三鍼(きんさんしん)      この内容は、上海科技文献出版社・彭増福著『三針療法』を紹介する意図のもと、抜粋、論評を加えたものです。


 1 知能を増して意識を醒ます

 
1.1 智三鍼
 1.穴位構成:神庭,本神。
 2.部位
 神庭:前頭部。前髪際正中の直上で、髪際を入ること0.5寸。
 本神:前頭部。前髪際と額角髪際をつなぐ線の内側2/3と外側1/3の交点。髪際を入ること0.5寸。左右に一つずつ。
 3.主治
 小児の知能障害、精神障害、老年性痴呆、健忘、神経衰弱、前頭痛。
 4.刺灸方法
 三穴の刺法は、同じである。いずれも捻転刺鍼法を使い、鍼体と頭皮を15度で切皮し、鍼を帽状腱膜の下層へ刺入したあと、鍼体を接線方向に倒し、ゆっくりと0.5~0.8寸ぐらい刺入したら捻転補瀉をする。捻転では鍼を2回転ずつ、捻転速度は毎分200回前後とする。この捻転を1~2分続け、5~10分ごとに一回捻転する。20~30分置鍼するので、全部で4回捻転する。
 5.併用例
 四神鍼、脳三鍼、顳三鍼と組み合わせて使用するため、併せて益智四項と呼び、小児の知能障害、老人性痴呆症など知力障害の治療に使う。言語障害があれば舌三鍼や風府から門への透刺を加える。言語理解に障害があれば、耳三鍼や顳三鍼を加える。記憶力が悪ければ耳三鍼を加える。そのうち視覚記憶が劣れば太陽と陽白を加え、聴覚記憶が劣れば耳三鍼を加える。計算能力が劣れば足三里,水溝,三陰交を加える。癲癇があれば、癇三鍼を加える。

 1.2 四神鍼
 1.穴位構成:前頂,後頂,左右の絡却。
 2.部位
 四神鍼は、頭頂部に位置し、百会の前後、左右1.5寸にある。そのうち前頂は百会の前1.5寸、後頂は百会の後1.5寸、絡却は百会の外側1.5寸に位置する。
 3.主治
 知能障害、痴呆、頭痛、めまい、不眠、癲癇、脱肛。
 4.刺灸方法
 虚実によって刺激ドーゼを変える。瀉法では、すばやく鍼を帽状腱膜下へ刺入し、そのあと鍼尖を前後左右に接線方向で刺入し、抽気法を使う。抽気法の瀉法は、急な力で鍼を引っ張るが鍼体は動かず、それで出ても0.1寸ぐらいである。これを3回続けた後、ゆっくりと元の場所に鍼を戻す。こうした2分間の運鍼で、患者の頭皮に沈麻脹痛感(重い、痺れる、腫れぼったい、痛いなどの鍼感)を発生させ、鍼感を前頭部に伝導させる。補法では、鍼尖の方向は瀉法と同じだが、少し捻転を加えて鍼下にきつく渋る感じ(あるいは重く腫れぼったい感じ)を発生させる。
 5.併用例
 智三鍼などを組み合わせて、さまざまな知能障害性疾患を治療する。手智鍼と併用して多動してもがく、癲癇、不眠を治療する。顳三鍼を併用して、脳卒中後遺症の片麻痺、小児の脳性麻痺など運動障害性疾患を治療する。灸では脱肛を治療する。涌泉と太衝を併用して頭頂痛を治療する。率谷と太陽を併用して片頭痛を治療する。太陽と印堂を併用して前頭痛を治療する。

 1.3 脳三鍼
 1.穴位構成:脳戸,脳空。
 2.部位
 脳戸:後頭部。後髪際正中の直上で、髪際を入ること2.5寸。風府の上1.5寸。外後頭隆起上縁。
 脳空:後頭部。外後頭隆起上縁(脳戸)の外側で、頭正中線の横2.5寸。風池の上1.5寸。
 3.主治
 運動失調(脳性麻痺)、知能障害、四肢の運動障害、パーキンソン症候群、視覚障害など。
 4.刺灸方法
 脳空は下に向けて接線方向に0.5~1寸。局部に怠い腫れぼったさを発生させ、それを後頭部に拡散させる。平補平瀉か捻転補瀉を使う。
 脳戸は下に向けて接線方向に0.5~1寸。局部に怠い腫れぼったさを発生させる。平補平瀉か捻転補瀉を使う。
 5.併用例
 智三鍼を併用して、児童の知恵遅れなど知能障害を治療する。顳三鍼を併用し、脳性麻痺による運動障害を治療する。手三鍼、足三鍼、顳三鍼、智三鍼などを併用してパーキンソンを治療する。眼三鍼を併用して視神経萎縮など視覚障害を治療する。パーキンソンで舌が震えたり、声がはっきりしなければ舌三鍼を加える。脳性麻痺には、顳三鍼や四神鍼、申脈、照海、太衝を加える。

 
1.4 顳三鍼
 1.穴位構成:顳Ⅰ鍼、顳Ⅱ鍼、顳Ⅲ鍼。
 2.部位
 顳Ⅰ鍼:耳尖直上で、髪際を二寸入る。
 顳Ⅱ鍼:顳Ⅰ鍼に水平な線上で、顳Ⅰ鍼の前一寸。
 顳Ⅲ鍼:顳Ⅰ鍼に水平な線上で、顳Ⅰ鍼の後一寸。
 3.主治
 脳血管障害による後遺症、脳挫傷による半身不随、口眼歪斜、脳の動脈硬化、耳鳴、聴覚障害、片頭痛、パーキンソン、脳萎縮、老人性痴呆症、顔面部の知覚障害。
 4.刺灸方法
 鍼尖と穴位を15~30度で、下へ向けて1.5寸ぐらい沿皮刺し、局部に麻脹酸感(痺れ、腫れぼったい、怠い感覚)が発生したり、その鍼感が頭部全体に放散する。
 5.併用例
 脳卒中の治療では、四神鍼、手三鍼、足三鍼などの併用が多い。言語障害には舌三鍼を加える。脂三鍼を併用して、脳の動脈硬化や冠動脈による心疾患。

 
1.5 暈痛鍼
 1.穴位構成:四神鍼、太陽、印堂。
 2.部位
 四神鍼:頭頂部で、百会の前後左右1.5寸の四穴。
 太陽:こめかみで、眉尻と目尻の中点を一横指ほど後ろにずらした陥凹。
 印堂:前頭部で、両眉頭の中点。
 3.主治
 メニエル症候群、めまいや頭痛。
 4.刺灸方法
 印堂:沿皮刺で、鼻根方向へ捻転しながら0.5~0.8寸刺入し、得気したら10~20秒ほど捻転を続け、鼻根に酸脹感(怠く腫れぼったい感覚)が持続したら30~40分置鍼し、10分ごとに捻鍼して刺激を強化する。また棒灸で鼻根を30~40分温めてもよい。
 太陽:0.3~0.5寸直刺し、局部に酸脹感を発生させる。平補平瀉か捻転、刮法などを使う。
 5.併用例
 メニエル病では、モヤシ豆ぐらいのモグサで百会に15~25壮ほど施灸する。灸を終えたら龍胆紫(ゲンチアナバイオレット液)を塗って感染を防ぐ。頭頂痛は涌泉を加え、後頭痛は風池を加える。

