全訳鍼灸治療学
教科書シリーズ:全訳中医基礎理論、全訳経絡学、腧穴学、全訳鍼灸治療学、全訳鍼法灸法学、全訳鍼灸医籍選
教科書シリーズ『鍼灸各家学説』は、『中国鍼灸各家学説』となって東洋学術出版社から出版されています。これで中国の共通鍼灸教科書は、『全訳鍼灸医籍選』を除いて、すべて日本語で読めるようになりました。
-大学中医学教本-   全訳 鍼灸治療学      翻訳 淺野周
主編 楊長森      副主編  何樹槐      編委 劉冠軍/ 陳漢平/ 張家維
発行所 (株)たにぐち書店(℡03-3980-5536 Fax03-3590-3630)
定価 4200円A5判 500頁(ISBN4-925181-95-5)
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 推薦文
※日本で始めての教科書鍼灸治療学!腧穴学の今村氏が「我々の習った教科書をすべて翻訳しよう」と計画し、たにぐち書店社長の協力を得て、本人はそれしか翻訳しないものの、一応ほとんどが出版にこぎつけました。
 今回の鍼灸治療学は、中国の鍼灸大学(中医薬大学)で教科書とされているものを翻訳したもので、五版教材と呼ばれているものです。教科書シリーズの一貫として翻訳しました。鍼灸専用の本なので、中薬系に進まれた方が目にすることはありませんでした。また英語圏からの留学生が多い、留学生用の教科書を使って勉強された方も目にすることはありませんでした。中国への留学生は、漢字に慣れていない生活環境なので、どうしても識字に問題があります。中国の学生さえ、ときたま読めないことのある本科生の教科書が使えるはずもないので、内容や漢字を大きく減らした教科書を使っています。ですから留学しても外人クラスで学ばれた方は、この教科書を目にすることはありません。本科で中国人学生に混じって勉強する人には、よき参考書となるでしょう。

●本書の特徴
  私は四年クラスで肖仁義と机を並べて授業を受けていました。クラスの半分は女子大生で、後の席に座っていた趙岩さんと一緒にデートしましたわなぁ。授業では、科ごとに先生がコロコロと代わり、そのたびに先生の御国訛りが違うので、代わって暫くは何を喋っているのか判らず、苦労しました。先生は、あらかた教科書を無視して、自分の治療経験ばかり喋っていたような気がするけど。そんな先生でも、留学生の授業では、きちんとした標準語で喋りはります。これって差別じゃない? なんか楽しい青春時代でした。それに私は漢字が読めたので、白人の姐ちゃんからモテたこと、モテたこと。あるレバノン人♂などは、嫁を十人付けるからレバノンに来いとお誘いがあったほど。これには四人付けると言っていたモロッコ人♂が退きました。昔懐かしい経穴の電気測定などが載っています。

●このシリーズを刊行したことの意義
  いやあビックリしました。中国の教科書など1985年に刊行されましたから、我々が翻訳する前に、とっくに誰かが翻訳しているもんだと思っていました。
  東洋学術から教科書を抜粋してまとめた本があるから、今さら教科書を全訳しても意味がないという元留学生の意見もありましたが、やはり内容100%と内容70%では、たとえば上に記載した寒邪直中のように、70%の方には記載されていないことも書かれており、違うのではないかと思います。残り4冊、今村氏は崩れたので、代わりに田久和氏が後任になりました。
  しかし、たにぐちの社長は、教科書シリーズを全巻発刊したい意向で、我々が鍼灸関係以外の教科書は翻訳しないというと(中医内科学は何なんだ?)、ひどくガックリしてました。でも餅は餅屋、漢方薬は漢方薬屋ということで、棲み分けが必要です。私も、素霊や難、甲乙や資生、聚英や大成などはともかく、鍼灸の何倍も書籍量のある漢方まで手を出すわけには参りません。中医内科学は、神戸の鍼灸師のお姐ちゃんが谷口書店へ話を持ち込み、私が「それは売れるんじゃあ、あーりませんか」と太鼓判を押した手前、そのお姐ちゃんが中医内科学の翻訳について、まったく音信不通となり(生きてるかホレ)、社長に出版ゴーをそそのかした私が責任をとることになりました。それに辨証関係の本でもあるし、鍼灸治療学の副読本として参考になるかなとも思ったからです。
  しかし、このような煮え湯を飲まされたので、私は今後、教科書シリーズをやりたいという人をよほどでない限り推薦はしません。残りの中薬学、方剤学、内経講義、傷寒論講義、金匱要略講義、温病学、中医各家学説、中薬鑑定学、中薬炮製学、中薬薬剤学など、漢方薬を勉強している方が翻訳原稿を持ち込めば、たぶん90%ぐらいの確率で出版してもらえると思います。社長も煮え湯を飲まされているので、翻訳したいという話だけで原稿もなしではOKしないでしょう。ちなみに私が『中医内科学』の翻訳を終わりかけると、今村が適当な人を選んで、他の漢方薬分野も翻訳してもらうそうです。


