。
 例2.呉××、女、23歳。保母。
 糖尿病になって3年。1年前から左フクラハギに激痛が走り、夜間にひどくなって眠れない。歩行も困難で、尋常な痛みではなく、すでに仕事もできない。何回も入院して治療したが、はっきりした効果もないので、急いで治療を求めてきた。耳穴圧迫法で3回ほど治療すると、かなり痛みが消え、夜も眠れるようになった。15回の治療で、ほとんど痛みが消え、自由に歩けるようになり、身の回りのこともできるようになった。3ケ月後には痛みが完全に消え、すでに職場復帰して正常に仕事をこなしている。現在も再発防止の治療をしている」

陳鞏、許瑞征、丁育徳『耳針的臨床応用』江蘇科学技術出版社188頁
「二十五、糖尿病。

 真性糖尿病は、インスリン分泌不足によって起きる、遺伝傾向のある良く見られる代謝性内分泌疾患の一つである。典型的な患者は「三多一少」の症状、つまり多飲、多食、多尿の三多症状に、体重減少の一少が加わる。しかし中年の軽症糖尿病では、多食による肥満のため、体重減少の「一少」を伴わないことがある。患者は、皮膚の痒み、再発するオデキ、手足のしびれ、性機能減退、ひどくなるとインポテンス、生理不順、男性不妊なども起きる。
 中国医学は、本病を「消渇」として『内経』に記載している。
 臨床検査で、尿糖定性試験が陽性で、空腹時の血糖値が140mg/dlを何度も超過し、他の病気を除いたものを糖尿病とする。
 [取穴と刺激方法]
 主穴:、内分泌。
 輔穴:腎、三焦、耳迷根、神門、心、肝。
 刺激方法:毫鍼で隔日に1回刺鍼する。そして耳穴圧迫法をおこない、3~7日ごとに再診する。毎回3~4穴を取る。
 [体験と説明]
 1.耳鍼治療は、喉の渇き、疲労感、めまいなどの自覚症状を効果的に消し去る。鍼治療は、多発性毛嚢炎や皮膚掻痒などの合併症に速効性がある。軽症の糖尿病に対する効果はよく、5~10回の治療により尿糖が徐々に減少したり微量となる。しかし空腹時の血糖に対する効果は遅い。重症患者では効果が悪い。
 2.耳穴へインスリンを注射すると、用量を減少させ、作用時間を延長できる。
 3.患者によっては、食事制限や少量の血糖低下剤の併用が必要である。
 4.身体の血糖に対する刺鍼効果については、あまり一致した報告はない。ウサギを使った実験によると、正常水準の血糖に対して電気鍼刺激は変化を起こさなかった。だが、そのウサギに多量のブドウ糖負荷をかけたあとでは、電気鍼は上昇しているブドウ糖負荷曲線を明らかに下降させ、ブドウ糖負荷曲線が激しく上昇していない動物に対しては、却ってわずかに上昇させる。
 カルテ
 朱××、女、28歳、既婚。統計士。
 糖尿病になって3年になる。治療を受けたものの口が乾き、多飲、多尿があり、腰が怠くて元気がなく、頭がぼんやりして心臓がドキドキする。体力が低下し、体重は5キロも減った。現在は毎日75mgの塩酸フェンホルミンを飲み、食事療法を併用しているが、やはり尿糖は2+、空腹時の血糖は150mg/dlである。生理になると量が多く、血塊がある。舌苔は薄黄、舌辺には紫斑があり(舌の内出血)、脈は細で弦速(動脈硬化を起こしていて弦になり、壁が厚いので細、心臓の鼓動が速いので速くなる)。
 治療経過:喉が渇いて多飲するのは、肺熱により津が傷ついているので肺区を取る。頻尿で量が多く、頭がぼんやりして腰が怠く、疲れやすいのは腎虚の症である。月経量が多くて血塊が混じり、舌に紫斑があるのは、内分泌が乱れているため血が固まっているのだから、内分泌、子宮、肝を取り、腎虚には腎と膀胱穴を取る。ランゲルハンス島を刺激してインスリンの生産を増加させ、糖代謝を改善するために、、胆、三焦穴を取る。その他の合併症には辨証配穴を加える。
 毫鍼で耳穴を刺激したあとで耳穴圧迫法をする。毎週1回おこない、血糖低下剤を徐々に減らして服用を止めるようにいう。5回の治療により、喉の渇き、多飲、多尿の諸症状がはっきりと改善し、精神状態もよくなって、尿糖も+に好転した。月経量も正常になって血塊はなく、体重も2.5キロほど増えた。治療期間のうちに尿糖が再び2+となり、悪心や嘔吐が現れて、妊娠テストで陽性となった。耳穴を腎、神門、枕、胃、内分泌へと変更し、調整した。産婦人科と内分泌科の医師は、患者に中絶するよう提案したが、患者の家族は赤ちゃんを切望しており、医師の注意深い治療のもとで無事に出産できた。妊娠初期には再び、25mgの塩酸フェンホルミンを毎日2回飲み始めた。食事制限からも解放され、尿糖は+~±。妊娠中期は塩酸フェンホルミンを止めたが、薬を止めた途端に、尿糖が3+へと上昇した。、三焦、肝、腎、脳点を取穴し、両側の三陰交へ800ガウスのコバルト磁石粒を貼って調整した。数日後には尿糖が再び+~2+へと下がり、ほかの症状もまあまあだった。ただ時々、息が切れる。血圧90/60mmHg、脈拍100/分、両足の浮腫+。毎週、外来で1回治療し、月が満ちて2800gの女の赤ちゃんが産まれた。出産後はグリベンクラミ2.5mg/日を内服し、尿糖を陰性に維持して、体重は5キロ以上増えている。        (許瑞征)」