 
1.6 癇三鍼
 1.穴位構成:内関、申脈、照海。
 2.部位
 内関:前腕掌側。曲沢と大陵を繋ぐ線上で、腕関節横紋の上二寸。長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間。
 申脈:足外側。外踝直下の陥凹。
 照海:足内側。内踝尖(一番盛り上がったところ)下の陥凹。
 3.主治
 癲癇、足内翻、足外翻。
 4.刺灸方法
 内関:直刺で0.5~1.5寸。深刺して外関まで通してもよい。局部に酸脹感があり、触電感(電気ショック感)が指先へ走る。または体幹へ向けて1~2寸斜刺し、 局部に酸脹感があれば、それを肘や腋胸などへ伝導させる。平補平瀉か提插、捻転補瀉など。
 申脈:0.5~0.8寸直刺し、局部に酸脹感を発生させ、平補平瀉か捻転補瀉する。
 照海:0.5~0.8寸直刺し、局部に酸脹感を発生させ、鍼感を踝全体に放散させる。平補平瀉か捻転補瀉するが、灸ならば3~5壮、棒灸なら5~10分。
 5.併用例
 癲癇が起こっていれば、閉三鍼を併用して救急処置する。不眠で夢ばかり見るならば四神鍼を加える。心煩(イライラ)して怒りっぽければ、手智鍼を併用する。

 
1.7 手智鍼
 1.穴位構成:内関、神門、労宮。
 2.部位
 内関:前腕掌側。曲沢と大陵を繋ぐ線上で、腕関節横紋の上二寸。長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間。
 神門:腕関節掌側で、腕関節横紋の尺側端。尺側手根屈筋腱の橈側にある陥凹。
 労宮:手掌で、第2第3中手骨間で、第3中手骨寄り。拳を握ったとき中指先端の当たるところ。
 3.主治
 児童の知恵遅れや多動症、癲癇、不眠。
 4.刺灸方法
 内関:直刺で0.5~1.5寸。深刺して外関まで通してもよい。局部に酸脹感があり、触電感(電気ショック感)が指先へ走る。または体幹へ向けて1~2寸斜刺し、局部に酸脹感があれば、それを肘や腋胸などへ伝導させる。平補平瀉か提插、捻転補瀉など。
 神門:0.5~0.8寸直刺するか、体幹方向へ1~1.5寸沿皮刺し、局部に酸脹感を発生させる。触電感(電気ショック感)が指先へ走ったりする。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。
 労宮:0.3~0.5寸直刺し、局部に酸脹感を発生させ、鍼感を手掌全体に放散させる。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。
 5.併用例
 知能障害の児童には、益智四項などを併用する。癲癇には、四神鍼、申脈、照海を併用する。

 
1.8 足智鍼
 1.穴位構成:涌泉、泉中、泉中内。
 2.部位
 涌泉:足底部で、足を底屈したとき足底前部にできる陥凹。足底で、第2第3趾の水掻きと足跟を繋いだ線上で、前1/3と後2/3の交点。簡単な取穴方法は、仰臥位か腹臥位で、足趾を底屈させ、足底つちふまずの前面(ほぼ足底中心線の前1/3)正中の陥凹。
 泉中:第3中足指節関節横紋と足跟後縁を繋ぐ線の中点。
 泉中内:泉中の内側一横指。
 3.主治
 児童の自閉症や知能障害(多動症や言葉の遅れ)。
 4.刺灸方法
 すべて0.5~1.5寸の直刺で、局部の脹痛(腫れぼったい痛み)を足底全体に放散させ、平補平瀉か捻転補瀉する。意識不明や自閉症には強刺激、知恵遅れの児童には中刺激する。
 5.併用例
 知恵遅れの児童には益智四項などを併用する。自閉症には手智鍼、四神鍼を併用する。

 
1.9 定神鍼
 1.穴位構成:定神Ⅰ、定神Ⅱ、定神Ⅲ。
 2.部位
 定神Ⅰ:印堂の上0.5寸。
 定神Ⅱと定神Ⅲ:両目を直視させ、瞳孔直上。眉の上1.5寸。
 3.主治
 知能障害(注意力散漫)、視力減弱、眼球震顫、健忘、多動、不眠など。
 4.刺灸方法
 定神Ⅰ:鼻根に向けて沿皮刺で捻転しながら0.8~1寸刺入し、酸脹感があれば捻転して鍼感を鼻根に放散させる。
 定神Ⅱと定神Ⅲ:下へ向けて沿皮刺で捻転しながら0.8~1寸刺入し、酸脹感があれば平補平瀉か捻転、刮法などをする。
 5.併用例
 多動症の児童には手智鍼、不眠多夢には四神鍼、注意散漫や記憶が悪ければ顳三鍼を加える。

 
2 救急

 
2.1 閉三鍼
 1.穴位構成:水溝、涌泉、十宣。
 2.部位
 水溝:人中溝の上1/3と下2/3の交点。
 涌泉:足底部で、足を底屈したとき足底前部にできる陥凹。足底で、第2第3趾の水掻きと足跟を繋いだ線上で、前1/3と後2/3の交点。簡単な取穴方法は、仰臥位か腹臥位で、足趾を底屈させ、足底つちふまずの前面(ほぼ足底中心線の前1/3)正中の陥凹。
 十宣:十指の先端。
 3.主治
 昏睡、意識不明、口噤不開などの救急症状。
 4.刺灸方法
 水溝:上に向けて0.5~0.8寸斜刺し、局部に脹痛を発生させる。平補平瀉か捻転補瀉をする。
 涌泉:0.5~1.5寸直刺し、局部の脹痛(腫れぼったい痛み)を足底全体に放散させ、平補平瀉か捻転補瀉する。意識不明や自閉症には強刺激する。
 十宣:0.1~0.3寸浅刺し、局部に脹痛を発生させる。平補平瀉するか、三稜鍼で点刺出血する。

 
2.2 脱三鍼
 1.穴位構成:百会、神闕、水溝。
 2.部位
 百会:頭部で、後髪際の正中直上5寸。または両耳尖を繋ぐ線の中点。
 神闕:臍。
 水溝:人中溝の上1/3と下2/3の交点。
 3.主治
 昏睡や意識不明などの危篤症状。
 4.刺灸方法
 百会:0.5~1寸沿皮刺し、前後左右の四神鍼へ透刺して、局部に酸脹感を発生させる。鍼感が頭頂部へ伝わる。平補平瀉か捻転補瀉を使う。刺鍼したあと10~15分ほど棒灸するか、間接灸なら3~5壮、ショウガ灸なら5~10壮。
 神闕:10~20分の棒灸、ショウガ灸や隔塩灸(臍に一枚のティッュを分けて敷き、塩を詰めた上にモグサを置く)なら5~15壮。局部が温まり、覚醒するまで温灸する。
 水溝:上に向けて0.5~0.8寸斜刺し、局部に脹痛を発生させる。平補平瀉か捻転補瀉をする。

 3 肢体類

 
3.1 手三鍼
 1.穴位構成:曲池、外関、合谷。
 2.部位
 曲池:肘関節横紋外側端。肘を曲げ、尺沢と上腕骨外側上顆を繋ぐ線の中点。または手掌を上に向けて、少し肘を曲げたとき、肘窩横紋外端と肘関節橈側で盛り上がる骨(上腕骨外側上顆)の中点を取穴する。
 外関:前腕背側。陽池と肘尖を繋ぐ線で、背側腕関節横紋を体幹方向に二寸。尺骨と橈骨の間。
 合谷:手背で、第1第2中手骨間。第2中手骨橈側の中点。
 3.主治
 上肢の運動麻痺や知覚異常、感染症の発熱。
 4.刺灸方法
 曲池:1.0~1.5寸直刺し、局部に酸脹重脹(怠い腫れぼったさや重い腫れぼったさ)がある。鍼感が肩や手指に放散したりする。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。
 外関:0.5~1寸直刺し、局部の酸脹感がある。麻電感(電気に痺れる感じ)が指先に放散したりする。酸脹感が体幹方向へ放散して肘や肩に達したら、肘や肩、体幹の疾病が治療できる。平補平瀉か捻転、提插補瀉を使う。
 合谷:0.5~1寸直刺し、局部の酸脹感が、肘や肩、顔面部に拡散する。あるいは後谿へ向けて2.0~3.0寸深刺し、労宮や後谿へ鍼尖が達すると、手掌に酸麻感が出現し、鍼感が指先に向けて放散する。平補平瀉か捻転、提插補瀉を使う。
 5.併用例
 感染症の発熱には大椎、前頭痛には印堂、側頭痛には太陽、鼻詰まりには迎香と風池を加える。脳卒中や半身不随などで上肢が動かねば肩を併用し、口眼歪斜には地倉と頬車を併用する。