目次
 上編-総論
 第1章 鍼灸の治療作用

 1.1陰陽を調和させる 
 1.2扶正袪邪 
 1.3経絡を疎通させる
 第2章 鍼灸の治療原則
 2.1補虚と瀉実
 2.2清熱と温寒
 2.3標と本の治療
 2.4同病異治と異病同治
 2.5局部と全身
 第3章 辨証のポイント
 3.1八綱辨証
 3.2臓腑辨証
 3.3経絡辨証
 3.4三焦辨証
 第4章 鍼灸処方
 4.1選穴の原則
 4.2配穴方法
 4.3特定穴の応用
   中編-各論
 第1章 内科疾患

 1.1インフルエンザ 
 1.2熱中症 
 1.3マラリア
 1.4咳嗽
 1.5喘息
 1.6肺結核
 1.7嗄声
 1.8シャックリ
 1.9食道閉鎖
 1.10胃痛  
 1.11嘔吐
 1.12腹痛
 1.13下痢
 1.14赤痢
 1.15便秘
 1.16脱肛
 1.17脇痛
 1.18黄疸
 1.19腹部の膨隆
 1.20脚気
 1.21浮腫
 1.22糖尿病
 1.23胸痛
 1.24動悸
 1.25不眠
 1.26躁鬱病
 1.27癲癇
 1.28ヒステリー
 1.29 混濁尿
 1.30排尿障害
 1.31遺精
 1.32脱腸
 1.33頭痛
 1.34めまい
 1.35脳血管障害
 1.36三叉神経痛
 1.37顔面神経麻痺
 1.38神経痛
 1.39神経麻痺
 1.40腰痛
 1.41寝違い
 1.42五十肩
 第2章 婦人科疾患
 2.1生理不順
 2.2生理痛
 2.3無月経症
 2.4過多月経
 2.5閉経期の更年期障害
 2.6おりもの
 2.7妊娠悪阻
 2.8子癇
 2.9難産

  
 2.10胎盤遺残
 2.11出産後の腹痛
 2.12悪露が出ない
 2.13悪露が止まらない
 2.14出産後のめまい
 2.15乳の出が悪い
 2.16子宮脱
 2.17陰部の痒み
 2.18不妊
 第3章 小児科疾患
 3.1百日咳
 3.2小児の下痢
 3.3発育不良
 3.4ヒキツケ
 3.5小児麻痺
 3.6おねしょ
 3.7おたふく風邪
 第4章 外科疾患
 4.1悪性フルンケル
 4.2乳腺炎
 4.3痔
 4.4リンパ節結核
 4.5甲状腺腫
 4.6湿疹
 4.7乳腺腫瘍
 4.8虫垂炎
 4.9ヘルペス
 4.10丹毒
 4.11扁平イボ
 4.12乾癬
 4.13閉塞性血栓血管炎
 4.14破傷風
 4.15捻挫
 4.16ジンマシン
 4.17円形脱毛症
第5章 五官の疾患
 5.1結膜炎
 5.2ものもらい
 5.3眼瞼下垂
 5.4風に当たると涙が出る
 5.5角膜混濁
 5.6近視
 5.7色盲
 5.8斜視
 5.9視神経萎縮
 5.10網膜中心動脈閉塞症
 5.11耳鳴り、難聴
 5.12聾唖
 5.13化膿性中耳炎
 5.14蓄膿症
 5.15鼻血
 5.16歯痛
 5.17扁桃炎
 第6章 救急
 6.1高熱
 6.2失神
 6.3ヒキツケ
 6.4ショック
 6.5出血
 6.6仙痛
     下編-特殊分野
 第1章 子午流注鍼法

