●実用・急病鍼灸学 
実用・急病鍼灸学
著者 張仁
翻訳 浅野周
発行所 たにぐち書店
定価 5000円+税   B5判 549頁 (ISBN978-4-86129-076-3 C3047)
最寄りの書店で注文するか、たにぐち書店でお求めください。
←ここでも買えます。

 七、突発性難聴
 突発性難聴は中医で暴聾とも呼び、急に聴力が低下して、全く聞こえなくなることもある。耳鳴や目まいを伴ったりする。本疾患の原因は現在でも不明だが、ヘルペスウイルスや激しい感情変化などが関係すると思われる。病変は、ヘアリーセル(線毛細胞)、被蓋膜、基底板に及び、重症では前庭膜や蝸牛窓が破裂していたりする。
 現代で難聴の鍼灸治療に関する報告は20世紀の1920年代にあったが、はっきり暴聾と確定した報告は1958年にならなければ登場しなかった。その後、中国では難聴の鍼灸治療ブームが2回あり、多くの関係資料が発表されたが、突発性難聴を専門に論じたものは少なかった。80年代中期になって、さまざまな難聴の鍼灸治療のなかから、やっと突発性難聴が専門に検討されるようになった。鍼灸の効果を証明するため、高圧酸素療法を治療の基に、それに刺鍼治療を加えたものと比較対照し、高圧酸素と刺鍼を併用した治療群が顕著に優れていることが判明した(P<0.05)。取穴においては、局部取穴であれ遠道取穴であれ、ともに効果があった。手法では、強刺激ならびに気を病巣部に到達させることが求められる。方法は、刺鍼、灸、電気鍼、鼻鍼などがあり、現代医学の治療技術と併用する。当然、本当に効果のある治療マニュアルを作るには、さらなる研究が必要である。
【治療】
(一)体鍼
1.取穴
主穴:翳風、風池、聴宮、聴会。
配穴:腎兪、外関、百会。
2.治療法:毎回主穴を2個取り、順番に使用する。配穴は症状によって1~2穴加える。まず右手親指先端で、患側の主穴を最初は軽く、徐々に強く按圧し、患者に怠くて腫れぼったい感覚を発生させる。次に2寸の毫鍼を使い、風池を同側の目外眥へ向けて約1.5寸直刺する。翳風は耳門へ向けて約1.5寸に斜刺する。聴宮や聴会は1~1.2寸ほど直刺し、耳内に強烈な鍼感を発生させる。配穴の百会は2鍼使い、「十」字となるように交叉刺する。他の穴位は全て両側とも取り、普通に刺鍼する。すべて瀉法か平補平瀉を1分間続け、2時間留鍼して30分ごとに運鍼するか、電気鍼にして断続波を使い、患者が耐えられる強さで30分通電する。毎日1回治療し、10~12回を1クールとする。
3.効果:治癒-聴力が正常に回復し、検査しても異常がない。著効-ほぼ聴力が回復し、聴力検査で連続した3周波数が平均20db(デシベル)向上して、耳鳴も軽減した。有効-聴力が部分的に回復し、聴力検査で連続した3周波数が平均10db(デシベル)向上したが、やはり耳鳴がある。無効-改善しないか悪化した。
81例を治療し、上述した基準と照合すると、80.8~93.3%の有効率だった。
(二)鍼灸
1.取穴
主穴:聴宮、聴会、風池、完骨。
配穴:百会、合谷。
2.治療法:主穴を主にし、考慮して配穴を加える。聴宮と聴会は28号1.5寸の毫鍼を刺入し、穴位に怠い腫れぼったさが現れたら、小幅の提插捻転瀉法で1~2分運鍼する。さらに両穴へ棒灸を使い、各穴へ5~8分ほど雀啄灸し、局部を発赤させる。風池と完骨は1.5寸の毫鍼を斜刺し、鍼尖を患側の耳へ向けて、鍼感を患部の耳内に伝導させる。百会は1寸の毫鍼を平刺する。合谷は1.5寸の毫鍼を直刺し、怠く痺れる感覚を上腕に伝導させる。30分留鍼して、留鍼中は10分ごとに運鍼する。毎日1回治療し、15回を1クールとする。