 
3.2 足三鍼
 1.穴位構成:足三里、三陰交、太衝。
 2.部位
 足三里:膝蓋骨の下縁で、膝蓋靭帯の外側陥凹部にある犢鼻の下3寸。脛骨粗面下の外側一横指。
 三陰交:下腿内側で、内踝尖の上3寸。脛骨内側縁の後方。または手の四指を「気を付け」姿勢のように揃え、小指尺側を内踝尖に当てたとき、人差指橈側縁が脛骨後縁と交わる点。
 太衝:足背で、第1第2中足骨間の後方陥凹。足背で、第1第2足趾間の水掻きから足背に向けて推すと、第1第2中足骨接合部があるが、その前縁の陥凹(水掻きから上約一横指)。
 3.主治
 下肢の運動麻痺や知覚障害。
 4.刺灸方法
 足三里:1~2寸直刺し、局部に酸脹や麻電感が発生し、鍼感が足背に放散する。ときには膝へ放散する。平補平瀉か提插補瀉する。
 三陰交:1~1.5寸直刺し、局部の酸脹感がある。麻電感が足底へ放散したり、酸脹感が膝関節や大腿内側へ拡散する。平補平瀉か捻転補瀉、または焼山火や透天涼を使う。
 太衝:体幹へ向けて0.5~1.5寸斜刺するか、外下方に1~1.5寸して涌泉へ透刺し、局部に酸脹感を発生させる。時には麻電感が足底へ向けて放散する。平補平瀉か捻転補瀉を使う。
 5.併用例
 脇肋痛には胆三鍼を加え、下痢には腸三鍼を加え、遺精やインポ、不妊や無精子症には陽三鍼を加え、生理不順や無月経には陰三鍼を加え、過多月経や帯下、寒疝(下腹部の仙痛)には百会の灸を併用する。不眠や神経衰弱には太谿,内関,印堂を加えたり、手智鍼や四神鍼を併用する。

 
3.3 肩三鍼
 1.穴位構成:肩Ⅰ鍼、肩Ⅱ鍼、肩Ⅲ鍼。
 2.部位
 肩Ⅰ鍼:肩。肩で、三角筋上。上肢を外転するか屈曲したとき、肩峰の前下方に現れる陥凹。
 肩Ⅱ鍼:肩と水平で、前方2寸。
 肩Ⅲ鍼:肩と水平で、後方2寸。
 3.主治
 肩関節周囲炎、肩関節炎、上肢麻痺、肩が挙がらない。
 4.刺灸方法
 肩:1~1.5寸直刺し、肩に酸脹感を発生させ、鍼感をできるだけ肩関節周囲へ拡散させるか、麻電感を指先に向けて放散させる。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。
 肩Ⅱ鍼:0.8~1寸直刺し、肩や大胸筋へ酸脹感を伝わらせる。時には麻電感が前腕内側に伝導する。胸腔に刺さらないよう注意する。
 肩Ⅲ鍼:外に向けて1~1.5寸斜刺するか腋前方へ透刺し、肩や肩甲部に酸脹感を発生させる。ときには麻電感が肩や指先まで伝わる。平補平瀉か捻転、提插補瀉する。
 5.併用例
 上肢の痺れや運動麻痺には手三鍼、頚部の酸脹疼痛には頚三鍼を併用する。曲池を加えて五十肩を治療する。

 
3.4 頚三鍼
 1.穴位構成:天柱、百労、大杼。
 2.部位
 天柱:後頚部で僧帽筋外縁、後髪際の陥凹。ほぼ後髪際正中の横1.3寸。
 百労:後頚部の大椎直上2寸で、後正中線から1寸横。
 大杼:背部で、第1第2胸椎棘突起間の外方1.5寸。
 3.主治
 頚椎症、後頚部のこわばった痛み。
 4.刺灸方法
 天柱:0.8~1寸直刺し、局部に酸脹感がある。鍼感が後頭部へ放散したり、眼の奥に放散する。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。
 百労:0.8~1寸直刺し、局部に酸脹感がある。平補平瀉か捻転補瀉する。
 大杼:正中線に向けて斜刺し、局部に酸脹感があり、鍼感が肋間へ放散したりする。平補平瀉する。
 5.併用例
 上肢の痛みや知覚障害には手三鍼を加え、めまいには四神鍼を併用する。

 
3.5 腰三鍼
 1.穴位構成:腎兪、大腸兪、委中。
 2.部位
 腎兪:腰部で、第2第3腰椎棘突起間の外方1.5寸。
 大腸兪:腰部で、第4第5腰椎棘突起間の外方1.5寸。
 委中:膝窩横紋の中央で、大腿二頭筋腱と半腱様筋腱を繋ぐ中点。
 3.主治
 腰痛、腰椎増殖、腰筋の慢性疲労、性機能障害、遺精、インポ、早漏、生理不順。
 4.刺灸方法
 腎兪:1~1.5寸直刺し、腰部に酸脹感がある。麻電感が臀部や下肢に放散したりする。平補平瀉か捻転、提插補瀉したり、焼山火や透天涼の補瀉をする。腎仙痛には龍虎交戦を使う。
 大腸兪:腰部に酸脹感がある。麻電感が臀部や下肢に放散したりする。平補平瀉か捻転、提插補瀉したり、焼山火や透天涼の補瀉をする。
 委中:0.8~1.2寸直刺し、局部に酸脹感がある。麻電感が足底まで伝導したりする。平補平瀉か捻転、提插補瀉する。三稜鍼で表面の静脈を点刺し、出血させてもよい。
 5.併用例
 下肢の痛みや運動知覚障害には足三鍼を加え、腰仙部の痛みには次を加える。

 
3.6 膝三鍼
 1.穴位構成:梁丘、血海、膝眼。
 2.部位
 梁丘:膝を曲げ、大腿前面にある。上前腸骨棘と膝蓋骨上縁外側を繋ぐ線上で、膝蓋骨外側上縁の上方2寸。下肢に力を入れて立ち上がるとき、膝蓋骨外上方の大腿が凹む。その凹みは大腿外側直筋と大腿直筋の交点だが、その中が梁丘である。
 血海:膝を曲げ、大腿内側にある。膝蓋骨内側上縁の上方2寸。大腿四頭筋の内側頭が盛り上がる部位。椅子に腰掛け、相手が90度に膝を曲げているとき、手掌で相手の膝蓋骨を覆ったとき、親指先端の当たるところ。
 膝眼:膝を曲げたとき膝蓋靭帯の両側にできる凹み。内側を内膝眼、外側を外膝眼という。
 3.主治
 膝関節の痛みや腫れ、力がないなど。
 4.刺灸方法
 梁丘:1~2寸直刺し、局部に酸脹感があり、鍼感が膝関節周辺や膝関節腔に達する。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。ここは筋肉が厚いので、浅すぎると効果がない。
 血海:1~2寸直刺し、局部に酸脹感がある。鍼感が膝蓋骨に放散したりする。平補平瀉か捻転、提插補瀉する。
 膝眼:膝を曲げ、委中へ向けて1~2寸斜刺するか、内外膝眼を透刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が膝関節全体へ拡散したり、足に向かって放散する。平補平瀉するか提插と捻転の補瀉する。
 5.併用例
 関節が赤く腫れて痛み、熱感があれば、足三鍼を加える。骨増殖には、懸鐘と大杼を加える。下肢の力がないものは、陽陵泉,太谿,懸鐘を加える。血行障害があれば膈兪を加える。