 1.1子午流注の意味 
 1.2子午流注鍼法の起源と発達
 1.3子午流注鍼法の構成
 1.4子午流注鍼法の臨床応用
 第2章 霊亀八法
 2.1霊亀八法の構成
 2.2霊亀八法の運用
 第3章 鍼麻酔
 3.1鍼麻酔の特徴
 3.2鍼麻酔の原理
 3.3鍼麻酔の方法
 3.4補助として使う薬物
 3.5鍼麻酔手術への要求
 あとがき

 本文内容見本  P493~500

3 鍼麻酔

鍼麻酔は、刺鍼を使って鎮痛したり、身体の生理機能を調整する原理が発展したものである。最初に刺鍼はアデノイド切除で使用され、徐々に複雑になって開胸、開腹、開頭手術などにも使われるようになり、20年以上を経て多くの臨床経験が蓄積され、現在では鍼麻酔が麻酔方法としての地位を確立している。これは中国の中西医関係者が、現代科学の知識と方法を鍼灸医学に応用して得られた成果である。

3・1 鍼麻酔の特徴
(1)適応範囲が広い:中国では鍼麻酔を使った手術は二百数万例に達し、100以上の手術で使われ、成功率は80%程度に達している。多くの臨床経験に基づいて、約20~30の手術で鍼麻酔が常用され、安定した効果がある。一般に頚部や胸部の手術で効果が優れており、甲状腺、上顎洞、緑内障、卵管結紮などの手術で普及している。また帝王切開、脾切除、胃部分切除、喉頭切除などでも効果を収めている。またルーチンな麻酔として開頭、前立腺切除、半月板切除、肺葉切除などでも、最初に選ばれる麻酔となっている。近年では鍼麻酔を使った体外循環、開心術などでも満足できる成果を挙げている。
(2)生理的な影響が少ない:経穴に刺鍼するため、身体の各種機能を調整する作用があり、鍼麻酔手術では患者の血圧、脈拍、呼吸などが安定している。手術の全行程で患者は完全に意識を保っており、手術と能動的に協力できる。
(3)安全:鍼麻酔は生理的影響が少ないので、肝臓や腎臓機能が悪かったり、ショック、危篤に陥る、衰弱など、全身状態が悪い患者にも使える。鍼麻酔による手術は、麻酔薬の量や薬物アレルギーのため、麻酔中に事故が起こるという心配もない。
(4)術後の苦痛が少ない:鍼麻酔による手術は、薬物麻酔のように頭痛、鼓腸、排尿障害などの副作用がなく、早く食事ができるようになったり動けるようになったり、回復が早い。
(5)経済的:鍼麻酔の操作は簡単で、特殊な機械設備がいらないため費用がかからず、患者の経済的な負担も少ない。
しかし鍼麻酔は完全に無痛ではなく、内臓の牽引痛を完全に抑えたり、筋肉を弛緩させることができない。こうした欠点も改善され、鍼麻酔効果が向上することが待たれる。

3・2 鍼麻酔の原理
鍼麻酔は、刺鍼によって鎮痛する。刺鍼で鎮痛するメカニズムは、多くの研究によって明かになっている。
(1)穴位に刺鍼すると神経インパルスが起こり、それが神経に沿って神経中枢に伝達され、各中枢の統合作用によって手術部位と臓器に鎮痛や調整などの作用が生み出される。例えば、刺鍼により神経の痛覚線維の伝導が阻止できる。脊髄後角内にシナプス後抑制が発生する。刺鍼の信号が脊髄から脳に入ると、複雑な統合活動によって内在する鎮痛系統が興奮し、後角細胞が下行性抑制されて鎮痛効果を発揮する。
(2)刺鍼のプロセスでは、神経体液も参与して、重要な調節作用を発揮する。例えば鍼麻酔すると、動物の脳内セロトニンの含有量が増加し、カテコールアミン類など伝達物質のレセプターが抑制される。特に刺鍼により鎮痛しているときは、動物の脳内エンドルフィンの含有量が明らかに増え、エンケファリンの分解が遅くなるため刺鍼の鎮痛効果が延長される。
つまり刺鍼による鎮痛には、神経系統と神経伝達物質が係わっており、両者が鍼麻酔による作用メカニズムの理論的根拠となっている。刺鍼による鎮痛は、刺鍼作用のもとで、体内の末梢から中枢に至る様々な段階において、神経や体液など多くの要因が関係して起こるものであり、発痛と鎮痛という対立を統一する複雑な動態変化である。