3.効果:治癒-聴力が完全に回復し、語音聴力検査(スピーチオーディオメトリー)も正常で、1年以内に再発がない。著効-語音聴力検査で0/6mだったものが4/6m~5.9/6mに回復した。有効-語音聴力検査で片側の耳の聴力0/6mだったものが2/6m~3.9/6mに回復した。無効-3クール治療したが、はっきり好転しない。
30例を治療し、上述した基準に参照すると、治癒20例(66.7%)、著効7例(23.3%)、有効2例(6.7%)、無効1例(3.3%)で、有効率96.7%だった。
(三)総合療法
1.取穴
主穴:太衝、湧泉。
配穴:聴宮、百会、耳穴の腎。
2.治療法:急性期には主穴のみを取り、28号2.5寸の毫鍼を太衝から刺入して湧泉まで透刺する。両足とも刺鍼し、得気があれば、ゆっくりと鍼を上へ引き揚げると同時に、400回/分の速さ、360度幅の捻転を3分続け、気が病巣部へ達したら30分留鍼し、5分ごとに運鍼する。毎日あるいは隔日に1回刺鍼する。聴力が回復したら、患側の配穴から聴宮と耳穴の腎穴を取り、それぞれに円皮鍼を24時間貼り付ける。耳鳴や眩暈を併発していれば、棒灸で百会穴へ15~20分熏灸(いぶす)する。これは毎日2回おこなう。
3.効果:21例の突発性難聴を治療し、治癒18例(85.7%)、著効3例(14.3%)で、有効率100%だった。
(四)鼻鍼
1.取穴:腎点、心点、肝点、脾点。
腎点の位置:鼻正中線の両側で、鼻翼と水平。
心点の位置:両目内眥を繋いだ線の中点。
肝点の位置:鼻稜最高点の下方、両頬を繋ぐ線と鼻正中線の交叉点。
脾点の位置:鼻正中線で、肝点の下0.5寸。
2.治療法:上述した穴位は全て取る。患者を坐位か臥位にし、鼻穴位の皮膚を消毒したあと、0.3×25㎜(1寸)の毫鍼を0.5寸直刺する。すばやく捻転して30分留鍼し、留鍼中は15分ごとに運鍼する。毎日1回治療し、10回を1クールとして、各クール間は3~4日空ける。
3.効果:35例を治療し、治癒10例(28.6%)、著効19例(54.3%)、有効4例(11.4%)、無効2例(5.7%)で、有効率94.3%だった。
(五)電気鍼
1.取穴:
主穴:聴宮、聴会、翳風、耳門。
配穴:率谷、外関、中渚。
2.治療法:主穴を主とし、考慮して配穴を加える。すべて患側を取穴する。主穴はG-6805パルス器に接続し、強刺激だが患者の耐えられる限度で、断続波を30~60分通電する。これは毎日か隔日に1回治療して、10回を1クールとする。治療期間は高圧酸素療法(YC2260/0.3-10型高圧酸素室を使い、治療圧力2.3絶対気圧、酸素マスクから純酸素を60分吸入させる。毎日1回)かレーザー血管内照射法(低出力のヘリウム-ネオンレーザーを出力1.5mV~20mVに調整し、波長632.8nmで使用する。肘正中の静脈へ滅菌したディスポ光ファイバー鍼を刺入し、ファイバーに血が付いたら1時間固定する。毎日1回)を併用する。
3.効果:治癒-各周波数の聴覚閾値が20db以内に回復したか、健康な耳と同程度の聴覚レベル。著効-平均聴力が20db以上向上した。有効-平均聴力が10~20db向上した。無効-聴力回復が10db未満。
76例を治療し、治癒21例(27.6%)、著効22例(28.9%)、有効21例(27.6%)、無効12例(15.8%)で、有効率84.2%だった。
(六)他の措置
1.中西の薬物治療を併用する。漢方薬では龍胆瀉肝丸や磁珠丸などを使用する。西洋薬ならビタミンB類やアデノシン3リン酸、血管拡張剤などを使う。
2.高圧酸素療法する。
【名家のカルテ】
{刑乃}×、女、23歳。1990年6月22日初診。