 
3.7 踝三鍼
 1.穴位構成:解谿、太谿、崑崙。
 2.部位
 解谿:足背と脛の境界にある足関節横紋の中央陥中。長母指伸筋腱と長指伸筋腱の間。仰向けに寝て、足を背屈させたとき、足関節の前横紋に二本の筋が現れる。それが長母指伸筋腱と長指伸筋腱であり、その間の凹みが解谿である。
 太谿:足内側で、内踝の後方。内踝尖とアキレス腱の間にある凹み。
 崑崙:足外側で、外踝の後方。外踝尖とアキレス腱の間にある凹み。
 3.主治
 足関節の痛み(運動障害)や足跟痛。
 4.刺灸方法
 解谿:0.5~0.8寸直刺し、局部に酸脹感があり、鍼感が足関節全体に放散したりする。平補平瀉か捻転補瀉する。
 太谿:0.5~1寸直刺し、深刺では崑崙へ透刺する。局部に酸脹感があり、麻電感が足底へ放散する。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。
 崑崙:0.5~1寸直刺し、深刺では太谿へ透刺する。局部に酸脹感があり、足趾に向かって放散する。平補平瀉か捻転、提插補瀉する。
 5.併用例
 足関節の捻挫には、阿是穴を加える。下肢の運動麻痺には足三鍼を併用する。

 
3.8 坐骨鍼
 1.穴位構成:環跳、委中、崑崙。
 2.部位
 環跳:大腿外側部で、側臥位で大腿を屈し、大腿骨大転子の最高点と仙骨裂孔を繋ぐ線の外1/3と内2/3の交点。
 委中:膝窩横紋の中央で、大腿二頭筋腱と半腱様筋腱を繋ぐ中点。
 崑崙:足外側で、外踝の後方。外踝尖とアキレス腱の間にある凹み。
 3.主治
 坐骨神経痛、下肢の萎縮性麻痺。
 4.刺灸方法
 環跳:2.0~3.0寸直刺し、局部に酸脹感があり、麻電感が坐骨神経に沿って下肢に放散する。ときには足趾先端にまで鍼感が達する。
 委中:0.5~1寸直刺し、局部に酸脹感があり、麻電感が足底へ放散する。平補平瀉か捻転、提插補瀉する。血行障害があれば、三稜鍼で表層の静脈を点刺する。
 崑崙:0.5~1寸直刺し、深刺では太谿へ透刺する。局部に酸脹感があり、足趾に向かって放散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 5.併用例
 腰仙部の痛みには秩辺を加える。痛みが長引いて治らぬものは、命門と腎兪を加える。

 
3.9 痿三鍼
 1.穴位構成
 上痿三鍼:合谷、曲池、尺沢。
 下痿三鍼:足三里、三陰交、太谿。
 2.部位
 合谷:手背で、第1第2中手骨間。第2中手骨橈側の中点。
 曲池:肘関節横紋外側端。肘を曲げ、尺沢と上腕骨外側上顆を繋ぐ線の中点。または手掌を上に向けて、少し肘を曲げたとき、肘窩横紋外端と肘関節橈側で盛り上がる骨(上腕骨外側上顆)の中点を取穴する。
 尺沢:肘関節横紋中で、上腕二頭筋腱の橈側陥凹。
 足三里:膝蓋骨の下縁で、膝蓋靭帯の外側陥凹部にある犢鼻の下3寸。脛骨粗面下の外側一横指。
 三陰交:下腿内側で、内踝尖の上3寸。脛骨内側縁の後方。または手の四指を「気を付け」姿勢のように揃え、小指尺側を内踝尖に当てたとき、人差指橈側縁が脛骨後縁と交わる点。
太谿:足内側で、内踝の後方。内踝尖とアキレス腱の間にある凹み。
 3.主治
 手足の筋萎縮、対麻痺、全麻痺。
 4.刺灸方法
 合谷:0.5~1寸直刺し、局部の酸脹感が、肘や肩、顔面部に拡散する。あるいは後谿へ向けて2.0~3.0寸深刺し、労宮や後谿へ鍼尖が達すると、手掌に酸麻感が出現し、鍼感が指先に向けて放散する。平補平瀉か捻転、提插補瀉を使う。
 曲池:1.0~1.5寸直刺し、局部に酸脹重脹(怠い腫れぼったさや重い腫れぼったさ)がある。鍼感が肩や手指に放散したりする。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。
 尺沢:0.5~1寸直刺し、局部の酸脹感があり、麻電感が前腕に向かって放散する。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。
 足三里:1~2寸直刺し、局部に酸脹や麻電感が発生し、鍼感が足背に放散する。ときには膝へ放散する。平補平瀉か提插補瀉する。
 三陰交:1~1.5寸直刺し、局部の酸脹感がある。麻電感が足底へ放散したり、酸脹感が膝関節や大腿内側へ拡散する。平補平瀉か捻転補瀉、または焼山火や透天涼を使う。
 太谿:0.5~1寸直刺し、深刺では崑崙へ透刺する。局部に酸脹感があり、麻電感が足底へ放散する。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。
 5.併用例
 運動麻痺には、必ず陽陵泉と懸鐘などを加えて治療を強化する。肝腎陰虧なら肝兪と腎兪を加える。上肢が挙がらねば、挙臂穴(肩峰前の下方3.5寸)を加える。肘を伸ばす力のないものは、肱中穴(天泉穴の下方2.5寸)を加える。手が握れなければ内関を加える。手が開かなければ外関を加える。大腿が挙がらねば健膝(膝蓋骨の正中上縁から上3寸)を加える。足が下垂していれば脛下穴(解谿の上3寸で、脛骨外縁の外側1寸)を加える。足が内翻していれば糾内翻(承山穴の外側1寸)、足が外翻していれば糾外翻(承山穴の内側1寸)を加える。