 

李志明『耳穴診治法』中医古籍出版社152頁
「(七)消渇
 消渇は、多飲、多食、多尿、身体の消痩あるいは尿が甘いなどを特徴とする疾患である。消渇という病名は『内経』で最初に見られる。発病原因と臨床症状の違いによって「消」、「膈消」、「肺消」。「消中」などの名称がある。後世の医者は「三多」症状に基づいて、上消、中消、下消の3つに分類した。消渇の特徴は、現代医学の糖尿病にそっくりで、尿崩症も消渇にのっとって辨証施治する。
 [病因病機](中国医学で推定した発病原因および症状発生のメカニズム)
 1.飲食が規則的でないため、脾胃の運化機能が悪くなり、熱が体内に蓄積して、乾燥して水分を減らした。
 2.不満なことがあって、気分が塞いて鬱結し、陽気が留まって発熱して火と化し、肺や胃の水分を蒸発させた。
 3.もともとから陰虚体質で、それに過労が加わって、徐々に陰の水分を消耗して発病した。
 [主要な症状]
 上消では、喉が渇いて多飲し、口が乾いて舌の水分がなく、頻尿で量が多い。舌辺と先端が赤く、薄黄苔。洪数脈。中消では、消穀善飢のうえ便秘がある。黄燥苔、脈は洪実で力がある。下消は、頻尿で量が多く、尿が油脂のように混濁したり甘い。舌が赤く、沈細数脈、または飲む度に排尿し、顔がうす黒く、耳輪が焦げて干乾びたようで、腰膝が怠く、インポ。白苔、脈は沈細で力がない。
 [辨証施治]
 1.上消には清熱潤肺をする。
 主穴:肺、、内分泌。
 配穴:口、渇点、垂体。
 2.中消には清胃瀉火をする。
 主穴:脾、胃、
 配穴:飢点、口、垂体。
 3.下消には温陽滋腎、固渋する。
 主穴:腎、膀胱、丘脳。
 配穴:内分泌。
 治療方法:毫鍼法は毎日1回。耳穴圧迫法は毎日2回。毎回3~5穴を取り、10回を1クールとする。
 [カルテ]
 朱××、女、28歳。
 糖尿病になって十数年。インスリンで病状を抑えている。2ケ月前から血糖が350mgとなり、頻尿になって量が多く、尿糖定性は(3+)、尿糖定量は60g以上。
 1986年3月8日から耳穴へ王不留行の種を貼り付けた。取穴は、腎、垂体、腺、膀胱、内分泌、丘脳など。4~5日に1回治療し、毎回とも両耳を使う。7回の耳穴圧迫により血糖は250mgに下がり、糖排泄量は60gだったものが30g前後に下がった。以降も治療を続け、血糖は100~220mgで安定し、インスリン注射も6単位と減少した。治療してから元気が出てきて喉も渇かなくなり、尿量も減少した。
 [備考]
 1.腎穴により滋陰益精する。腺、垂体、丘脳は、膵臓の分泌機能を改善する。
 2.許瑞征の報告:糖尿病への耳鍼治療は、めまいや疲労感などの症状をはっきりと改善する。皮膚掻痒症状にも速効性がある。耳穴へのインスリン注射は、インスリン注射の用量を減少させ、作用時間延長する。
 3.筆者は4例の糖尿病を治療したことがある。治療中に血糖と尿糖が徐々に減少し、軽症の糖尿病であれば5~10回の治療で症状が改善する」