主訴:両耳が聞こえなくなって5日。
病歴:患者はインフルエンザになったあと、急に音が聞こえなくなった。某市病院の耳鼻咽喉科で検査を受け、突発性難聴と診断された。現在は両耳の聴力が完全に失われ、両側コメカミに腫れぼったい痛みがあり、顔が赤く、口苦して咽喉がイガイガし、心煩して怒りっぽく、よく眠れず、便秘し、尿が赤っぽい。
検査:紅舌、黄苔、弦細数脈。
診断:突発性難聴。
治則:疏肝理気、泄熱通絡(肝を疏泄させて気を整え、熱を排泄して絡脈を通じさせる)
取穴:風池、翳風、聴宮、百会、外関、合谷。
治法:以上の穴位に刺鍼治療する。1週間後、患者は徐々に音が感じられるようになったが、ガヤガヤしてはっきりせず、ゴウゴウと耳鳴りしている。上関、侠谿、四瀆、頷厭(聴会まで5㎝平刺で透刺)へも追加刺鍼する。10回治療すると、ほぼ聴力が正常に回復し、聴力検査でも連続3周波数が20db向上した。引き続き10回治療し、諸症状も消え、聴力が正常へと完全に回復した。

八、アレルギー性鼻炎(花粉症)
アレルギー性鼻炎は、外界のアレルゲンを吸入して起きる疾病であり、免疫性疾患である。突発的な鼻の痒み、鼻詰まり、クシャミ、透明な鼻水、鼻粘膜の浮腫や蒼白、鼻甲介の腫れなどが主な症状である。発病すると鼻が痒く、連続してクシャミが出て、多量の水のような鼻水が出るなどが特徴で、眼球結膜や口蓋、外耳道が異常に痒かったりする。本疾患は季節性(花粉症)があったり、一年中続いたりする。
アレルギー性鼻炎の鍼灸治療報告は1957年が最初である。20世紀の1950年代には、何編もの臨床データがあった。60~70年代には、中国各地でアレルギー性鼻炎を観察した論文が発表され、刺鍼治療のほかにも穴位注射や穴位敷貼などがあった。この20年あまりで、鍼灸は本疾患の治療において大きく進展し、指鍼(指圧)、穴位レーザー照射、灸法(施灸や天灸)、耳穴圧丸、耳鍼など、さまざまな穴位刺激がアレルギー性鼻炎に使用され、かつ多くの症例が集積されて、1回で500例以上を観察した論文も現れた。そして一定のレベルだが、本疾患に対する鍼灸治療の臨床原則が明らかにされた。また日本でも、鍼灸や良導絡を使ってアレルギー性鼻炎を治療し、やはり優れた成績を上げている。アレルギー性鼻炎に関する鍼灸治療のメカニズム研究については、さらなる進展が望まれる。
【治療】
(一)冷灸の1
1.取穴は3組に分ける。①大杼、膏肓。②風門、脾兪。③肺兪、腎兪。
2.治療法:2種類の灸薬があり、いずれを使用してもよい。①白芥子50%、細辛30%、甘遂20%の重量比率で薬物を取り、粉末にして生ショウガ汁で練って、直径1㎝の薬餅を作る。使用するときは、薬餅を貼り付ける面に少量の麝香を付着させる。②藿香、白芥子、細辛を20%ずつ、甘遂と白芷を15%ずつ、延胡索10%の重量比で取り、粉末にして冰片と少量の麝香を加え、生ショウガ汁で練って、直径1㎝の薬餅を作る。
毎年、初伏、二伏、三伏(夏の土用から10日ごと)に治療する。毎回1組の穴位を選んで薬餅を貼り付けるが、貼るときは4㎝2の絆創膏で穴位に貼る。1~3時間貼ればよいが、もし患者が熱くて耐えられなくなれば、早目に薬餅を取り去ってもよい。小児なら30分も貼れば十分である。患者によって貼った部分が水疱となるが、それにはゲンチアナバイオレットを塗り、消毒ガーゼで覆えばよい。上述した3つの穴位群は順番で使用する。3回を1クールとし、1年で1クールとする。本法は妊婦および顕著な実熱証であれば、慎重に用いる。
3.効果:臨床治癒-薬を貼ったあと、症状と病態がほぼ消え、1年観察しても再発がない。有効-薬を貼ったあと、症状と病態が軽減したり、発作回数が減少した。無効-症状と病態が改善しない。