3・3 鍼麻酔の方法
(1)手術前の準備:鍼麻酔前の準備は普通の麻酔と同じだが、さらに患者の鍼感レベルや刺鍼に対する耐性なども知らねばならない。必要があれば手術の前に刺鍼テストや手術中の訓練(例えば開胸のときの深呼吸)などをおこない、鍼麻酔の特徴を説明して協力的にさせ、患者の緊張を解きほぐす。
(2)選穴原則:鍼麻酔選穴の原則は鍼灸治療と基本は同じだが、取穴を少なくして鍼感が響けば鎮痛できる。
体鍼の選穴:体鍼の選穴は十四経腧穴の循経取穴が発展したものである。常用される選穴方法には三つある。
①循経取穴:「経脈が過ぎる所は、主治が及ぶ所である」の理論に基づき、手術の切開部分や内臓と関係する経脈から、鍼感が強くて鎮痛効果の高い腧穴を選ぶ。例えば頭面部や頚項部の手術には手陽明経の合谷を取り、胃の部分的切除では足陽明経の足三里を取る。
選穴では穴位の特殊効能と主治作用にも注意する。例えば腹腔部の手術では下合穴を取るが、それは下合穴が内腑を治すからである。四肢の手術では五輸穴の輸穴を取るが、輸は体重節痛を主治するからである。
②近隣選穴:局部の鎮痛効果を高めるためには、循経取穴だけでなく「痛む所を兪とする」理論に基づいて、手術部位の付近からも取穴する。例えば上歯の抜歯では頬車や顴髎を取ったり、帝王切開では帯脈を取るなどである。内臓の手術では、五臓六腑と対応する兪募穴や夾脊穴を取って、鎮痛効果を高めたりする。
③辨証選穴:症状に基づいて経験的な有効穴を取り、鎮痛効果を高める。例えば胸悶や心悸には内関を取ると鎮痛効果がある。
④神経分布による選穴:神経解剖や生理学に基づいて選穴する。具体的には手術部位を支配する神経幹の近くにある腧穴を取ったり、神経幹を直接刺激したり、同一神経分節にある腧穴を取ったりする。例えば甲状腺切除には扶突(頚神経叢)を取り、下肢の手術では第3、第4腰神経、大腿神経、坐骨神経などを取る。
上述した4つの方法は一つだけ使ってもよいし、組み合わせてもよい。
耳鍼選穴:一般に次の3点から選穴する。
①臓象学説による選穴:皮膚を切開するときは「肺主皮毛」だから肺穴、脂肪層を切るときには「脾主肌肉」より脾穴、骨を切るときには「腎主骨」から腎穴、眼科手術には「肝は目に開竅する」ので肝穴が使われる。
②手術部位と対応する耳穴を取る:各種臓器の疾病は、耳介で対応する部位に反応点が現れることから選穴する。例えば虫垂切除では耳の闌尾穴を取り、甲状腺切除では頚穴を取る。また耳介に圧痛や変色、電気抵抗が小さいなどの変化が表れた部位からも選穴する。例えば胃や十二指腸潰瘍では消化道部位の耳穴から反応点を捜すが、こうした反応点が刺激点となる。
③耳の神経や生理学に基づく選穴:腹部の手術で口穴や耳迷根(中耳根)穴を取るのは、迷走神経に支配されているからである。鎮痛効果を高めて内臓反射を弱めるために、皮質下穴と交感穴が常用されるが、それは生理作用に基づいている。
鍼麻酔の選穴は、体鍼麻酔であれ耳鍼麻酔であれ患側を使うことが多いが、健側を取ったり両側を使ったりもする。手術に影響しないような穴位を選ぶ。
常用される鍼麻酔の処方:現在では鍼麻酔技術が各種の外科手術に広く応用され、臨床治療に伴って応用範囲がどんどん広がっている。次に常用される鍼麻酔処方を紹介するので参考にされたい。