 
3.10 面三鍼
 1.穴位構成:翳風、地倉から頬車への透刺、合谷。
 2.部位
 翳風:耳垂の後方で、乳様突起と下顎角の間陥凹。または耳垂を後ろへ押したとき、耳垂下端が当たるのが翳風である。あるいは頭を左右にねじると、頚の胸鎖乳突筋が隆起するが、その筋肉の前で、耳垂後ろの陥凹が翳風である。翳風は、耳垂で風を遮る意味。
 地倉:顔面で、口元(口角)の外側。上下唇の水平線と瞳孔の垂線が交わる点。
 頬車:頬。下顎角を前上方に約一横指(中指)。咀嚼すると咬筋が隆起し、押すと凹むところ。または人差指の近位指節間関節の横幅を使い、下顎角から上一横指。あるいは下顎角の前上方を触ると陥凹があり、指で押すと酸脹感があって、歯を食い縛ると筋肉の隆起するところ。
 合谷:手背で、第1第2中手骨間。第2中手骨橈側の中点。
 3.主治
 顔面神経麻痺。
 4.刺灸方法
 翳風:0.5~1寸直刺し、耳の後ろに酸脹感があり、鍼感を舌の前面や顔半分に伝われば顔面麻痺やオタフク風邪を治療する。内前下方へ1.5~2寸斜刺し、局部に酸脹感があり、鍼感が咽喉へ放散し、咽に締めつけられるような感じや熱感が発生すれば聾唖が治療できる。平補平瀉か捻転補瀉する。また灸なら3~5壮、棒灸なら5~10分してもよい。
 地倉:1.0~2.5寸沿皮刺する。顔面麻痺の治療では頬車へ、三叉神経痛には迎香へ透刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が顔半分へ放散する。口元に痙攣感が発生したりもする。平補平瀉か捻転補瀉する。
 頬車:0.5~0.8寸直刺するか、1~2寸沿皮刺して地倉穴に透刺し、顔面麻痺を治療する。鍼を同一方向へ回転させ、動かなくなったら鍼柄を患側へ引っ張る「滞鍼法」を使ってもよい。上や下に0.5~0.8寸斜刺すれば上下の歯痛を治療するが、この場合は局部に酸脹感があり、鍼感が周囲に放散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 合谷:0.5~1寸直刺し、局部の酸脹感が、肘や肩、顔面部に拡散する。あるいは後谿へ向けて2.0~3.0寸深刺し、労宮や後谿へ鍼尖が達すると、手掌に酸麻感が出現し、鍼感が指先に向けて放散する。平補平瀉か捻転、提插補瀉を使う。
 5.併用例
 顔面神経麻痺で、鼻唇溝が浅くなっていれば迎香と水溝を、流涎は承漿を、口眼歪斜には太陽,陽白,四白を加える。顔面間費が長引いて直らねば、太陽,四白,頬車,翳風などに棒灸する。
 6.私見
 翳風は牽正の付近にある。牽正は顔面麻痺の特効穴とされ、常用される奇穴である。顔面神経の出口に当たり、脳から出る顔面神経は、ここを通る。そのため耳の後ろ、つまり完骨やら翳風に浮腫が起こると、顔面神経を圧迫してパルスを遮断し、顔面筋に収縮命令が達しなくなる。そこで完骨や牽正、翳風へ刺鍼して神経への圧迫を解除する。合谷は「面目は合谷に収める」。

 
3.11 面肌鍼
 1.穴位構成:下瞼の阿是穴、四白、禾、地倉。
 2.部位
 四白:顔面部。瞳孔直下で、眼窩下孔の陥凹。
 禾:鼻孔の外縁直下で、水溝穴(人中溝の上1/3と下2/3の交点)と水平。
 地倉:顔面で、口元(口角)の外側。上下唇の水平線と瞳孔の垂線が交わる点。
 3.主治
 顔面痙攣、チック。
 4.刺灸方法
 四白:0.5~0.8寸直刺し、局部に酸脹感がある。または内下方へ0.5寸斜刺して鍼尖を眼窩下に入れると、麻電感が上唇へ放散する。上方へ斜刺で深刺すると、眼窩へ入り、眼窩裂から脳へ入る。
下瞼の阿是穴:内下方へ0.5~0.8寸斜刺する。鍼尖は眼窩下に入れる。眼窩内へ入れると眼球を損傷する。
 禾:0.3~0.5寸直刺する。外に向けて0.5~0.8寸沿皮刺してもよい。局部に腫れぼったい痛み(脹痛)がある。
 地倉:1.0~2.5寸沿皮刺する。顔面麻痺の治療では頬車へ、三叉神経痛には迎香へ透刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が顔半分へ放散する。口元に痙攣感が発生したりもする。平補平瀉か捻転補瀉する。
 5.備考
 顔面痙攣ではパルスを使う。四白と阿是穴、地倉と禾を組にし、高パルスの連続波を使い、パイロットランプは点灯しっぱなしにする。電流を強くし、局部が引きつるけど痛みがない程度にし、5分ごとに刺激量を強め、30分ぐらい置鍼する。
 6.私見
 やはり翳風を加えるとよい。

 
3.12 叉三鍼
 1.穴位構成:太陽、下関、阿是穴。
 2.部位
 太陽:こめかみで、眉尻と目尻の中点を一横指ほど後ろにずらした陥凹。
 下関:顔面の耳前方で、頬骨弓と下顎切痕で作られる陥凹。または口を閉じ、人差指の近位指節間関節の横幅を使い、耳珠の前一横指。あるい口を閉じ、耳珠の前を探ると盛り上がった骨があって、その骨の下の陥凹があり、口を開けると凹みが消えて隆起するが、その陥凹が穴位である。
 阿是穴:顔面で、もっとも痛む場所。
 3.主治
 三叉神経痛。
 4.刺灸方法
 太陽:0.3~0.5寸直刺し、局部に酸脹感を発生させる。捻転瀉法する。
 下関:少し下向きに1~1.5寸斜刺し.周囲に酸脹感が発生するか、麻電感が下顎に放散する。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。
 阿是穴:一般に直刺し、局部の酸脹感が周囲に拡散する。
 5.併用例
 合谷と太衝の四関穴を併用し、鎮痛効果を高める。三叉神経第1枝の眼神経痛には魚腰と四白、第2枝の上顎神経痛には下関と顴、第3枝の下顎神経には迎香と大迎を加える。
 6.私見
 第1枝は上眼窩裂から出る。眼窩内で神経を圧迫するような筋肉は少ないが、敢えて刺鍼するならば球後だろう。ここは直刺する。やや上に向けて深刺すると、鍼が上眼窩裂から脳内へ入る危険があるので、3番鍼で徐々に直刺し、骨に当たったら止める。抵抗感があれば、そこで止める。眼内部を緩めるならば、風池へ2寸直刺したほうがよいと思う。
 第2枝は正円孔を通って下眼窩裂から出る。眼内部を緩めるならば、風池へ2寸直刺したほうがよいと思う。風池と太陽、球後は、眼内を緩める特効穴。
 第3枝は、卵円孔を通って外へ出る。卵円孔は喉の奥にある。
 こう考えると風池へ少し下向きに深刺して、眼と卵円孔付近を緩めることが不可欠と思う。

 4 五官

 4.1 舌三鍼

 1.穴位構成:上廉泉、廉泉左、廉泉右。
 2.部位
 上廉泉:頚部で、前正中線上。喉頭隆起の上で、舌骨体上縁の陥凹から上0.5寸。または親指の指節間関節横紋を下顎骨前縁に置くと、親指先端の当たるところが上廉泉。
 廉泉左と廉泉右:上廉泉の左右1寸。
 3.主治
 言語障害、発音がはっきりしない構音障害、嗄声、発生障害、嚥下困難、流涎。
 4.刺灸方法
 患者に天井を見上げさせ、鍼尖を舌根方向へ直刺する。児童は0.8寸前後、成人は1~1.2寸前後。捻転して鍼感を舌根か口腔、あるいは頬へ放散させ、患者の咽喉部に発熱感や麻脹(痺れるような腫れぼったさ)があればよい。虚補瀉実か平補平瀉する。廉泉左と廉泉右を刺入するときも、正中の舌根へ斜刺する。
 5.併用例
 ドモリや言葉が続かない、言葉の発達が遅いなどは四神鍼、および風府から門の透刺を加える。流涎には地倉から頬車の透刺を加える。