管遵信『中国耳針学』上海科学技術出版社240頁
「一、糖尿病
 糖尿病は、よく見られる代謝内分泌疾患で、原発性と続発性の2つがあるものの前者が圧倒的に多い。遺伝傾向があり、その基本的な病理と生理は、絶対的あるいは相対的なインスリン分泌不足による代謝障害であり、それには糖、蛋白質、脂肪、水分、イオンなどが含まれ、ひどければ酸塩基平衡も異常になる。
 本病は、中国伝統医学では「消渇」である。中国医学は消渇を上、中、下の三消に分ける。上消は肺、中消は胃、下消は腎が原因する。その発病の多くは、津液が枯渇したことや燥熱が強すぎることだが、その原因は、悩み過ぎたり情緒不安、脂っ濃いものや甘いものの食べ過ぎ、過度の飲酒、感情の赴くままにやり過ぎたなどが関係している。
 【臨床症状と診断のポイント】
 糖尿病は慢性の進行性疾患であり、無症状期と症状期の2つに分けられる。無症状期の患者は大部分が中年以上で、食欲があって肥えており、精神体力ともに正常人のようだが、健康診断や他の疾病の検査で発見されることが多い。症状期の患者は、症状の程度は違うが、合併症や随伴症状を伴っていたり、併発症がある。
 耳介診断:耳介を観察すると、無症状期には胆穴や内分泌区が腫れて色が白っぽいが、症状期では赤っぽい。指で触ると、腫れた部分が柔らかい。耳穴探査棒を使って圧迫すると、胆や内分泌、腎穴などに圧痛などの陽性反応が現れ、症状期になると症状の増加に伴って陽性反応点も増える。これは初期の糖尿病に対して、補佐的な診断となる。耳穴染色法があって、胆や肝、腎区などが点状に染色できる。
 糖尿病の診断基準:1979年に中国糖尿病研究専題会議が提出し、1980年の修正を経て衛生部に審査批准された基準が次である。
 1.糖尿病および合併症の典型的症状だけでなく、空腹時の血糖が7.2mmol/L以上、そして食後2時間の血糖が11.1mmol/L以上。
 2.ブドウ糖負荷試験(OGTT):ブドウ糖100gを飲む、オルトトルイジン法。各時間の正常な血糖の上限を次のように定める。
 0分125mg/dl、30分200mg/dl、60分190mg/dl、120分150mg/dl、180分125mg/dl(それぞれ6.9、11.1、10.5、8.3、6.9mmol/L)。
 そのうち30分と60分の血糖値を併せて1点、他の血糖値をそれぞれ1点とし、全部で4点とする。診断基準は、
 a顕在性糖尿病:典型的な糖尿病症状あるいはケトーシスの病歴があり、空腹時の血糖が7.2mmol/L以上、または食後2時間の血糖が11.1mmol/L以上、あるいはOGTT4点のうち3点の数値が、上述した正常上限を大幅に上回った。
 b潜在性糖尿病:無症状だが、空腹時および食後2時間の血糖、あるいは/そしてOGTT の上述した正常上限を上回った。
 cブドウ糖負荷異常(IGT):無症状で、OGTT4点のうち2点の数値が、上述した正常上限に達したり超過した。この群は、発病が疑われるので、長期的に追跡調査しなければ確定診断や排除ができない。
 d非糖尿病:無症状で、血糖、OGTTとも正常。
 【治療方法】
 取穴:胆、縁中、内分泌を主穴とし、腎、三焦、肺、肝、脾、胃、神門、腎上腺を配
穴する。
 1.耳毫鍼法:主穴を全て取り、症状に基づいて配穴を取る。敏感点へ刺鍼し、病歴が短ければ平補平瀉の捻転法、病歴が長ければ捻転補法する。毎日一方の耳穴へ刺鍼し、両耳を交互に使う。10回を1クールとし、各クール間は5~7日開ける。
 2.耳穴薬物注射:主にランゲルハンス島の機能減退による糖尿病に用いる。50uのインスリンを2mlの生理食塩水に溶かし、耳穴へ注射する。選穴は耳鍼法と同じ。余ったインスリンは両側の三陰交穴へ注入する。
 3.耳穴磁石法:取穴は耳鍼法と同じ。耳区の敏感点にピップエレキバンを貼り付ける。毎回一方の耳穴を使い、両耳を交互に使う。5~7日に1回治療する。7回を1クールとし、各クール間は7日開ける。
 4.耳穴圧迫:取穴は耳鍼法と同じ。敏感点に粒を貼り付ける。病歴が短ければ粒を指で挟むだけだが、病歴が長ければ指先で粒の部分を挟んで按摩する。毎日1回治療し、両耳を交互に使う。10回を1クールとし、各クール間は5~7日開ける。
 【処方意義】
 胆穴は、対応部位の取穴であり、ランゲルハンス島の機能を調整する。縁中穴は、水分代謝を調節する。内分泌穴は、インスリンの分泌を調節する。腎穴は強壮穴であり、人体の抵抗力を増強するとともに、水分代謝の機能も調節する。三焦は水分の通路であり、三焦病を主治するので、上消、中消、下消に治療作用がある。肺は宣発し、「水の上源」でもあるから上消の必須穴である。肝は疎泄し、糖代謝を調整する。脾は運化し、胃は受納することで消化機能を調整するので、中消の治療穴である。神門穴は、熱を清めて炎症を抑え、燥熱を治療し、多飲、多食、多尿症状を改善する。腎上腺穴は、炎症を抑えて感染を予防する」