1556例を治療し、臨床治癒418例(26.8%)、有効1008例(64.8%)、無効130例(8.4%)で、有効率91.6%だった。
(二)冷灸の2
1.取穴
主穴:印堂、大椎。
配穴:内関、外関。
2.治療法:2種類の灸薬があり、いずれを使用してもよい。①斑蝥(南方産のカンタリス:Mylabris phalevata Pallasかマメハンミョウ:Mylabris cichori Linnaeus。日本のツチハンミョウでもよい)を生で、頭と羽を取り去って粉末にする。また炒めてフックラさせてから粉末にし、フルイにかけてもよい。瓶に詰めて準備する。②斑蝥20gを粉末にし、95%アルコールに浸して濾過し、10%の斑蝥液を作って用意する。
①の灸薬は、一般に印堂だけに使うが、効果が悪ければ内関に変更してもよい。患者を仰臥位で椅子に座らせるか仰臥位で寝かせ、穴位を消毒して乾かす。四角い1㎝2の絆創膏中央に、ハサミで大豆大の穴を開け、穴を穴位に貼る。適量の斑{務虫}粉に水とハチミツ、酢を加えてペースト状(水っぽ過ぎると、ほかへ流れるので悪い)にし、絆創膏の穴から出た皮膚に塗る。また乾燥した斑蝥粉を穴へ直接入れてもよい。そのあと1㎝2の絆創膏を、前に貼った絆創膏の上に重ね貼りする。24時間したら取り外す。②の薬物は、全部の主穴に使うが、効果が悪ければ主穴と配穴を同時に取ってもよい。5㎜2の円形濾紙を10%斑蝥液に浸し、穴位へ1~2時間ほど貼り付けたら取り去る。いずれも毎週1回治療する。
注意:斑蝥は劇薬で、強力な発疱作用があるため、貼り着ける面積を大きくせず、眼に入れてはならない。貼った後に水疱ができたら、小さければ処置しなくとも2~3日で自然に消える。大きければ消毒した鍼で穴を穿ち、ゲンチアナバイオレットを塗る。
3.効果:数百例を治療した。治療効果を統計した443例では、有効率が89.5~97.1%だった。治療したところ、血中IgEと鼻粘膜誘発試験が顕著に低下した。
(三)鍼灸
1.取穴
主穴:印堂、鼻通。
配穴:百会、迎香、合谷、風池。
鼻通穴の位置:鼻骨下の陥凹中で、鼻唇溝の上端。鼻穿、上迎香の別名がある。
2.治療法:主穴を主とし、考慮して配穴を1~2穴加える。印堂穴は30号1.5寸の毫鍼を使い、提捏法(皮膚を摘み上げて切皮する)で切皮し、0.2寸刺入して得気したら、ゆっくりと鍼尖を下に向けて1寸ほど沿皮刺し、捻転と提插を併用した運鍼で、鍼感を鼻尖まで、内部は鼻腔まで到達させる。鼻通穴は30号1寸の毫鍼で最初に0.2寸刺入し、得気したら、鍼尖を印堂へ向けて斜刺の沿皮刺で透刺し、鼻腔に腫れぼったい感覚を発生させる。20分留鍼して、5分ごとに運鍼する。百会穴へは棒灸で15~20分ほど雀啄灸する。他の配穴は、得気したら平補平瀉し、そのあとパルス器に接続して、患者の耐えられる強さの連続波で30分通電する。刺鍼が毎日1回、施灸は1日2回おこなって良く、10日を1クールとする。
3.効果:160例を治療し、臨床治癒105例(65.6%)、著効28例(17.5%)、有効23例(14.4%)、無効4例(2.5%)で、有効率97.5%だった。
(四)指鍼(指圧)
1.取穴
主穴は2組に分ける。①鼻通、合谷。②迎香、少商。
配穴:前頭痛には陽白と攅竹、上星、百会。眼窩痛には魚腰、睛明、印堂。片頭痛には太陽、頭維、率谷。黄鼻が出れば風池、曲池。
2.治療法:主穴を主として毎回1組を取り、両組を交互に使う。配穴は症状に合わせて加える。まず顔面部の穴位を取り、さらに上肢の穴位を取る。親指の先端で穴位を圧するが、最初は軽く押し、徐々に加圧する。指圧中は、適当に指を震わせ、最後に徐々に減圧して治療を終える。