 4.2 眼三鍼
 1.穴位構成:眼Ⅰ、眼Ⅱ、眼Ⅲ。
 2.部位
 眼Ⅰ:睛明穴。顔面で、内眥角(目頭)の少し上にある凹み。
 眼Ⅱ:承泣穴。瞳孔直下で、眼窩下縁と眼球の間。
 眼Ⅲ:正視して、瞳孔直上。眼窩上縁と眼球の間。
 3.主治
 視神経萎縮、網膜炎、網膜色素変性など眼球内部の病変。
 4.刺灸方法
 (1)3番の寸六か2寸を使い、患者を仰向けに寝せて閉眼させ、左手親指で眼球を推して眼窩との隙間を広げ、鍼管を隙間に入れて切皮し、ゆっくりと送り込む。刺入したら提插や捻転はせずに、爪先で鍼柄を擦る程度。抜鍼したら乾いた綿花で鍼孔をしばらく押さえて出血を防止する。
 眼Ⅰ:左手親指で眼球を軽く外へ推し、指の腹で眼球を固定したら1.2~1.5寸刺入する。眼窩に酸脹感が発生する。
 眼Ⅱ:左手親指で眼球を軽く上へ推し、指の腹で眼球を固定したら1~1.5寸直刺する。
 眼Ⅲ:左手親指で眼球を軽く下へ推し、指の腹で眼球を固定したら1~1.5寸直刺する。
 (2)運鍼は、直刺して得気したら、鍼柄を爪先で擦って鍼感を強め、眼球底部へ鍼感を放散させ、20~30分置鍼し、10分ごとに刮法で運鍼する。
 (3)抜鍼:乾いた綿花で穴位の周辺を圧迫しながらゆっくりと抜鍼する。抜鍼したら表面に出血があろうがなかろうが1~3分按圧する。出血があれば5~10分按圧する。
 5.併用例
 内眼科疾患では肝兪と腎兪を加える。心血不足には心兪,肝兪,脾兪,足三里を加える。気滞血には太衝,膈兪,血海を加える。肝鬱気滞には陽陵泉,太衝,期門を加える。
 6.私見
 眼窩内刺鍼は、曹仁方著『常見眼病針刺療法』人民衛生出版社1990年2.5元に詳しい。著者は1958年から天津眼科医院で臨床を続け、眼科研究の第一任者といえる。三鍼療法の(革斤)瑞も、睛明の1分上を取穴するあたりや眼球後部が出血したときの対処法など、その本を参照して臨床していたことが伺える。刺鍼法も刺入深度も全く同じ。『常見眼病針刺療法』の中明が眼Ⅲと名称が変わり、どうやら「眼四鍼」だったころの外眦角が眼Ⅳだったと推測される。
 『常見眼病針刺療法』は、面白い本なので個人的に訳したことがある。
 眼はアルコールが目に染みるので、消毒綿花をよく絞ること。眼球周囲の筋肉を緩めることが目的なので、視神経に向けて刺入すると出血したり脳へ入ったりする。
 瞬きをすると出血してパンダ目になる。昔はカラス目と呼んでいた。そのため20分の置鍼でよい。30分は長すぎる。

 4.3 鼻三鍼
 1.穴位構成:迎香、鼻通(上迎香)、印堂か攅竹。
 2.部位
 迎香:顔面部で、鼻翼の外縁。鼻唇溝中に取る。
 鼻通(上迎香):鼻唇溝の上端が尽きるところ。
 攅竹:顔面部で、眉頭の凹み。前頭切痕。
 印堂:前頭部で、両眉頭の中点。
 3.主治
 アレルギー性鼻炎、蓄膿症、鼻血。
 4.刺灸方法
 迎香:内上方へ向けて0.5~1寸沿皮刺し、鼻通まで透刺する。局部に脹痛があり、鍼感が鼻へ放散し、涙が出たりする。平補平瀉か捻転補瀉する。
 鼻通:下方へ0.5~0.8寸沿皮刺し、局部に酸脹感があり、鍼感が鼻や額、眼球に放散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 攅竹:下へ向けて0.5~1寸斜刺し、局部と眼窩周囲に酸脹感が発生する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 印堂:沿皮刺で、鼻根方向へ捻転しながら0.5~0.8寸刺入し、得気したら10~20秒ほど捻転を続け、鼻根に酸脹感(怠く腫れぼったい感覚)が持続したら30~40分置鍼し、10分ごとに捻鍼して刺激を強化する。また棒灸で鼻根を30~40分温めてもよい。
 5.併用例
 慢性鼻炎で黄色な膿汁が流れ、前頭痛があれば、印堂でなく攅竹を使い、陽陵泉と太衝を加える。透明な鼻水が多ければ合谷を加える。鼻詰まりには風池と合谷を加える。頭痛には上星と太陽を加える。慢性ならば肺兪を加えるが、抜鍼したあと吸玉してもよい。

 4.4 耳三鍼
 1.穴位構成:聴宮、聴会、完骨。
 2.部位
 聴宮:顔面部で、耳珠の前。下顎頭の後方で、口を開けると凹むところ。取穴時に、患者に口を開けさせ、耳珠前の少し凹んだ部分で、下顎頭の後方。
 聴会:顔面部で、聴宮の下。珠間切痕の前で、下顎頭の後縁。口を開けると凹むところ。
 完骨:頭部で、乳様突起の後下方にある陥凹。取穴字は、患者を腰掛けさせるか側臥位にし、乳様突起後縁を上から下へなぞると、乳様突起下にある凹み。
 3.主治
 難聴や耳鳴。
 4.刺灸方法
 聴宮:口を開けさせ、1~1.5寸直刺する。局部に酸脹感が発生し、鍼感が耳周囲や顔面半分に拡散し、気圧が低くなったときのように鼓膜が外へ膨らむ感じがする。平補平瀉か捻転補瀉する。
 聴会:口を開けさせ、1~1.5寸直刺する。局部に酸脹感が発生し、鍼感が耳道に放散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 完骨:前上方へ0.8~1寸斜刺する。局部に酸脹感が発生し、鍼感が後頭頂部へと拡散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 耳三鍼で運鍼するとき、提插は適さない。親指の爪先で刮方するか、軽く捻転する。
 5.併用例
 耳鳴し、耳を圧迫すると耳鳴が軽くなれば、太谿,三陰交,足三里,百会,腎兪,気海を加える。急に耳が聞こえなくなったら、中衝,外関,合谷,太衝,風池を加える。
 6.私見
 耳を圧迫して軽減すれば、推すと虚に入り込むため軽くなるので虚証である。だから虚証の腎経や気海を加え、補法する。急に耳が聞こえなくなる暴聾は、気閉と呼ばれる実証なので、手三焦の陽経を取る。

 5 臓腑

 
5.1 胃三鍼
 1.穴位構成:中、内関、足三里。
 2.部位
 中:上腹部で、前正中線の任脈にあり、臍の上四寸。または臍と胸骨体下縁を結ぶ中点。
 内関:前腕掌側。曲沢と大陵を繋ぐ線上で、腕関節横紋の上二寸。長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間。
 足三里:膝蓋骨の下縁で、膝蓋靭帯の外側陥凹部にある犢鼻の下3寸。脛骨粗面下の外側一横指。
 3.主治
 胃痛、胃炎、胃潰瘍、消化不良。
 4.刺灸方法
 中:1~1.5寸直刺する。局部に酸脹感があり、沈んで重くなり、胃が収縮する感じがある。平補平瀉か捻転補瀉、あるいは焼山火や透天涼の補瀉をする。腹痛の治療には、鍼柄を大きく回す「盤旋法」をしてもよい。
 内関:直刺で0.5~1.5寸。深刺して外関まで通してもよい。局部に酸脹感があり、触電感(電気ショック感)が指先へ走る。または体幹へ向けて1~2寸斜刺し、局部に酸脹感があれば、それを肘や腋胸などへ伝導させる。平補平瀉か提插、捻転補瀉など。
 足三里:1~2寸直刺し、局部に酸脹や麻電感が発生し、鍼感が足背に放散する。ときには膝へ放散する。平補平瀉か提插補瀉する。
 5.併用例
 下痢があれば天枢と関元を加える。胸悶して悪心すれば中を加える。胃下垂には百会に施灸する。

