● -臨床に生かす-刺血療法  
   



-臨床に生かす-刺血療法
王秀珍 / 鄭佩 / 孟雷 共著
浅野周訳 / 植地博子監訳
発行所 (株)緑書房
定価 3800円A5判 182頁 (ISBN4-89531-836-2 C3047)
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推薦文
 ※本書は、私が持っている刺血療法の書籍のなかで面白いものを訳したものです。監訳の方がついたので文体が変わってしまいました。原書の特徴として誤字が特に多かったことがあります。(一般に、中国の本は入力オペレーターがいいかげんなのか、原著者が達筆すぎるのかやたらに誤字があります。中国の原書の字を鵜呑みにしないことです。)これは翻訳ソフトにかけても、ちょっと翻訳できないだろうというものでした。さらに台湾版は、誤りに誤りが重なり、特にひどかったです。それをすべて修正し、まともな本にしました。

● 本文内容見本   P73~75

(20).多発性神経根炎 2例

例1 呉××、女、39歳。農民。
 手足が痺れ、歩行が困難である。症状は16日前から増悪し、1976年6月4日入院した。
 述べるところによれば入院の2ケ月前に舌炎を患い、現地の医務室で黄色い錠剤を投与され治癒した。23日前から右足の指が痺れた感じがし、翌日は手足の末端が靴下を履いたように麻痺し、両足を動かしづらくなり、杖を使って歩くようになった。現地の病院でビタミンB1 やB12を注射したが効果がなかった。7日後に症状が増悪して歩けなくなり、口が歪み両目が閉じなくなって、時には呼吸困難があり、食餌量も減少してベッドから起きられなくなった。大小便は正常で嚥下困難や悪心嘔吐もない。
 検査:体温37.3℃、血圧110/80mmHg、額にシワを寄せると左側は右側よりも明らかに浅くなっており、両目は閉じることができない。右目は重く、右側の口角は下に向かって斜めになっている。左側の鼻唇溝は浅くなっているが、舌は片寄ってはいない。左の口角に疱疹がある。心肺は正常で、肝も脾も触知できない、皮膚の温覚や痛覚はあるが膝蓋腱反射はない。上腕二頭筋と三頭筋の反射はあり、病理反射はない。
 実験室検査:脳脊髄液は無色透明でパンジー反応は陽性。蛋白90mg/dl 、細胞数4、糖40mg/dl、カリウム14mg/dl、冷凝集反応は1:64。眼底検査でも異常なし。
 診断:ギラン・バレー症候群。
 治療経過:入院後内科の要請により立ち会い診療を行う、板蘭根注射液、プレドニゾン、ヘキサミン、ガランタミン、ビタミン、抗生物質などで治療したが病状はよくならず、寝たまま起きれない。6月16日脳脊髄液を検査すると、蛋白細胞の解離があっただけだった。刺血科に立ち会い診療を要請、太陽、尺沢、委陽、中渚、衝陽から刺血する。その日の午後に患者は手足の麻痺や冷たい感じが明らかに好転し、左の閉目もやや可能となり、精神的にも好転した。2日目には独力でベッドから起き、600m程度歩けるようになった。6月23日に再び刺血治療を行い、各症状は次第に消失した。閉目も円滑にでき、口角はやや斜めになってはいる。自分で日常生活を管理できるようになった。29日間入院、治癒し退院した。

 例2 王×、男、40歳。安徽省銅陵立 新炭坑坑夫。
 患者は4ケ月前から発熱し咽喉が痛み、2、3日後に声が出なくなった。舌が麻痺し、食事をするとむせ、水を飲むと鼻腔から流れ出すようになった。入院して治療したが効果がなく、顔と手足が麻痺し、四肢無力になったので1973年3月3日に省の某病院に転院し治療した。
 検査:軟口蓋の麻痺(-)
 咽喉検査:声帯の動きは良好。咽喉反射消失。
 四肢の浅表知覚の減退、神経根刺激症状(+)。
 診断:ギラン・バレー症候群。
 治療経過:1973年3月5日に、太陽、曲沢、陽交穴から刺血する。
 3月20日再診:病状は好転し、水を飲んでも逆流することがなくなり、食事をしてもむせなくなった。両足には力が入る。委中と尺沢から刺血する。
 4月4日三診:四肢の痺れはすでに消失したが、歩くときに少し力がない。太陽、衝陽、中渚から刺血する。以後は10日置きに刺血を2回行う。計5回の治療で諸症状は消え、病気が治癒したので炭坑に戻った。
 1978年12月の再調査:ギラン・バレー症候群は刺血によって治癒し、鉱山に出勤している。後に鉱山で労働災害で腰椎損傷し下肢麻痺となった。

 コメント:多発性神経根炎を、中医では、湿が四肢に流れて、経絡を滞らせ、気滞血となって、気血が四肢を栄養できなくなるため、四肢に力が入らずに萎縮して動かなくなると認識している。張錫純は『医学喪中参西録』の中で、痿症の病機は、風寒と痰飲が経絡の中で互いに凝結し、血脈を閉塞させて「脈管がで塞がる」状態になると指摘している。それゆえ気血の閉塞を開く治療をするとよいと主張している。
 現代医学では、精神系統の疾病の多くを神経組織に病理変化が起きたものとしているが、血液循環障害はその主要な原因の一つである。刺血は行気活血をはかり、経絡を通らせて湿熱の邪を取り除くことを目的としており、気血が循環し全身を栄養できれば痿症は治る。  

※本文は出版社の了承を得て転載しています。

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