(3)刺鍼方法:選穴は鎮痛のポイントである。刺鍼操作によって十分な鍼感得気を得る ことが治療効果を保証するカギである。鍼麻酔手術に使われる現在の刺鍼方法には、手法運鍼と電気鍼刺激、刺激強度、誘導、置鍼がある。
①手術前の誘導:手術を始める前に、あらかじめ選穴した部位に一定時間の刺激をするが、それを誘導と呼ぶ。穴位を刺激することに患者を慣らし、情緒を安定させ、全身の各器官や機能を調節し、手術を受け入れやすくするのが目的である。誘導時間は20分ぐらいである。
②手法運鍼:運鍼によって効果を高め、鍼感を得て、怠い、痺れる、腫れぼったい、重いなどの感覚を保持し、鎮痛させる。体鍼では一般に提插に捻転を加えて操作する。捻転速度は一般に120回/分、捻転角度90~360度、提插幅は10mm以内とする。耳鍼では捻転のみだが、捻転角度は小さくし、鍼尖方向が変わらないようにする。また鍼を落としたり、耳介を貫かないよう注意し、患者の耳に腫れぼったさや熱感が起きるようにする。
③電気鍼刺激:刺鍼して気が得られたらパルス器のコードを鍼柄に繋ぎ、出力ツマミを最小にしてスイッチを入れ、徐々にツマミを回して患者に怠さ、痺れ感、腫れぼったさ、重さなどの感覚が発生するようにする。強度は人によって違うが、中等度の強さにして得気が保持できるように調節する。長時間の通電では、徐々に得気が弱まったり消失したりするので、手術中には常に電気刺激の強度を増したり、間断に通電する方法を使うと鍼感が保持でき、鎮痛効果を強化できる。
刺激の強さは患者の反応によって違い、異なった手術あるいは同じ手術でも段階によって人体に対する影響も違うので、刺激の強さは患者の体質、病状、手術の必要性などによって決定する。原則として患者に一定の鍼感が保持され、怠い、痺れる、腫れぼったい、重いなどの感覚が発生すればよく、刺激が強いほどよいわけではない。刺激が強すぎれば痛みを引き起こし、それが得気に影響して鍼麻酔効果を逆に低下させる。

3・4 補助に使う薬物
鍼麻酔も他の麻酔と同じく、適切な薬物を補助にして麻酔効果を向上させると、患者を安全に、有利な条件で手術できる。補助として使われる薬物は非常に多いが、おもに鎮静剤、鎮痛剤、抗コリン作用薬などが使われる。
補助薬には鎮静剤と安定剤があり、フェノバルビタール、アセチルプロマジン、ハロペリドール、トランキライザーなどが使われる。そして鎮痛剤では塩酸ペチジンが常用されるが、モルヒネやフェンタニールも使われる。しかし後の二者は副作用と毒性が大きいので慎重に使用する。抗コリン作用薬ではアトロピンとスコポラミンが使われる。
補助薬は使用する時機を把握し、投与量も適切に制御する。そうでないと患者が朦朧となり、状況をつかめなくなって、手術に協力できなくなるので鍼麻酔効果に影響する。筋肉弛緩剤は、観察しながらさらに慎重に使わなければならず、思わぬことが起きたら、すぐに有効な救急措置をする。

3・5 鍼麻酔の要求
臨床治療により、鍼麻酔効果の善し悪しは刺鍼の作用だけでなく、補助薬や環境、患者の精神的な要因、個人差、医療従事者の操作なども影響することが判っている。そうした要素に医療従事者は対処し、法則性を見つけ出さねばならない。現在では鍼麻酔従事者の多くが、鍼と薬を併用して麻酔しているが、これは鍼麻酔効果を高めるのに有効な手段である。
鍼麻酔では患者が覚醒状態にあり、現在の鍼麻酔では完全な無痛ではなく内臓の牽引痛や筋緊張があることから、術者は落ち着いて、正確に、軽く、手早く手術することが要求され、有鈎のピンセットや鉗子で皮膚を挟んだりしてはならない。切開は迅速に、筋肉層はできるだけテキパキと分離する。内臓器官や組織は引っ張らない。手術時の状況に合わせて機敏に操作手順を変え、操作を改善することによって不要な刺激をできるだけ減らし、患者の痛みを軽減して、患者の健康回復を促す。


なお、この引用は、出版社の許可を受けていません。勝手に引用しています。でも訳した本人だから、いいんよう……な~んちゃって。

                               北京堂鍼灸ホーム