 
5.2 腸三鍼
 1.穴位構成:天枢、関元、上巨虚。
 2.部位
 天枢:臍の横二寸。
 関元:臍下三寸。
 上巨虚:脛の外側で、犢鼻の下六寸。脛骨前縁と中指一横指ほど離れている。
 3.主治
 腹痛、腸炎、下痢、便秘。
 4.刺灸方法
 天枢:0.8~1寸直刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が同側の腹部へ拡散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 関元:0.8~1寸直刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が外生殖器や会陰部へ拡散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 上巨虚:1~2寸直刺する。酸脹感や麻電感が足背へ放散し、ときには膝に上がる時もある。平補平瀉か提插補瀉、あるいは焼山火や透天涼をする。理気止痛には龍虎交戦を使う。
 5.併用例
 嘔吐には中を加える。ひどい腹痛には、梁丘か足三里を加える。
 6.私見
 天枢や関元は、腹筋を貫いて腹膜へ当てればよい。腹腔に入れて腸を貫き、それが太い鍼であれば、腸内の異物が腹腔に漏れて腹膜炎が起きる。


 5.3 胆三鍼

 1.穴位構成:日月、期門、陽陵泉。
 2.部位
 日月:上腹部で、乳頭直下。第7肋間で、前正中線の傍ら四寸。または仰臥位で、乳頭の垂線が、肋骨弓上縁と交わるところ。つまり第7第8肋軟骨間。
 期門:胸部。乳頭の直下。第6肋間で、前正中線の傍ら四寸。女性ならば鎖骨中線直下の第6肋間を取ってもよい。
 陽陵泉:脛の外側で、腓骨頭の前下方の陥凹。
 3.主治
 急性や慢性の胆嚢炎、胆道結石、胆道蛔虫症などの胆道疾患、黄疸、脇痛。
 4.刺灸方法
 日月:0.5~0.8寸斜刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が胸脇部へ拡散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 期門:0.5~0.8寸斜刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が腹部後壁へ伝導する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 陽陵泉:1~3寸直刺し、深刺では陰陵泉に透刺する。局部に酸脹感があり、麻電感が足背に向かって放散する。平補平瀉か捻転、提插補瀉する。
 5.私見
 腹部では一般に呼吸補瀉で刺入する。本文は、日月や期門では胸腔に入れないよう注意しないと気胸を起こすとある。この刺入方法は、下へ向けて斜刺する。上に向けると気胸が起きるかもしれない。したがって、息を吐いて横隔膜が上がったときに刺入し、息を吸えば刺入を止め、また息を吐くときに刺入する。腹部で呼吸補瀉を多用するのも、それによって気胸を起こさないためと思われる。

 5.4 背三鍼
 1.穴位構成:大杼、風門、肺兪。
 2.部位
 大杼:背部で、第1第2胸椎棘突起間の外方1.5寸。
 風門:背部で、第2第3胸椎棘突起間の外方1.5寸。
 肺兪:背部で、第3第4胸椎棘突起間の外方1.5寸。
 3.主治
 喘息、気管支炎、アレルギー性鼻炎など肺系疾患、胸背病。
 4.刺灸方法
 大杼:内に向けて0.5~0.8寸斜刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が肋間へ放散する。平補平瀉する。
 風門:内に向けて0.5~0.8寸斜刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が肋間へ放散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 肺兪:内に向けて0.5~0.8寸斜刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が肋間へ放散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 5.併用例
 鼻炎には鼻三鍼を併用する。慢性気管支炎には膏肓を加える。
 6.私見
 一般に喘息は免疫疾患とされ、穴位埋線など異種蛋白を入れる方法が取られている。瘢痕灸が良く効く。刺鍼では、一時的な発作しか止められないとされているのだが、これで治るのだろうか? ゆっくりと刺入する。斜刺が過ぎて、棘突起の下から入ると脊髄を損傷する恐れがあるので、電撃反応があったら、すぐに後退させる。直刺をすると気胸が起きる可能性がある。両肺に気胸が起きると、夜中に呼吸ができなくなって、翌朝冷たくなっていたということにもなりかねない。壮士ならば0.5~0.8寸では物足りず、胸背痛も治らないが、骨皮の浮き出た老人では0.5~0.8寸は十分に気胸が起きる深さ。だから背中は、かならず椎弓か椎体背側に当てて留めておく。

 
5.5 尿三鍼
 1.穴位構成:関元、中極、三陰交。
 2.部位
 関元:前正中線上。臍下三寸。
 中極:前正中線上。臍下四寸。
 三陰交:下腿内側で、内踝尖の上3寸。脛骨内側縁の後方。または手の四指を「気を付け」姿勢のように揃え、小指尺側を内踝尖に当てたとき、人差指橈側縁が脛骨後縁と交わる点。
 3.主治
 泌尿器系疾患、腹痛。
 4.刺灸方法
 関元:0.8~1寸直刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が外生殖器や会陰部へ拡散する。平補平瀉か捻転補瀉、透天涼や焼山火する。
 中極:0.8~1寸直刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が外生殖器や会陰部へ拡散する。平補平瀉か捻転補瀉、透天涼や焼山火する。
 三陰交:1~1.5寸直刺し、局部の酸脹感がある。麻電感が足底へ放散したり、酸脹感が膝関節や大腿内側へ拡散する。平補平瀉か捻転補瀉、または焼山火や透天涼を使う。
 5.併用例
 腎虚による遺尿には百会を加える。尿失禁には神闕(臍)に温灸する。
 6.私見
 中極へ刺鍼するときは、事前に排尿して膀胱を空にする。でないと膀胱の尿が腹腔へ漏れ、腹膜炎になる恐れもある。深刺すると膀胱上部へ当たる。両方とも足三陰経脈と任脈との交会穴だが、関元は補穴、中極は瀉穴に属す。小腸募の関元は腎と関係があり、子宮と関係がある。中極は膀胱募。当然、妊婦には使えない。

 
5.6 陰三鍼
 1.穴位構成:関元、帰来、三陰交。
 2.部位
 関元:前正中線上。臍下三寸。
 帰来:臍下四寸で、前正中線の横二寸。
 三陰交:下腿内側で、内踝尖の上3寸。脛骨内側縁の後方。または手の四指を「気を付け」姿勢のように揃え、小指尺側を内踝尖に当てたとき、人差指橈側縁が脛骨後縁と交わる点。
 3.主治
 生理痛、生理不順、不妊症。
 4.刺灸方法
 関元:0.8~1寸直刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が外生殖器や会陰部へ拡散する。平補平瀉か捻転補瀉、透天涼や焼山火する。
 帰来:1~1.5寸直刺するか、恥骨結合に向けて1~2寸沿皮刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が下腹部や外生殖器へ放散する。平補平瀉か捻転補瀉する。施灸や灸頭鍼を3~5壮するか、棒灸を10~20分おこなう。
 三陰交:1~1.5寸直刺し、局部の酸脹感がある。麻電感が足底へ放散したり、酸脹感が膝関節や大腿内側へ拡散する。平補平瀉か捻転補瀉、または焼山火や透天涼を使う。
 5.併用例
 生理痛には次と関元兪(第5腰椎と仙椎間の外方1.5寸)を加える。不妊には命門と腎兪を加える。
 6.私見
 腹部の穴位は妊婦に使えない。

 5.7 陽三鍼
 1.穴位構成:関元、気海、腎兪。
 2.部位
 関元:前正中線上。臍下三寸。
 気海:前正中線上。臍下一寸半。
 腎兪:腰部で、第2第3腰椎棘突起間の外方1.5寸。
 3.主治
 インポ、遺精、無精子症。
 4.刺灸方法
 関元:0.8~1寸直刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が外生殖器や会陰部へ拡散する。平補平瀉か捻転補瀉、透天涼や焼山火する。
 気海:0.8~1.2寸直刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が外陰部に放散する。平補平瀉か捻転補瀉、透天涼や焼山火する。
 腎兪:1~1.5寸直刺し、腰部に酸脹感がある。麻電感が臀部や下肢に放散したりする。平補平瀉か捻転、提插補瀉したり、焼山火や透天涼の補瀉をする。腎仙痛には龍虎交戦を使う。
 5.併用例
 インポには関元兪、遺精には次、腰膝が怠くて力が入らねば腰三鍼を加える。