以上が各書の引用でした。
最初に述べたように、現代医学と辨証、対症療法を併せて取穴していることが、おわかりになったと思います。このようにすれば、自分で家族の耳にロイヤルトップを貼ることができ、糖尿病治療の一助になると嫁が申します。最後の本の処方意義は、中国医学と現代の解剖学がゴチャゴチャになっており、支離滅裂ではあります。このような肝臓のグリコーゲンや副腎のコルチコイド、胆穴の現代医学的解釈は、伝統医学をやっている人間にとって受け入れられないものと思いますが、現代の臨床鍼灸は、このように節操のないものと理解してください。
 最後に、辨証とは弁証と違って論証することではなく、病機の症状を寒熱や虚実に分類すること。つまり証を分類することから辨証と呼ぶので、哲学の弁証法とは全く別物であることをお断りしておきます(哲学のように難しいものではない。ただの分類法なのだから)。

最後に体鍼の処方を書いておきます。
 私が糖尿病の治療をするときは、背中の膵兪とか銀口、脾兪や腎兪などを使って刺鍼します。膵兪は以前、胃管下兪と呼ばれ、8-9胸椎棘突起の間および、その両側1.5寸の3ケ所同時に施灸するというものでした。そのうち、そこを刺激すると膵臓のB細胞が増殖することが発見され、中央を取らなくなって両側だけが残り、膵兪の名に変わりました。一般に刺鍼します。銀口は、医道の日本社、陸痩燕・朱汝功編著、間中喜雄訳『奇穴図譜』によると「部位:肩甲骨の下角。主治:喀血。鍼灸法:鍼0.4寸、灸3~4壮」とありますが、刺鍼するのは危険です。これは円皮鍼または類似したものを貼り着けます。ここには筋肉がほとんどなく、肋骨があるだけですが、肋骨の厚さは9~12mmなので、刺鍼すると留鍼している間に、深く入り込んだりして肺を傷付ける可能性があるからです。これは膵兪と同じ肋間神経の分節なので、膵臓にも効果があります。これを基本として、今はやりの辨証治療ならば上焦、中焦、下焦と分け、肺熱、胃熱、腎虚に分類した配穴を加えるか、『難経』の五難と十八難にある脈法のうち、十八難の方を使って補瀉穴を加えたりします。


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