顔面部の穴位を治療するときは、患者を仰臥位にし、術者は患者の右側に立ち、患者の皮膚に脱脂綿を敷いて、皮膚を傷付けることのないようにしたら、右手親指の橈側縁で穴位を指圧する。指圧するときは親指を垂直に伸ばし、他の指は自然に湾曲させて半分拳を握るような状態で、徐々に垂直に力を入れ、局部に怠いとか腫れぼったい得気感を発生させる。上肢穴の操作は、両手親指の腹(または先端)に脱脂綿を敷いて穴位を指圧するが、ゆっくりと力を入れて圧迫し、患者に怠くて腫れぼったい得気を発生させる。各穴位は5分ずつ指圧する。毎日1回治療して、10回を1クールとし、一カ月治療を休止して、治療効果を安定させるため、さらに5回ほど治療する。
3.効果:600例を治療し、治癒432例(72.0%)、著効110例(18.3%)、有効47例(78.3%)、無効11例(1.8%)で、有効率98.2%だった。
(五)耳穴圧丸
1.取穴
主穴:内鼻、外鼻。
配穴:咽喉、肺、腎上腺、内分泌。
2.治療法:主穴は必ず取り、考慮して1~2個を配穴する。耳介をアルコールで拭き、王不留行の種か磁石粒(380ガウス)を7×7㎜の絆創膏に載せて貼りつける。毎回一側の耳へ貼り、貼った後すぐに按圧して耳介を充血させる。そして患者に毎日3回以上、適当な力で、1回30度ずつ按圧するよう指示する。3~4日に1回貼り替え、両耳を交互に使い、4回を1クールとし、各クール間は3日休む。
3.効果:97例を治療し、臨床治癒44例(45.4%)、著効21例(21.6%)、有効29例(29.9 %)、無効3例(3.1%)で、有効率96.9%だった。
(六)耳鍼
1.取穴は2組に分ける。①肺、腎上腺、内鼻。②腎、内分泌、皮質下。
2.治療法:主穴は毎回1組を使い、28~30号0.5寸の毫鍼で刺鍼する。穴区から敏感点を捜して印をつけ、消毒したあと、両耳ともに刺鍼する。得気したら30分ほど留鍼し、10分ごとに運鍼する。毎日1回治療して、7~10回を1クールとする。
3.効果:25例を治療し、臨床治癒20例(80%)、有効4例(16%)、無効1例(4%)で、有効率96%だった。3カ月から6年まで追跡調査し、一定の長期効果があった。
(七)灸
1.取穴
主穴は2組に分ける。①大椎、肺兪。②足三里、三陰交、合谷、曲池。
配穴:脾虚には脾兪、腎虚には腎兪を加える。
2.治療法:主穴は毎回1組を取って棒灸する。患者を仰臥位にし、両手を広げて、両目を少し閉じ、全身をリラックスさせて自然に呼吸させる。術者は点火した棒灸を穴位に近づけて温め、また穴位で上下に移動させる。棒灸との距離は、患者が耐えられる程度に離し、心地好く感じる程度がよい。30~40分施灸したら局部が発赤する。そのあと適量の灸薬(蒼耳子、辛夷花、徐長卿、細辛、甘遂、沈香、肉桂を等量ずつ取り、粉末にしたもの)を取り、生のショウガ汁でペースト状に練って、直径1㎝の円形餅を作り、穴位に貼りつけたらガーゼで覆い、絆創膏で固定して24時間後に取り去る。1クール目は10日ごとに天灸し、全部で3回治療する。第2クールから月1で貼り、やはり3回治療する。一般に2クール治療する。
またショウガ灸してもよい。直径2~3㎝、厚さ2~3㎜の生ひねショウガに幾つか穴を穿ち、所定の穴位に置いて3壮ずつ施灸し、皮膚が発赤すればよい。毎日1回治療して10回を1クールとし、各クール間は2~3日空ける。
3.効果:119例を治療した結果、治癒30例(25.2%)、著効37例(31.1%)、有効43例(36.1%)、無効9例(7.6%)で、有効率92.4%だった。