 6 雑

 6.1 脂三鍼

 1.穴位構成:内関、足三里、三陰交。
 2.部位
 内関:前腕掌側。曲沢と大陵を繋ぐ線上で、腕関節横紋の上二寸。長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間。
 足三里:膝蓋骨の下縁で、膝蓋靭帯の外側陥凹部にある犢鼻の下3寸。脛骨粗面下の外側一横指。
 三陰交:下腿内側で、内踝尖の上3寸。脛骨内側縁の後方。または手の四指を「気を付け」姿勢のように揃え、小指尺側を内踝尖に当てたとき、人差指橈側縁が脛骨後縁と交わる点。
 3.主治
 高コレステロール、高脂血症、動脈硬化、冠動脈疾患、脳卒中後遺症。
 4.刺灸方法
 内関:直刺で0.5~1.5寸。深刺して外関まで通してもよい。局部に酸脹感があり、触電感(電気ショック感)が指先へ走る。または体幹へ向けて1~2寸斜刺し、局部に酸脹感があれば、それを肘や腋胸などへ伝導させる。平補平瀉か提插、捻転補瀉など。
 足三里:1~2寸直刺し、局部に酸脹や麻電感が発生し、鍼感が足背に放散する。ときには膝へ放散する。平補平瀉か提插補瀉する。
 三陰交:1~1.5寸直刺し、局部の酸脹感がある。麻電感が足底へ放散したり、酸脹感が膝関節や大腿内側へ拡散する。平補平瀉か捻転補瀉、または焼山火や透天涼を使う。
 5.併用例
 脳卒中の片麻痺には顳三鍼,手三鍼,足三鍼などを加える。高血圧には曲池,足三里,懸鐘を加える。冠動脈の心臓病には心兪と厥陰兪を加える。

 
6.2 突三鍼
 1.穴位構成:天突、水突、扶突。
 2.部位
 天突:頚部で、前正中線上胸骨頚切痕の中央。または上を見上げて、胸骨上端の凹み。
 水突:頚部。内側端の上縁で、胸鎖乳突筋の胸骨頭と鎖骨頭の間。
 扶突:頚外側部。喉頭隆起の外側で、胸鎖乳突筋の後縁。
 3.主治
 甲状腺肥大、甲状腺嚢胞、甲状腺機能亢進、甲状腺機能低下。
 4.刺灸方法
 天突:まず0.2~0.3寸切皮し、そのあと胸骨柄後縁に沿わせ、ゆっくりと気管前縁を0.5~1寸刺入する。局部に酸脹感があり、喉が締めつけられ、喉に物が詰まってスッキリしない感覚がある。平補平瀉か捻転補瀉する。
 水突:0.5~0.7寸直刺し、局部に酸脹感がある。または内下方へ0.5~0.8寸斜刺し、鍼体を45度で甲状腺体へ刺入し、平補平瀉か捻転補瀉する。刮法でもよい。
 扶突:0.5~0.8寸直刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が咽喉部へ放散し、締めつけるような腫れぼったさを感じる。頚の左側へ刺鍼するときは右転させ、右側へ刺鍼するときは左転させれば、得気しやすい。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。
 5.併用例
 甲状腺の痛みには、合谷と足三鍼を加える。イライラして怒りっぽければ手智鍼を加える。眼球突出には風池を加える。

 
6.3 乳三鍼
 1.穴位構成:乳根、中、肩井。
 2.部位
 乳根:胸部で、乳頭直下。乳房根部で、第5肋間。前正中線の4寸横。
 中:胸部で、第4肋間の両乳頭を繋ぐ中点。女性で両乳が垂れていれば、鎖骨から下になぞり、第4肋間の胸骨中央。
 肩井:肩の上で、大椎と肩峰を繋ぐ線の中点。
 3.主治
 乳腺房増殖、乳汁不足、乳腺炎。
 4.刺灸方法
 乳根:0.5~0.8寸斜刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が乳房に放散する。平補平瀉する。
 中:胸骨柄に沿わせて0.5~1寸沿皮刺する。局部に酸脹感があり、前胸部へ鍼感が放散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 肩井:0.5~0.8寸斜刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が肩に放散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 5.併用例
 乳腺炎と乳腺房増殖性の疾患では、必ず足三里,曲池,内関を加える。乳汁不足では、少沢と足三里を加える。脇痛には太衝と期門を加える。
 6.私見
 中と肩井は、乳関係によく使われる穴位。乳は足陽明が通るので、その経穴を加えているが、曲池は同名経穴。内関は、内関-公孫で胸中の疾患を除く。
 乳汁不足も、肩井が常用される。やはり胃経が通る。中は胸の気を流す。
 脇は、肝脈が分布する。

 
6.4 褐三鍼
 1.穴位構成:顴、下関、太陽。
 2.部位
 顴:顔面部で、目尻(外眥)の直下。頬骨下縁の陥凹。
 太陽:こめかみで、眉尻と目尻の中点を一横指ほど後ろにずらした陥凹。
 下関:顔面の耳前方で、頬骨弓と下顎切痕で作られる陥凹。または口を閉じ、人差指の近位指節間関節の横幅を使い、耳珠の前一横指。あるい口を閉じ、耳珠の前を探ると盛り上がった骨があって、その骨の下の陥凹があり、口を開けると凹みが消えて隆起するが、その陥凹が穴位である。
 3.主治
 顔のソバカスやニキビ、シミ。
 4.刺灸方法
 顴:0.5~0.8寸直刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が顔半分に放散する。平補平瀉か捻転、提插補瀉する。
 太陽:0.3~0.5寸直刺し、局部に酸脹感を発生させる。捻転瀉法する。
 下関:少し下へ向けて1~1.5寸斜刺する。局部に酸脹感があるか、麻電感が下顎まで放散する。平補平瀉か提插、捻転補瀉する。
 5.併用例
 顔面部シミの治療では、必ず足三里,合谷,曲池を加え、陽明の気を通行させてシミ消しの作用を強める。
 6.私見
 シミが火鍼で消えるというのは読んだことがあるが、鍼で消えるとは初耳。火鍼の方法は、シミの上を火鍼で焼くというもの。『于書荘』の本に掲載されている。

 
6.5 肥三鍼
 1.穴位構成:帯脈、中、足三里。
 2.部位
 帯脈:側腹部で、章門穴の直下1.8寸。第11肋骨下端の垂線が臍水平線と交わる点。
 中:上腹部で、前正中線の任脈にあり、臍の上四寸。または臍と胸骨体下縁を結ぶ中点。
 足三里:膝蓋骨の下縁で、膝蓋靭帯の外側陥凹部にある犢鼻の下3寸。脛骨粗面下の外側一横指。
 3.主治
 肥満症。
 4.刺灸方法
 帯脈:皮下を下に向けて1.5~2.5寸斜刺する。局部に酸脹感があり、鍼感が側腹部へ放散する。平補平瀉か捻転補瀉する。
 中:1~1.5寸直刺する。局部に酸脹感があり、沈んで重くなり、胃が収縮する感じがある。平補平瀉か捻転補瀉、あるいは焼山火や透天涼の補瀉をする。腹痛の治療には、鍼柄を大きく回す「盤旋法」をしてもよい。
 足三里:1~2寸直刺し、局部に酸脹や麻電感が発生し、鍼感が足背に放散する。ときには膝へ放散する。平補平瀉か提插補瀉する。
 5.併用
 食欲が旺盛ならば、太衝と内庭を加える。


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