(八)穴位敷貼と皮膚鍼(梅花鍼)
1.取穴:肺兪、風門、膈兪、大杼、脾兪。腎兪。
2.治療法:藿香、白芥子、細辛20%ずつ、甘遂、白芷15%ずつ、延胡索10%を粉末にし、少量の冰片と麝香を加え、生ショウガ汁でペースト状にして灸薬とする。患者は椅子に腰掛け、頭を少し低くして、穴位を消毒したあと、梅花鍼で少し血が滲むほど叩刺する。そこへ前述した灸薬を貼りつけて、24時間後に取り去る。10日に1回治療し、3回を1クールとする。治療期間は、生モノや冷たい食品、生ぐさな肉や魚、辛いものを禁じ、身体を冷やさないようにする。
3.効果:1000例を治療し、臨床治癒360例、著効390例、有効210例、無効40例で、有効率96%だった。
(九)穴位レーザー照射
1.取穴
主穴:迎香、合谷、足三里、風池。
配穴:鼻水には上星、鼻詰まりには鼻通、嗅覚減退には通天を加える。
2.治療法:主穴を主として毎回2~3穴を取り、症状に合わせて配穴を加える。ヘリウム-ネオンレーザーを使い、波長632.8nm、出力効率5mW、照射方向は伝統的な刺鍼方向で照射する。迎香ならば患者を仰臥位にし、水平と45~55度角が良い。風池なら対側の眼を向ける。合谷や足三里は垂直。光斑直径1.5~2㎜とし、一般に各穴へ4~5分照射する。毎日1回治療し、10~12回を1クールとする。
3.効果:141例を治療し、臨床治癒72例(51.1%)、著効13例(9.2%)、有効40例(28.4 %)、無効16例(11.3%)で、有効率88.7%だった。
(十)他の措置
1.脱感作療法し、アレルゲンと接触しないようにする。もし花粉症ならば、発病する季節に庭園や野外に行かないようにし、屋内の粉塵がアレルゲンであれば、掃除するとき濡らしたマスクするなどして再発を予防する。
2.薬物を鼻に滴したり、イオン導入などの理学療法する。
【名家のカルテ】
{登乃}××、男、32歳、幹部。1996年3月8日初診。
主訴:アレルギー性鼻炎となって8年。
病歴:鼻水が出て、鼻詰まりし、鼻が痒くてクシャミする。食欲不振、腰膝の怠さを伴う。
検査:舌質は淡、薄白苔、細脈。
診断:アレルギー性鼻炎(花粉症)。
治則:温陽益気、袪風散寒(陽を温めて気に益し、風を追い出して寒を消す)
取穴:肺兪、脾兪、腎兪。
治法:上述した穴位は全部取り、皮膚が発赤するが水疱にならない程度に、ショウガ灸を各穴位へ3壮ずつすえる。毎日1回治療して10回を1クールとし、1クールが終了したら2~3日空けて2クール目の治療する。
3クールで治癒した。さらに治療効果を安定させるため1年治療した。3年後に追跡調査したが、再発はない。

★ 張仁の書籍について  
 病気別に分類してあり、一つの病気に複数の治療法が記載され、従来の経穴記載のみだけでなく、刺入深度、刺入方向、置鍼時間、用いる操作方法までもが記載されているのが特徴です。さらに治療効果について治癒、著効、有効、無効のそれぞれの評価基準を設け、50例なり100例の患者を治療した場合、治癒、著効、有効、無効の各パーセンテージを示して治療法を採用する目安にしています。
 この刺入深度、刺入方向、置鍼時間、用いる操作方法が記載されていることが今までになく革新的で、さらに評価基準を明確にしているのが長所です。これまでの書物でも、治癒、著効、有効、無効のパーセンテージを示したものはありましたが、どういう基準で、それを分けたかについては記載されていませんでした。私が推薦する「学生のための治療書」です。

                                      北京堂鍼灸ホーム